11.
適当なダクトテープで目隠しをして、手や足の指も同じようにダクトテープ巻きにした上で手錠をはめた白いブレザーの女子高生の姿はちょっと事案だった。
とはいえ、一応手錠以外は女の子3人組(ただし暗部)がやっていることなので、異性からのセクハラで訴えられることはない。
「麻痺毒を扱うかぁ~してやられたなぁ~」 「超元気じゃないですか」
拘束された状態でも、徐々に麻痺が引いてきたらしく、おしゃべりを始める。手枷足枷目隠しをされている事もあり、郭が担いで運んでいる状態でおしゃべりを始めた事にいらだった郭がわざと揺らして
「あぶなーい、舌かんだらどうするの~?」 「捨てて良い?」
思わず出るそんな言葉。やめてくれと言いかけた三宅は少し考え直し
「なら、俺が持とう。お姫様だっこって奴なら文句も言わないだろ」
「「「セクハラ」」」 「あれ?」
仕方ないので、妥協案が選ばれた。そう、台車である。ゴトゴトと音を立て、揺れる台車に乗せられた被疑者の女子はもはや悲鳴を上げることも出来ないほどに消耗している。
ガタガタゴトゴトと音を立て、それに声にならないうめき声らしき物を放つ荷物を無視して3人娘と1人の警備員は情報を交換する。
と言っても全員、色々と黙っていないことが多いので、探り探りの会話になってしまう。
「君たちもどこぞの依頼でここに来たと言うが、その依頼はまともな依頼か?」 「さぁ? まともだと信じたいです」
「……はぁ……暗部って奴はこれだから。本当は全員捕まえなきゃいけないんだが、このまま何も見なかったことにして返ったら自分も見なかったことにしてもいい」
「それは超無理です。こっちもまだやらなきゃいけない事やれてないので」
「……先に行っておくが、本来なら今の時点で捕まえないといけない。不法侵入に傷害罪とか色々で。そういう状態で君たちが何かしたら絶対に見過ごせないからね。そもそもボディカメラ付きだ。君たちの顔写真で今逃げられても遠慮無く捕まえてやれるぞ」
「それはこ、困ります!! 私は『魔導書』を回収しないと! アレは危ないんです!」
どこかで効いたような話だ。具体的には、どや顔で「わかちゃんさま」と自分で言う女の子。
エステルはとにかく、魔導書の回収をしなければならないと言う使命感に支配されているようで、絶対に回収するので、捕まえられては困ると主張する。
魔導書はとにかく危ないのだと。ルールに従っては、魔導書の危険性を取り除けないのだと。
「なぁ? 君に聞きたいことがあるんだが……」
話すのは磐の事。そして、魔術師とは結局なんなのかと言う問い。
「難しいですね。元々……昔私がそのことを語ると学園都市の人達はどうも細かな概念の時点でよくわからなくなるようで、その人達なりにかみ砕いてやっと……と言った感じで。一応その人達のかみ砕き方をそのまま引用しますと。『神様がこの世界を作った。デバック用のチートコードがあってそれを勝手に使おうとしているのが魔術』だそうです。当然デバック用のコードは公開されてませんから、『無理矢理コンソールコマンドを開いて、無理矢理適当な単語を総当たり入力している……感じ』と」
「なんというか、PCゲームみたいなたとえだな。それって絶対何かしっぺ返しが来るんじゃないの?」
「かもしれません。ただ、魔術師って言う生き方はそういう無茶苦茶な道を突き進むと決めた……ある意味で異常な熱意を持った狂人みたいな物なんです」
「……だとしたら、あいつは何が目的で魔術師になったんだ」
「わかりません。ですが、彼女には成し遂げたい事があるんでしょう。普通のやり方では絶対にかなわない何かが」
その何かがわからないから、三宅は悩んでいるのだとそのとき、唐突に気づいた。
つまり、少女に普通に学生をやってほしいのだと。本来なら、彼女はこんな危ない場所に連れてきてはいけない娘だし、そもそも命を狙われるような立場であるはずがない。彼女が普通に女子高生をやっていないのが悲しいのだ。
そして、それは磐だけじゃない。今日見てきた色々な『暗部』に所属する人間達もそうだ。
目の前の3人娘も台車の上ではきそうになっている少女もそうだ。『ジャーム』という組織名を名乗った4人組も地上で大暴れしてた奈美という少女も。
「全員、幸せに普通の人間として生きてほしいんだ」 「難しい話ですね。それが出来たら一番です。何事もハッピーエンドで終わるのが一番ですけど難しいですから」
「……そっか、ハッピーエンドは難しいか」
「だって、そこら中にバッドエンドが転がっているのが世界じゃないですか。だからみんな物語にハッピーエンドを欲しがっているのかもしれませんね」
エステルの言葉に、三宅は、結局今のこの状況を終わらせないといけないのだと思い直す。
ハッピーエンドを目指すにはまず、今の状況を言い終わり方で終わらせないといけない。
そうやって、地上を目指して
『プロテアーゼ』という無人兵器が跋扈する地獄を見た。
次回は、2週間先になると思います