3.
「おい! 富上磐さん! 無事か!」 「…………無事だと思うよー」
「なんだその返事……空元気か」
無数に乱舞する事務机やモニター、何かの機械設備は確実に警備員や風紀委員の集団を一個人にしていっていた。
また、それらとは別にオジギソウらしき何かが遠慮無く、警備員の盾を細切れにしていく。身を守る武器であり防具であるそれがきれいに金属やカーボン、プラスティックの粉末となって空気を汚していく。
「女の子のおなかにノートPCが突撃してくるとか、絶対悪意がある」 「当たり前じゃん」
結果として、磐のすぐそばにいる人は三宅ただ一人、とランドセル女子高生のみ。
「投降しろ……」 「従うとは全然思ってないでしょ」
三宅が軽機関銃の銃口を向けてみるが、ランドセル女子高生は意に返していない。
「これでも魔術師をぶっ殺してきた身なのよ。あんたらに手足を自由にさせたらまずいって事くらいわかってるし、最低限程度のオカルト知識もある。一番手っ取り早く確実なのは一撃必殺。それが無理なら呼吸の阻害。まぁ、女子は本能的に腹を圧迫してやる庇おうとするの。それに巻き込んで手や指をグチャグチャにしてやるとか、腹狙いは一石二鳥なのよ」
「へぇ……一撃必殺狙いにしてはずいぶんとべらべらしゃべるねー。なんなの? 時間稼ぎか何かかな?」
「殺す」 「殺すときにいちいちおしゃべりしてる暇あるのねー」
手を使わずに、折り鶴が磐の制服の首元から飛び出し、紙吹雪のように一瞬でバラバラとなる。
たったそれだけなのに、目には見えない壁があるようで、飛んできたコンクリの破片が空中で衝突音を立てて砕け散って落ちていく。
「……防御の術式なのか、ならその強度と精度、そして条件はなになのか」 「!」
ランドセル女子高生の足下の床が割れて、そのコンクリートの破片が四方八方に飛び散っていく。
そして、その1秒後、広範囲360度全方位から、磐に向けてコンクリートの破片がおそってきた!
「伏せろ!」
三宅の叫びに磐が反応して頭を下げて、彼が投げた学園都市が作り上げた緊急防御用手榴弾が起爆する。
それは、制御された爆風と重金属粒子による衝撃波でもって、敵の爆撃から身を守るフィールドを一瞬だけとはいえ形成する学園都市のびっくりどっきりアイテムの一つである。尤も今回の戦争では、学園都市が圧倒的優勢を続けているため出番が無くて、倉庫に転がっているだけの代物である。
「警備員のオモチャは便利なのね」
しかし、その手榴弾の効果が終わった瞬間を見計らうようにコンクリの破片は直進を続ける。それもすでにちょっとした銃弾レベルの威力を持って。
「でも、そのオモチャ、同じ物はここにあるの」
ランドセル少女の手の中にある緊急防御用手榴弾が3個。
「爆風と重金属粒子による防護フィールドで逆にプレスしたらどうなるかな?」
「「なっ!」」 「今なら、お値打ち価格で、コンクリの瓦礫もプレゼントなのよ」
そんな物に巻き込まれてはたまらないと、磐の首根っこを捕まえて、三宅は短機関銃の引き金を引きながらその場を全力で離脱する。
2人組に迫る手榴弾とコンクリ破片。牽制で撃ちまくっていた短機関銃の銃口より曳光弾という光る弾丸が飛び出したのを見て慌てて撃つのをやめる。
残り10発目と5発目に曳光弾を仕込むことで、弾切れのタイミングを目で見て理解できるようにと言う工夫だ。
「外に逃げるぞ!! 念動力か、はたまたコンクリートを操る能力か、とにかく屋内は危険だ!」
「違うよ! 外はダメ! むしろ、この下! 地下でも半地下でも何でも良いから下の階に行って!」
「はぁ!?」
「私の術式が一番効力を発揮するのは閉鎖された空間なの!! アレが私を追いかけるなら、なんとか出来る!」
残った短機関銃の弾丸を使って窓ガラスを割る。強化ガラス、それも分厚いそれによる窓は人が殴った程度では割れないが、銃弾に耐えるほどでは無い。
磐が「地下へ」と叫ぶが、コンクリの破片や椅子、事務机や書類が次々と飛んでくる状況では階段を探して駆け下りるなんて暇は無い。
磐の身体を窓の向こうへと勢いよく投げる。そして、自由になった両腕で短機関銃のマガジンを交換。それとは別に緊急防御用手榴弾を投げる。
殺到するコンクリ破片にその他諸々を窓からたとえ1秒以下の世界程度しか効果が無くても押さえるため。
「屋内、屋外、どっちでもいいなのよ。それに、警備員も風紀委員も相手せずに住むのなら最高」
分断は成功した。後は、あの小娘とあの小娘について行ったかわいそうな犠牲者を処分するのみ。
自分以外の組織のメンバーに後を託して、ランドセル女子高生もまた、窓を乗り越えて、その向こうへ。
割れた窓ガラスの破片が次々と動き出す。秒速約33メートルでガラス破片が次々と発射されていく。
「初期加速なしに、即時に猛スピードで飛んでくる! だが、銃弾ほど速くないッ! スピードガンがほしい! この速度は見覚えがある!」
3発目の緊急防御用手榴弾の起爆。ガラス片から少女の身を守る。手榴弾の数は残り3つ。
スピードガンを欲しがりながら、短機関銃を構え直す三宅のそばで磐は自分の折り鶴や紙飛行機を次々と制服とその上から着込む白衣から取り出し、何かをぶつぶつと唱えている。場所は工場の中庭、建物に囲まれながらも緑の芝生、木陰、そして自動販売機や休憩用に用意されていると思われるアウトドア用の椅子やテーブルがあちこちに置かれている。
「銃弾より遅くても数と大きさが違うよ! 普通に死んじゃう! ここはダメ! 囲まれてる! 全方位から襲われたら死ぬ! やっぱり屋内だよぉ!」
「だが、だいたいの概要はわかった。静止物を加速させる能力だ。トリガーは触ることか? おそらく二重接触もありなんだ。自分が触った物に触っても能力が伝達する。
おそらく孫接触になるとさすがに能力は伝達しない。触った物に触っても伝達は1度ってところか」
「……よくわかんないけどー動かない物に触ったら動き出す能力って事? 触って無くても動いている奴に触れればそいつも巻き込める的なー」
「詳細は知らん。だが、概略はそんなところだろう。念動力の一種だと思うが、単純な念動力ではなさそうだ。そうだろ?」
問われた側、すなわち2人視線の先にいる古びたランドセルを背負った白いブレザーの女子高生は答えない。
だが、言葉では無く、行動で示した。すなわち小さな石ころに足を乗せたのだ。それだけで石が勝手に時速約33メートルで動き出し、その軌道上の舗装道路が割れ始め、その瓦礫が同じように時速約33メートル飛んでいく。無数の瓦礫が全方位から2人に襲いかかる。
短機関銃の銃弾が瓦礫の大きな物をいくつか破壊するが、全方位同時攻撃だ。一カ所しか排除出来ない。
「1カ所で良い。そこが、安全地帯だ」
そして、その一カ所に2人組は踏み出した。
「加速後の方向転換は出来ない。そういう能力だな?」
「ッチ」