『とある線上の世界大戦』   作:ホエール

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第4章 13.

   13.

 『小惑星迎撃想定戦略防衛レーザー攻撃』の一筋の光り、言ってみりゃ『はかいこうせん』が炸裂しているのを横目に見ながら、適当に拾った鉄筋を杖代わりに歩くのはそもそも今回の事例の発端の1人、富上磐。

全身がすっごく痛い。乙女の柔肌になんてことをしてくれたんだと思って――いや、なんで乙女なんて簡単に使うんだと自問自答する。

 

(逃げよう。こんなところいたら、命がいくつあっても足りない)

逃げれば、ココで知り合った顔見知り達が死ぬ。

 

(わかちゃんさまが戦う必要は無い)

戦う力があるのに逃げ回って、次は何処に逃げるの。

 

(わたしは、しにたくない)

みんなそうだ。だから勇気を出してる。

 

前世の記憶という奴は中途半端に役に立たない。なにやら成人男性だったらしいが、何処でどんなことをしていたか、ぼんやりとしていてはっきりしない。

わかるのは『とある魔術の禁書目録』という作品のファンだった事と、普通に勉強が出来る人間らしかったと言う事。

おかげで、中学生レベルなら、勉強しなくても色々と出来た。なので、優等生のふりして時間をすべて魔術研鑽に使えた。

 

原作知識も無いよりはマシだった。おかげで死なない立ち回りとやらが自然と身についた。

それでも、前世は、原作は、知識は、襲ってくるのだ。常に悪夢として。インデックスという女の子は10万3千冊の魔導書を読み込んだ。

結果として、彼女は生きながらに魔導書図書館として、そういう道具となった。

学園都市の第1位は人殺しを強要され、第3位は自分の姿見を山ほど殺される側の人間になった。

 

今の世の中で得た物も少なくは無い。友人が出来た。自分を慕ってくれる人がいる。心配してくれる人もいる。

前世なら出来ないことも魔術を使えば出来るようになった。パスポートなしで海外を歩き回る事なんて前世なら絶対に無理だ。

でもそれだけだ。逆立ちしたって、自分では原作ファンの間から、冗談半分にかませ犬として語られる聖人・神裂火織はおろかステイル・マグヌスにも勝てるか怪しい。

ましてや、原作で猛威を奮う魔神だの超絶者だのの眼前にたって、3秒と生きられる自信は無い。困ったことに連中に殺される事は救いでは無い。

あいつらからしたら、死のうが魂のレベルであれこれ出来てしまうのだから。何かしらヤバイ事に使われ無いと確信は一切出来ない。

これは、逃避だ。現実から目を背けているだけだ。この世界は地獄だという事からの逃げだ。魔術の力なんて護身術程度でしか無い。

 

(嫌だ。もう痛いのは嫌だ。死ぬのは嫌だ。死んでも苦しいかも知れないのはもっと嫌だ。怖い、怖い、怖い、怖い、怖い)

みんなそうだ。あなただけでは無い。

わかっている。自分の本音は、みんなに共通している物だ。自分だけが苦しいわけじゃ無い。なのに悲劇のヒロインぶって、自分本位だ。

死ぬときは、安らかに。死んでも何も無い無であって欲しい。いや、せめて『納得』して死にたい。なのにこの世界に納得は無い。

 

「にがさ、な、い」  「嘘でしょ。いい加減にしてよ」

赤いドレスの白衣女が回収したはずの馬鹿女子高生が戻ってきた。プロテアーゼの攻撃を受けたのか、手の皮膚がふやけて、膨らんでいる。

 

「都合良く、服だけ溶かす薬みたいな物の逆なんて、気持ち悪いの!! 人肉だけ溶かす薬とか、マジで最低なの!」

「でもあんた、人の形維持してんじゃん。顔さえ崩れてないって、何、不注意で浴びた感じ?」

「手よりも大事な物があるの」

顔、いや頭を庇うためにとっさに手を犠牲にする。よくある話だ。けど、こいつがそんな奴か? とっさに能力を使う方があり得る。

 

「……能力が使えなくなった?」  「はっ、使えるの。ただ、おまえとの戦いで切り札をきっちゃって不自由なの」

お互い足下もおぼつかない。そもそも磐はボロボロで、用意してた霊装なんかの類いもほとんど残っていない。

ランドセルを背負った女子高生という出で立ちの女の子もそもそも一度彼女の味方に戦闘不能状態で回収されている。

もはや単なる意地だ。

 

「意地でここまでするかよ」  「するに決まっての! 一つくらい、まともに成し遂げられない奴なんて必要とされない!!」

「悲劇のヒロイン気取りか!」  

「悪いの!? 誰だって、自分に酔いたいときがある!! 自分だけが今一番世界で不幸な瞬間があると思わないとやっていられない時があるの! さんざんちやほやして、わたし頑張ったよ。一生懸命みんなの希望に応えられるように!! 『素養格付(パラメータリスト)』!? レベル5なみの予算を投入してもレベル3の欠陥品!? ふざけんな、わたしひっしにがんばったの!! 期待に応えられるように! それなのに一瞬でゴミみたいな目で人を見下して……ッ!! 金の無駄だって言われたの。せめて隠せよ、その言葉ァ!! ……捨てられるのはまだ良いの。『納得』がしたいの!!」

その言葉に、何故か、共感する。

 

「わたしを捨てるのはいいの。本当は悔しいけどわかるの。でも、でも、でも、金の無駄って言っといて次の研究対象は魔術!? ふざけるなその研究に何の意味がある。粛 正 さ れ る だ け な の に ッ!!」

そして、共感は一瞬でしぼんだ。

 

「やっぱり、あんた自分が可哀想でたまらないって『状況』によってるだけじゃん。何が自分に酔いたいときがあるだ。悲劇のヒロインって風景にイってるだけ。そりゃ、最初は納得したくて見捨てられて悲しかったかもしれない。でも今は捨てた奴をぶち殺せる立場になって、復讐だってもう終わってるだろうに、未だに見捨てられて悲しかったと叫び続ける。あんた、やっぱ可哀想な自分って状況が好きなだけじゃん」

「……おんなじ言葉を返すの。あんたは強い。生半可な魔術師よりよっぽど立派に魔術師をやってる。そこら辺の生ぬるいレベル3だのレベル4だのと激突したってたぶん勝てるの。でもあんたは何時だって怯えている。一体何に怯えているの? 世界? 自分は井の中の蛙じゃありません、世界の広さをしってまちゅよー! って? 何? そうやってヒーローを待つ悲劇のヒロインやってるなの?」

「「HAHAHA」」

震える両足。腰はふらふらで、笑い合う少女が2人。1人は鉄筋を杖代わりにしていて、もう1人は壊れた壁の残骸に手をついて立っている。

もはや激突する意味も無い。けれど、2人の声は重なった。

 

「「ぶっ殺す」」

最後の激突が始まった。

 

「ノウマク シッチリヤ ジビキャナン タタギャタナン(如来の皆々様、私帰依します)」

「精度22.1度で計算開始。エネルギーロス許容値は90%以上。対象物安全性判定クリア。実験環境安全性判定クリア。エネルギー変換の周囲影響の安全性クリアと見なす」

ランドセルの形状をした外部演算補助装置が作動する。演算能力が致命的に不足してたが故に、彼女の能力開発は予算の無駄遣いと判定された。

なら、その演算能力を外部補助出来たら? そのアプローチも結局は失敗した。そこまでやってもほんの一瞬だけレベル4にするのが限界点だった。

おまけにその一瞬は事実上の自爆技でしか無かった。彼女の能力開発の可能性にかけていた人々もそれで彼女から去った。

 

「沙門勝道、山水を歴りて玄珠をみがくひならびに序」

かの空海がとある先人が上人が至った境地にむけて放った言葉。術式が組み上がっていく。

演算が進んでいく。能力を最高出力で放つ為の演算が進む。

まるで映画か、はたまた特撮映画か。お互いが必殺技を解き放とうとにらみ合う。

 

「日系魔術って聞くけど、具体的になんなの?」  「は? ……まぁ冥土の土産に教えてあげようか。『修験道』の一種だよ。ちょっと系統が複雑だけどね。これ以上は秘密」

「なら、わたしからもおしえてあげるの。『エネルギー変換』なの。あるエネルギーをあるエネルギーに変換する能力。これ以上は秘密なの」

朗らかに、にらみ合いながらも言葉を交わす。

 

「「これはたぶん同族嫌悪」」

2人の言葉は重なる。重なり続ける。

 

「「悲劇のヒロインになりたい。なれば、ヒーローが助けてくれる」」

お互いに相手の顔面に向けて指を指す。指で拳銃の形を作って相手を指さし合う。

 

「「馬鹿馬鹿しい事はわかっている。でもそうありたい。そうじゃないと『納得』出来ない。このクソみたいな状況に」」

空気がゆがむ。場が止まる。風は鳴り止み、世界が軋む。

 

「「自分を見てくれる人は少ないけど、いる。自分は1人じゃ無い。けれど納得できない。このクソみたいな世界に。殴りたくても殴れない。敵が大きすぎる。だから――――」」

2人の声は、大きくなった。

 

「「――――悲劇のヒロインになれば、『主人公(ヒーロー)』が助けてくれる。代わりに殴ってくれる。世界を!! そう信じて、自分たちは『悲劇のヒロイン』として生き続けなきゃ

いけないんだから!!」」

 

位置エネルギーを運動エネルギーに変換。位置エネルギーとは、あくまでも便宜的な物理単位。重力や摩擦、空気抵抗から何から何まで。物体がその場に静止している

と言う状態は色々な物の釣り合いの結果。その釣り合いを便宜的にひとまとめに呼ぶ単位。

その釣り合いを……全部一つの方向性のエネルギーに変換する。それは、事実上の永久機関の完成形。

 

修験道。それは神道と呼ぶには仏教的すぎる。仏教と呼ぶには神道の気配が強すぎる。

山岳信仰とまとめるには単純化が過ぎる。道教のエッセンスもほんのわずかに混じっている。けれど日本的すぎる。

結局のところ強引にまとめてしまえば、日本仏教、神道に並ぶ第3の日本の民俗宗教と呼ぶのが適切かもしれない。

修験道にも色々な系統がある。系譜がある。元々は別の系譜だった物が合流する事もある。そうやって出来上がった修験道もどきもある。

 

永久機関を渇望され、だが見捨てられた『悲劇のヒロイン』が叫ぶ。

先祖代々田舎の神社の家系。だが、元をたどれば修験道系の魔術を操る修験者の家系。子孫に魔術を忘れられたハズの一族の『悲劇のヒロイン』が叫ぶ。

そう、『世界で一番不幸なのは自分だとか、ひたるなうざい』と。

だから、同族嫌悪。

自爆技の2度目の行使。今度は絶対に外さない。物体を静止させている尤もわかりやすい力は重力だ。摩擦力だ。自分の脚は大地に静止している。

アスファルトは大地に静止している。建物は大地に静止している。空気分子は動いている。けれど地球重力に捕まって地球に静止している。

全部、全部、全部変換する。物体の動いているエネルギーに変換する。水と空気だけで核融合反応が空中に『発生しかける』。いや、もしかしたら能力範囲全域?

 

「一応、聞いておくけど、引いてくれる?」  「それはこっちの台詞なの」

最後の確認は終わった。お互いに。

 

とある山があった。その山に旅の神様がやってきた。とある山に一夜の宿を願った。

けれど、その山は断った。別の山に行った。その山は暖かく迎えてくれた。

旅の神様は不親切な山に寒さと濃密な死の気配を与えた。以来、その山は死の世界にそびえる山の顔を持つ。

 

気温が不自然に下がる。10月から一気に1月へ気候風土が変化する。

 

「ああ、わかったの。あんたの魔術って、『富士講』なの、明治って時代に捨てられた宗教――――」

「――――ランドセルか。見捨てられた理由は何かが足りなかったから。それを補う手段か。小学生の頃から時計でも止まってんの?」

「白衣、その折り紙で作ったちっぽけな帽子? 富士山っぽく見せた服装なの。そんな程度の代物で異能が使えるんだから、デタラメなの」

膨らんだ手、プロテアーゼから何かを庇って腕を犠牲にしている。本能的に、とっさに頭を守った? いや、この娘は自分で言ったでは無いか。使えはすると。

つまり、それよりも優先度の高い物を守った。高校生にもなって未だに大事に持ち続けるランドセル。わかりやすいのはそれしか無い。

それは正しい、ランドセルの形状をした外部演算補助装置が彼女の生命線。

外部演算補助装置の助けの元で、空間常温核融合反応を能力の射程距離範囲全域で始まりつつ周辺の物質が崩壊していく。物質の元素さえも静止物として

無理矢理与えられた活動エネルギーは元素間の繋がりを断ち切り、バラバラに崩れ崩壊が始まっていく。

空気が震え、大地が呻き、たった1人の人間を殺す為に世界を凶器に変える。

 

「勝った」

磐が一言つぶやく。世界がたった1人を殺す為に凶器となったその場で、結局のところ同じ結末の繰り返しだった。

侵入者を排除する命令を受けている『帝政薬学』のもはやステージギミックと言える無人兵器『プロテアーゼ』は世界がグチャグチャになっていく惨状を見逃さない。

 

「ふざけんなぁぁああああ――――――ッ!!??」

ランドセル女がプロテアーゼに一瞬、視線を向けた。その一瞬で良かった。紙飛行機が飛ぶ。行き先はランドセル女の大事な大事なランドセル。

とっさに腕を盾にするランドセルを守るために。自分の命より大事な大事な、『外部演算補助装置(自分の価値を証明してくれるもの)』を。

ランドセルは背中にあるのだ。図らずもまるで万歳するようにも見えた。

 

杖代わりの鉄筋がランドセル女の顔面にぶつかる。

 

そして、磐の右拳が突き刺さった。決着にはそれだけで十分だった。色々と呪文を唱えはしたが、偉そうに術式という単語を使えるほどの代物では無い。

それでも、注目を自分に集めて周囲の状況に気づかせなくするくらいは十分だ。

 

「わかちゃんさまは、遭遇戦に弱いの。だって場を整えて戦うタイプだから、準備もクソも無いの。だから、助かったけど、ピンチかな」

プロテアーゼが自分たちに攻撃の矛先を――――向ける前に破壊された。

窒素装甲が、短機関銃が、そういう物が破壊した。

 

「なんか超恥ずかしい事になってた事気づいてます?」  「?」

「2人して超大声で叫んでいたじゃ無いですか。超シンデレラにあこがれる少女って年齢です?」

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