『とある線上の世界大戦』   作:ホエール

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第4章 12.

   12.

 プロテアーゼ。それはタンパク質分解酵素の一種の名前だ。その名前の通り、タンパク質分解酵素を武器とする『帝政薬学』が設計開発運用を行う無人兵器である。

自分たちの所行が本来許されない物であることを知っているが故に、プロテアーゼは彼らにとって生命線であり、可能な限り数を用意しておきたい直属の戦力である。

6メートルぐらいはある大型のMk.1と2メートル程度の大きさにまで小型化したMk.3があり、Mk.3はちょっとした移動にも活用されている。

 

サソリの姿をした攻撃的な機械の数は全部で16機ほど見える。

黒子はいつものダーツの瞬間移動ではどうすることも出来ないと考え、瓦礫を転移させることにした。大きな音とともに機械内部に突如現れるコンクリートの瓦礫が基板だのセンサー素子だのなんだのを次々と押しのけて破壊し、内部から壊されていく。

だが、ある瞬間のことだ、3機目をそうやって破壊した瞬間――――脳内に響き渡るのは赤子の叫び声。

 

「なっ、なんですの!?」

原因はよくわからないが頭の中で赤ん坊の泣き声らしき物が響き渡る。耳を押さえても聞こえるが、指先に感じる音響。

本能的に音源を探してしまうが、そんな物は存在しない。

黒子だけでは無い、周辺の人々がほぼ全員周囲を見渡している。何かを探しているように。

 

「この声は――――」

――周囲へと拡散されていく赤子の叫び声。痛いのかそれともさみしいのか、とにかく泣き叫ぶ赤ちゃんの声だが、物理的に聞こえているわけでは無く、能力によって、脳に直接聞こえてくる! 音量は最大、音質も最高潮。

がんがん鳴り響く赤ん坊の叫び声は、明らかに人間の行動を阻害する。本能的にどこからなっているのか探してしまう。

答えは脳内なのに。目が四方八方へと。どれだけ無視しようと気にしてしまう。本能的に。

 

(赤ちゃんの声は本能的に人が反応する音として出力されているって聞いたことがありますわね)

黒子がついそんな現実逃避してしまうくらい、頭の中に響き渡るその声で全員の動きがつい、止まってしまう。

サソリ、4本の節足が左右に、毒針のついた尻尾、そしてハサミのような2本腕。まさにそれと同じように4つの機械の節足が左右併せて8本のその多脚兵器はその近くによればよるほど赤子の泣き声が身体全体、全身から脳に響き渡る――――!!

 

(――わかりました、『骨伝導』ですわ! どうやっているかは知りませんが、人間の骨をスピーカーにして!!)

が、そもそもどうやって骨伝導を『させている』のかはわからない。メカニズムがわからない。

けれど、そんなことは関係が無い。

 

「悪趣味な兵器ですこと」

音に頭が痛い。それでもコンクリートブロックの瓦礫を転移させて、7機目の『プロテアーゼ』を破壊する。

音がさらに大きくなった。大きすぎて、三半規管がおかしくなる。骨がずっと響きっぱなしで身体が震える。

赤ん坊の声だ。意識が、本能で、無視出来ない。

 

(そもそもどうして赤ちゃんなんでしょう。どうやって、骨伝導させているんでしょう。どこから、目の前の兵器? それとも別種?)

いや、そもそも考え無ければいけない。何故、『プロテアーゼ』が撃破されるたびに音が強くなるのか。

『プロテアーゼ』は遠隔操作か、それとも完全自律制御か。遠隔操作なら、どこかで制御されている。完全自律制御ならどういうアルゴリズムで敵味方を識別しているのか。

 

(だ、ダメですわ。今、はっきりさせなきゃいけない事から遠ざかってます)

音が、

   強い。

      赤ちゃん、

           頭痛い、身体震える。

 

「凄いわね。まだ抵抗する。赤ちゃんの声は本能的にどうしても反応してしまうのが人間という物。それを大音響で全身振るわせれば、嫌でも頭が揺れる。騒音って奴は人体への悪影響がとても大きくてね、例えば認知機能が低下することがあるわ。高血圧や心疾患を引き起こすこともある。どう? 嫌がらせとしては即効性に欠けるけど最悪でしょう」

赤いドレスに白衣。肩に1人の女子高生の少女を担ぎ上げ、1人の女が黒子の前に現れる。

少し前に姿が見えなくなってた女だ。

 

「こ、の音の正体は、あなたですか!?」  

「『帝政薬学』の無人兵器を利用させてもらっているわ。尤も私もこいつらを完全に制御しているわけじゃ無い。あくまでも利用よ。現地調達は、この手の裏仕事の鉄則でね。あんたらもさっさと逃げなさい。今回の案件は私たちだけじゃないの。

『魔術サイド』の処刑人もそろそろ到着して介入してくる頃よ。敵味方識別なんて無いわ。だから、私たちでなんとかなる範囲でなんとかやってあげようとしたのに、あなたたちが帰らないせいでもうグチャグチャじゃない」

そう言って、樽のように抱える女子高生の尻を叩いて、音をならす。肉付きの良いケツの音を響かせながら

 

「こいつも、やらかしやがって、こんな面倒ごとになるし!!」  「……あなた達が引いて、ココの人達はどうなりますか?」  

「ぁ? 元々皆殺しよ。あちらさんにとっても皆殺し。つっても、私たちはあんたらに遠慮して殺し損ねてるから本当はすっごく怒ってるの」

「そう、ですか。なら、なおのことあなたたちもこれから来る人達も止めなければなりませんね」

「は?」  「わたし、わたしの安全よりなすべき正義をなさない事の方が、嫌なので」

白井黒子という女の子は、決して折れない。

目の前に殺される人がいて、それを見過ごせと言われて、決して見過ごすという選択肢の存在そのものを認めない。

殺人は許されざる行為だ。たとえどれだけご立派な『動機』があろうと、それは罪だ。許されざる罪で、認められてはいけない事だ。

だが、悪い人にとってこれほど、腹立つ小娘もまたいない。

 

「その減らず口、うざったいわね」

赤ちゃん、

      低音の鳴き声、

               高音の悲鳴。

 

世界が揺れる。頭が揺れる。意識が揺れる。

 

「出力70%、まだまだ上げてくから、よろしく」

そう言いながら、赤いドレスに白衣という出で立ちの女性が立ち去ろうとする。

 

「ま、まちな――」

――――『瞬間移動(テレポート)』が発動しない。演算の障害になるほどの頭痛。脳みそが高音に揺れている。低音に神経が敏感に反応している。

思わず両手で耳をふさぐ。音の大きさは変わらない。どんどん大きくなっていく。自分の心臓の音さえ、激しく大きな音で頭に聞こえてくる。

呼吸の音さえ煩わしくなる。はぁ、ハァ、Haa、自分の呼吸音が、本当に、邪魔に、感じる、感じてしまう、邪魔だ、邪魔だ。

 

「わかります。ですが、そこまでにしておいた方がいいですよ」

黒子の前に、拘束服を着けた初老の男が現れた。

 

「あな、た、は……」  「わかりますか。学園都市の敵ですよ。正確にはアヴィニョンの捕虜であり、ここの実験体です。まったく非人道的な」

拘束服の男は、ゴム製のサンダルを履いて、後は腕が絶対に動かせないようにされている。脚だって本当は拘束状態だったのだろうが、ガラスの破片で無理矢理引きちぎったように見える。とはいえ、まだまだ解放と呼ぶには不十分で、明らかに不自由な歩きだった。

 

「わかりますか。歩行法による術式は困ったことに西洋や十字教より東洋の方が得意でしてね。少し和らげる程度しか出来ません。今のうちに休む事をおすすめしますよ」

「……人が帰ろうとしているとこにノコノコ来ているんじゃないのよ」

「わかりません。やれやれ、いくら異教徒とはいえ、我々の事を敵だと認識しているのでしたら、聖書くらい読みましょうよ。東洋の偉人でさえ、敵を知りなさいと言っているのにわからない方々だ」

その場を立ち去るはずだった、赤いドレス白衣の女のハイヒールが、再び黒子の方向を向く。その足先の先にいるのは倒れかけた白井黒子と彼女を介抱するようにそばにいる拘束服の初老男性。と、そこに駆け寄る4人組の『風紀委員』。

 

「まさか、まだ発令されていないのよ。なんで来ているのよ」

「そりゃ、来ますよ。だって、絶対発動するじゃ無いですか。この状況。000が」

学園都市で一番守られているのは誰か? 答えは『立場のある学生』。だって、学園都市は学生の街だ。どれだけ血なまぐさい裏があろうが、学生がたくさん死ねばそれだけ、外部から子供達が来なくなってしまう。それは学園都市運営の崩壊につながる。

だから、守る。立場のある学生を。そして、一番わかりやすく、死にやすくて立場のある学生ってどんな人達? 答えは『風紀委員』。

 

「『風紀委員000支部(皆殺し部隊)』の出番が絶対来るってわかってる状況で、指をくわえて待っていろですって? そんなの嫌よ」

アビニョンの捕虜を帝政薬学の実験体を解放しつつ、意識喪失寸前の黒子の前に現れたのはそんな4人組。

ジャッチメントが死んだ時、関係各所を全員皆殺しにする『風紀委員の暗部』。000支部の4人組だった。

 

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