6.
人間は巨大な炭素化合物である。いや、人間に限らず地球上のほぼすべての生命体が炭素化合物から成り立つ炭素系生物である。
兵器化された『
とはいえ、基本的に『
服の下には普通の台所用スポンジを加工した代物が肌に直接密着し粘菌塗れの状態にしてある。
こうすることで、『古細菌』を死滅させず、ある程度の低活動状態を維持している。このためだけに作られた粘菌は黙々と古細菌の生存を維持すると言う役割を果たすのみ。
いや、そもそも自分の皮膚の時点で科学的に加工された培地のような物だ。人が1人、少女の肉片のすべてが微生物の人型培地として整えられている。
白パーカー少女は、そういう元々は暗部の『製品』であった。典型的なレベル0の女が墜ちた先がよりにもよってそういう業界出会ったが故に能力方面やあるいは女としての機能を目当てにした方面では無く、『生体兵器』を研究したがる馬鹿みたいなマッドサイエンティスト達の都合の良い『培地』として価値を見いだされ、いつしかその機能を売りにした『人型生物兵器』の試作モデルになった。
一つだけ、幸運があるとしたら、少女に生物学的な科学的才能があったことだろう。おかげで少女は自分がどういう状態にあるのか完璧に理解してそのことに興奮と強い好奇心を覚えることが出来たと言う事だ。
故に彼女もまた、自らを実験台に突き進むことになる。
学園都市おなじみのイカレた研究者の1人となる道を。
昔、仲間達に語ったことがある。
「クリーン、、、エネルギーで、太陽光、とか……風とか、色々、あるけど……一番の、、、クリーンエネルギー……を人は見ようとしないよね」
「無口がしゃべったっ!?」 「失礼だろ」
「ショタの蔑みの視線良いわぁ……」 「「うっざ」」
相も変わらずどうでも良い事に熱中する仲間達。それでもたとえ一時の同僚に過ぎないとしても居心地が良い4人組の1人。
「どうして、、、人は…………人を、、、燃料にしないんだろ」
「「「サイコの発想こわっ……」」」
「人間は、、、たくさん、いる。……死体を、、分解して……色々な、材料に……すれば、エネルギー問題も少しくらい、、、解消する。生きた、人間を燃料用の牧場、、、にすれば、もっと確実。牧場という、、、言葉が問題なら……工場作業員で、、、自分の生活費、、、自分で稼ぐ……のと、、、変わらない……そういう労働に、、、そういう扱いで……給料と、、、休暇つきで燃料生産が入ってる……それでいいのに」
この惑星には下手すれば100億に届く勢いで繁殖する生物がいる。それも大型動物で、自らを家畜化する能力を持っている。
『人類』だ。そしてその文明生活を維持するために膨大な資源、特に燃料と呼ばれるエネルギーを消費しているが、自らが消費する資源量に対して資源を得る手段や資源量の総量が足りなくなる可能性に怯える事態に突入している。
だから、思うのだ。『人類は人類自身を資源にすれば資源問題の半分は自動的に解決するだろう』と。
別に人を殺す必要は無い。人間は様々なアミノ酸の塊であり、希少なレアメタルだって極微量に含んでいる。と言うかその原材料と言うべき化学物質を生成している。生き物というのはそういう物だ。自らが生きるために色々な物質を細胞レベルでは製造している。
そのプロセスに一枚関与する。それだけで、生きた人間がそのまま燃料生産工場となる。工場という規模では無くてもちりも積もれば山となる。
「でもさぁ、たとえば人を1人燃やすのにいくらかかってると思う? 学園都市のすげー焼却炉なら問題ないけどさぁ、火葬って地味に燃料を食うんだよね。おかげで、確かドイツだっけ? 地球に優しいクリーンな埋葬法です! ってどや顔して火葬を推進してたと思えば『燃料代がクリーンじゃ無い!』って
一瞬で手のひら返ししてたよね」
「。。。基本が、、、間違っている。生き物はメタンと、、、か、、、色々な……ガスを生成、、、だから、それを……自己生産、、、自己活用すれば……大丈夫、、、方法は確立されて……いる。大型動物、、、には色々な細菌……ウイルス、、、寄生虫……が必ず、、、いるから。。。それを使えば」
研究者としての少女は、今、昔の自分と先人達(と言っても自分を弄くり回したマッドどもだが)がかつて目指した領域にいる。
「ぁあ……」
警備員達は撤収した。ココはコンテナハウスとパイプテントを組み合わせて作り上げた即席の『収容施設』に過ぎない。
毒ガスに対応した設備はいくつかのコンテナハウスの空気清浄機能やエアフィルターだけだ。
だから、無人兵器に任せることにした。
重火器が勝手に爆発する? なら重火器を使わなければ良いのだと圧縮空気を用いる攻撃手段をメインとする無人兵器達に任せる事にした。
とはいえ、全員が全員うまいことその場で逃げ出せた訳では無い。
たとえば、1人の女性警備員が倒れている。足がまるで水をたっぷり吸い込んだスポンジのようにへなへなとなって水らしき物がたれている。
まだ、かろうじて意識があるようだが、地獄の苦しみを味わっている。
すでに喉が焼けたような状態であるため、小さなうめき声以上の音が出せない。
何故なら、硫化水素の汚染された水溶液を全身から吹き出す、生きる人型硫化水素製造器にされてしまったからだ。
時期に自らが生産する硫化水素濃度が致死量に到達するだろう。全身が硫化水素水溶液になるまで時間がかかるが、その前に完全に死に絶える事になる。
たとえば、1人の男性警備員だった物がそこに残っている。
言われなきゃ、それが男性警備員だったと気づかないだろう。何しろ、ただの煤、壁のシミになっているのだから。
生きながらにして、メタンガス精製機となり、自ら骨をも溶かす温度で燃えだした。一瞬の事だった。あまりにも素早く高温に達し青白く光る物だから
何も出来ずに数秒でただの煤になった。
たとえば、1人の現場作業員だった肉塊が地面に残されている。
リン酸カルシウムの塊である骨。人骨が化学反応によって、高熱を発揮し、骨で人肉バーベキューとなった。
それどころか、アンモニアの汚れた水溶液を垂らしている。生きた人型アンモニア製造器だ。と言ってもすでに生きてはいない。
アンモニアの汚れた水溶液と言うが、地味に普通のアンモニアでは無い。なぜならば極微量な水酸化カルシウムを生み出しているから。
「化け物め……」
もはや、1人の女の子に向けて使う言葉では無かった。
警備員達の目には四肢を持ち、人のように二足歩行で移動するだけの化け物に見えた。
もちろん異を唱える人々もいる。
「たとえ、殺人犯であっても、あきらめちゃダメじゃん! ちゃんと捕まえて裁きの場に送るじゃん! 大人が率先してあきらめたら終わりじゃん!」
けれどそれは多数派とは言いがたい。故にガスマスクをつけた一部勇士と無人兵器の混成部隊で取り押さえる事になった。
まずは無人兵器の圧縮空気砲を用いて、彼女の制圧を試みるのだ。
4足歩行、まるでシカに見える無人兵器がシカであれば口に当たる部分を少女に向ける。圧縮空気砲が放つ圧縮空気の砲弾の射程距離は100メートルが限度。
その代わり、至近距離であればあるほど人が簡単に数十メートル吹き飛ぶ。空気の砲弾に微量の神経ガスを混ぜれば制圧効果はもっと倍増。
「制圧を目的としていてもあんな物を子供達に向けるのはばかげてるじゃん!」
「だが、奴はすでに確認できるだけで4人を殺している。消化成功による殺人未遂も合わせれば十数人に達する。もはやただの虐殺者だ。殺傷による阻止を目的としていないだけ、こちらも子供に配慮してる」
モニター越しに写る少女が一歩前に出る。空気砲弾の発射が無人兵器達に指示された。
所詮は即席の施設だ。特別壁が分厚いわけでも無い。当然いくらかは吹き飛び、コンテナハウスを縦に2段重ねた程度の建物がいくつか崩れる。
コンテナハウスを縦に2段重ねた建物が無数に並び、パイプテントが廊下となっていくらかをつなぎ、時にはコンテナハウスそのものが廊下として使われる。
そうやって作られた即席の『収容施設』であるが故に、周囲を覆っているフェンスや土塁、学園都市がロシアで展開している要塞の類いの技術を使われた外壁や中央の監視塔以外はそういう『安い方法』で作られている。
逆に言えば中央の監視塔と外壁だけはちゃんと作られていると言う事。
「色々と壊れて崩れたが、少なくとも最重要部分が崩れた訳じゃ無い。むしろ奴は袋のネズミだ。絶対ここでなんとかするぞ」
だが、姿が見えない。各種センサー系統やカメラを総動員するが何処にも姿が見えない。
「馬鹿な、どこかに吹き飛ばされた? そんなはずは無い。細かな調整の計算式は間違えてないはずだ!」
「そんなことはどうでも良いじゃん! もしかしたら瓦礫の中に埋もれているかもしれないじゃん!」
黄泉川はいてもたってもいられる飛び出す。瓦礫の中に埋もれた可能性がある人々を助けるために。
そんな瓦礫の山の中で、1人の少女が全身の関節を外し、蛇のようにのたうち回っていた。頭さえ入れば後はどうにでもなる。
トレードマークの白いパーカーに汚れがつくのが嫌なのかそれだけは脱ぎ、服の下にスポンジと粘菌が這い回っている体の状態になってパーカーのフードだけかぶってパーカーを引っかけた状態で蛇行運動で移動を開始する。
そうやって隙間を移動し、時にコンテナハウスのダクトや大型水道管を通って部屋の中に侵入する。
「お、おまえいったいなっ!?」
コンテナハウスの住民が驚き慌てふためく。が、次の瞬間、彼女の手のひらから出てくる硫化水素の刺激臭で倒れ、気がつけば彼女では無く住民自身の体から発生する硫化水素やメタンガスに火がついて人が燃え始める。
スプリンクラーが作動し、水が降ってくるのを這い回ったせいで汚れた彼女はちょっとしたシャワーのように浴びながら関節を元に戻す。
水浸しの体と白パーカーをかぶり、コンテナハウスの扉を開けて、出てくる。後方には焼け焦げた1人の人間がスプリンクラーの激しい水の中に倒れているだけ。
誰かが急いで救助しないと焼け焦げた喉に水が入り込んで溺死してしまうだろう。
パイプテントでは無く、コンテナを廊下として使っている空間を進み、一つの扉を開くのだ。
「なっ!」
頭の花飾りがトレードマークの少女。そんな少女がいるのは『風紀委員』の詰め所。
「ターゲット、、、どこ?」 「あ、なた……」
後の世に、ハンドカフスと呼ばれる暗部掃討作戦が実行される。その際、暗部は2つのカテゴリーに分類された。
『嫌普性』と『好普性』。
どうしようも無いクソ外道が『嫌普性』。
まだ穏健で社会の必要悪の部分を担ってきた『好普性』。
白パーカー少女は、そんな『嫌普性』リストの上位層に後に載ることになる。
初春 飾利は、車椅子だ。ろくに動けない。故に、接触は命取り。その接触の瞬間が訪れていた。
「……あなたは怖くありません」 「、、、……??」
「あなたの能力、技術。正直ろくな事がわかりませんでした。でも、それが鬼畜の所行で得られた物であることは想像出来ます」
いったい何事かと思えば、意味の無い戯れ言。そう思い手のひらを向ける。
しかし、その直後スプリンクラーが作動し、大粒の水が流れる。また、それとは別に何かの機会の作動音。
見れば車椅子と花飾りの少女――初春――の右手はキーボードに。
「ところで、あなたの大好きな細菌さんは『超純水』でその表皮から流れたりしないですよね?」
「――!?」
やっと、白パーカー少女が本気で焦りを見せた。初春に対し、生きたまま焼き殺すと心に決め、初春に対して自らの唾液がしみこんだ小さな紙片を口から投げ飛ばす。
これが、仕掛け。その紙片が転がった箇所から徐々に汚染が広がり、古細菌を吸い込んで、体内である条件下で繁殖を開始する。
すなわち
「体温と胃液ですね。胃酸の好酸性の中を生きられる生き物はとても少ないです。そして、体温上昇に反応して爆発的に繁殖する。後は、音ですか? 特殊な音響。あなたが火をつけるとき、必ずあなたは音を立てていた。『
初春にもう命の先は無い。
白パーカーの柏手――――。
――――これで彼女は火だるまに……ならない
「各種センサーが教えてくれました。体温がちょっとだけ高い人から次々と火がついて行ってる。格闘家の警備員がなかなか火がつかなかったのは不思議でしたがすでに何人か焼いたせいで、着火用のメタンガスとかが足りなかったんじゃないですか?」
初春の能力はレベル1の『
「私の体温は今、一定です。純水シャワーの中、むしろあなたは冷えていく。大丈夫ですか? 自分に着火しません? ちゃんと制御出来ていますか?」
「初春ッ!!」
駆けつけてきたのはツインテールのテレポーター。
何人も焼き殺してきた化け物のトレードマーク、白パーカーに無数に突き刺さるダーツが彼女を壁に固定し動きを止める。決着はたったそれだけで十分だった。