最終章 1.
1.
シンデレラ。それは世界的に有名な童話であり、シンデレラストーリーなどと、時に称される位にはメジャーなタイトルである。
シンデレラ。それは虐められてた女の子がきわめて理想的な王子様に見初められると言うある意味で立身出世を得る物語である。
尤もシンデレラは元々上流階級、おまけにシンデレラを虐めていた後妻とその連れ子達には残虐きわまりない報復が始まってハッピーエンドという話でもある。
「つまり、私はシンデレラでは無い! お嬢様って立場でも無いし、虐められていた訳でも無いし、復讐したい相手がいるわけでも無い、以上証明終了!!」
「超話が長くてうざったいです。超早口なのも超減点です」
必死に10代後半にもなってシンデレラに憧れる痛い女の子という烙印から逃げようとあれこれ理屈をつけるがばっさり切られる。
「まって、わかちゃんさまは本当にそういうのじゃなくて!!」
「大丈夫ですか? ものすごく顔色赤いですよ。ふらふらしてて倒れそうなのに」
本気で心配の声を上げるエステルに顔色を指摘されてさらに顔を真っ赤に染める。恥ずかしくてたまらない。
「本当にそういうんじゃないのぉ~」 「何でも良いが、本当に大丈夫か? 問題なく歩けるか?」
「……歩けると思う」
この場の唯一の成人男性、三宅が傷だらけの磐を心配し、同じく善意から磐の状態を気にするエステルの2人がかりで深刻な負傷は無いかと調べられる。
頭を強く打っていないか、骨にヒビなどは入っていないか、服の下で内出血が進んでいないかと。
「やっぱりこれは……」 「おまえ、脚の骨にヒビが入ってるぞ。これで走ったり跳ねたりしたら大惨事だ」
「えっ゛」 「アドレナリンの効果でしょうか。痛みを感じてないみたいですね」
「あっ、そう冷静に言われるとだんだんじわじわと……」
汚い悲鳴が上がるが、それを無視して周辺を警戒する郭がふと頭上を見上げて――目線があった。何かと。
すぐに拳銃を構えるが、こんなもの意味が無いことは本能が警告してくれている。
拳銃では無く、半蔵様のように暗器に絞るかと一瞬の悩み。と、そこで気づく。目線が消えたと。一瞬の悩みが出てしまうくらい、目線は一瞬だったのにそれに引きずられた。
「とにかく、ここから離れよう。もう何もかもグチャグチャの混乱状態だ。指揮系統は混乱している。関係者を全員検挙したいが、まずは指揮系統を立て直す事だ。
部隊に合流しないといけない。こいつもどうにかしないといけないしな」
そう言って台車に乗せられ、すっかり吐瀉物まみれになった白かったブレザーの女子高生を指さす。思わず何があったんだと困惑する磐。
窒素装甲の馬鹿力で引きちぎられ、短くなった鉄筋に周囲が内心どん引きしながら――どん引きされた側は怒った表情をしていた――それを当て木として利用し、ヒビの入った脚をダクトテープでぐるぐる巻きにする。
「なんだろう、明らかに変な集団になってる様な気がする」
壊れたコンクリートの建物由来の粉塵に汚れた『警備員』の成人男性が1人、明らかに戦場に似つかわしくない個性的な服装の美少女3人組に、ダクトテープ巻きに台車で運ばれる女子高生。同じく鉄筋を当て木にされた男子にも見える中性的な顔立ちの女子高生。カオスな集団である事はまず間違いない。
ちなみに、ランドセルを背負った女子高生という新たな厄ネタもダクトテープ巻きで台車に追加され、台車が狭そうである。
「チンドン屋?」
磐が思わず漏らした単語に郭が笑いをこらえる様におなかと口を押さえ、意味がわからない絹旗とエステルの2人組の表情に明らかなはてなマークが浮かぶ。
「……おまえなぁ……」
強く否定出来ない三宅が呆れたように声を出すが、それ以上にかける言葉は思いつかなかった。何しろ奇妙奇天烈集団なのは事実だ。
「…………聞かないの」 「おまえは悪いことをしたわけじゃ無い。なら尋問する必要は……いや、そもそもパスポート不所持やら傷害やらあるような……」
磐が、自分の叫びを聞いたはずの三宅に何故自分の事を詳しく聞かないのかと聞くが、三宅はそれを否定する。
聞いてなんの意味があるのかと。皆が取り合えず『帝政薬学』の出入り口ゲートに向かう中、一瞬黙った少女――磐――は意を決した様に自分について話し始める。
「きっかけは、実家の倉に秘密の部屋みたいな場所を見つけた事だった。ご先祖様は東洋系の魔術師でね、魔術師一族だったらしいんだ。明治時代あたりに魔術を忘れてただの田舎神社の神職一家になったみたいだけど、魔術師時代の遺産がそこに隠されていた」
「――!」
まず、その告解に反応を見せたのは同じ魔術師のエステル。
「ぶっ倒れたよ。家族に心配かけた。でもそれ以上の絶望が押し寄せてきたの。私が見たのは未来だった。尤もあり得る未来って奴。よほどのことが無い限り細部は違っても絶対にそうなるって感じの奴。東京から新幹線に乗ろうが飛行機に乗ろうが車で行こうが、目的地が大阪なら大阪にたどり着くみたいな感じの限りなく確定した未来の一つ。別に予知能力とかじゃ無いから、あれ以来見てないけど、十分すぎるほどの情報量を得た」
「超なんですかそれ、超世界の終わりでも見たんですか」
絹旗の軽口に軽い含み笑いで答える。それだけで全員が察した。何かこれから凄いことが起きて、世界がヤバイみたいな感じになるのだと。
ただし、魔術師のエステルはともかく他は全員半信半疑で話を聞く。確かに未来予知関係の能力はあるにはある。だが、精度は正直よろしくないのが普通だ。
そもそもそんな未来予知が出来るなら、とっくにレベル5として認められてもおかしくない。それほどの異常な話だ。
「でもね、それをなんとかしてくれる人物が一人だけいたの。彼の血反吐吐くような活躍でかろうじて世界はなんとかなるの。まるで物語の『
三宅は、いやその場にいた全員が彼女の表情を見る。何かがグチャグチャになった泣きそうな表情を。助けて欲しいと言う感情か、それとも自己嫌悪か、それともその『主人公(ヒーロー)』に憧れる1人の人間の表情か、あるいはただ1人の人間に重たい期待を抱く自分への軽蔑か。
「超自分がその『|主人公《ヒーロー)』になったら超良いじゃ無いですか。あなたは戦う力があるんでしょ。超弱気になってどうするんです」
絹旗がそう言ってくれるけど、磐の表情が晴れることは無い。
「『|主人公《ヒーロー)』は、今ロシアにいる。『
「ロシア……ですか」
思わず浜面達を思い浮かべる絹旗。それに気づいた磐が、一言「あっ、フレンダ以外のアイテムの面々返ってくるよ。なんか色々昼ドラ感あるけど」と言い出して絹旗の表情が固まる。昼ドラ? どういうことや。
ちなみにそのご神託がなされた場面に出くわした郭が期待したように見る。半蔵様とどうなりますか? と目線で聞いてくる。
「で、この場を切り抜ける未来予知は?」
目線を無視した三宅と磐が今の状況に未来予知がどの程度役に立つのかと。
「が、学園都市単位だとへ、平穏平和だから……」 「そっかー」
「肝心な時に超役に立たないじゃないですかー」 「うっさい! 世界がヤバイ方が情報の価値は上でしょ!!」
「それで、足下の石ころに躓くなら意味は無いのでは」 「うー」
「そ、その魔術師一族って事は、魂魄関係にも造詣あったりしませんか!?」
そろそろ入ってきても良いかとタイミングを見計らったエステルが入り込んできて、話題を変える。
「魂魄ぅ? まぁ、多少はだけど……たぶんそっちの方が上だと思うよ? 人造魂魄とか扱うでしょ、エステルさん。わかちゃんさまは……まぁ、『富士講』って奴が近いかな。富士山信仰。昔の人は山に特別な感情を抱いて、いわゆる山岳信仰って奴になる訳なんだけど、その中から特別富士山に限定してあーだこーだってのが富士講。まぁ、事情があってわかちゃんさまのはその中でも変わり種の系譜だから、主流派や直系組織って訳じゃ無いけど」
「富士山信仰です? あの富士山?」
エステルの疑問に対してちょっとした歴史小話で応じ始める磐に対して、そういうのに興味が無い面々は周囲を警戒しながら突き進む。