11.
「帝政薬学?」 「今回の黒幕の名前だ。速攻で片をつけるって決まったから、こうして総出でそのまま向かっている訳だ」
「へー」 「へーじゃない。人手が足りないからおまえを連れ歩くことになったんだ!」
何しろ、収容施設はあのざまだ。摘発の人間達に紛れていた方が安全。そういうわけで磐も三宅についてくことになってしまった。
「はー? 暗部抗争編のど真ん中にー?」 「?」
「いやじゃ、おろせ、おろしてくれぇええー」 「暴れんな馬鹿!」
暗部組織『ジャーム』の大暴れの直後に、彼らを雇った黒幕を突き止めた警備員と風紀委員の連合は今のままでは逃げられるとしてすぐさま摘発に突入する事を選んだ。
製薬企業の『帝政薬学』が今回の黒幕だとわかったのはジャームの4人組が持っていた端末の暗号化を解除出来たからだ。
高度な暗号にされていたし、なんなら時間が来たら物理的に端末が爆発するようにされていたが、その時間までに確保出来たのと暗号化を破れるスペシャリストがいたのでなんとかなった。
なお、そのスペシャリストは暗号化の解錠をすることで勝手に警備員の駆動鎧を借りパクした事を許された。
「帝政薬学は、アビニョンの捕虜はもちろん、色々と違法な人体実験を行い、そのために目をつけた人間達を次々と拉致していた。……クソみたいな話だが、『
学園都市は学生の街だ。だから、学生は守られている。少なくとも暗部に落ちない限りは……。
ファンから面白半分に学園都市は治安が悪いと言うが、実際は治安が良い町なのだ。
少なくとも世界全体と相対的に評価すると、とても治安が良い町と言う事になる。そんな町に巣くった学生だろうが教師だろうが、外部の人間だろうが実験材料をかき集める闇の研究所。
「……なんでそんなのが私の身柄を?」 「知らない。何かしらの実験個体として目をつけられたとしか考えられない」
「能力開発を受けてないことがキーなら別に私じゃなくてもいいし……魔術がらみ?」
「外部の能力開発じゃん?」 「そいつの言葉を信用するなら、地味に学園都市より歴史が長いようですよ。まぁ、迷信の要素が強いようですが」
「よくわかんないじゃん。けど、大昔だと宗教施設がそのまま科学研究施設も兼ねてたからそういう流れじゃんか?」
黄泉川にとって、学園都市を超える科学研究というのは思いつかないが、異能分野に関して、何かしらの形で優位を持つ組織が外部にある可能性というのはまぁ、なくはないだろうな程度の話として受け止められた。すなわち魔術とは、外部の能力開発研究のコードネームであり、ひょっとしたら宗教的な奇跡の正体は魔術と称する能力開発の産物であったのかもしれないと。
「アビニョンの捕虜、魔術、能力開発。もしかして、能力者の魔術行使の実験? やばー」
「何がやばいんだ?」
「んー私が何故知ってるんだって問い詰められるかもしれないけど、今は流してほしいかな。その昔学園都市とイギリスが協力して能力者と魔術の同時行使を試してみたんだ。答えは大失敗にして大惨事。直流電流モーターに交流電流を無理やり流し込むみたいな感じで次々と被験者が生死をさまようことになっちゃった。
学園都市の能力者と魔術師はフォーマットが全く違うんだ。だから、悲惨なことになる。回路が違うってよく表現される。もちろん程度によっては能力者が魔術を使うことは出来るけど、体中から血を流しながら使うような感じになっちゃうよー」
「……なんだって?」
思わず聞き返されるが、少女――磐――の知ってることはさほど多くない。ただ、能力者が魔術を行使したら悲惨なことになるといこと。
その悲劇をまた繰り返しているのかもしれないという推測だけが、全体で共有されていく。
「魔術……学園都市方式とはフォーマットが違う能力開発……白井さん知ってました?」
「眉唾ですわ。ただ、ローマやロシアあたりが何かをやってて、こうして学園都市の上層部と喧嘩しているところから見て、まぁ、ある程度は成功例があるのかもしれませんわね」
駆動鎧借パク犯の花飾りに反省中という張り紙が張られているが、それはそれとしてモバイルPCの前で例の端末の解析を現在進行形で続けているところでは風紀委員の面々が集まり、例のパパラッチの漏らした爆弾情報を前に議論が重ねられている。
「ナンバー000……風紀委員の死亡確認を意味する警備員の無線隠語。これ自体は聞いたことあるわ。でもまさかそれに別の意味もあったなんて聞いたことが無いんだけど」
「そうはいっても私たち、『暗部』の存在なんて仮にも風紀委員でありながら半分くらい都市伝説か何かだと思ってましたよ」
「裏社会的なものや非合法の研究者が存在するのは知っていたわ。でもまさか『暗部』って言われるほどに大きく深いものだなんて私たちは教えられてないしむしろ遠ざけられていた。……正直私たちより例のパパラッチの方がよっぽど学園都市の闇の部分に詳しいとみていいでしょうね。そんなパパラッチが漏らしたナンバー000の別の意味……」
「風紀委員の中に、その辺の事情を全部知っている特別な精鋭部隊がいる。風紀委員の死亡事件に関与したすべて、一般人まで全部まとめて皆殺しで解決する処刑部隊だなんて……」
彼女たちは一つの決意をする。すべてが終わったら、知らなければならないことがたくさんあると。隠されているものを。自分たちの所属組織の闇も含めてすべてを見る覚悟を決めなければいけないと。
のちの世に実施されるハンドカフスには、原作でも風紀委員が参加していた。
けどその規模が原作以上に拡大するきっかけが自分にあると、とある事情から原作改変を恐れる1人の少女はまだ知らない。
『帝政薬学』の本社兼製薬工場を兼ねた建物の前に軍用装甲車が次々と停車していく。
正門、裏門そして万が一に備えて周辺のマンホールが次々と開かれ、その中に探査用のドローンが投入されていく。
周辺を封鎖し、物々しい彼らは一斉に敷地内に突入していく。
「な、なんなんですか!?」
何も知らない受付を制圧し、本社ビル1階を制圧。2回以降と工場を制圧しようと突入しようとして、衝撃波が警備員の身柄を次々と吹き飛ばした。
『 ここは帝政薬学の敷地です。不法侵入は厳罰に処されます。工場見学の方は受付で許可と案内を受けてください』
それは、サソリの姿をしていた。ただし横幅全長約6メートルもある機械のサソリは明らかにまともな存在ではない。
その機体には名前らしきものが描かれている。
『プロテアーゼ Mk.1』と。
『 もう一度警告します。ここは帝政薬学の敷地です。不法侵入は厳罰に処されます。工場見学の方は受付で許可と案内を受けてください』
「警備ロボットの類か? こちらは警備員だ。貴社に対し強制捜査を行う。武装を解除しおとなしくこちらの指示に従え」
『 ここは帝政薬学の敷地です。警告はしました。実力を持って不法侵入犯の皆様を排除します』
「どこのバカメーカーが作ったロボットだこいつは」
警備員たちが重火器を構え、風紀委員たちが、能力で支援攻撃できないか伺う状況下で、サソリ型の警備ロボット『プロテアーゼ』が動き出す。
本物のサソリであれば顔があるあたりが、パカッと観音開きで何かが開いた。そしてその中にあるものを見て、あるものは吐き気を催し、あるものは怒りに燃え、またある者はここが非合法な研究所であることを確信する。
それは赤ん坊らしかった。らしいというのは全身の皮膚がなく、肉や骨がむき出しだからだ。おまけに1人ではなく明らかに複数個体の赤ん坊らしきものが奇妙な溶液につけられた状態で十数本という管に繋がれている。
そして、赤ん坊の目玉らしきものが一斉にこちらを見る。目線がこちらを見ている。
バカなメーカー製品ではない。帝政薬学の自社建造した、無人兵器(これを無人と呼んでいいかは不明だ)の一つ、それが『プロテアーゼ』である。
「嫌な予感がするじゃん。子供達を後ろに下げて」
駆動鎧の一団が前に出て万が一の時の壁になろうと――――次の瞬間、プロテアーゼより高圧放水が始まった。
ドラム缶のような頭部形状を持つ駆動鎧にとっては大した事無いが、人間には立っていられない威力だ。
だが、それだけなら、どうとでも無視出来る。
「な、なんだこれ、ひ、皮膚が、むける……いや、溶けてるゥうッ!?」
警備員の1人が叫ぶ。高圧放水。いや、これは水じゃ無い。何かの化学溶液。
「供給源をたて! 放水がいつまで続くはずが無い!」
次々と駆動鎧のグレネードランチャーが炸裂するが、そもそも取水用のホースの類いは何処にも見えない。そんな物無く、高圧放水は続く。
まるでそういう能力であるかのように。
「最悪な事をしてくれる……!」