『とある線上の世界大戦』   作:ホエール

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第4章 10.

   10.

「やっと殺されにきてくれた?」

一輪車の上で脚を組んだ女子高生がそんなことを言いながら、巨大なサーバールームを破壊していた。

 

「って、『警備員(アンチスキル)』なんか連れてきてぇ~ほら、拾ったところに戻してきなさい、シッシっ」

どうやっているのか、触れずにサーバールームのコンピューターの半導体やら基板やらが粉砕されていく。ある物体は上からつぶれるようにある機械は下から崩れるようにまたはその両方から。

絹旗、郭、エステルの3人組に三宅が加わった4人は一輪車にのるそいつ相手にそれぞれ武器を向ける。

 

「うーん。真っ正面から全員かぁ……1人は隠れてこっそりとって感じでもないし。何かあるのかな~?」

「一つ、良いか」  「ん? なんでしょう? アンチスキルのおじさん」

「お、おじ……上で君と同じ制服の娘が大暴れしている。あの子の仲間……で良いんだよな?」

「奈美……あいつ何やってんの? いや、なんかさ、仲間がぎゃーぎゃあ騒いでいるから地上で奈美のやつがなんかやってるってのは無線越しに効いてるけどさ」

「なら、止めてくれないか? 君もこんなことしてないで」  「それは無理」

目の前で巨大なコンピューターが大きな音を立てて周囲に基盤のかけらやシリコンオイルをばらまいていく。

 

「私らの仕事は、魔術サイドと科学サイドの境界線を破る馬鹿どもを皆殺しにしてさっぱりすること。線上で好き放題されたらなんのためにラインを引いているって事になる」

「『協定』って奴を守るために殺しも厭わないって事か!」

「なんだ『協定』って知ってるじゃん。魔術サイドとか言って伝わるかな? って思ってたこっちが馬鹿みたいじゃん。良いじゃん殺しても。私らが出っ張る時点で魔術師だろうが科学者だろうが上からの警告を無視しているって事だ。ただでさえ、我の強すぎる魔術師、科学者どもなんだ。1回警告して話を聞かないならもう十分。

殺処分して世界の平和を守るべきだよ。魔術サイドと科学サイドに世界が分かれてお互い手を出さないと決めた。だからこの世界は少し前まで平和だった。TVでもネットでも何でも良いから見てよ。ロシアが学園都市に爆撃されて、あっちこっちで変な暴動が起きて。これは全部境界線が無視されたせいで起きたんだ。境界線でタップダンスを踊る馬鹿どもを全員処刑してしまえば、こんなことにはならなかったんだよ。『禁書目録』『幻想殺し』『神の右席』に『吸血殺し』『追跡封じ』」

そこで言葉を止めて、首を切るジェスチャーをして見せた女。その堂々と様になったそれは、とても未成年の女の子には見えなかった。

ただの若い殺し屋に見えた。一輪車の上で足を組んでいる場面さえ見なければ。

そこだけを見たらちょっとしたギャグだ。周囲に散らばったサーバールームの惨状と彼女に向けられている武器、短機関銃やちょっとしたロケット弾などを見なければ。

 

「みんな殺してしまえば、こんな戦争なんて起きないんだ。戦争が起きたのは境界線でタップダンスを踊る馬鹿が多いせいだよ」

「なら、あんたを超ぶっ殺していいです?」  「うん?」

「その何たらサイドって超意味不明なんですけど、私らにとって、やべーところで超タップダンスを踊る馬鹿は超そっちなんで」

「可哀想な暗部の下っ端は黙ってなさい。どうせ、ココが潰される前に研究資料の一つも確保しようって任務でしょうけど、それは無理よ。と言うかもしも持ってたら

ぶち殺す必要があるわ。今でさえ、本当は有無を言わさず殺す必要があるのに」

「そんな! 私たちの目的は、『魔導書』です! 『魔導書の原典』です! それこそあなたたちにどうにか出来るんですか!?」

エステルが会話に加わってきた。魔導書の原典。それは魔術サイドの特別なアイテム。

そして、絶対に放置してはいけない代物。

 

「……へぇ……。あなた魔術師か。暗部に加わっている魔術師の噂は聞いていたけど、うん。やっぱあんたら全員死刑だわ」

その刹那――――轟音とともに紙吹雪が舞い散った。

三宅が懐に入れていた、お守りの折り鶴の紙切れだった。

 

「ッち、魔術師と取引でもしてたかぁアっ!?」

一撃必殺のつもりで放った『異能』の攻撃が防がれた事で、一輪車は本気を出す。ペダルをこぐことなく走り出し、その速度は明らかに一輪車が本来出せる速度ではない。

 

「くるくるくる~ハハハッ」

笑いながら、何かしらの異能攻撃を解き放つ。サーバールームの壁はあっという間に粉みじんに破壊され、業務用エアコンが天井から落ちてくる。

 

「指が超忙しそうですね」

絹旗の『窒素装甲(オフェンスアーマー)』と何かが衝突。大きな轟音が鳴り響く。

 

「回転、超ドリルって感じです。何もないところに見えないドリルを作る能力? ドリルを回しているのはあなたの指。超指を頑張って回してますね。ドリルの数は全部10個?」

「外れ、まぁ細部は違うけどあってるよ。私の能力は『ジャイロ効果』を強制的に発生させる物。トリガーは指先をくるくると回すこと。指なら、別に手だけじゃないよね」

つまり、絹旗が想像した、見えないドリルの数は全部で20。

 

「束ねれば、大きなジャイロになる。それこそ、シールドマシンのように!」

次の瞬間だった。床が崩落した。巨大な謎の地下トンネルが掘られている。

 

「ところで、シールドマシンを人間が受け止めたらどうなるかな?」

ジャイロ効果。コマを回したとき、コマが勢いよく回ってそのまま直立するのは何故だろう。それは回転のエネルギーが物体を無理矢理安定化させているからだ。

自転車やバイクが走っている最中は簡単に横に倒れてくれなかったりする。それは回転のエネルギーが物体の姿勢を元に戻そうとするからだ。

それがジャイロ効果。回転がもたらすエネルギーの特殊効果。

それをいつでも好きな場所に、ある程度好きなエネルギー量で好き勝手に発生させる能力。そして、そんなジャイロ効果を空気に発揮させれば、轟音のような強風が

吹き荒れ、竜巻や鎌鼬のような災害すらも自在に発生させることが出来る。そういった、言ってみれば『工夫』の一つが、トンネルの掘削工事なんかに使われる

シールドマシンのような回転による掘削という結果の成立だ。

 

「超まずっ!」

窒素装甲(オフェンスアーマー)』でも限度があるのは嫌でもわかっていた。だから、絹旗はとっさに、郭をつかんで範囲外に投げ飛ばした。

 

「たかが、1人助けて、なんの意味が――――」

――それだけで、十分だった。能力が解除される。ジャイロ効果が途切れる。

 

「忍者は毒にも知識が豊富だった」

 

「でも、それ以上に武器のエキスパートだった」

 

「忍者の武器は、基本的に射程距離が長い。侍相手にチャンバラにつきあう義理はない」

 

「そもそも侍だって、本当の武器は刀じゃなくて弓矢に薙刀だったでしょ」

 

吹き矢だった。それが、首筋に刺さっている。能力が止まったことで一輪車が倒れ崩れる。

麻痺毒だ。文献では忍者が毒吹き矢を活用した事実はない。けれど忍者の武器として江戸時代から創作劇では描かれている。

郭以外の全員が土がむき出しの地下トンネルっぽい空間に落ちて、郭が彼らを助けるためにロープを投げる。元々は武器として使うために持ち込んでいた物だ。

 

「そんなに強い麻痺毒じゃないし、首という血管むき出しの場所に当てられて良かったよ」

「……」

目だけが郭を追いかける。上がってきた1人、三宅が手錠片手に少女に近寄ってくる。と、気づいたように絹旗、郭、エステルの方に顔を向け

 

「すまないけど、君たちの方で彼女の靴を脱がせてやってくれないか? 手錠はこっちでするが、目隠しもお願いしたい」

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