3.
「超電話されてもアイテムは超終わり状態ですよ」
学園都市暗部組織『アイテム』、正規メンバーの最後の1人だ。そして、正規メンバーとしてアイテムに加入した順番でも最後の1人でもある。
だからこそ、いくつかある『アイテム』のアジトの一つにて、自分の私物がほとんど無いことに気づいて、さて、これからどうした物かと悩んでいた。
『わかってるって。アイテムは良くも悪くもレベル5第4位のあの娘とAIMストーカーの2人が核だったからね。2人とも消えた以上、アイテムはもうおしまいに近いって』
電話の声。普段は特に何も感じられない声だが、今回だけはなぜだか優しげな声に聞こえる。なぜだろう。
『ただね、あなただって、このままじゃいけないってのはわかるでしょ。「暗部」は敵が多いわ。「アイテム」だってね。あなたなりに用意した個人用セーフハウスも暗部の深いところにいる連中には1日あればハロー、絹旗の場所は何処? って音声検索できる程度でしかない。
あなたに必要なのは『時間』と『場所』、そしていざって時に頼れる特殊な人脈よ。それともあなたも滝壺を追いかけてロシアにまで行く? それでもいいわよ。その場合学園都市を脱出方法が必要になるだろうけど』
『電話の声』には絹旗も否定できないと思っている。この町の『暗部』の深いところにいる連中は自分程度の想像力ではまるで想像もつかない手段や技術の一つや二つ持っていて当然だろう。そんな連中が本気になって自分を狙ってきたとき、いつまで逃げ隠れ出来るか。
もちろんただでやられるつもりは無い。自分なりにどうすれば生き残れるかの振る舞いだって出来る。
「……はぁ、超何をすればいいんですか?」
『暗部組織には色々あるわ。あなたたちの「アイテム」やあの
「……私1人に超何を期待しているんですか」
絹旗1人で暗部組織と戦え。これがちんけなチンピラ集団や殺してほしい個人がいる程度ならいざ知らず『電話の声』があげた名は知らないが、どう考えても『アイテム』の同類みたいな連中なのが目に見える。負けるつもりは無い。だが、勝てる根拠もまた無い。
『大丈夫よ。元々次の相手にどうかなって考えていたとこで、しかも今の「ジャーム」は敵が山ほど多い上に敵中に飛び込む仕事を請け負っている。あなたはその敵中の1人に紛れ込めばいいのよ』
「敵中に飛び込む? 超おかしな組織だったりします?」
絹旗は冷蔵庫に見慣れないフレンダの私物を見つけた。どうせもう食べるものはいないとそれを開いた。ホールケーキだった。
フレンダが何を考えていたのかはわからない。案外独り占めするつもりだったのかもしれないし、パーティーみたいな事を開くつもりだったのかもしれない。
どうせこのアジトに来ることはもう無い。つまり、このケーキは誰にも食べられずに処分されると言うことだ。それは少しさみしくなって、フォークを探す。
『「ジャーム」は元々拉致と死体処理に特化した暗部組織なのよ。正直どちらも他の暗部組織からしたら下部組織なんかの雑用に任せるような仕事だけど要は、そういう雑用には任せられないような対象人物を捕まえて、必要なら処分することが役割』
「……つまり、今回は超そいつらの敵陣のど真ん中に拉致対象がいるわけですね?」
『正解よ。なんと、今回は「警備員」と「風紀委員」。つまり表の連中中心。あと小粒だけど暗部関係者もいるわ』
かくして、おなかいっぱいにホールケーキを詰め込んだ絹旗は『電話の声』に従って服を着替え、指定された場所の車両の荷台に忍び込み、自分で手錠を両手にはめて、気づけば『護送』される『不良生徒』の1人に数えられていた。
さすがにホールケーキ丸々1個は厳しかったらしく、顔色が悪かったのを怪しまれたが、状況が状況なので特に何も言われず車が動き出す。
「……あんたも即席の収容施設行き?」
隣の少女が話しかけてきた。最初は無視しようと思ったが、学園都市にたまによくいる謎の服装をしていて、思わず無視出来なかった。
茶髪に濃い化粧や大量のアクセサリーを身につけ、丈が異常に短い浴衣を着ている女だった。
学園都市にはたまによくいる謎の服装をした奴らと出くわすことが地味に多い。たまに、よく、地味に多いなどよくわからない形容詞がつくのがわかるようにこの手の服装を好む人間はいっぱいいるが、だからといって常識外れな人間が主流では無いと『暗部』というよくわからない世界に属するはずの絹旗でさえたまにこう、共感性羞恥心を刺激される事がある。
「超そうらしいです。そっちは?」 「……旦那がね。色々あって」
(旦那? 彼氏ですかね)
「とにかく、そういうわけで『即席収容施設』って奴に行かなきゃいけないの」 「へぇーそうなんですか」
「あんたも訳あり?」 「えーと、まぁ、超そんな感じです」
すると郭と自己紹介した浴衣の少女は少し遠くにいる白人系の金髪美少女を指さし
「あの娘も訳ありなんだって。この護送車。全員訳あり女を乗せてるみたい」
訳あり女の1人、エステル・ローゼンタールは思案にふけっていたが、彼女のことを知らない絹旗からしたら護送車に乗り込む1人でしか無い。
お互い会話する気が無いのだから、特に自己紹介をすることも無く、郭だけがたまにしゃべりかけてくる。
このまま、事件も無く、例の『即席収容施設』に行けばいいのだが。正直絹旗は嫌な予感がしていた。
案の定というべきか。護送車の1つがいつの間に仕掛けられていたのか、対戦車地雷によって吹き飛ぶ。
『――誘導と足止め開始でー』 『 うーい、わかりましたー』
『――……あんたまた飲んでいるの?』 『 いいじゃん別に』
『馬鹿だよね。警備員慌てて、動き回ってるせいで、かえって動きが散漫になってる』
「全員でごちゃごちゃしゃべるな! ハイ、誘導と足止めを兼ねた地雷とドローンの配置は完璧。そっちに合流する」
作業着の少年だった。少年と言っても若い。下手すれば小学生4~5年生くらいだ。
『 あーお姉ちゃん達にいいところを見せようと背伸びしているのきゃわいいー』
「うっざ」
あの護送車がやっかいな戦力を乗せている事はとっくにつかんでいた。今回の標的は、警備員と風紀委員が守っている。
そこに暗部系の戦力がこっそりと紛れ込んでいるというやっかいきわまりない状況を阻止しつつ、護衛の戦力をそぐわかりやすい方法は、護送車を襲撃することだ。当然護送車は応援を呼ぶ事になる。
「対戦車地雷と自立モードのドローンでの爆撃。こっちは引き払って、あっちは地雷の混乱とドローン対応で時間をとられる。といっても長くて5分しか持たないと思う。最悪は3分で立て直してくると思うから、そっち急いでよ」
『 わぁ……ショタの生意気口調っていいわぁ……』
「うっざ」
暗部組織『ジャーム』。拉致と死体処理に特化した『暗部』。
その正規メンバーの1人である作業着少年は戦果を確認する事もなく、すぐさま移動を開始する。
『 あ~れ~ちゃんと確認しないのぉ?』
「ダメだったら確認の時間の無駄! だったら次の行動にきまってんじゃん!! 馬鹿か!」
『 あーショタの罵倒ボイスが五臓六腑に響き渡るんじゃぁ~』
「うっざ」
ローラーブレードを活用して一気に現場を離れる少年の姿はだが、なぜだか人々の目に映らない。
能力とかでは無く、ミスディレクションとか技術の類いだ。ブレードの音が鳴り響く場所では都合よく、コインが落ちる音がする。
10円玉にしろ、100円玉にしろ、人はそういう音に何故だか敏感になりやすい。そして、ついそっちに目を向ける。
人影にうまく潜り込み、人の視線を誘導し時に欺き、ローラーブレードで走る少年を目撃させない。目撃させても印象をかなり薄くする。
えっ? そんな子供がいたんですか、気づきませんでした。そういえばいたような気がする。そんな状態への着地させる技術。
が、だからこそ
「見つけましたわよ」
『