『とある線上の世界大戦』   作:ホエール

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第3章『Old Testament.21.5 臨床試験は未来を解析する――No_one_knows_what_the_future_holds._It's_obvious.』


第3章 4.

   4.

 暗部組織『ジャーム』は、拉致と死体処理が専門の組織だ。戦いは得意ではないし、その組織の性質上、『スクール』が起こした反乱劇には関与しなかった。関与するつもりも無かった。

だが、だからこそちょっとだけ後悔もしている。

 

「仕事が多すぎるのぉ~」  「前は色々な『暗部』があちこちで動いていたから、私たちの出番はどうしても限られていたからねぇ」

ほんの2時間ほど前、『ジャーム』の4人組は、カラオケボックスの個室で歌も歌わず、適当に音楽を鳴らしてだらけきっていた。

 

「私たちは拉致専門ー! 戦いは私たちの専門じゃなーい!」

「でも今回の依頼はいつもの常連さんだよ。それも一応は拉致目的」

酒臭い女子高生、VRゴーグルを身につけたスクール水着にワイシャツの少女、作業着の小学生男児、そして真っ白いパーカー少女という4人組はおのおのが好きにやっていた。

酒臭いのはそろそろ安いウィスキーは飽きたとこれまた安い梅酒を取り出し、VRゴーグルにスクール水着、ワイシャツという属性が渋滞している少女はゲーム機片手にカラオケ店に注文を入れてた唐揚げを頬張り、作業着の小学生男児はスマホで動画サイトを堪能。

真っ白いパーカー少女はイヤホンをつけて自分のお気に入り音楽の世界に飛び込んで周りの雑音をシャットアウトしている。

 

「あーこれなら、あの反乱劇にでも参加すればよかったかなー」  「何言ってんの。私らがレベル5が何人も参加した激戦に飛び込んだら一瞬でミンチだよ」

『皆さんの健康のお供に、帝政薬学』  「ブロッカー貫通してきやがった!」

作業着小学生男児が見ていた動画に割り込んできた広告に男の子がキレる。それを見た酒臭い方が優しい目をして

 

「ショタの唐突罵倒ボイスは良いわぁ……」  「「うっざ」」

「でも、健康のお供にってCMおきまりワードも寒いよねぇ~。だって、そいつら、私たちのお得意様だし~。今回の依頼だってそいつらじゃん」

「よりにもよって、警備員に風紀委員、暗部系の連中も勢揃いしている中、最優先人物はもちろん複数人を拉致って来い。こいつら、私らを殺したいの?」

「じゃあ、断るのかよ、だせぇ」

「「は? 断らないけど」」  「ショタだからって許されない事言うなよ。私らはプロだぞ」

 

 

そして、2時間後。

 

 

「あーん。ショタからの連絡がないぃ~! かわいそう……」

「いや、ちゃんと名前で呼んでやれよ……」  「何言ってるの? ショタはショタでしょう?」

「相変わらず人を属性でしか見ない奴め。名前で呼んでやれよ。名前で」  

酒臭い女とVRゴーグルにスク水ワイシャツの女が歩いている。場所は『収容施設』の中。コンテナが無数に並んでいるがそれとは別に通路用に大量設置されたパイプテントのど真ん中を歩いている。運動会だの町内会の集まりだので屋外に設置される屋根型のあれだ。

2人組の女が手をつないで歩いている。仲が良いと判断すれば良いのかそれとも何か別の意味があるのか。

 

「えっ? なんで?」

酒臭い女子高生は割と本気で言っているようで、なぜ名前で呼ぶ必要があるのかとアルコールで赤らめた顔をしながら真剣な表情を見せる。

 

「おまえなぁ……」  「それにスク水はスク水呼ばわりで返事してくれるんだから問題なーし! と言う事で!」

「スク水はやめろ」  「じゃあワイシャツ女」

「それもやめろ」  「そんな! 後残るのは痴女しか無いじゃ無い!」

「VRゴーグルだのそういうのがあるだろ! 痴女呼ばわりはマジで殺すぞ!」

不思議な光景だった。いくら人手不足と言っても最低限の人員はいる。各所に監視カメラやセンサー、そして歩哨が時折走ってくるのに2人の不審人物に気づくそぶりを見せる物はいない。

まるで見えないように。

 

「9時70メートル」  「ん」

VRゴーグルの女のその言葉にお酒の臭い香る女子高生がその方向に指先を向けて一瞬だけ発光、点灯させる。

 

「問題なし」

2人組は堂々と9時方向70メートル先にある監視カメラの前に立つが特に反応は無い。カメラ越しに施設警備をしている『警備員(アンチスキル)』の職員も

一切気がつかない。いや、明らかにおかしかった。

2人組の体色が、服の色まで変わっている。まるでカメレオンのようにその場の情景に合わせて体色が細かく変化していく。服まで変化につきあっていく。

だが、それでも見る物が見えれば違和感がある。至近距離から見ればやっぱりおかしさがある。赤外線センサーまでごまかすことは本来出来ない。

けれど、違和感に誰も気づかない。

 

迷彩体質(ダーク・オペレーション)』。酒臭い女子高生の持つ『能力』だった。レベル4。直接的な戦闘力は無いが、能力の膜が全身を覆い、自在に体色が変化して風景に溶け込む。そして『1人』、いや『1つ』に対して違和感を絶対に持たせない。違和感を持たせない方法は体色変化で光を見せること。

能力の膜が全身を覆い尽くすからこそ、手をつなげば2人組でもその恩恵を受けることが出来る。いや、両手で結べば3人組でもいける。

歩哨ならやっかいだが、監視カメラやセンサーに頼る警備状況はむしろ仕事が楽になる。そんな能力。

つまりは、機械に対しては抜群に機能する透明人間な能力。

 

「3時方向90メートル、3人組」  「あー。隠れ場所……ないなぁ……こっからやっちゃえば?」

「そうしたいけど、こりゃダメっぽい」

民生用の小型ドローンが飛んでいる。2人組の周りを旋回しながら2機の小型ドローンが。小さいから音も小さく小回りがきくそのドローンはVRゴーグルの女が制御している。

 

「どういう方法か知らないけど、もう、気づいている」

ドローンの旋回は戦闘モード。何しろ、普段はもっと先に飛んで周囲の状況を知らせてくれる。何処に監視カメラがあって何処に歩哨が立っているかなど。

 

3時方向90メートル先の3人組はなし崩しに3人で行動している絹旗、息を切らせた郭、申し訳なさそうなエステルの3人組だった。

護送車が吹き飛んで真っ先にやったのは車両を放棄して、自分の足で移動する事だった。絹旗は『窒素装甲(オフェンスアーマー)』を用いてロケットのようなスタートを行いその後ろをその辺のロードシェアサイクルを勝手に持ち出した郭と、その郭のシェアサイクルにこれまた勝手に同乗したエステルが追いかける。

 

「暗部のやり方なら、超知ってます。あれは陽動と足止めですね。本命はすでに例の『収容施設』目前か、進入直後。施設の内部構造の地図さえあれば陽動場所から今いる場所を何カ所か割り出せます。後は超しらみつぶしです」

「あーご同類か。あんた達を一番足止めしたかったんだけどぉ~来ちゃったんだぁ。対戦車地雷と自立飛行状態の爆撃ドローン程度じゃ役に立たないかー」

「何あれ、色きもい」

郭が2人組の体色変化に嫌悪感を示す中、絹旗は速攻で終わらせるつもりで突撃を開始する。

すなわち『窒素装甲(オフェンスアーマー)』の防御力を前面に集中させてロケットのように2人組に飛び込む。

旋回中のドローンがこっちを見てくる。なぜか、ドローンのカメラ越しに目と目が合った気がした。瞬間、見える風景がぶれた。気づけばパイプテントの天井に飛び込み、パイプが外れたり天幕が破れたりして自分を包み動くのが難しくなっていく。

そんな絹旗とは違い、暗器、この場合は忍武器となる扇子を手に郭が体色変化の女子高生に挑む。右ストレートからの扇子を広げての打ち払い。

かつては『鉄扇』と呼ばれたそれは最新のカーボンナノ素材を用いて軽量化としなやかさ、丈夫さにそして小さいながらも唐辛子スプレーの内蔵を実現している。

 

「服部様は雑草に学べと言いましたけど、やっぱ忍者っぽさって必要だと思います!」

叫びながらの突貫。だが、彼女の鉄扇もまた唐突に空振りする。VRゴーグル少女の蹴りがそのまま郭に入る。

 

(何があった。いや、視界が急におかしくなったんだ!)

郭は考える。VRゴーグル少女の追撃を転がりながらよけつつ、何が起きたのか。そして気づく。立てない。めまいがすると。

 

 

「こっちだよー貧乳ちゃん!」  「は?」

郭とVRゴーグル少女の格闘戦のする後ろで絹旗は、テントの布から必死に這い出ようとしていた。酒臭い女子高生のお酒のにおいを感じてすぐ後ろに殴りつけるが何も無い。

だが、見たとおり特別強力な武器を持っている訳ではなさそうだ。つまり攻撃されたところで『窒素装甲(オフェンスアーマー)』の自動防御を抜けるほどの攻撃力はおそらく無い。

 

(超見かけ倒しです。さっさとこの布から出てくればこいつらときたら超どうでも)

「ねえ、さっきから、鼻馬鹿になってない?」

アルコールの臭い。お酒の臭い。酒臭い。酒臭い女子高生。

 

「目が使えないから、音や臭いに頼ってない? ところでさぁ、弱い人はにおいで酔うって言うんだけど、あなたは大丈夫?」

後ろからお酒のにおいがした。思わず後ろにぶん殴るがまるで意味が無い。空振りするばかりだ。

チンと、金属の音がした。まるで百円の安いライターをつけたみたいな音が。

テントの布が燃える。勢いよく燃える。まるで油か何かに浸したかのように。

 

「何かしらの防御系の能力っぽいけど、持続ダメまで対処出来そう?」

「超やってやろうじゃないですか」

大道芸のように呼気に火をつけ、火を吐く女子高生と、燃える布に邪魔されながらも窒素装甲で耐える絹旗。だが、耐えるばかりでは無い。

窒素装甲(オフェンスアーマー)』は窒素を操るが故の防御性能だ。

窒素が無い環境では効果が無い。だから対策としてそれを持ち歩いている。それは何も知らないとヘアスプレー缶に見えた。

液体窒素が火を吹き飛ばす。その冷気が一瞬で燃焼反応、つまり火を消し止める。その一瞬でよかった。

窒素もまた補充された絹旗の右拳は間違いなく、酒臭い女子高生の顔面をとらえていて――だが、空振りに終わる。

ドローンが飛んでいた。

 

「危ないなぁ」

VRゴーグルの女の手助け。郭はクノイチをイメージさせたその服装がボロボロになっていながらも未だ鉄扇片手にたっていた。

 

「やっとわかりました」

見ているだけで何もしてこなかったエステル=ローゼンタール。本来は魔術師である彼女もこの町で暮らすうちにわかることの一つや二つはある。

 

「あなたの能力は『斜視の強制』。おそらく条件として、相手と目と目を合わせる事が必要となっている。違いますか? そして、この能力はカメラ越しでも効果がある」

「へぇ、何もしてこないなぁーって思ってたけど抜け目なく観察してたのねぇ。でももう無駄だよ。だって、あんたが何もしないなんて期待してないから」

民生用の小型ドローンがエステルの後方頭上に。VRゴーグルの女にとってドローンは自分の代わりの目であり、いざというときに攻撃手段。

カメラ越しでも効果があるが故に、目と目を合わせないと発動しない重度の斜視を5~6秒間ほど発症させるレベル3の『発症斜視(ストラボリティ・オーダー)』の能力攻撃の端末として最適。だが、だからこそドローンにも最低限の自衛能力を持たせている。そう、たとえば自爆機能。

 

 

 

轟音、爆音、炸裂音と呼ぶべき物が響き渡り、『収容施設』に警報が鳴り響く。

 

 

 

「斜視の強制ですか。超ゴミみたいな能力です。透明人間と斜視の組み合わせって、超クソみたいな組み合わせです」

「がっ、おまえぇえええ!」

「お酒の臭いは半分くらい超ブラフで、その大道芸みたいな攻撃とかそのための超布石ですか? まぁ、要するに動かなければ超良いんです」

パイプテントのパイプだった。それを360度に振り回す絹旗の姿があった。斜視の強制で立てなくなる症状だって経験した絹旗は立ち上がるのを最初でやめていた。そう、腰を地面に下ろした状態で振り回した。

パイプテントのパイプがあちこちバラバラに散らばっている。エステル頭上で自爆するはずだったドローンはバラバラに散らばるパイプのせいでココでは無い場所で爆発し、斜視を操るVRゴーグルの女は次のドローンをワイシャツのポケットから取り出す。常時飛んでいる2機と予備の1機。

ただし今は予備機を合わせて2機。

酒臭い馬鹿をパイプでぶっ飛ばし、郭、エステル、絹旗の相手が今すぐ出来るのはVRゴーグルの1人のみ!

 

「ッチ、撤退だな。こりゃ」  「逃がすと?」

「問題なく」

確かに斜視を操る異能で一度に3人の暗部を戦うほど彼女は強くない。彼女自身もそう思っている。けれど、

 

「所詮レベル3でしか無い能力一本で食っていこうと思うほど馬鹿じゃ無い」

ドローンの自衛機能は自爆以外にも用意されている。そして、VRゴーグルの女はドローンのカメラを通じて斜視をばらまく。効果は5~6秒で一度に1人。

斜視の強さは目と目を合わせるプロセスの長さ。強ければ強いほどたった5~6秒の効果で相手を完全に動けなくさせる事が出来る。

そして、そんな能力がばれてしまったとき、人はドローンを撃墜するか徹底的に無視しようとする。

だが、そのどちらも命取り。前回は確実性を狙って自爆させようとしたのがミスだった。今回は確実性より有効性をとるのだとVRゴーグル少女はドローンを制御する。

高周波音響による脳攻撃。意識を一瞬で刈り取るのだ。せいぜいもって十数秒程度の昏倒だが、それで十分とVRゴーグル少女の音響攻撃が炸裂する。

まず、郭が倒れた。エステルが膝から崩れ落ちる。が、絹旗が倒れない。

 

「は?」

意味がよくわからない。高周波だ。音響だ。耳をふさいでも骨に響かせれば脳みそに届く!! そういう波だ、波形だ、音響なんだよ!!

 

「スク水ゥ!」

すぐそばに酒臭い女子高生が寄ってくる。手にはスタングレネード

 

「仕切り直しだ!」

閃光と音響があたりを支配し、『迷彩体質(ダーク・オペレーション)』が2人組の姿を隠す。とにかくこの場を離脱しなければならない。

そうして2~3分ほど過ぎたであろうか。その分秒の分だけ距離をとったが、これではいつまた連中が追いついてくるかわかった物じゃ無い。

 

「パーカーとショタは何してんの!! あの2人が電子戦と陽動担当なのに、警報くらい切っとけよ!」

未だに鳴り響く警報。

 

「軽い電子戦だったら全員出来るのが『ジャーム』でしょ。あんたもやんなかったんだから文句言ってあげるな」

VRゴーグルの女はドローンを使って周囲の安全を確認しながら、あるいは確保しながら移動する。警備員を見つけ次第、斜視でたってるのも難しい状態にして軽くガスを吹き替える。ガスは2~3回しか使えないしあまり効果は無いが、おかげで頭痛やめまいを疑ってドローンの目撃情報を曖昧に出来る。

そうやって今までだってやって来たのだ。

 

『いえ、それには及びません。実際警報はブロックされてましたよ』

「あん?」

だから、アナウンスでそんな声が聞こえてきた時、2人組は一瞬の怪訝の表情。後にすぐさま周囲の警戒を最大に。

 

『だから、私がちゃんと戻しました。あと方法はよくわかりませんけど、カメラやセンサーを誤魔化すスキルがあるみたいですけど、なら複数のカメラやセンサーをうまい具合に並列に操作し情報を整理すれば良いんです。つまり、今のあなた方は筒抜けです。1台のカメラをおかしくしても他でカバーしてしまえば良い』

カメラ越しにこちらを見ている1人の少女。『風紀委員』の少女、名前を初春 飾利と言う。

 

『カメラ越しに発動する何かの能力をお持ちみたいですけど、それでも各種センサーの反応の数値までは誤魔化せません。私の目がおかしくなっても数値を頼りにすれば無問題です』

「言わせておけば……だったら警備員でも風紀委員でもさっさと突撃させてこい。おまえに何が出来る」

「ええ、ですからきましてよ」

声がした。その方向にはツインテールの中学生。それも『風紀委員』が。

 

「男の子は私が捕まえましたの。次はあなたたちですの」

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