『とある線上の世界大戦』   作:ホエール

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第2章 10.

   10.

 第22学区の本格的な浄化作業が始まった。有害物質を除去する為の装置が急遽開発され、それらが清掃ロボットに取り付けられ数百と投入される。

時期に数千に数が増え、空調システムには新型のエアフィルターが取り付けられる。

また、センサーやカメラの配置が見直され、隠されたDA施設や不良どもが作った秘密基地の類いも次々と摘発されている。

 

(なお、小学生がこっそりと作ったらしい秘密基地の類いも摘発され、泣いてる子供を宥めるのも『警備員(アンチスキル)』の仕事になってしまったが)

「で、なんでわかちゃんさまの拘留期間が増えているのっ!? わかちゃんさま、今回大活躍だったよね!? わかちゃんさま、このままハッピーエンドで大団円。解放されました! ってエンドじゃダメなの!?」

「いや、緊急避難だとはわかっているが、きみ、わかってる? 『警備員(アンチスキル)』の拳銃を奪って乱射したよね」

「……えっ、なんのことかなー?」  「銃刀法とか監視カメラとか色々知ってる? 大丈夫? ちゃんと世の中の最低限のルールは把握してないと生きるの大変だよ?」

「理不尽だー!? わかちゃんさまは学園都市のために頑張ったの! わかちゃんさまは本来外部の人間ん!!」

「……つまり、外部の検察に引き渡した方がいいのか? こっちと違って情状酌量の余地があるか正直不安になるけど」

「お世話になります」

小さな笑い声があちこちから上がる。まるでコントのようなこの会話劇。

もうおなじみ、富上 磐と三宅の2人組はこれまたおなじみの『警備員(アンチスキル)』詰め所にてわかちゃんさまこと、磐を留置部屋に入れる。

まぁ、仕方ないと言われれば仕方ない。何しろ緊急避難とはいえ、勝手に拳銃を持ち出して発砲した事は事実だし、それで人を傷つけたのだ。

正当防衛を問おうにも、相手の能力がよくわかっていないあの状況下、過剰防衛を言われても仕方が無いのだ。

 

「『中国神話』と『小説』ねぇ? 旱魃って言う女神様が妖怪と混同されていわゆるキョンシーの元ネタになったって話は理解するが、今度はそれを元ネタにした小説? ……フィクションとリアルは混同しちゃダメだぞ?」

「わかちゃんさまがフィクションと現実の違いが理解出来ないヤバイ奴扱いされてるっ!?」

「アレ? 違ったか? 『学園都市外の能力開発(オ カ ル ト)』関係者なんだろ」

「激しく間違ったイメージに抗議したいけど、これ絶対藪蛇だ」

第22学区の暴徒……ゾンビみたいな連中用の隔離病棟もすでに用意が進んでおり、半年ほどの時間で社会復帰できるまでに直せるという学園都市医学界脅威のメディカリズムを発揮しているが、それでも半年も時間がかかるのかとあちこちから言われているらしい。

この都市の人々は色々と麻痺ってる。

とはいえ、だ、

 

「死者数8人だそうだ」  「そっ。むしろそれだけですんで良かった」

「元々第22学区のあの階層は上層部が理由を付けて人払いをしていたからな。人の数は少なかったんだ。それが死者の少ない理由だ」

「……それでも8人か。大変だね~」  「おまえが言うと大変さを感じないんだよな……なんだろこれ」

「いやいや、これでも私は間違いなく不条理を、不都合な死を悲しんでいるよ(、、、、、、、、、、、、、、、、、)。誰だって経験しようがしまいが死は怖いでしょ。ましてや残酷で怖くていくらでも痛い思いをする死に方が豊富なこの世界で都合の悪い死に方なんてまっぴらゴメンだからね。だからちゃんと悲しんでいる。

せめて、良き世へ輪廻転生でも解脱でもなんでもして報われますようにって。私に出来るのはそうやって祈ることだけ。何だったら神式だけどお葬式開いて上げようか?」

「……いや、ちゃんとした業者に頼むよ」

任せればなんだかんだでちゃんとした葬式を開いてくれる気はした。でも、正直そうしたい気持ちは全くわかない。だってそうだろ?

 

「手錠付けて、葬式を開かれてもなぁ……」  「えっ!? 外してくれないの!? 学園都市の為の労働中でも!?」

 

 

 

カラカラとキャスターが音を上げながら荷物が運ばれる。載せられている荷物はアクリルのような透明素材で作られた120センチメートル四方の箱だった。

その箱の中には何かの溶液が満載され、人間が小さく詰め込まれている。人間には管のようなケーブルが複数取り付けられ、その生存状態がよくわかるようにタブレットが箱上部に置かれている。

 

「ご注文の品をお持ちしました。今回は大変でした。『警備員(アンチスキル)』が正式に確保していましたので書類の偽造から護送作業をごまかすのはもう……」

「苦労話はどうでも良い。受領したからさっさと帰れ」

「……わかりました」

箱の中身の人間は小さな女の子だった。小学生女児を思わせるその女の子はぼろぼろの青い服をまとっている。

 

「『十字教』系統の被験体はアビニョンで数多く確保していたが、『中国大陸』系統の被験体はまだまだ数が少ないからな。確保出来て良かったよ。……張天師の血筋ってのも良い。その辺は大陸本土とそれ以外で政治的にもごたごたしてて、手を伸ばそうにも簡単にはいかないからね。

わざわざ学園都市に来てくれてたから助かった」

「プロフェッサー。意識が無いとは言え、本人の前でそう言う事を言うのはデリカシーに欠けますよ」

「おっと失礼。Ms.ギフテッド。人と交流の機会が少ない成果、独り言が多くなっていけません」

目の下にやたらと濃いクマを付けたヒゲの研究者であった。緑色の手術着にしわだらけ、シミだらけの白衣を身に纏い、プロフェッサーと呼ばれている。

女性には常に丁寧な言葉を心がけている様だが、その状況では清潔感がなさ過ぎて女性の相手としては失格。ただし本人はフェミニストを気取っている男でもある。

 

「私は学園都市の真の目的にかなう研究をしています。すべての魔術の廃滅。そのためにも協力者と被験体が必要だ。それも可能な限り両方とも魔術師であることが望ましい。そういえば、今『警備員(アンチスキル)』には非公式の魔術アドバイザーがいるそうですよね? それも珍しい経歴の」

「……富上 磐(とがみ わか)。調べでは田舎神社の娘という以外は経歴がわかりません。ですが魔術の腕前から見て、魔術サイドではそれなり程度の前歴があるハズです。また、家族に魔術関係者はいませんでした。実家の神社の来歴についても調べましたが、江戸中期に建立、いわゆる神道の統括団体には属していません。

もっとも統括団体と言っても昔その界隈ででかい顔していた権力者一族が作った民間団体ですので、地方だと所属していない場合も結構あるようです。ただし、いくつかの古文書を当たったところ、何かしら魔術界隈と関係のある神社であった形跡が見られると……。おそらくは魔術師としての裏家業のあった一族が肝心の裏家業の存在を忘れてしまった、喪失してしまった一族では無いかと」

タブレット端末に表記されるそれらの情報を見ながら、不健康な例の男研究者は面白い物を見る目で磐の顔写真を拡大する。

顔写真に特に何かあるわけでは無い。男子中学生と一瞬間違えてしまう様な幼めな顔立ちショートヘアの少女の顔があるだけだ。

彼のとりあえず程度にしか知らない魔術的な付合などが顔に隠されていると言った事も無い。

 

「なるほど、忘れられた先祖の遺産の継承者……そんな所でしょうか。江戸中期に神社建立と言う事は、『黄金』の系譜が入り込んだのは比較的最近と言う事ですね……。 それどころか、『黄金』のエッセンスを入れたのは彼女……なんて事もあり得る。なんと言うことだ。なんてことだ。だとすると、だとすると。だとすると! そんな素晴らしいサンプルケース! こんな素晴らしいサンプルケース! 欲しい! 欲しいぞ!」

興奮したようにまくし立てるプロフェッサーは目の前のキョンシー魔術師の箱をなでながら

 

「『黄金』のエッセンスはあらゆる現代魔術に混じっている! それらは大変便利だが、それが逆に多様性を奪い魔術と呼ばれる技術体系への対処策を狭めている! 肺炎への対処法でペストが治療できるか! インフルエンザ治療薬でコロナが治療できるか! 

『黄金』への対処法を得た所で、『黄金』によらない魔術には対処策とはなり得ない!! 『黄金』以外のサンプルもたくさん必要だ。そして、どんな風に『黄金』を受容しているのか。程度は? 方向性は? 『黄金』への対処策でそれらは対策可能なのか?」

 

「鬱病の原因は結局、脳細胞や脳神経系統、そして胃腸の細胞のエラーが原因であり、鬱病を引き起こす細菌さえ見つかっているこの現代に、『魔術』とやらが引き起こす精神汚染の基礎データさえ無いのはおかしな事だ! これは研究しなければ成らない! 治療可能なら治療できるようにしなければ成らない!

そのためには精神汚染されたサンプルケースが豊富に必要だ! 『黄金』の場合、『十字教』の場合、その他様々な魔術の場合、それぞれで精神汚染の質や方向性はどうなっている? どう違っている。そして魔術師達が汚染に対抗するために用意すると言う『宗教防壁』とやらの医学的検証は? その強度は? どの程度の汚染にどんな風に防ぐんだ? 防壁を突破する汚染というのはあるのか。あったとしてそれはどういう汚染なのか?」

 

「魔術知識による『精神汚染』……が、治療可能だとして、逆に言えばいつでも誰かを汚染できると言う事でもある。なら――

―― 精 神 汚 染 は 兵 器 化 可 能 か ? 宗 教 防 壁 と や ら を 貫 通 す る 武 器 と し て の 精 神 汚 染 を す き に や れ た ら ?」

 

まくし立てていたプロフェッサーも落ち着きを見せ始めた。

巨大な本棚にも似た棚が無数に並ぶ大部屋。それらの棚には、例のキョンシー魔術師が詰め込まれていたような箱が棚の中に収められている。

例えば、大部屋の右端3段目の棚の中には『被験体:十字教:白人女性:No.A734』というラベルの貼られた箱が収められている。

例えば、同じく右端3段目の棚の中には『被験体:十字教:黒人男性:No.B895』というラベルの貼られた箱がある。

例えば、反対側の大部屋左端2段目の棚の中には『情報協力者:黄金系:アジア人女性:No.K225』というラベルの張られた箱がある。

無数の箱。そしてそれを収める箱。

人という人が溶液と共に収められた透明な箱にはタブレット端末が粘着テープで貼り付けられ、常に状態がモニターされている。

 

「プロフェサー。明日予定しているE号実験ですが、どの個体を使用しましょう?」

「そうですね。折角だ。入荷したばかりのこの娘にしましょう。幸いE号実験は負担が極めて少ない実験だ。十分なデータを集める前に壊れるなんて事はよほどの事が無い限り少ないでしょう。本当なら耐久実験も行いたいんですが、中国大陸関連の被験体は数が少ない。大事に使い潰さないと」

プロフェッサーはそう言いつつ、キョンシー魔術師の箱に新たなラベルを貼る。

『被験体:中国大陸系:アジア人女性:No.D720』

 

「中国大陸は当然ですが……やはり、今一番欲しいのはこの娘ですかねぇ。折角学園都市にいるのですから、是非とも情報協力者くらいにはなって欲しい。えーと名前なんだっけ。『警備員(アンチスキル)』の非公式アドバイザーの娘」

富上 磐(とがみ わか)です」

「ありがとう。Ms.ギフテッド。……うん。思い立ったが吉日だ。そのとが………………とがと言う娘を確保するために部隊を動かしてください」

「……『警備員(アンチスキル)』の詰め所に押しかける事になりますよ? それはそれでとてもコストがかかりますが」

「なぁーに。非公式な魔術アドバイザーなのでしょう? それらしい話を餌にすれば詰め所から出ますよ。そこに都市外テロリストの襲撃に見せかけて拉致すれば良いのです。ああ、計画を立てれば建てるほど、知識協力者の枠を越えて被験体として使い潰したくなってくる! いかんこの欲は研究予算をいくらでも食いつぶしてしまうぅぅぅううう!! さぁ、早く! 予算があるウチに行動しなければならないのです! そのとがちゃんとやらを連れてくるのです!」

 

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