4.
「よくそんな悪趣味な交信記録や映像を花のJKに見せるねー」
「一応、おまえさんは『学園都市外の能力開発』の関係者で知識があるんだろ。最低限程度には話を聞いておきたいんだ」
車の助手席に手錠をはめた少女が乗っていた。
「そういっても今の話を聞く限り、ゾンビ映画にありがちな感染ゾンビに見えるけどー? おおかた学園都市のマッドサイエンティストの産物じゃないー? 仮に、魔術が関わっていたとして、今回の惨状は少し特殊だねー」
「なんでそんな風に特殊だと言えるんだ?」
「だって、例外を除いて死者蘇生は誰も幸せにならないからね。神話や伝承に出てくる死者蘇生は基本的に死んだ人も生きてる人もどっちもろくでもない結末だよ。数少ない例外は、なんて言うか、神様の奇跡として描かれるし、それにゾンビだよ? しょーじき眉唾って言うか……」
「なんでゾンビが眉唾なんだ?」
三宅はハンドルを操りながらそんな事を聞く。彼が車を運転し、第7学区の『とある高校』に向かっている。少女の言う『万が一の切り札』のためにだ。
「ゾンビって言ったら、ハイチのブードゥー魔術師だけどさ、あれも純粋な魔術師に言わせれば、正直面倒なんだよね」
「どういうことだ? 最初期のゾンビ映画は、ハイチの悪い呪い師の仕業だっただろ」
「元々、ハイチのブードゥー魔術師は相手を奴隷に出来る技があると恐れられていた。20世紀にそれを調べに出たアメリカ人が魔術師達が使う薬、ゾンビパウダーを手に入れてそれを化学分析、いわゆるふぐ毒のテトロドキシンがあるってわかったの。
そこから、相手を仮死状態にして、それがわからない遺族が埋葬、土の中の棺で目覚めて低酸素状態で脳障害が発生、そう言う相手を魔術師が掘り返して奴隷として使う……という話になった。でもさぁー」
そこから、自分にはめられた手錠をカチャカチャと音をさせ、まるで手錠を見せつけるように腕を掲げながら少女は話を続ける。そう――
「――奴隷にするなら、洗脳でいいじゃん。洗脳なら魔術じゃなくても良いじゃん。こんな風に身動きとれなくするだけでも後はやり方次第で相手を奴隷に出来るでしょ」
「……ノーコメント」
「アメリカの変態犯罪親父がさー、女の子を誘拐して監禁、数日後に女の子の捜索が打ち切られただのそういう報道の記事を見せてさーその後彼女に同情する女性を登場させるって言うパターン化した犯罪があるねー。監禁、検閲された情報、そして同情。この3セットが揃ったら女の子はたやすくおちーる。
変態親父にストックホルム症候群よろしく本気で恋をして、都合の良い性奴隷になっちゃう。でもさ、条件ならブラック企業にも当てはまるよね。毎日毎日ドンでも無く疲弊させて家は寝るだけの場所。家族友人と相談する時間もとれず、十分な情報も集まらない。周り見ても同じ様な同僚で同情しようと思えば誰もが誰かに無限に同情できる。そうやって後は社畜と呼ばれる生き物に」
「ノーコメントだ」
「たまにさ、ド田舎のここが嫌い~って話題があるけど、あの話題の『ここがダメー』ってさ、ド田舎をタワマンだの町内会に変えても成立する話ばかりだよね。つまりさ、閉鎖された小さなコミュニティなんて基本的に村社会のいや~な空間なのよ。
監禁、検閲された情報、同情。そうやって学校でも社内でもご近所トラブルも山ほど起きるようになるし、みんなそれに理屈ではダメってわかっているはずなのにやっちゃう見ない振りする人間に自己洗脳する」
「……ノーコメントだっていってるだろ」
「ハイチは大きな土地じゃない。そりゃ、村社会が煮詰まってる時場合なんていくらでもあるよねー。それを悪用する腹黒人間だって山ほどいるねー。魔術師はなんだかんだでインテリだから、そう言う腹黒人間であってもおかしく無い。気づけば村社会ぐるみで奴隷にされてるなんて普通にあるよねー。
魔術を使う必要も無い。わざわざ仮死状態なんて面倒事にする意味が無い。そもそも化学分析されたゾンビパウダーは本当にハイチの魔術師達のスタンダードなの? 結局ねーハイチの魔術師達が奴隷を使うことの恐れと多分、死体処理の伝説が混ざったお話を西洋人が聞いて面白おかしく脚色したのがゾンビ映画にありがちな奴の始まり何だよ」
「死体処理? 死体処理のアルバイト的な都市伝説か?」
「そんなわけ無いじゃん。古今東西、ご遺体はちゃんと埋葬しなきゃー化け物になったり化け物を呼び寄せたりするって事になっているのー」
車の進行方向に『とある高校』が見え始まる。
「例えば、奈良時代の資料によると、当時の日本人は特に高貴な人ほどご遺体をズタボロにしてから埋葬した。少なくとも手足の骨を折って埋めた。弥生時代の墓地跡からは人為的に手足の骨が折られたご遺体が勢揃いしているねー。そうしないと化け物になるって考えたから。
戦国時代には『いつまで』って妖怪が現れたって言うよー。戦場のご遺体を放置しておくと『いつまでー』って叫ぶんだ。中国なんか、暖かくて不作の年は、適当な墓を次々と暴いてご遺体を破壊したり焼いたりしたって言うよ。化け物を呼んだ。或いは化け物になったから不作なんだって考えて。明王朝時代に『そんな馬鹿な迷信やめろ』って布告が何度も出されている。でも清王朝になるとそんな布告も出なくなったから下手すれば毎年のように墓荒らしされたらしいねー」
「東アジアの風習って訳か? いや、古今東西って言ったな……ヨーロッパ方面でも似たような話があるのか?」
「あるよー。アフリカにもインドにもー。昔の人はご遺体を埋葬しないと化け物になるか化け物を呼ぶと考えた。だからどんな文化圏にも埋葬の文化があるの。たぶん、ハイチにもその手の話があって、魔術師が人間を奴隷にするって恐れや村社会の面倒事あれこれが混じって今のゾンビ映画の原型になったんじゃないかな。
だから、私は今回の話が、魔術サイドでは無く、科学サイドの領分に聞こえるの」
「……『学園都市外の能力開発』では出来ないって事か?」
「いや? 出来るよ。でもこういう事件になるのが理解出来ないって話。だって映画やホラーゲームみたいじゃん。地下空間に変な化学物質がばらまかれてゾンビパニックって」
『とある高校』に到着。手錠をはめたままの少女を連れてる男が『
少女がある人物に土下座までして手に入れたのは1滴の血と髪の毛が数本。
「……学生の遺伝情報は本来、機密情報で大事な物なんだが」 「良いでしょ、これは万が一の切り札なんだから。使えないことを祈ってる」
再び三宅が運転する車が動き出し、目的地は第22学区。
「そうそう、中国だとご遺体はなるべくふるさとに埋葬する方が良いってなっててねー。その時代、中国には死体運び専門の職業があったんだー。面白いよ、棒に両腕をくくりつけて、担架みたいに横向きじゃなくて縦向き、つまり立たせた状態……縦向きにつり下げて運ぶの」
「……なんだそりゃ。何の意味が」
「一度に数人も運べるじゃん。担架や棺桶状態だと何人も一度に運べない。だから、何にも知らない人が横から見るとこうなる」
そういって手錠のハマった両腕を前に突き出し、手はだらんと下向きへ。
「……なるほど。映画のイメージはそこから来ているのか」 「その通り。いやー文化論でホラー映画を語ると面白い要素が盛りだくさんだよー」
「で、それが今回の件にどう関係すると考える? やっぱりこれは全部学園都市のマッドサイエンティストの仕業か?」
「しらなーい。その可能性が高いんじゃ無いかな。でも……もしも仮に魔術が関わっていた場合、普通じゃ無いよ。コレ……。なるべく犠牲者少なめで収まれば良いけど……正直怪しい。ねえ、やっぱこっちが指定したもう1人の切り札は見つからなかった?」
「……見つからなかったよ。何処の所属なのかもわからず、金髪美少女と言う特徴で名前だけしか無い状態だとさすがに無理だ。今回の『とある高校』だってそんな名前で普通はわからないだろ。元霧ヶ丘女学院のレベル0っていう条件が無ければ見つけられなかった」
「そっか……事件解決が9月のハズだったから、10月の今ならまだ……って思ったけど無理か。もう学園都市の外にいるのかも」
少女は遠い目をしながら指を折って数え始める。まるで遠い記憶の何かを頑張って数えているように。
「で、仮にコレが、君の言う、『魔術師』、学園都市外の能力開発が絡んだ事件だと仮定して、何処に黒幕がいると思う? 俺は騒動の中心にいると思っている」
「私は逆方向だと思う。つまり、少し離れた安全地帯で高みの見物」
「言っておくが、2手に分かれるつもりは無いぞ。逃がすつもりは無いし、現場に出すつもりもない」
「……ッチ」 「そうやって悪ぶってもダメだっての。親御さんに一切合切全部話を通しても良いんだぞ?」
「!?!?!?!?!?!?!?!!??」