『とある線上の世界大戦』   作:ホエール

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第2章 9.

   9.

 崩れた建物。その影から、唐突に一人の男が現れた。眼鏡をつけ、小走りに「助けてくれ!」と。この状況なのか、声は小さめだ。

その声と走り動く姿さえ無かったら気づかなかったかもしれない。それほどに気配が殺されていた。

そして、そのすぐ後ろにぼろぼろになり、今にも機能停止寸前の自立モードの無人兵器が現れる。

 

「あれが、アレが追いかけてきて! あんた『警備員(アンチスキル)』だろ! 変な奴らが徘徊しているし、無人兵器まで暴れ回っている! 助けてくれ!」

「あんたは?」

「すぐそこのレンタル倉庫の管理人をしている! 1人くらいは誰かが詰めてないといけないと言う上の方針でこのざまだ!」

「……たしかカップルから助けてくれって連絡があったな。あんたはその?」

「……まぁ、倉庫だから色々な人が荷物置き場を求めてくるよ。カップルが倉庫を借りに来ることはあるよ」

レンタル倉庫の建前で大人のホテルを運営している事には今は置いといて、そこの人間が今、三宅にすがりついている。

 

「わかったから、後ろに下がってろ!」  「わ、わかった!」

眼鏡の男は走り出す。こんな状況だからだろう足音がしないので、果たして行ったのかと2度、3度振り向くハメになった。

無人兵器は崩れた建物の瓦礫の粉塵にまみれて灰色の姿をしながらも金属の異音を鳴り響かせながらこちらを見ている。

6本足。クモを連想させるその形状の無人兵器はセンサーの集合体から成り立つ頭をこちらに向けている。見ている。

 

三宅は短機関銃(サブマシンガン)を構えて、引き金を引かなかった。電波センサーは自立モードの無人兵器が敵味方を識別しようと必死に何かの信号を送っている事を教えてくれている。

……そもそも自立モードの無人兵器は容赦という言葉が無い。以下にぼろぼろで稼働状態が不思議な状態であってもこちらを認識した時点でぶっ放しててもおかしく無い。

なのに、敵味方を識別しようと電波を放出している。その行為を必死に行っている。敵を無差別に攻撃するプログラムだけで動くハズの機械が、攻撃を行わずにただ何かを必死に探そうとしている。この動き方は、少なくとも容赦という言葉を辞書から引くべき連中の動き方では無い。そう――

 

「――――『暗部』じゃないな。統括理事会直属で表向きに使われてる何かしらの特殊戦力か。なら、いったいこの22学区で何のために送り込まれて何と戦ったんだ? 

そして何故今も稼働を続けている? おまえの敵は何だ?」

思わず口に出してしまう疑問。

自立モードの無人兵器。統括理事会直属の特殊戦力、怪獣映画、そしてゾンビ映画。

 

「ああ、そう言う事か」

気配は無かった。それでも自分の直感だけを信じて体を翻し短機関銃の銃口を後方に向けた。

 

「――!」  「やっぱりな」

レンタル倉庫の管理人をしていると言った眼鏡の男がその手にナイフを持ってすぐそこにまで来ていた。いつでも三宅を刺し殺せる体制で。

 

「何を! 相手はそれです! こっちじゃない! 自分なりに加勢に来たのになんで銃を向けられているんだ!」

「そりゃ、この無人兵器が追いかけ回していたのは敵だろ。……『学園都市の敵』、たぶん外部から来た奴か、あるいは統括理事会が指定した犯罪者たち。そういえば、いくらこの状況だからって行っても足音がなさ過ぎた。今思えばあの歩き方は……軍人や治安維持特殊部隊とかの歩き方だな。

このゾンビ騒ぎの第22学区で犯罪者様はいったい何をして、無人兵器に追われていたのかな?」

「クソが、なすりつけようと思ったのに!」

一瞬の出来事であった。刃物とは別に隠し持ってたリモコンのボタンを押すと三宅のすぐ側で明かりが吹き飛んでいた自動販売機が爆発した。

 

「がっ!」

その一瞬に例の無人兵器が走り出す。無人兵器が盾となって三宅は爆風に吹き飛ばされるだけですんだ。

どのようなアルゴリズムか、或いは人命救助の意思も組み込まれたプログラム通りの行動か、三宅は無人兵器に救われ、無人兵器は今度こそ完全に機能停止した。

けれど、そんな無人兵器に目もくれず、爆風に吹き飛ばされた体に動けと必死に脳は指令をだし、立ち上がって走り出す。

 

「動くな! 両手を挙げて手のひらを見せながら姿勢を低くしろ!」

短機関銃。それを犯罪者のいた方向に向ける。爆風によって巻き上げられた粉塵が霧のように姿を隠す。隠してしまう!

そんな、状況下、ガチャガチャと奇妙な金属の足音らしき物が小さく聞こえてきた。

思わずその方向に目を向けてしまった。眼鏡の犯罪者はその隙を見逃さなかった。再び宙を舞う三宅の身体。

 

「邪魔をするなぁ!」

眼鏡の男はそのままナイフを三宅の首に突き立てようとして。

 

『1度だけだよー。それーも今日1日が限界。ほら、厄除けの超すごーいバージョン』

1羽。たった1羽、胸ポケットに入れてた折り鶴が粉々の紙吹雪となって吹き出た。たった、それだけの行為だった。けれどたった、それだけで眼鏡の男はナイフを三宅の首に突き立てる暇など無い。顔面に直撃する紙吹雪に思わずナイフを振り下ろすのでは無く、顔を守る行動を取ってしまった。

 

「な、なんなんだぁ!」

それで十分だった。形勢は逆転され、三宅の右拳が眼鏡の男の顔面に突き刺さる。突き刺さる、突き刺さる!

意識を失わせるのに十分殴り続け。相手は動かなくなった。息はあるので今しばらくは大丈夫だろう。

金属の足音がする方向に短機関銃を向けながら移動する。

輸送用ロボットがいた。4脚の輸送ロボットは至る所に損傷が見えたが健在で例の毒ガスの特殊ボンベを背負っている。

ロボットは探しているようだった。自分の主を。輸送用なのだ。指定された場所まで運ぶか、人について行く形で輸送業務を遂行する。

だから、自分のご主人様がいないから、探し回っている。

 

「……もしかして、ゾンビ騒動がここまで広まったのは……ロボットが歩き回った所為もあるのか?」

「そうだ、その所為で俺はまだここにいる!」

振り向くまもなく、衝撃。殴られ、そのまま投げられる。そして、その際敵に奪われる短機関銃。

眼鏡のレンズは割れてすべてなぐなり、歪んだフレームはすでに原型をとどめておらず、そんな眼鏡を投げ捨てながら元眼鏡の男は短機関銃の銃口を三宅に向ける。

 

「おまえ等はクソガキどもの命を大事にしすぎる。そう言う動きしか出来ない。だから、俺を殺さなかった。それがこのざまだ!! 死んだふり程度で!!」

「あの中身が何か知っているのか!?」  「当然だ!! 俺たちの組織が研究していた物だ!」

「DAッ!?」  

「俺たちはクソガキモルモットに正義と秩序を教えていた。アレはそのための力の一つだ!! こんなことで失って良いはずが無い! ましてやこれほどの大騒動! 有効活用すれば遙かに効果的に大きな事が出来る! この事態は本当に凄い! その気になればいくらでも鎮圧出来るが、命を大事にしすぎると大惨事になる!

これは有効活用すればもっと様々な事に有用できる!」

「ゾンビ騒動は外部から呼び寄せた協力者あっての物だろう? 違うのか?」

それを言われるとばつが悪いのか、一瞬だけ表情を曇らせる。

だが、すぐに立て直し、何も言わずに引き金を引いた。

 

(そうだ、俺たちは命を大事にしすぎる。だが、だから良いんだ)

初弾は空砲。2発目はゴム弾。空砲とゴム弾の混雑。それが今回の短機関銃のマガジンの内容。

つまり、ちゃんと致命傷になりそうな場所にうまく数発当てなきゃ殺せない短機関銃。

痛みは無視した。衝撃は、しょうが無い。なるべく問題が無い所に当てさせた。多分、コレが終わったら入院生活だ。

 

「クソがッッ――」  「――その短機関銃(サブマシンガン)も有効活用出来ない奴が、今回の騒動を利用できるわけ、無いだろっ!!」

マガジン構成を知らない元眼鏡の男には理不尽な言葉だが、それでも心から思った事を右拳に乗せて再び顔面に突き刺した。

 

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