6.
三宅はメンテナンス用の通路にいた。広大な地下空間を維持する為には、常に大量の電力が必要だ。例えば空調、例えば地下水の排水、例えば汚水の排水から供給まで。
それらの配管や電力インフラ、その他諸々をまとめて管理するためのそれ、それがメンテナンス用通路だ。
「これか」
見つけたのは、排水用ポンプや排水用の配管。そして、それを管理している端末。
「……くそっ、後で賠償とか言われないよな!?」
そう言いながら端末を制御する。排水の停止、2時間後に再起動とセット。それとは別に給水制御システムを1時間停止。
「やってくれ!」
三宅の言葉は無線を介して、仲間の『
「放水開始!!」
暴徒制圧用の放水が始まる。
(あいつの話によると、これで、暴徒化の進行を止められるって言ってるが……。本当に効果があるんだよな? 焼くのが一番とかほざいていたが)
それはそれとして、メンテナンス用通路を走って、急いで移動を開始する。暴徒化の進行がなかなか止められない場所が事件の中心だ。
もしも厄介な黒幕がいるとしたら間違いなくその中心部にいる。そう考えて。
中国神話に登場する帝王、『黄帝』。『三皇五帝』と呼ばれる神々と人類が隣同士に生きた時代の偉大な帝王達の1人である。
未だ神々と人類が隣り合わせに生きていた神代の時代において、人でも神でもどちらでもあった帝王。
そんな彼には宿敵と呼べる存在がいて、美しき天女の娘がいた。
黄帝は宿敵と長きにわたる戦いを繰り広げ、父を助けようと豊穣を司る女神であった娘はその力の全てを父の勝利に捧げた。
黄帝は勝利し、だが、娘を失った。
娘は全ての力を使い、文字通り神々の国に帰れなくなってしまったのだ。美しい容姿はみすぼらしくなり、豊穣の力は全てを灼熱で枯死させる死を振りまくものと化した。
娘だったものはとある山より出る事を禁じられ、山は乾いた死の大地に変貌した。
美しかった頃の女神は美しい青い服に天女の羽衣を纏う笑顔のまぶしい女であった。
けれども、何時しか死体が変貌する、或いは呼び寄せる『妖怪』と混雑され、彼女の名前で醜い猿のような化け物が呼ばれるようになる。
あるとき、ある人間達が面白おかしくこのお話を脚色しまくった。彼らが書いた小説によれば、
かくして、鬼道を用いて自らを生きた死体に加工し、仙人に近づこうとする者達が現れた。けれども、そんな彼らの末路すらもすでに『小説』は描いていた。
すなわち、体中に白い毛を生やして目は真っ赤。鼻から血を垂れ流し、知性の無い亡者。すなわちキョンシーと。
ひょっとしたら、彼らは面白おかしく脚色しているつもりは無かったのかもしれない。
ただ単に民間伝承を寄せ集めたら凄いことになっただけなのかもしれない。
「『天師・混雑(上の連中がうるさくてね、満足に出来やしない)』『探求・妨害皆無(好き勝手にやれる場所を探したら、それを提供してくれる奴らがいたの)』」
「う、る、さ、い、よ……高みの見物ッ!?」
木彫りの小猿だった。ただし、所々、本物の小猿、動物の肉で盛り漬けされている。いや、本当は逆なのかもしれない。小猿のミイラに木彫りのパーツを足していった。
そんな感じなのだ。尤も、ミイラや木彫りのパーツ部分に掘られた無数の金文文字、古代中国の漢字の起源。
あれがこの『小猿のミイラの木彫り』を動かす何かになっていると言うのなら、むしろあそこまでびっしり書き込めば、ミイラが壊れるのも当然だ。
「『愚劣・失笑(いえ、あなたをあざ笑っているだけ)』『安全・無能(あなたでは、この部屋に入ってこれないでしょう? 鍵も無ければ開けてくれる人もいない。あなたでは私を攻撃出来ない。見た感じこの島国の魔術師の様だけど準備もろくに出来ていない。そもそも学園都市相手に文句の一つも付けないこの国の雑魚どもの1人程度が相手になるわけ無いだろォ!)』
その女は心の底から、面白いものを見る目でこちらを見下ろしてくる。
それも仕方ないと言える。スタンバトンを両手で押し込む。電撃機能を使わずただの警棒として、必死に木彫りとミイラの小猿を押さえ込む。
魔術は技術だ。平和を尊ぶ社会からしたら異端だが、究極的には一部の例外を除き誰もが適切な手順を用いて使える力だ。
逆に言えば、適切な手順なしに使える物では無い。つい先ほどまで拘留されていた少女に大それた魔術が使える程の準備は出来ていない。
富上 磐(とがみ・わか)は適切な準備を省略できる程の大魔術師では無い。彼女の尺度で言う自称1流の魔術師でしかない。
「『馬鹿・不憫(ばーか。自信満々にやってきて、その程度。何のためにどや顔して入ってきたの。かわいそ~)』『鈍臭・白痴(わたしだったらそんな間抜けな真似出来ない、あんた頭悪いでょ)』」
「こ、、んの、いわせておけば~~!」
小猿を蹴り飛ばし、距離をとるが、人間よりも動きの俊敏なそれに距離の優位は一瞬で奪われる。
けど、その一瞬で良かった。スタンバトンより放たれる電撃の火花で1枚の折紙をくしゃくしゃに丸めたそれに突っ込む。発火。
「『愚劣・白痴(はー? 頭だいじょーぶですかぁー? その程度の火で)』『無理・無謀(対処出来るわきゃねーだろぉ!!)』」
「それでも、一瞬動きを止める事は出来る!」
再び取り出す折り鶴。
「『
カウンター術式がきちんと起動し、木彫りとミイラのハイブリット小猿がバラバラになっていく。
そして、スタンバトンの先端で小さく燃える折紙の紙切れ。それはセンサーが火災を検知してスプリンクラーが発動するには十分だった。
「『意図不明(は? それに何の意味が)』」
「ねえ、本来キョンシーは事前に魔術的な処理をしてない限り、風水的に最悪な条件が揃った上で100年が必要のハズだけど……あなたって、あれだけの数の学生達や大人達にそんな処理した? で、実は今、排水システムが停止してます。時期にちょっとした洪水になるけど、あなたのキョンシーって風水的に大丈夫? あと、ちょっと自爆技になっちゃうけど、今この水の中でバチバチってさせたら、どうなるかな~?」
「『(!?)』」
「確かに、学園都市相手に文句の一つも言えない日本系術式の魔術師だけど、それがどうかした?」