6.
「ひーちゃん」 「なに? わかちゃん」
富上磐が中学生の時だ。友達とこんな会話をした。
「もしも明日死ぬとして、でも頑張ればどうにかなるとして頑張れる?」 「どったの? わかちゃん。まぁ、いいや。うーんわかんない。だって明日死ぬなんてわからないから」
「本当に本当に死ぬっていうのがわかっているとしてだよ」
「なら頑張るんじゃない? だって誰だって納得したいでしょ。みんないつかは死ぬんだから、せめて『これは仕方ない』って満足して死にたいじゃん。まぁ、まだ10代だからその辺よくわかんないけど。ただ、そうやって夏休み最後の日の宿題処理みたいに頑張ったって、たぶん、納得できないと思うよ。延々と宿題を出す学校と遊びまくった自分をバカって罵ってるだけで終わるんじゃない?」
「ひーちゃん……切りすぎだよ。わかちゃんさまが悪かったから場所を選んでよ。クラス、死屍累々だよ」
2人の会話を聞いてしまつた幾人かのクラスメイトがうめき声をあげる中、友達、ひーちゃんは「てへぺろー」と舌を出して笑う。
「でもさ、土壇場でいきなり頑張った程度で、納得できる人ってどれだけいるだろうね? わかちゃんは納得できる? 私はたぶん納得できないよ」
「……そう、だね」 「だからさ、わかちゃんが何に悩んでいるかわかんないけど、私でどうにかできるなら相談してよ」
結局相談はしなかった。あの頃すでに、富上磐は、どっぷり魔術の世界に足を踏み入れていた。
死にたくない。せめて苦しんで死にたくない。死んだら完全に終わりたい。魂まで好きなようにいじくられるなんて絶対に嫌だ。
でも、この世界ではそうなる可能性はいくらでも山積みしている。
ファンたちが面白半分に語る『学園都市は治安が悪い』。あれは冗談半分であり、原作を読んでいる人たちなら学園都市は治安がいい方だと嫌でもわかっている。
能力者や暗部と称する奴らがテロや殺し合いに明け暮れる学園都市が治安が良いということは、世界中で悲劇と殺戮で満ちている。
少しニュースを目にすれば嫌でもわかる。前世、平成だの令和だのと語られたあの頃よりはるかに事故、殺人、テロから災害までそこら中に満ちている。
果たしてこれらは本当の本当にどうしようもない悲劇なのか。愚かな魔術師や科学者、そして闇の組織の暗躍の結果でないと誰が断言できる。
「でさ、この間読んでみた『偽金鑑定官』がそら、問題になるわって内容でさ」
「ひーちゃん、話題変わりすぎだよ。しかもひーちゃんが読んでみたって本は数百年前の本なんでしょ」
「そうだよ。古典作品って言われれば古典だよ。あのガリレオ・ガリレイが描いたアンチ天動説、アンチ折衷的学説の大著だもん。科学論文ではあるけど、いたるところに『地動説を信じないバカどもはこれだから』って毒が漏れまくってる。あれは世間に喧嘩を売ってるって思われても仕方ないもんwww」
少し前のことだ。『
「いいくに?」 「なんとか幕府なの!」
「……いいはこ?」 「なんとか幕府なの!」
「なんとかじゃねえんだよ!! それで次のテストどうするつもりでー!?」
ちなみにどちらも鎌倉幕府である。
ランドセルを背負った白いブレザーの女子高生の頭をぐりぐりとするのは同じ制服に身を包んだ女の子だ。ただしなぜか一輪車に乗っているしその口調はあからさまな似非関西弁だ。
「痛い痛いよぉーこれ以上バカになったらどうするの~~ぐりぐりやめてぇ~なの~」
「こいつ実は余裕があるやろ」
「別にテストなんてどうでもいいじゃん。ほかでどうにかすればさぁ~」 「その『ほか』って具体的になんなん! 頭悪いと『ほか』もわかんないやろ!」
「確かに」 「納得してんじゃねぇええ!」
一輪車が息を切らす中、そんな2人組をほほえましい目で見ながら、タブレット端末を操作している大人男女2人組がいる。
「どんなことでもできないよりはできた方がいいですよ。泳げないよりは泳げた方がいいし、将棋をさせないよりはさせた方が選択肢が広がります。広がるというより選択肢の存在を知るというのが正しいかな」
「ほらっ、そういってるで!」
「でも、奈美ちゃんが私の頭ぐりぐりする必要ないの」
4人はそう和気あいあいとしながらも準備を進める。すなわち爆弾やバッテリー、或いはオジギソウのようなナノデバイスを詰め込んだスプレー缶。
死体処理業者に連絡を取り、スタンバイしてもらい、さぁ、仕事だと動き出して、電話が鳴った。
「……わかりました」 「どうしたの?」
「『警備員』と『風紀委員』が来るそうです。帝政薬学の非合法で非人道的な人体実験の数々についてお話があるようで」
「「おいおい、大丈夫かよ。警備員と風紀委員が」」
「そうですねぇ……ここは科学サイドの頂点、学園都市。我々が先に行動することに関しては合意がとれてます。我々の突入予定時間その1時間後に彼らも突入するということになっています。魔術サイドの処刑人どもと協力し合う必要はありませんが、まぁ、なるべく同士討ちは避けてくださいというだけのお仕事でしたが……困ったことにそこに面倒な連中が入ってきましたなー」
「つまり、魔術サイドの処刑人が治安維持機構の人間を殺しまくる前に全部終わらせないとけないなの。面倒なのよ」
「バカなの。上から圧力をかけてそいつらを工場から遠ざけてよ」 「その暇無く突入してくるってさ」
4人組は、それぞれ難しいお仕事になったな~と口々に言いながら、帝政薬学の敷地に作られた秘密の地下通路へと踏み出す。
「ああ、そうだ。警備員達の動きを帝政薬学もつかんだそうで……」
『何者ですk』
「わかたで、逃げ出そうとする連中がいるから打ち漏らさないようにやろ」
なにやら変な無人兵器に載って逃げ出そうとする研究者が文字通り、バラバラ死体に一瞬で変貌する。
「はい。だから、よろしくお願いしますね」
「だとさ、忘れちゃダメやで、『奈美』」
「わかっているよ」
奈美――ランドセルを背負った女子高生――は、また私のことを馬鹿にしてと頬を膨らませながら、能力を発動し、コンクリートの弾幕が始まった。