『とある線上の世界大戦』   作:ホエール

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第3章 9.

   9.

 小学生くらいの男の子が目の前に立ちふさがったのを見て、黄泉川は純粋に悲しくなった。

『暗部』にはこんな子供までいる。平和な国である日本のさらに安全な場所であるはずの学園都市でこの子供は命を落とすかもしれない犯罪行為に手を染めている。

 

「仕事は今日で転職だ。でもだからこそ最後の始末くらい自分でつける」

「子供が仕事なんてしなくていいじゃん。そりゃ芸能人とか家の手伝いとか色々あるけれどそれでも君みたいに危ない事まではしなくていいじゃんよ」

「はっ、学園都市は学生の街、子供の町だからな!」

何かを心よりあざ笑う笑いを小学生くらいの男の子が見せたのを見て、黄泉川はさらに悲しくなる。

男の子は手の中に、小さく、使い古された瓶を持っていた。使い古されたとわかるのは瓶のラベルが明らかに古いからだ。何度も何度も洗って使われたガラス瓶。

ラベルにはMarmiteと記載されているその瓶を地面にたたきつける。中に詰められたと思われるジャムのような液体が飛び散るが、量は少ない。元々中身は少なかったのだ。

 

「ココの連中は恵まれてる。さすがは、学園都市、学生の街! 子供の町! 俺みたいに理由あって外部から来た人間からしたら暗部って言われてるような場所でも浅瀬でチャプチャプする分には命の危険なんて大した問題じゃねえよ」

「……なに?」

聞き逃せない言葉が、あった。

 

「が、だからこそ仕事の失敗は色々響くんだ。誰の目にも立派に足掻いたってならないと1ミリも取り戻せない。ましてや、今回は『風紀委員(ジャッチメント)』が参加している。000に抵触する事なくやるのは難しすぎたって事を立証してやる。『警備員(アンチスキル)』、ここでおまえらだけは皆殺しだ」

次の瞬間、少年の指先がほんのわずかに光り、銃撃されたかのように2人の警備員が倒れ伏す。

 

「何っ!?」

光りの正体は、石だった。瞬間的な超加速。それはプラズマ化して射出される。プラズマ化するほどの加速力だけでの石の射出。

『指弾』。指ではじいて石礫の類いで攻撃する武術の達人が行き着くその技。

だが、明らかに男の子程度の年齢の人間が極められるような物じゃない。

 

「おまえらにわかりやすく言ってやる。ドーピングだ。それで納得してろ、どうせ、ここで全員死ぬんだからなぁ!」

徒手格闘戦に訴えた男の子に対して、警備員は容赦なく引き金を引いた。飛び出すのはゴム弾。それもスマートゴム弾。距離や当たり所を自動で判定して場合によっては自己崩壊することで致命傷を避ける。それどころか、ゴム弾なのに着弾の衝撃で、皮膚吸収性の麻酔を与えてくる。

麻酔薬は専門知識と専用分量が必要だ。それ故に即効性は無いし、スマート弾丸事態が無線ネットワークで分量を学習し、着弾時の適切な衝撃を計算し危険域に達すれば麻酔が出ないようになる。そんなスマートゴム弾。

 

(だが、ドーピング? 薬の組み合わせでどんな副作用になるか、わかったもんじゃ無い。麻酔の使用を停止させなきゃダメか!?)

だが、その暇が無い。まるでモンスター映画のモンスターを相手にしているようだった。

小学生くらいの男の子が走る。それだけで舗装された地面が波を打ち、男の子が手にした石が一瞬のプラズマ光を放ち、拳銃弾の威力をたたき出す。

尤も学園都市のボディアーマーに身を包んでいる警備員にとって、拳銃程度は致命傷にならない。

それでも、当たり所が悪ければ死ぬ。そして、拳銃程度でも一瞬の行動不能になる。

 

「クソが!」

1人の眼鏡の警備員が、盾と拳銃を構えながら立ち向かっていく。男の子の姿をしたヒグマだと思ってヒグマ想定の訓練の動きをする。

盾で受けるのでは無く、攻撃の矛先をそらす。距離をとらなければ死ぬ。だが、距離をとろうと背中を向けると即死する。そう思え。

少年の右拳が盾にぶつかる。だが、盾は元から角度がついている。盾が吹き飛ぶ勢いで振り回される形だが、体ごと右回り、左手の拳銃がそのまま少年の顔面に向けられる。

 

ヒグマと人間の違いはなんだろう。人間はヒグマより弱い。

人間はヒグマより嗅覚も聴覚も優れていない

人間はヒグマより腕力は無い。銃弾にも耐えられない。

そんな人間がヒグマの身体能力と呼べるパワーを手に入れたらどうなる? こうなる。

 

頭突き。

 

向けられた銃口に対して行われ、拳銃は警備員の手の中で暴発。腕が吹き飛ぶ惨状の中、少年の右腕が再び警備員を投げ飛ばす。

拳銃を握っていた左手より大出血をしながらもさらに5~6メートルほど宙を舞い警備員の肉塊が落ちてくる。

割れた眼鏡が地面に落ちて、ひしゃげた盾が大きな音を鳴らして転がる。

だが、そちらに気をとられてはいけない。男の子の左手が一瞬の発光。

拳銃弾の威力と化した石が飛び出す。

 

盾を構える。銃はいらない。どうしてもと言うのなら、警棒で良い。一回だけ深呼吸をする。見据えるのは大暴れする小学生くらいの男の子。

死屍累々の状況で、黄泉川は改めて男の子の顔を見る。

必死の顔だった。どうしてそこまで。いや、どんなドーピングだろうと、これほどの物は間違いなくまともな物じゃ無い。おそらく肉体も高速でおかしくなっていく。それでもそれに手を染めて、必死の形相で暴れる。武術の動きでは無い。本能と呼ぶほど本能的な動きでも無い。

知性はまだある。でも肉体を酷使するこの状況で知性一辺倒でまともに動けるはずも無い。

頭脳派のスポーツエリート達だって、経験則を大事にする。男の子にその経験則が十分あるようにも見えない。

だから、盾を構える。銃はいらない。どうしてもと言うなら、警棒で良い。

 

「何があったか知らないけど、それでもあんたを止めてみせるじゃん。子供がそんな顔しなくて良いんだ」

 

 

 

硫化水素とメタンガスに引火して、人魂のような光りが空中に無数に走る。

軽自動車の屋根に1人の少女がたっていた。それを追いかけるのは、警備員達の軍用装甲車。

時速は40キロ程度。ノロノロ運転と呼ぶには危険なスピードが出て、速いと呼ぶには遅い、そんな速度で走る軽自動車の屋根の上にブラとショーツ、つまり白いパンツが全然隠されていない下着姿にぶかぶかの白いパーカーを身につけただけの少女が立つ。

 

「待てっ!」

アビニョンでも使用した『駆動鎧』に身を包んだ三宅が持つグレネードランチャーは例のスマート砲弾が使用されている。

とはいえ、グレネードランチャーレベルの代物をココで使えば少女が大地に叩き付けられる。いくら最新型と行っても大きさと打ち出す威力まで完全に消せない。

故に、回転して空気砲弾に切り替える。だが、これも少女をたたき落とす威力は十分だ。それを軽自動車の方に向ける。ブレーキを踏ませる。少女が慣性に従って振り落とされる可能性があるが、そっちの方が、まだ『警備員(アンチスキル)』にとっては対処出来る。落ちる場所さえ、事前にわかっていればどうとでもなる!

 

「、、、もえ……って!」

そして、少女もまたわかりきったそういう攻撃を受けるつもりは無い。足踏みの音で運転している下部組織のヤンキーに行き先を指示する。

とはいえ、移動中の状態では無誘導の火の玉攻撃くらいしか繰り出せない。

怯えるヤンキーが屋根から聞こえる音を頼りにハンドルを操り、火の玉攻撃で牽制。

 

((硬直化――!))

奇しくも、少女と三宅の内心が一致した。

 

 

 

「ふんふーん♪」

バイクを走らせ、どこかで聞いたアイドルソングの鼻歌を流しながら次のフォトスポットを探すのはベニゾエ=ゼリーフィッシュ

真面目な風紀委員の少女はかわいそうな被害者を病院に連れて行く道を選び、自分は悠々自適に次の行動へと

 

『今です!』

警備員(アンチスキル)が使用する駆動鎧が無人の状態で空から降ってきて、気づいたらバイクのエンジンにダーツが刺さっている。

 

「おわぁぁあああああッ!!」

バイクから転げ落ちながらも致命傷を避け、ついでにカメラが壊れないように抱え込む。

そして、顔を上げて、駆動鎧の肩に乗るツインテールの少女と目があった。

 

「乱暴でしたわね。ごめんなさい。でも、これでこちらの本気度も伝わりましたかしら。ジャッチメントです。おとなしく投降なさい」

「な、な、なんで!?」

『病院にはもう届けました。この駆動鎧、警備員(アンチスキル)の試作モデルで高速移動出来るように跳躍力が超強化されてるモデルなんですよ。なのであなたの今の居場所をカメラや衛星で探知し、全力で追いかけました。もう逃がしません』

「ふざけんな、ナンバー000の瞬間をとりたくてかき回したのに、こっちが000の処刑対象になるのは話がちげぇんだよ!」

 

 

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