『とある線上の世界大戦』   作:ホエール

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第1章『Old Testament.14 魔術師シモンは天空より落下する――A_Girl_a_Teacher_and_War』



3.

  3.

 人が一回転してねじ切れる。『駆動鎧(パワードスーツ)』が下からつぶれる。まるで空き缶を足で潰すように、ただし上からでは無く、床からつぶれる。

ちらばる、金属の装甲板や、木片の霊装。

 

「学園都市はわかります。ええ、よーくわかります。何しろ戦争なので、ローマに攻め込むのは大いにわかります。ですが、あなた方はわからない」

「ひ、ヒィ……っ!!」

「学園都市はわかります。捕虜は捕虜として扱わねばならない。双方が捕虜を人道的に扱う限りにおいて、人道的に対応しなければならない。わかります」

「く、くるなぁぁああああ!!」

魔女の帽子をかぶり、箒を手にした女。すなわち何も知らない人なら魔女のコスプレを疑う本物の『魔女』。

魔女の膏薬を包む薬包の包み紙を口で破り振り回す。

 

「飛べ、殴れ、私を守れぇぇえええ!」

振り回した遠心力で飛び散る膏薬に触れたその辺の花瓶、絵、そして金属の装甲板や今やタダの木片となった元霊装が飛び回り、ローマ司教に襲いかかる。

 

「でも、やはり、あなた方はわからない。異教の魔術師が人が戦っている裏から進入しローマの財宝を漁っているのを見るのはよくわからない。

異教徒に十戒を聞くのは無意味だとは思いますが、十戒に示されているでは無いですか。盗むな犯すな殺すなと。異教の教えでも多くの場合、同じですよね?

盗むな犯すな殺すな。これはすべての教えの基本だ」

身振り手振りの大きな司教だった。しゃべりながら常に手が動いている。腕が激しく動き回っている。

そして、その司祭の歩みを止める物は何一つ無かった。

司祭に襲いかかった無数の小道具は一つ残らず、司祭を傷つける事は無く、逆に魔女が倒れ伏していた。

 

「戦争でも無いのに、他人の家に盗み、犯し、そして時に殺す。異教の教えだってそれらは本来禁じられているハズなのに」

「こ、こないで……」

「あなたは飢えているわけでは無い。もはや己の行為を正当化出来る理由は何一つ無いのに……神の家に土足で禁を犯しに来た」

もはや、魔女と司祭を隔てる距離は存在しない。司祭の靴先に魔女が倒れ伏している。そのまま、靴底が彼女の顔面を踏む。

 

「教えてください。慈悲をかけるべき理由を」

 

 

 

「司祭様。急ぎ救援を願います。学園都市と火事場泥棒が同時に現れました。幸いにも双方は味方同士では無い様ですが――」

「――敵の敵は味方。即席の共同戦線が張られてしまった。そういうわけですね?」

「はい。司祭様の手を煩わせてしまい申し訳ございません。それとお召し物が……」

「靴くらい気にしませんよ」

その司祭服は全くと言って汚れてはいなかった。防御霊装に身を包み、にこやかな笑顔を浮かべる白人男性は、だが、真っ赤な汚れが似合わない木靴を履いている。

そして、今でも身振り手振りが大きかった。

彼はしゃべるとき常に大きなボディーランゲージをしている。それが煩わしいと評価する人もいれば、親近感がわくとその笑顔とセットで抱く人もいる。

木靴だけは血潮に汚れ、真っ白な司祭服に笑顔と激しいボディーランゲージ。

 

彼が歩み出す方向の逆、すなわち先ほどまでいた場所には頭部の無い魔女だった物だけが残されていた。

 

「一部の愚か者達が旧約聖書を無視している。彼らは果たして読んでいるのか。異教徒の存在は神が保障してくださっている。

なのに、異教徒を異教徒であるというだけで断罪せよと叫ぶ。愚かな。旧約聖書を何故読まないのか」

優しげな口調は先ほど死亡した魔女への手向けかそれとも――?

 

「――異教徒は救われない。そうはっきりと書いてあるでは無いか。だから、異教徒は存在してよい。彼らのために罪を犯すなと」

 

故に、学園都市も彼らの言う火事場泥棒も『異教徒』だから何かはしない。ただ――――

 

「――――『罪人』には罰を与えないといけません。ましてや、救われないと断言されている異教徒です。一撃で終わらせて上げるのがせめて物の慈悲でしょう」

その言葉の直後、魔女の仲間と思わしき男が頭上より仕掛けてきた。頭上階の床を撃ち抜き、下の階層にいる司祭に宿り木の枝から作られた槍天井が

 

「なっ!!」

魔女の仲間の男の槍天井は、司祭では無く、頭の無い魔女の死体が突如起き上がり司祭の盾となって防御を行った。

 

「司祭様!」

「異教徒ながら、最後の貢献ご苦労さまです。あなたが死後改宗し、来る最後の審判に救われることをお祈り申し上げます」

激しいボディーランゲージは続く。傍らに従者を制止し、彼らが異教徒と呼ぶ魔術師へと向き直る。

 

「きさまぁぁあああああッ!!」

だが、続く攻撃は無かった。男はいつの間にか、地面にたたき落とされている。階層さえも無視して。走る激痛。

負傷だ。それも重症。

 

「心より罪を反省し、告白し、改宗をすれば、ひょっとしたら」  「ふ、ふざけんな! あの娘の死体さえももてあそびやがって!!」

最後の力を振り絞ってヤドリギの杖を握りしめ、だが何かするよりも顔面より地面にたたきつけられる。意識はたたれた。最後に思うのは疑問。

 

(何を、した? 俺、落とされ、あの娘、死体、動いて、ローマ正教式か?)

答えは出なかった。永遠に

 

「共同戦線が簡単にできた理由ですが、異教の魔術師は東洋人の女のようです」

「なるほど、なるほど。ひょっとしたら学園都市のコバンザメかもしれませんね。彼らの軍隊にこっそりとついてきたと言ったような。

それならわかります。わかります」

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