『とある線上の世界大戦』   作:ホエール

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第2章 8.

   8.

 彼女は元々『とある高校』の女子生徒では無い。転校生だ。前の学校にも数多くの知り合いがいて、友人達がいた。

環境の変化は少しさみしいけど、今はこれで良かったと思っている。

学園都市の価値観があそこは強すぎた。

 

「『全力・発揮(なめるなよ。雑魚が!!)』『階級・超越(第4級の力を見せてやるまで)』」

魔術師の肌が虹色に輝き出す。

 

「ゲーミング肌か何かにゃ?」  「『毛僵・知識(第4級は肌が虹色に輝き、法力を駆使することが出来るッ! そんな下品な例えで侮辱するな!)』」

照明がすべて吹き飛び虹色に輝く女が1人、全身から毛を逆立たせ、異様な迫力が、存在感が、それだけで物体が念動力を発揮したように動き回る。

ポスターが椅子と現象が周囲に猛威を振るい、倒れているアンチスキルに襲いかかる。

 

「ダメっ!」

スタンバトンを振り回し、倒れているアンチスキル達を守ろうと動く、磐だが、いくつかは彼女自身にぶつかる。

空気がよどんでいく。スプリンクラーが放水しているはずなのに、空気が急速に乾燥していく。

 

「……何が第4級だ! だったら、その牢屋から出てこい! その部屋に立てこもって遠距離攻撃に専念している時点で、あなたは雑魚だと自己紹介している! 安全地帯で高みの見物だけ!」

「『安全地帯・善悪(それの何が悪い!! 自己防衛の一つも出来ないで何の意味があるか!)』」

「そっ。ならやっぱりこれで良かったんだね」

「『?』」

直後、磐の『術式』が発動した。

 

「『紙片・四方(はっ! 紙切れがよく見ると魔術的な意味が見える配置図に!? これは、仏教、密教系統の――――)』」

「――あんたに特別に私の魂魄の魂をくれてやる!」

折紙、鋭利な紙で手のひらを自ら切って、磐の血が流れて、少女の口元に飛ばす。キョンシーの本能としてその血を思わず舐めてしまう。

たったそれだけで、ゲーミング少女の力が無限にわき出てきた。存在感は増大し世界が悲鳴を上げるような異音がどこからともなく鳴り響いてくる。

 

「『意味不明・馬鹿(この馬鹿がぁ! こんなことをしても私を強化するだけ!)』」

「第5級に近づいた感想は?」

そして、磐は倒れ伏している『警備員(アンチスキル)』のホルスターから拳銃を抜き取る。鎖で繋がれた拳銃だが、そもそも本人が倒れ伏しているし標的は動かないから問題は無い。

 

「『――――』」

意味に気づいて、絶句。逃げ惑うように踏み台としていた机の影に隠れようとして

 

「キョンシー第5級は、はっきり言って私では対処不能な化け物。でもそれは私では無理と言うだけで、軍隊ならあんたを殺せる。

だって、清王朝の小説『閲微草堂筆記』には、はっきりと第5級のキョンシーは島 銃(ひなわじゅう)で撃ち殺せる怪異として描ききっているからね」

「『無能・雑魚(無能の雑魚風情が、そんなモノを私に向けるんじゃないんだよぉぉ!)』」

ゲーミング少女が机の影に逃げようが関係は無い。安全装置を解除。両手で握って、引き金を引く。

一度だけ、お金を出して海外の射撃場でいくつかの銃火器を撃ったことがある。……渡航こそ不法だったがあれだけは真面目に合法行為だと思っているしその後を考えれば必要な行為だったと磐は信じている。そのおかげか、銃弾は確かに、ゲーミング少女を撃ち抜いた。

 

虹色の輝いていた少女は緑色に色を変貌させ、青い服を血に汚し、しかし発動された念動力によって、磐を含むアンチスキルの身体は文字通り吹き飛ばされた。

アンチスキルの詰め所そのものが崩落し、倒れ伏しながら磐は見る。

最初見たときとは打って変わって、ぼろぼろの小学生女児らしき子供がふらふら歩きながら、だがしかし緑色の着色料らしき物が詰まった缶詰を右手に持って左手で必死に顔面に塗っている。

あたった銃弾は1発だけ。その1発で確かに大ダメージを与えたが、それで蹴りを付けるには最後の一押しが足りなかったと言う事か。

 

「『言語道断・乱費(許さんぞ、雑魚が。おまえの行為は無駄だった! 1発で仕留められなかった時点でもう終わり何だよ)』」

「でも、あんたをあの安全地帯から引き釣り出せた。これで、こいつがいきる」

取り出したるは、折り鶴の鎖。

 

「『紙片・技巧無能(また、その紙切れか! 芸が無い! 周りを見ろ! 貴様の組んだ胎蔵曼荼羅もどきはとっくに吹き飛んでいる! スプリンクラーも今度は味方じゃないぞ!)』

「古代の日本人は、紙の折り目に異界をみた。動植物や様々な物がそれを重ねて生まれ行く姿に特別な力を見た。異界を重ねて結界と成す。……逆に言えばその中に守っておきたい物もまた守れる」

鎖の中の一つの折り鶴が自動的に外れ、開いていく。

 

「『(――――ッ!?)』」

言葉は無かった。体の制御が効かない。動いてはいけないのに、1歩、また1歩と踏み進んでしまう。

 

「やっぱり、効いた。キョンシーってさ、人の肉を食うんじゃ無い。牙で引き裂いて血を飲むんだ。血から魂魄の魂を取り込むんだ。魂が足りてないからキョンシーになってしまっているからね。……まるで『カインの末裔(吸血鬼)』みたい。本来は別種なのにそれを連想しちゃうからもしかしたらって思ったけど。やっぱり効いたね。

『姫神 秋沙(ひめがみ・あいさ)』の血と髪の毛で作った身代わり術式とついでに結界で逃げないように封じたAIM拡散力場は。ほんの2~3時間しか封じきれないし意味が無かったら本当に役にも立たない切り札だったけど、反応あったね」

「『狂気(非常識ものが! な、なんなんだよぉ! それは!)』」

「『吸血殺し(ディープブラッド)』。魔術サイドでさえ、眉唾扱いの吸血鬼の存在を立証したとされる『原石』さ。土下座して髪の毛と血の1滴を貰ったんだ。ついでにその際、直筆サインの書いて貰った。でその時、AIM拡散力場も結界で封じる形で持ち運べないか、やってみた。

吸血殺し(ディープブラッド))』の能力は吸血鬼を食虫植物の様に呼び寄せて、姫神に噛みついたら一瞬で殺す、滅ぼすと言う脅威の力だ」

顔に浮かんだ恐怖は隠せない。どれだけこの場を逃げようとしても、体は1歩、また1歩と歩みを止めてはくれない。ゲーミング少女改め緑の少女は自らの衝動を止められない。ダメだとわかっていても、磐の手のひらにある、2つ折りの折紙を見てしまう。口がうずく。あれに噛みつけと。

甘い香りがする。きっとアレに噛みついたら物凄く甘いに違いない。いや、騙されるなアレは血のしみがついた紙切れで髪の毛を1本包んだだけだ。

そんな匂いや味がするはずが無い!! なのに味を想像する。体がそれを要求する!

 

「ほら、遠慮しないで、今、あげる」

目の前で目当ての折紙が紙飛行機に形を変えて、自分の口の中に飛び込んで……。

 

 

 

「終わったー。なんだよぉ……自分から牢屋に入って、高みの見物って。手が出せないじゃん。禁書目録の世界なんだから、ぶん殴って終わりの敵でいてくれよぉ……」

磐は極度の疲労で動きたくないと自ら第22学区第1階層の地面に手足を投げ出して人工的な星空を見上げていた。

傍らには元飲酒不良少女改めゲーミング少女改め緑色の少女だったボロ雑巾みたいな小学生女児が手錠をはめられ、ついでに口を粘着テープで封じられて転がされている。

 

(……小説だった。元ネタの伝承は数あれど、現代に広まっているキョンシーの情報の半分以上が清王朝時代に書かれた小説『閲微草堂筆記』に由来している。

少なくとも第1級から最上級の第8級なんて階級概念はあの小説由来が基本だったはず。元ネタの伝承事態は豊富にあるし、そもそも漢王朝時代の東方朔が記した『神異経』にもキョンシー自体は描かれている。

尤も……わかりやすいゾンビ風のキャラクターじゃないけど。東方朔は仙人であったとも言われている人物だし何かしら正しいとみても、キョンシーは基本的に『小説(つくりばなし)』に登場する存在が基本のハズ。少なくとも現代では。そもそも旱魃(ハンバー)という墜ちた女神が猿みたいな妖怪と同一視されたのが始まりだし……私の後押しで強制的に第5級に一瞬だけ成らせて上げたけどそれが出来るって事は……)

小説が、実際に機能する、『位相』となっていた……?

磐は色々な想像を張り巡らせるが、結論は出てこない。彼女の持っている『特別な知識』は創約と称する9冊目までしか無い。

結局アリスの正体はわからずじまいだった。

 

「やーめた。どーせ答えなんてわかんないんだから。はー。誰も来ねー。このまま逃げちゃおうかな~」

 

 

 

不思議な少女だった。手錠をはめて監視の『警備員(アンチスキル)』が側にいるのに私を見た瞬間、感極まる表情を見せ、そのまま「サインください」と土下座を始めたのだ。

少女は自分は魔術師であると自己紹介を始めた。

魔術サイドの人間が学園都市にこっそりとくる事自体は多分、まれによくある事なのだろう。けれど、こういうケースは初めてで驚愕すると共に、そのまま私の力が必要だ血と髪の毛を提供して欲しいと言い出したのは純粋に戸惑った。私の力は『滅ぼす』事しか出来ない。

笑って泣いて、そうやって生きる事が出来る存在を問答無用として無条件に滅ぼす事しか出来ない。

学園都市にくればなんとかなると思っていた。ならなかった彼らからすれば私の力は格好の研究材料であって、封印する意義が無いと言う価値観だった。

イギリス清教の力でこの力を封じられて、このとある高校に流れ着いて、今は……やっと普通の生き方が出来ている。

 

「だから、お願いします」

土下座。そうやって私の力を頼られても嫌だと思う。けれど

 

「決してその力で誰かを『滅ぼす』事はしません。あくまでもヤバイ奴に対する切り札にするだけです。そもそも2~3時間程度しかもちません! 他人の異能を模倣する事が出来るほどの大魔術師になんてなってないですから!」

ただ、土下座して真剣にそんな事を言われたら、いいよとつい言ってしまったのは……たぶん間違った使い方をきっとしないだろうと思ったからだ。

そして、それはきっと間違っていない……。

 

(それはそれとして。なんかぶつぶつ言ってた。原作がどうのキャラクターがどうの。……サインも折紙とサイン色紙にそれぞれ求められた。あれなに。)

 

 

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