12.
悪趣味な警備ロボット、『プロテアーゼ Mk.1』。その中に搭載されている赤ん坊らしき肉塊の目玉がこちらを覗き見る。
彼らに意識があるのか、意思があるのか。赤ん坊らしきそれらをどうやって調達したのか。何故調達したのか。
なんにせよ、警備ロボットの武器はそのハサミらしき物と、サソリの尻尾より出される高圧放水だ。
「遠距離攻撃手段は高圧放水だけ。受ければ吹き飛ぶが、それだけ。ただし、この放水、水じゃ無い。何かの化学溶液で、遠慮無く人間をいや、生き物の類いを溶かしに来る」
建物のコンクリートや鉄筋等は全く溶けようとしないのだ。なのに、それに素手で触ってしまった人間は指先がぐちゃぐちゃと奇妙な音を立てている。
力を入れて指先を触ると爪がはがれてきたくらいだ。
とはいえ、強酸性やアルカリ性と言った類いでは無い。毒性の強いガスなどが発生するような物でも無い。
「たぶん、『タンパク質分解酵素』。正確にはそれによく似た何かを生み出す能力。……分解するタンパク質を自由試合に選べるなら医学の発展にとんでもない貢献になる。兵器化されてこのざまだけどな」
タンパク質はほぼすべての地球生物を構築している物質だ。それが分解されれば、生き物を溶かす現象そのものとなる。
人間の胃酸などにも含まれていて、肉類を分解するなどして、消化している。
「胸くそ悪いですの。あの赤ちゃんどうにか助けてあげられないのかしら」
警備員達は落ち着いている。風紀委員もそんな風紀委員の壁に守れて、不満げな表情をしている人々も何人かいるか、納得はしているようだ。
「やれ」
所詮初見のインパクト頼みと、仮にも科学の町の治安維持機構は判断した。結果が対戦車ミサイルの集中砲撃。
屋内であれば状況は違ったかも知れない。供給用のホースもなく、高圧放水、それも人間を溶かすそれをばらまくと言うコンセプトは脅威的だ。
けれどここは屋内では無い。火力の制限も無い。
悪趣味な警備ロボットに向けられた対戦車ミサイルは脚、腕、尻尾を吹き飛ばし、胴体だけを転がす。無人兵器達が胴体に納められた赤ん坊らしき物が入ったカプセルを回収しようと集まる中、警備員や風紀委員達は工場内部になだれ込んで、
「「「は?」」」
絶句。困惑。憮然。唖然。呆然。
プロテアーゼの同型機と思われる物がバラバラに転がっているのは良い。
この際だ、拉致被害者と思わしき人間達が奇妙な水槽の中に浮かんでいるのも幸い生きているようだからまだ許せる。かろうじてだが、まだ許せる。
だが、白衣と思わしき布きれが全部真っ黒に染まり、そこら中に散らばっていたり、人間の手や脚だと思われる何かが転がっていたり、机か椅子の類いが人間らしき何かをプラスして、赤黒い大きな液体を地面にばらまいていたり、白いクリーンルーム用の作業服の人間や白衣の人間達の無残な惨殺死体がそこら中に散らかっている。
まるで、赤ん坊が面白半分に紙箱からティッシュペーパーをばらまいたかのように、血と肉と布きれがそこら中に。
「何これ……」
機械の類いは動き続けている。何事も無かったかのように。どれだけ真っ赤に汚れていようと、どれだけ肉の脂でモニターが見えづらくなっていても。
「なんで、誰が……!?」
風気委員の面々はあまりの惨状に顔を真っ青にして、慌てて警備員達が彼ら彼女たちを撤収させようとしている。
「いったい何があったじゃん……?」
そう黄泉川がつぶやいた直後だった。足音が響いた。警備員や風紀委員の足音では無い。何故ならこの風景に絶句し、動ける者だってまだ工場の奥へと進んではいない。
足音の音源は工場の奥からだった。
断続的に鳴り響く。ローファーの革靴が硬い地面とぶつかる音。
ブレザー姿の女子高生であった。何故かボロボロのランドセルを背負っているブレザー姿の女子高生がやってきた。
「き、君! だ、大丈夫なのか……!?」
声をかける警備員も迷っている。この異常な環境で現れたこの少女はいったい何か。本来であれば今すぐにでも保護しなければいけないのに。
彼女の着込んでいるブレザーは白を基調としているのに、一切汚れが無い。これほどに人肉スプラッター映画の世界が広がっているこの状況で。
「……無関係の治安維持機構を皆殺しにする趣味は無いんだけど?」
警備員の言葉の返答は、もはや拒絶とも分類できなかった。
「あー無関係の警備員、風紀委員は3分間、時間をあげるから、今すぐ出て行ってくれない? それとマジで無関係で巻き込まれたかわいそうな一般人かも知れないけど、逃げるために変装した魔術師や研究者かも知れないから、そういうのはごめんだけど死んでね。時間をあげるのは無関係の治安維持機構、つまり、警備員と風紀委員だけだから」
「君はいったい何者だ!」
「科学サイドと魔術サイドのラインを定めた『協定』。それを守らせるための科学サイドにおける最終解決策。要するに、処刑しに来たんだよ。科学サイドが魔術サイドの領分を侵しすぎた。魔術サイドが科学サイドの領分を侵しすぎた。だから、学園都市統括理事会の直属の私たちが全部終わらせに来た。自己紹介なんてそれだけで十分でしょう」