『とある線上の世界大戦』   作:ホエール

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第1章『Old Testament.14 魔術師シモンは天空より落下する――A_Girl_a_Teacher_and_War』



4.

  4.

 その『コバンザメは』はこってり絞られていた。

 

「どうして、戦地なんかにいるんだ! 学生証を出しなさい! 学園都市か?」  「いやーだー! へんたーい! JKの体に触れんな!!」

「おまえ、女子高生なのか! 中学生に見えるぞ、なんでこんな危ない場所にいるんだ!!」  

「と言うか、不用心だなこの子、財布落としていたぞ」

思わずその場の全員が目を見開き、女子生徒でさえマジ? と声を上げている。

 

「ふむふむ……聞いた事無い学校だ。多分学園都市じゃ無い。外の学校だ」

「なら余計ダメだろ! なんでこんな危ない場所で1人なんだ! 親とはぐれた観光客か?」

「黙秘権を行使します!!」  「きみ、その言葉の意味わかって使ってる??」

黙秘権は刑事事件の被疑者、あるいは裁判の証言者が自分に不利な発言を言わされないための権利である。

戦場のど真ん中に突如現れた女子高生が大人たちに叱られるのを拒否する権利ではない。

 

「とにかく、ここは危ないから、一緒に来なさい。親御さんたちのもとに帰してあげるから」

「とりあえずパスポートがあれば、この子がいつ何処からフランスに入国したかわかる。そこから探していけば……」

「だ、大丈夫かーだから!! 私は自分で帰れますぅ!!」

「そういうわけにはいかないって。あーわかったわかった。女の先生たち呼んできて! 顔見えない男集団に警戒しているのかも」

そんな風に彼女を気遣う同僚を見ながら三宅は連絡を取るために少しでも電波の感度を取ろうと少し壁から離れた瞬間だった。

女子高生が真っ先に反応した。彼女に突き飛ばされた同僚は一体何事か訳も分からず、だが、直後に走る衝撃波に気を失った。

同僚は少女とのコミュニケーションのために駆動鎧を脱いでいた。だからこそ、彼女程度の力で突き飛ばされた訳だが

 

故に、直撃を免れた。

 

一筋の光。その光をあてられた駆動鎧――同僚が脱いだ奴だ――の首がねじ切れてドラム缶を思わせる頭部がバラバラに降ってくる。

 

「敵襲ッ!? けいかいし――」

三宅がそう叫び武器を駆動鎧のグレネードランチャーを構えようとして

 

(どこからの攻撃だ?)

どこから光っている? 答えはそこら中から。飽和攻撃。

 

(な、なんなんだコレは!!)

まるで部屋全体が袋のネズミ。駆動鎧がねじ切れていく。それでも人間達がアンチスキルが無事なのは、折紙だった。

市販されている青い折紙が三角形に折られている。そんな程度の紙切れが風に煽られるように無数に天井より降っている。

光を三角形の折紙がはじいていく。まるで鏡のように。折紙をばらまいているのは女子高生。

 

「『即席原典もどき(I.I.テキスト)』!! ここに悪しき遠忌などもとより存在しない!!」

轟音。突如として響き渡った轟音が、光を切り裂いていく。音が光線を割っていく。不可思議な現象だった。明らかな異能の類いだった。

見れば、三宅以外の全員が倒れている。急ぎ、助け起こそうとして――

 

「――それは後回し!! みんな今は生きているから、ここを逃げなきゃダメ!!」

女子生徒が駆動鎧の指を必死につかんで叫ぶ。

 

「完全に無力化された人間は対象物じゃ無い! 難癖付けてダニエルが登場する前の状態を維持する術式!」

「な、何を訳のわからないことを!」

「旧約聖書! ダニエル書! スザンナという超美人でエロい人妻がクソスケベな長老2人組に難癖を付けられて処刑されかける。

そこに預言者ダニエルが現れ、長老達の発言の矛盾からスザンナの罪はでっち上げで長老達が悪者だと公衆の面前で見破る!

世界最古の推理小説なんて聖書学者がどや顔するエピソード! 要するに聖書をテーマにした相手を強制的に仮死状態にする異能!」

そこでやっと、三宅の意識が状況に追いついた。

異能。そう、これはタダの異能の現象なのだ。『学園都市の能力開発』と何も変わらない事象に過ぎない。

具体的な仕組みはよくわからないが、『聖書をテーマにした異能』、つまりスイッチ。自己の異能を制御するために組み込んだ

安全装置的暗示ギミックとして聖書を活用し、『相手を強制的に仮死状態にする』能力を制御していると言うことだろう。

かの噂に聞く精神系能力のレベル5第4位がリモコンを能力使用の基準としているように。

 

「なら、能力者本人をどうにかしてしまえば、仮死状態から解放されるか」

「えっ……ま、まぁ……そう言う理解で大丈夫かー」

「とにかく君だけでもまずここを脱出させて……」  「へっ!?」

「大丈夫だ。迷い込んだ? 子供が変な事にならないように守るのが大人の……それも学校教諭のするべき事だ」

「えっ……えっと……私はむしろ自分から飛び込んで――――」  

「――なら、なおのこと君のことを今のうちに助けなければ、悪い男に利用され捨てられるぞ」

大人は子供を守る義務がある。教師はそこから一歩進んで子供を導く責任がある。例え不十分であったとしても全く行わないと言う事だけは

断じて許されないと、語る三宅に戸惑う女子高生。一見するとクール系からの実は熱血教師の類との接触は完全に想定外だった。

 

「と、とにかくここを離れようよ! ここの人達は今しばらく大丈夫!!」

「そうか? いや……『強制的に仮死状態にする』異能って事は確かに無力化されたこいつ等は後回しになるか。やっちまうとしても後回しで良い」

「えっ……あっ、そっか……。単に結界を張ったから、ちょっとの間くらいならって意味だったけど、言われてみれば確かに」

そんなわけで2人組は部屋から出て、外を目指す。仲間達を助けるためにもそして少女を守るためにも増援と合流し戦力を立て直す必要がある。

 

「一応聞いておこう君の名前は?」

学生証が入った財布を落とすポンコツ少女であるが、こういうのはちゃんと本人に言わせるのが大事だと三宅は思う。

 

「私は、『富上 磐(とがみ・わか)』。わかちゃんさまは現役JKで一応『魔術師』を名乗らせて貰ってるよ! こう見えて一流なのだ! 自称だけど」

変な形容詞がついてきた。

 

「そう、だから、わかちゃんさまはこう見えて、特別。つまりは、こんなところにいきなりJKが現れるハズない。

だからここにはJKなんていなかった。そう、誰にも――――」

「――そういう催眠状態を誘発する小技は通じないぞ」

自称魔術師の女子生徒の怪しげな指使いと視線誘導の技術は、暗示療法なども用いて能力開発を行う学園都市の教師には通じない。

女子生徒の額を駆動鎧の右手小指1本で軽く押して動きをとめさせる。

 

「なななっ、なんでぇ!?」  

「だから、学園都市の教師相手に催眠術の真似事なんてするんじゃない。まぁ、昔ながらの5円玉揺らしてやるような奴じゃなくてガチだから驚いたけど」

そのまま女子生徒、中学生に見える女子高生の額を装甲版の指で押さえて彼女の動きを止めながら、お説教モードのアンチスキル(高校国語教諭)の三宅が、

だがしかし、すぐさま切り替える。このようなことをしている時間はない。

 

「とにかく、君のことを保護させてもらう。中二病こじらせてないでこちらの指示に従ってもらう」

「ちゅうにっ!? いや、まぁ、わかるけど、わかるけどぉ! 私本当に魔術師ィ!! ほら、見てよ!」

彼女が突き出した右手、指先に火がともる。

 

「ライターか? どちらにせよ危ない手品でどや顔しないように」  「ちがーう!! ほら、見てよ両手両腕なんもないでしょ!! 種も仕掛けもなーい」

「手品のうたい文句だな」  「…………と、とにかく私は『魔術師』。要するに『学園都市外の能力開発』の1人だよ! ローマじゃないけどね」

「……そういう言い訳か? なんにせよ、あとで女性の先生方にお願いしてちゃんとしっかりみっちりお説教してもらわないと」

「ヒィっ!?」

そんな漫才のようなやり取りが繰り返されながらも2人は周囲を警戒するように周辺の状況をうかがいながら移動を開始する。

女子高生の下手なごまかしの作り話を聞きながら、三宅は考える。

相手を仮死状態にさせる異能の持ち主が近くにいるはずだ。必ずこちらを標的にする何らかのトリックがあるはずである。

対象物の姿を見ることなく、能力を発動させるのはよほどの何かがない限り難しいのは学園都市の能力開発でも度々研究課題に挙げられている。

要するにどこに何があるかわからない状態で遠くの物体に異能を作用させるのは極めて難しいのだ。

だとすれば……

 

(あの部屋自体が、そういう部屋だった? 監視カメラやセンサーが張り巡らされていてそれで照準補助を行う)

だとすればここは本当に危ない。建物全体がそうである可能性が常について回る。踏み込むのではなく最初から爆撃するべきだった。

 

(仲間たちの救出作戦はこの際、建物の保全を考えずにやるべきだな)

そう考えていたら、女子生徒が駆動鎧を押し倒そうと肩からぶつかってきた。その程度ではサスペンションや人工筋肉がびくともせず逆に彼女がはじき返される。

いったい何事か、そう思った次の瞬間、一筋の光線が駆動鎧の装甲にあたって砕ける。

 

「くそっ!」

瞬発的に光線の発生源にグレネードをぶち込み、駆動鎧の装甲でどうにかなる相手であったことに安堵する。

だが、光線は一つではない。次の光線がはなたれ、装甲版の表層に異常が発生し始める。グレネードを次々とぶち込んでいく。

囲まれている。そう理解するのに時間は必要なかった。

場所はエントランスとでも言えばいいのか。2階へと上がる階段が左右に取り付けられた吹き抜け状の空間。その上層より次々と光線を放つ奴らがいる。

幸い、光線は9ミリ拳銃弾より威力が弱いようだが、それにしては装甲版の異常を知らせるポップアップが止まらない。

何か特殊な付随効果があるようだ。

 

「『即席原典もどき(I.I.テキスト)』っ!! 悪縁は断ち切られるもの!」

折り紙だった。それもいわゆる折り鶴。それが無数に繋がったもの。千羽鶴と呼ばれるような無数の折り鶴がつながったもの。

女子生徒が放ったそれはまるで蛇のようにくねり動き、そしてつながりが失われバラバラに、一つ一つの折り鶴になって頭上から降り注ぐ。

たったそれだけのことで、光線がそれていく。

 

「『即席原典もどき(I.I.テキスト)っ!! ここに悪しき遠忌などもとより存在しない!!」

防御、そして反撃。呪詛返しという名のカウンター術式の発動により、謎の光線の類が空中から突然現れ次々と敵へと着弾する。

 

「早くこっち!! 戦いは数だよ!! そしてこっちは2人!」

多勢に無勢と言いたいらしい。

 

「いったい何をした!!」  「だから、言ったじゃん。私は『魔術師』だって。『学園都市外の能力開発』の類だって。あいつらじゃないけど」

2人は移動する。どのみち周囲を敵に囲まれて不利だったのは事実だ。

 

「ここは明るすぎる。1分でいいからここで足止めして!」

適当な大部屋に入った瞬間そういう彼女。彼女は照明を次々とスタンバトン、いわゆる電磁警棒で破壊していく。

指示に従い、三宅は大部屋の扉から駆動鎧の顔をだし、グレネードを発射する。

 

「おまえ! そんな危ないものを! 今だけは見なかったことにしてやるが、終わったらさっさと捨てろよ! じゃないと説教項目が増えるぞ!」  

「そういう状況じゃないしー! 熱血教師うざーいって絶対思われてるよぉー! 乞ふ、権現様のお力借りしたひ」

そんなことをお互い叫びながら、女子生徒は何かの準備を始めている。それが何を意味しているのか三宅にはよくわからないが、何かの異能を行使する

テクニックなのは嫌でも想像がつく。下準備が必要な異能なのだろう。いささか学園都市の『能力開発』を基準にすると少し不便に見える。

千羽鶴を取り出し、いくらかばらまいていく。

扉の周辺には白い折り鶴を、少し離れたところに黒い折り鶴……といった感じに色分けし、チョークのような何かで床をひっかく。

そして、窓を閉め、一番最奥の別の部屋に通じる扉だけ少し開ける。こうして暗い部屋に一筋の光が差し込む空間の出来上がり。

 

「大丈夫かー? もういいよ。こっちはやく!」

駆動鎧のエラー表示が止まらない。その言葉に体が反応したようですぐさまその場を離れると、すかさず十字教の祭服集団が踏み込んでくる。

さすがに扉前の折り鶴には警戒しているようで、それらを踏まないように注意を払って動く。折り鶴とは別にひっかいたような〇×△□がところどころ

床にはあるが、折り鶴のほうがいっぱいだ。

ふと祭服の1人がすぐそばの壁を見る。そこにも折り鶴がセロハンテープのようなものでくっついている。そしてその折り鶴の周りを水性マジックのような

何かで〇×△□をかこっている。

 

「『黄金』……水の象徴術式?」

祭服の1人が三角形で囲まれた折り鶴を見て、つい口に出した。

 

「違うよ」

少女の声がした。声の方向を見ながら急ぎ机や椅子などで身を隠す。

一筋の光。奥の扉が少しだけ開いて、そこから入る光と闇のコントラストがまるで絵画のようだ。

 

「ここまでおいでー!」

そう言って扉の向こうに姿を隠し、扉を閉じる。さすがにいらっときた。

罠にだけは警戒しながらも早足駆け足で移動し、扉を開ける。扉の向こうより光が見えて――――

 

――保持していた霊装が一斉に爆発し、爆発とは関係なしに全員泡を吹いて倒れた。

 

「な、なんだこれ……。君がやったのか。BC兵装でも持っているのか?」

少し前に見た、吐瀉物まみれで虚ろな目をした人々が重なる。と言うかアレそのものだ。

 

「BCへーそー??」  「生化学兵器、要するに生物兵器や毒ガスとか」

「そんなんじゃ無いよ。『魔術』だよ『魔術』。学園都市の偉い人達なら昔から存在だけは知ってるはずだよ。と言うか

学園都市の正体が『対魔術兵器開発研究所』みたいなもんだし」

「は?」

「『魔術』って異能は昔からあって、それに対抗する研究として学園都市の『能力開発』は始まった感じで、順番が違うんだよ。

まず最初に『魔術』って『学園都市外の能力開発』があって、特許の網の目をくぐるような感じでそいつ等に抵触しない

『異能』として『能力開発』を初めて、今度はその成果を元に『魔術』を叩き潰せる武器を作る場所。それが学園都市」

いきなり何を言い出すのか、この小娘は。聞いたこともない学園都市の内情(?)をぺらぺらと言い出す女子生徒は、ただし何らかの『異能』を行使する者で

何かしら特殊な情報源を有していてもおかしくはない可能性に思い至る。『学園都市外の能力開発』の当事者の言葉だ。

少しばかし、彼女の言葉にも耳をかたむけた方が良いかもしれない。『魔術師』なる言葉に。

 

「わかります。あなた方ですね。やっと見つけましたよ」

そこに、木靴の足音が聞こえてきた。

ローマ正教の司祭の服装をしている男が姿を見せる。こんな時でも大きなボディランゲージをして、自分がここに急いできたのだと言う雰囲気を

敵であるハズの三宅の女子生徒にもわかりやすく教えてくれる。こんな時でも無ければ近所の面白おじさんみたいな存在として見れたかもしれない。

 

「『即席原典もどき(I.I.テキスト)』、ここに悪しきえ――――」

「――あなたですね。学園都市のコバンザメ、火事場泥棒は」

何をされたのか、彼女はわからなかった。

 

 

 

「クソっ!」

三宅はすぐさまグレネードを撃ち込むが、2発目の引き金を引くことが出来なかった。なぜなら駆動鎧ごと崩れ落ちるように大地に真正面から叩きつけられていたからだ。

仰向けの『駆動鎧(パワードスーツ)』からは、いい加減ガタが来ているのか三宅眼前のディスプレイには警告表示が鳴りやまない。

 

「おや? いえ、わかります。その機械甲冑はさすがですね。かなり強引にやったはずですが、思ってたような痛打を与えていない。

そこのコバンザメ、異教の魔術師はいまだに立てないというのに」

グレネードの噴煙と破壊の土埃を突き破るように2人の前に現れたのはローマ正教の司祭の服装に身を包んだ人物。

相も変わらず身振り手振りの大きな男だった。今もせわしなく言葉に合わせるように手指が動きまくっている。

 

「ですが、今と同じことを例えば、3連撃して、その機械甲冑は一切問題なく起動するのでしょうか? あるいはその中のあなたは?」

ヤバイ。直感だった。狙いもつけずにグレネードランチャーの引き金を引く。当然グレネードは仰向けの『駆動鎧』の腕から発射されるのだ。

本来の用途からすれば明後日の方向、例えばすぐそばの壁を爆破する。崩落する壁、その瓦礫が駆動鎧めがけて落ちる。

けれどその土埃やいくらかの瓦礫は爆破の衝撃でまるで散弾のように飛び散る。それは結果的に小さな攻撃と煙幕を兼ねていた。

『駆動鎧』ごと自分も瓦礫に埋まる。だが、逆に言えばそれだけだ。少し起き上がるのに手間がかかるが、まだマシのハズだ。

そう考え、起き上がる。そして、いまだうめき声をあげている少女をその腕の中に包み込むように持ち上げて走り出す。

『駆動鎧』の機能はちゃんと発揮され、崩落した壁の穴より建物の外へと一気に跳躍。地面のアスファルトを割りながらなんとか降り立った。

 

「こ、ここはダメ! た、た、かえない!」

だが、せっかく外に脱出できたのに、抱え込んでいる少女は言う。

 

「ここは明るすぎる! 低すぎる! 私の術式では完全な効果を保証できない!」  「舌をかむぞ。口を閉じろ」

だが、脱出に成功した以上、三宅としてはこのまま少女を戦わせるつもりなど無かった。あくまでも緊急避難でしか無かったのだ。

一度仲間と合流し彼女を預けてから、建物に置いたままの仲間達の救出に向かう。

彼女のアドバイスを聞くことはあれど、直接戦わせる必要性は無い。

駆動鎧の脚部ユニットが足の動きを増幅し、再び跳躍する。だが、その次の瞬間、駆動鎧は大地にたたき落とされた。

ジャイロモーターと安全装置が金切り声を上げて、必死に三宅を守ろうとする。三宅は三宅でとっさに鋼鉄の腕の中の少女をかばおうとする。

そして、駆動鎧のシステムは完全に沈黙した。

 

「く、そっが……ッ!」

なんとか、中から這い出る。色々と装甲板事態がもろくなっていたせいか、普通なら出るだけでかかる苦労が少しだけ緩和されている。

尤も駆動鎧は完全に壊れてしまっているので、それはそれで別の苦労があるが。

 

「なるほど、わかります。その高さですね。だいぶ痛んでいた事もあるでしょうが、その高さですと機械甲冑も限界だと。大変よくわかります」

崩落した壁の向こう側から、木靴の司祭服の男がこちらを見下ろしている。相変わらずボディランゲージの激しい男だった。

ふと何故か、変な事が気になった。あの指の形……なんで手話の数字の形をしているんだろ。

体は訓練通りに拳銃を構えている。だが、グレネードの爆発を耐えきる人間相手にこんな豆鉄砲で何が出来るのかと不安が襲ってくる。

 

(100……7……)

嫌な予感がした。司祭服の男の指が100の位と7を意味したとき猛烈に嫌な予感がした。そして、173と数字が完成した次の瞬間、頭から

三宅は大地にたたきつけられていた。

 

(な、なんでまだ、死んでいない。頭から、地面に突っ込んで。くそっ、意識が、173……俺の身長……な、んで)

ふと、思った。少女は無事か。彼女はまだ未成年だ。学生だ。しかもここは日本では無い。

 

(意識を手放すな、俺は教師だろ。責任ある大人だろ! 学生を守れッ!!)

「おおっ! 起き上がりますか! わかりません。これは人体の神秘? どちらにせよ、あなたは凄いと言う事しかわかりません」

「うるさい、黙れ! おとなしく武装解除し、降伏せよ、手を開いて両手を見せながらまずひざまずけ!」

「それはわかりません」

その大柄なボディーランゲージは指の形を隠す意図か? 再び指の形が100、次に7、次の瞬間彼は匍匐状態に変化した。

173と言う数字の完成。しかし何も起きない。

だが、相手は顔色を変えず新たに数字の手話を追加する。すぐさま立ち上がる。何も起きない。

 

「わかります。わかります。どうやらこちらの動きが見切られたご様子」

「『頭の高さ』を基準点に照準を定めている。国際手話の数字で、よくわからないがそう言う異能だな?」

「素晴らしい。実に残念です。あなたのようなかたを生きて返す訳には行かなくなった。この悲しみは実にわかりたくありません」

木靴の司祭服はどうやら本気でそう思っている様で涙らしき物を指で取り払う。

 

だが、その指の形は明らかに100を意味していて

 

引き金を引く。こんなごまかし何時までも通用しない。手を後ろに回し、指を数字にされてはこちらは指が見えないのでなすすべも無い。

だから、牽制する。当たらなくても銃弾を警戒して下がってくれればそれでいい。

屈伸しながら移動すればそれだけで『照準』は外れる!

 

「わかりませんよぉ! そんな豆鉄砲ではぁああ!」

「でも十分だ」

拳銃の銃声を感知。それも学園都市製のそれを察知し、仲間達に呼び出されながらも次の指示が無いために待機モードで3~4分ほど

飛行していた無人兵器『四枚羽』が拳銃の銃声から敵味方を瞬時に識別、飛びながら攻撃を仕掛けてきた。

 

「ぐっ! これは!」

四枚羽の火力が状況をリセットする。爆発音と爆轟の中、三宅は少女を担ぎ上げながらその場をなんとか後にしたのだから。

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