『とある線上の世界大戦』   作:ホエール

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第3章 10.

   10.

 砲弾のような一撃。けれど――

 

「――それは、直線的過ぎるじゃん!」

盾でいなす。角度をつけて、人体関節の何処に力を入れればどう曲がるのか、武術と解剖学の知識と肉体経験値を生かして。

人間はヒグマじゃない。ヒグマのパワーを手に入れたところで、四肢は熊とは違う。

 

「!!――――」

男の子の首に回された黄泉川の右手は、そのまま男の子の背筋を押し出すように、そっと添えられ、たったそれだけの事に、重心移動を阻害される。

男の子の体が、自分のパワーと自重の重心制御が出来ずにそのまま前に倒れ込む。

そのまま、男の子の首筋に盾を添える。盾の重さがそのまま首の重さとなる。盾の重さがそのまま首の動きを封じる物となる。首を封じればそのまま肩の動きを阻害する。

 

「だったら、これなら!」

それは足だった。バタ足。だが、そんなかわいい物では無い。一撃一撃がアスファルトの道路を粉砕するのに十分な威力!

地面が揺れる。小さな地震と呼ぶべきか。アスファルトの残骸が飛び散り、黄泉川の顔までおそってくる。

 

「ぐっ!」  

盾が、揺れる。首に掛かる重さが、弱くなる。そのまま押し切られる!

男の子が黄泉川の足をつかんだ。

 

「はなせぇえええ!」  「あばれるなじゃん!」

首に掛かる盾。注意して扱わないと窒息させてしまう! かといって盾で隠された黄泉川の足首をつかんだように場当たり次第に暴れ回っている状況だと最悪の事態になりかねない!

 

(ここは――)

一度盾を首から話す。解放の瞬間を待ち望んでいた男の子は大慌てで起き上がろうとして、気づけば宙を舞っている。

待ち望んでいたからこそ、体は力み、バネのようにそれて、その力を利用された。柔よく剛を制す。

黄泉川がつかんだ男の子の服。顔面から落とすのはダメだ。命は助かっても障害になりかねない。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――っ!」

だから、思いっきり吹っ飛ばした。

ノーバウンドで、男の子の体は大地に落ちてそのままごろごろと勢いよく転がっていく。

そして、他の警備員達が追撃に例のスマート銃弾を撃ち込んでいく。

 

「や、やめろ! そんなもの撃つなじゃん!」

そして、そんな戦いの現場に1台の軽自動車がスピンしながら乱入してきた。

黄泉川は思わず男の子を守るために走り出す。自分が投げた子供を守るために体が動く。

軍用装甲車が後に続いて入ってきて、駆動鎧の一団が大慌てで続く。

男の子が軽自動車にひかれそうだ。スピンをしている車は完全に制御を失っている。乗っているヤンキーとそのヤンキーと抱き合うように手錠をはめた女の子が絶叫している。

 

腐食。分解。目標は、タイヤのゴム。硫黄、炭化水素に油。

 

ホイールはむき出しとなり、ゴムはどろどろの状態に溶けて、それが摩擦や吸着力となりスピンする軽自動車を止める。

だが、火がついた。

 

「「うわぁああああああぁぁぁあああああああ――――っ!」」

運転手のヤンキーと手錠をはめられた少女――とらわれのヒロイン枠をやってる馬鹿――がギャアギャア騒ぎ立てる中、軽自動車の屋根にしがみついていた白パーカー少女は裸足で屋根から降りる。

燃えさかる車から離れながらもその燃える車から次々と火の玉が飛び手していく。硫化水素とメタンガスの見えない導火線を伝わるように火の玉が次々と飛び出していく。

 

「、、、……、、、」  「おまえ、なんで!!」

「。、、……な、り、ゆき、、、でも、もう、色々と限界……みたい」

車が完全に火だるまになる前に逃げだそうとするヤンキーと手錠少女――磐のこと――を見ながら、『ジャーム』最後の2人は悟った。

任務は……仕事は完全に失敗だ。挽回は不可能。もはややるべき事は脱出の一点のみ。

軍用装甲車が、駆動鎧が、ジャッチメントの腕章をつけた多種多様な学生服の面々が、次々と集まってくるこの状況下を、脱出しなければならない。

 

「もう決着はついたじゃん。もう良いじゃん」

ボロボロの子供の前で彼をかばうように盾を構え、まるで子供を信用しているかのように背中を向けた黄泉川。

 

「投降せよ!」

グレネードランチャーを構えた駆動鎧の三宅。

 

「「ひー誰か助けてぇぇええ!」」

消化器を持った風紀委員達に囲まれながら、燃えさかる車の中で泣きわめくヤンキーと手錠少女。燃えさかると言うが、まだ普通にドアを開けて逃げられる程度の火だ。

そして、そんな集団より200メートル以上離れたビルの屋上から様子をうかがう絹旗がいつでも援護攻撃が出来るようにでかい木箱を持ち上げて、いつでも投げられるように。

さらにそこから1キロほど離れたところで、対物ライフルとカメラの馬鹿女を捕まえようとテレポーターと遠隔操作駆動鎧のハッカーコンビがドンパチしている。

包囲網を突破して、テレポーターの方向には絶対に行かないようにして、任務失敗につけ込んだ暗部のクズどもをどうにかして、それでそれでそれで……。

 

「決着がついたって思うなら、力尽くで止めてみろぉぉぉおおおお!」

ポケットから再びMarmiteと言うラベルのついた使い古した小瓶を取り出す男の子。

鉄くさい臭いの中身のジャムのようなそれを舐め、拳にもつける。

さらなる、ドーピングか! とそれを知ってる警備員達の警戒が上昇する。

 

「『即席原典もどき(I.I.テキスト)』悪縁は断ち切られるものー!」

車の中から引き釣り出されるように、助け出された少女が折り鶴を投げた。

その動作に変な物を見るような目をしている風紀委員達。けれどその折り鶴が突如バラバラの紙吹雪になって、男の子が血を吐き出した。

 

「なっ」  「イギリスの調剤僧(アポセカリー)かな? 17世紀のフランシスコ修道会がやってたって言うね」

調剤僧と呼ばれる人々がいる。主に修道士と呼ばれる宗教的な修行に明け暮れる十字教文化圏の存在だ。

その中でも特に医療行為、正確には薬師として活躍した人々が調剤僧(アポセカリー)だ。ただし、彼らは魔術的な力も取り扱っていた。

特に17世紀フランシスコ修道会の調剤僧(アポセカリー)の行っていた『血のジャム』は代表的な物だ。

死んだばかりの人の遺体から血液を採りだし、乾燥させゼリー状に固まるのを持つ。その後スライス状の薄切りにして、火にかけながらかき混ぜ、とろとろになったらさらに乾燥させる。完全に感お酢したら青銅製の乳鉢に入れてすりつぶし、目の細かいシルクのふるいを通す。

できあがった物を瓶に入れて、密封して保存、春先になったら保存していた粉末を適量の濁りの無い水を加える。こうしてできあがるのが血のジャムだ。

材料に使った人の性格次第では効能も微妙に変わるとされ、魔術的な薬効が存在する魔法薬。

 

「滋養強壮に良いとか言うけどー、あんたのそれはその枠を超えているー。もう医薬品と言うより完全な毒液。魔術による毒液。悪縁にもほどがあるー。と言うか、そこまでヤバイ増強って絶対自分の肉体壊しながらやってるでしょう。まぁ、回復の効能もつけてプラマイゼロを目指しているんだろうけど、ちゃんとプラマイゼロに出来てるのそれ?」

「クソが、雑魚が人の技術に難癖つけるな! こっちは目的があってここに来たんだ!」

1人の女の子のいた。その女の子と仲の良い男の子がいた。ある日、男の子は家庭の事情で外国に行くことになった。

また、いつか会おうと約束して、手紙やメールのやりとりを続けていて……でもあるときから返事が来なくなった。彼女が『置き去り(チャイルドエラー)』になったのを知ったのは1年以上過ぎてからだ。男の子が日本より治安が悪い海外でそれもクソみたいな魔術がらみの事件で孤児になったのもちょうどその頃だ……。

 

(だから、ここで――)

――折れれば、終わり。あの子との約束は果たせない。必ずまた、再開するんだと

 

「、、、!!」  「うぉぉおおおおおおおおおおおおおお――――!」

血反吐吐きながら、男の子が突撃する。

 

「もう、やめろじゃん!」

黄泉皮の悲鳴のような悲嘆に暮れる声。

 

ところで、火の玉の攻撃に使われていたメタンガスや硫化水素の発生源は何処だろう?

 

白パーカー少女が手を向ける。1人の警備員が燃え出す。人体発火現象。だが、すでに対策済みだ。

燃え始めた警備員の腰にくくられていたカラーボールにもにた消化剤の塊が熱で固定具が壊れ、落下する。

燃え始めた警備員の足下に落ちた消化剤のボールは落下の衝撃で解放。一気に泡消化剤が広がり、火が致命傷を負わせる前に消し止める。

それに慌てたように、少女が新たな火の玉攻撃を繰り出す。

彼女の顔はフードで隠されているが、半分、溶けてるようにも見えた。

駆動鎧達がグレネードランチャーの空気砲弾を次々と撃ち込む。火の玉は空気砲弾にはじかれ、屋外で種のバレた生物由来のガスを使う少女の出来ることは封じられる。

 

「、、、ぜ、、ぶ……食らいつくして! 私を全部変換して!!」

「馬鹿野郎!」

彼女が何をしようしたのか気づいた警備員達が駆け寄る。風紀委員にも走り出すのがいる。だがそれよりも速く、絹旗が投げた木箱の方が速かった。

バラバラに壊れる木片が散らばりながら、その木片一つ一つが少女と男の子に襲いかかる。中には火がついた物もあった。

服に火が燃え移り、木片衝突の衝撃に倒れながら、それでも2人組が無理して立ち上がり、男の子には黄泉川の盾が、少女にはセミロングヘアに眼鏡の風紀委員の右手平手がそれぞれいい音を立てて、炸裂した。

セミロングヘアに眼鏡の風紀委員には全部見えていた。能力が透視系だったから自分の体を溶かしながら戦う少女の姿が全部。もう固法 美偉(このり みい)には見ていられなかった。

 

そして、2人とも力尽きた。

 

男の子も白パーカーもついに倒れ込み、意識はもう無い。

 

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