2.
ランドセルを背負った女子高校生というある意味事案と言うべき風景。だが、そのランドセルが使い込まれたボロボロのランドセルであるが故に事案では無くまた別の何かを見ている気分にさせてくる。
だが、汚れの一切無い純白に輝くようにも見える白いブレザー式の学生服、この赤黒い血と肉と脂まみれの風景の中で一切の汚れの無い学生服。
「明らかに『異常』だよね」
「おっと、魔術師発見。統括理事会が呼んだわけじゃ無いのは確認済みなのよ、あんたは抹消リスト筆頭の1人なのよ、えーと……とやまだっけ?」
「富上だよ! 『
――有無を言わさず、磐は魔術を行使しようとして唐突に飛んできたコンクリートブロックの破片に吹き飛ばされた。
「なっ!」 「その娘は大丈夫か!?」
警備員達が盾を構え、吹き飛ばされた女の子を助けようと動く一団と目の前のランドセル女子高生を制圧するために動く一団に分かれる。
「だからさ、無関係の治安維持機構を虐殺する趣味は無いなのよ。だって、治安が悪くなるなのよ」
次の瞬間、床がせり上がり、そして床が割れる。割れた床のコンクリートが無数の破片となって下から上へまるで滝を天地逆さまにしたように一気に天井へ。
巻き込まれた警備員の中には失神しそのまま壊れた床に倒れ込む者達が何人も。
「いったい何だ!? 念動力!?」
椅子が転がってきた。キャスター付きの事務椅子がちょっとした車のような速度で警備員達に突撃してくる。
だが、それらに銃口を向ける人間達が数人。例の非殺傷を目的としたスマート銃弾を撃ち込む。これは人間では無いから、数発当てる必要はあるが、それでも銃弾は銃弾だ。椅子の背もたれを破壊し、キャスターが折れる。けれど減速しない、倒れても動き続ける。
「なぁぁああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 「相川!! くそっ、あいつ何処まで連れて行かれるんだ!」
「さぁ? 別に何でも出来るわけじゃ無いなのよ。つまり、知らない。助けに行ったら? 追いかけないなのよ」
ボロボロのランドセルを背負った白いブレザーの女子高生と言う出で立ちの彼女は、警備員や風紀委員に対して興味のかけらも持っていないようだった。
ただし、コンクリの残骸から起き上がる、磐に向ける視線だけは全くの別物。明らかな殺意と呼ぶにふさわしい
「一体、なんでこんな事をしているじゃん? そんな危険で危なくて、違法な仕事をしている理由は一体なんじゃん?」
「は? こっちはルールを守らせる『正義』の仕事なのよ。文句は警告されても『協定』を無視するクソ研究者、クソ能力者、クソ魔術師のカスどもに言ってなのよ」
「……よくわからないじゃん。『正義』って言ってるから余計にわからないじゃん。どうして君はこういうことをしなきゃいけない。自分がやらなきゃいけないって考えているのか全く語らないじゃん。『正義』って言葉じゃなくて、君自身の動機を教えてほしいんよ」
黄泉川はランドセル女子高生の目を見て何故と問いただすが、返答は「だから『正義』をやってる」という言葉のみ。
無数の銃口を向けられてもランドセル女子高生は一切それを気にしていない様子で、ただ、そこにある事務机に腰掛ける。
そして、事務机に束となっておかれていた書類がナイフのように飛んできた。
「円陣防御!」 「盾の隙間を可能な限り作るな!」
盾と短機関銃を構えた集団が丸く円陣を組み、飛んできた書類攻撃から身を守り、次に飛んできたボールペンから身を守る。
「念動力にしては芸が無いじゃ無いか。それにさっきの床攻撃も無い。念動力じゃないな……」
「さすが警備員なのよ。すぐに気づくか」
次の瞬間であった、ランドセル女子高生のすぐ後方に白井黒子が現れる。手にしているのは彼女を拘束するために使う予定のダーツと手錠。
(((これで――))) (――終わりですわ!)
警備員と風紀委員、それぞれの思惑が一つに重なって
「そういえばテレポーターがいたなのよ。希少価値が高いから殺したら怒られるなーぁー」
黒子の視界が一瞬飛んだ。
(n、に、が?)
黒子は何故自分が床に倒れているのか、まるでよくわからなかった。
黒子が唐突に天井に叩き付けられた風景を見た警備員や風紀委員は一瞬、何が起きているのか考え込んでしまう。けれど答えは単純。
地面の割れ目がすべてを答えていた。唐突に床のコンクリの破片が黒子を突き上げた。
「さすがにこの人数をなるべく殺さないようにするのは、ちょっときついなのよ。いい加減こっち手伝ってなのよ」
ランドセル女子高生のその台詞に警備員と風紀委員は警戒度を跳ね上げる。つまり、仲間がいる。この惨状を引き起こしているこいつに仲間が。
「おやおや、自分に任せなさいと豪語したのに」
白衣に眼鏡、若い男性研究者のイメージ絵を書けと言われたらだいたいこんな感じになるんじゃ無いかと言う男。
だが、こいつも至る所に返り血が飛び散ってる場所にいながら、全く汚れていない。
「いや、可能な限り殺すなって制約が無ければ今頃とっくに終わってるなのよ。ターゲットはそこのトナカイなんとかでしょ」
「
「えっ……」
護衛される・捕われるヒロイン役をここ数時間していたはずなのに、今頃自分が本気で狙われていると心の底から理解した少女の声。
「『学園都市』とイギリスをはじめとするいくつかの諸勢力と結ばれた『協定』。科学サイドと魔術サイドの領分を決めた『協定』ですが、まぁ、好奇心に任せて暴走する科学者や、そもそも魔術というオカルトに手を出してしまう我の強い魔術師、そういうのが全員素直に上の言うことを聞くはずも無し。
故に、最終解決策として我々がいるのです。そう、『協定破りの処刑人』と言えば我々の役目がわかりやすいでしょうか。で、そんな我々から見て、そろそろアウト判定なのがあなたなのですよ。富上さん。ドゥーユーアンダスタンド?」
磐の顔が真っ青になっていく。少女の口からは「なんで、どうして」「まだ、上条さんにも」そういった言葉が次々と流れているが、基本は小声で錯乱といえるような言葉の羅列。
「と言う訳で、分断させていただきます。無実で誠実に世の中の悪漢と戦う好感の持てる秩序側の皆様が撤退の言い訳が使えるようにするためにも撤退の2文字さえ、使う勇気を発揮していただければ、あなた方の命は助かるのだから」
「何を言ってるじゃん!?」
「そうでしょう? そこの小娘が目の前にいるから、皆様は彼女を守ると言う建前や任務から逃げられない。撤退する勇気は何時だって大事ですよ?」
困惑顔の黄泉川に新たに現れた男は告げる。一切自分に間違いは無いと確信した表情で。