7.
魔法名とは、魔術師としての名前だ。元々は本名を隠す風習からやってきた物だと言われている。
実を言うと、禁書目録の世界では無いいわゆる『前世』と呼ばれている世界でもそっち方面(オカルト)を覗くと似たような風習があった。
本名は魂と結びついている。故に、本名を魔術師に知られると言う事は魂を狙われると言う意味でもある。尤も今時はただの風習だ。
「私じゃ無い。おまえが代わりに死ねッ!! 『vita432(都合の悪い死を拒絶する)』!!!」
この名前を名乗るたびに、『自分』がこの世界に定着していくと感じる。磐にとって、この名前を名乗る行為は、『前世』との繋がりが消えてこの世界の1人の人間として定着していく、そんな感触を心の底から味わってしまうので好きでは無かった。
それでも彼女は『魔法名』を持つ。魔術師になってしまったから。
学園都市に行けば能力が得られる。凄い科学技術の武器が手に入るかもしれない。けれど得られた能力がレベル0だったら意味が無い。
凄い科学技術の武器を手に入れるには暗部に近づかないといけない。怖い恐ろしい、それよりはまだ実家の先祖の遺産をあさるだけ。
「魔法名か! おまえらがそれを名乗る時、相手を必ず殺すと決意した時っ!」 「はぁ!?」
三宅が敵の言葉――奈美、ランドセル背負った女子高生――に驚愕の表情。状況がようやく飲み込め始めた。
未成年が、殺し合いをしている。1人は暗殺者みたいな仕事をしている犯罪者。罪を償わせなければならない向き合わせなければならない罪人。
そんな生き方なんてしなくて良かったはずなのにその道を進んだ女子高生。
もう1人は、学園都市なんかとは関わりが無かったはずの1人。不幸な事に巻き込まれたあげく、学園都市の暗殺者から命を狙われている少女。
けれど、もうそんな風には扱えない。2人とも文字通り殺し合いを始めたのだと。
「やめろ! そんなことをしても意味はなんか無い! 君もそこの君もこんな馬鹿なことは――――」
「「――うるさい、黙って!!」」
直後、女子2人の攻撃が三宅を襲う。一応片方は死なないように、もう片方は死んでも別に気にしない威力で。
衝撃が身体を持ち上げ、風圧が廊下の向こう側に三宅を投げ捨てる。投げ捨てられた先の床は戦いの余波の成果各所にヒビが入っていて三宅の落下の衝撃で亀裂が増えていく。
「ぐっ……おいおい、嘘だろ! 欠陥建築か!?」
急ぎ、亀裂の中心から離れようとして、音を立てて、床が崩れていく。
三宅は、地下通路へと落ちていく。2人の殺し合いから遠い場所へ、落ちていく。
「はっ、あんたの男が消えて大丈夫なの~?」 「はぁ? そっちこそーロリコン相手なんて大変そうー。ランドセル趣味なんて大変な生き方ですなwww」
「口を開けば煽りしか出来ない低脳がかわいそうなのよ」
若い女子2人がお互いを煽り散らかしながら、次々とそれぞれで遠距離攻撃を繰り出す。
だが、殺傷能力の高いコンクリやガラス破片を使う側と事前に用意した殺傷力の低い折り紙を使う側では、手数が違う。威力が違う。
「はっ、みえみえなのよ。さっさと逃げるなりなんなりすれば良いのに、そこから1歩も動かない。徐々に弾数も減ってきているんじゃないの!? それでも移動の気配がなの。まるで待ち構えているなのよ! つまり、この部屋は罠なのよ!」
「だったらー正面から罠ごと踏みにじってみなさいよ!! 幼女趣味な男にしか相手してもらえない可哀想な女にはそんな自信も能力も無いのかなー?」
「やったろうじゃないかよ!!」 (ちょっろ)
ランドセルを背負った女子高生、奈美は一歩足を踏み入れる。だが、それとは別にその一歩で、床、壁、そして天井に空気が、すべてが、空間ごと世のすべてが揺れる。
「なっ!」 「全部変換するの。これをしちゃうと自爆技なのよ。だから、これを使わせただけで大した物だ。罠ごと踏みにじれば良いんだよね?」
壁に描かれた○、×、□の図形が壊れていく。床に置かれた色とりどりの折り鶴が引き裂かれたり、はね飛ばされたりしていく。
(設置物が全部壊されていく。建物ごと! こいつ、ヤバイ!)
すべては一瞬の出来事だった。気がつけば、青空の下にいる。数階建ての建物は完全に崩落し、同じ建物にいた人間達はみんな血みどろになって倒れている。
警備員が、風紀委員が、あるいは施設の職員が。かっこ、『』の形をした建物の一つ、』が完全に崩落し、だが、崩落だけではすまない。床が浮いている空に。
磐は倒れている。床に。その床が天に向かって飛んでいる。天井も天に飛んでいる。四方八方に壊れた建物の残骸が飛び散っている。
(なにを、どうしたら……こうなんの!?)
目の前で壁だったコンクリートの瓦礫が砂となって崩れ風に吹かれて飛んでいくのが見える。
倒れていた床から磐の身体が離れていく。遙か天に向かって飛んでいた床が壊れながら落下に転じた。
頭が痛い。とんでもなく痛い。全身が痛い。激痛が走っている。あいつの能力は止まっている物体を加速させるそういう能力だった。
詳細は不明だがそんな感じの能力のハズだ。なのに、一瞬で建物が壊れて、壁や天井が四方八方に飛び散って、床が大空に向かって動いて、今、落下中。
奴曰く『自爆技』。
なるほど、こんなでたらめな結果、本人にも打撃があるのであれば自爆技以外に言う言葉がない。
痛む指先で、折り鶴を取り出す。防御術式となっているその折り鶴が紙吹雪となって磐を落下ダメージから守る。
「どう、な、の、よ」
自らも目や鼻から血を流しながら、それをタオルで拭きながら、歩いて磐に近づく少女が1人。ランドセルを背負った女子高生。
「どう! な! の! よ!」 「がっ」
蹴りだった。ランドセルを背負った少女、奈美が磐の顔面を蹴り飛ばす。
「どうなのよ! さんざん人を煽っておいて、こうやって足蹴にされる気分はどうなのよ!! ちょっと大人にちやほやされるからってあなたたいしたことないの!!」
1発、2発、3発と蹴りは顔面から腹へと。本能的か、腕がおなかを守ろうとする。そして、手がふさがる。反撃の糸口が見つからない。
そして、あごから頭へ右足の蹴りが炸裂した。意識がかすれ飛ぶ。
「お、ん、ころこ――――」 「――呪文なんか誰が唱えさせるっての!!」
胸への足蹴。空気が入らない。喉は小さな音を立てるのみ。
目と目があった。ランドセルを背負った女子高生と目があった。彼女の顔は整っているといえるだろう。美少女といえるだろう。
だが、その瞳には強い敵意が宿っていた。耳に入ったインカムとショートヘア。白いブレザーが育ちの良いお嬢様のように彼女を演出する。
清楚で物静かな令嬢とは少し真逆。元気が取り柄のお嬢様育ちの美少女。そんな風に見せている。
そして、強い敵意が宿った瞳が、そんな彼女の雰囲気を一変させている。
「レベル5がなんなの! これが私の本気! なにが『
彼女の脚が、磐を蹴り続ける。そして、つかんだ、脚が捕まえられた。
「なっ――――はなせぇぇええ!」 「は、な。sない。オン ア ビ ラ」
「だから、唱えさせないっていったぁぁあ!」
床が唐突に割れて、その破片が磐をおそってくる。
青空の下で、振るわれる暴力。割れた床材。壁は砂のように崩れて風に吹き飛び、建物の崩落、いやもはや崩壊と膨張と呼ぶべき惨状に多くの人々が倒れ伏している。
その惨状の中、蹴られている少女は笑みを浮かべた。
「何を笑ってるの」 「あ、ん、た、は、、わかちゃんさま……を蹴り飛ばすのに、熱心、で、ま、わ、り、を、みて、ない、から」
「!?」
周囲を振り返る。『帝政薬学』が運用している無人兵器『プロテアーゼ』が全方位から、狙っている。排除対象者達を排除するために。
「じじょう、よく、わかんないけど……あんた、ばか、でしょ」
『自爆技』。ランドセルを背負った女子高生自身もダメージを負っている。それが一体何を意味するか。
「クソがぁぁあああああああああああああああああ!!」