『とある線上の世界大戦』   作:ホエール

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最終章 8.

   8.

 子供達を助ける。大人なら誰もがその使命感に燃える瞬間がある。少なくとも燃えに燃えている人間達が集結している。

『王様』とやらに向けられる無数の銃口。『王様』とやらに向けられた能力者達の視線。

警備員、制圧に巻き込まれなかった風紀委員、その他色々が集結している。当然のように磐を含めた4人娘ともはや保護者みたいな立ち位置の三宅もいる。

 

対する『王様』――半裸の黒人男性で、全身に入れ墨が彫られ、もはやギリシャ彫刻を思わせる――には、1人の女性が付き添っている。

北斗七星の入れ墨が顔に入れられた女性だった。磐が一度勝ったハズの女だった。

 

「……『陣』をはる魔術師がわざわざやってきて、猊下に勝てるつもり?」

北斗七星の女が磐に向けて口を開き、それに対して無視された銃口より銃弾が飛び出す。けれども銃弾は決して2人組の魔術師をとらえない。

 

「『即席原典もどき(I.I.テキスト)』っ!! 悪縁は断ち切られるもの」

銃弾が不自然に曲がり、撃った警備員達を打ち抜く前に、磐の防御魔術が異能の力で不自然に飛ぶ方向を曲げられた銃弾が落ちていく。

幻想殺しでは無いが、魔術の力で生じた攻撃から瞬間的な防御を行う、磐の術式はちゃんと機能した。

 

「ふん。銃弾が無意味である事を理解出来たか」

黒人男女の魔術師達がともに腕を振り上げる。それだけで、台風を思わせる暴風が戦場に吹き荒れる。

4色のリボンは『王様』とやらの体表に結びつき、暴風の中に氷の粒が混じる。粒は空中で粒同士に衝突するが決して砕けず成長し巨大な氷の塊へと変貌する。

空から降り注ぐ物であったら雹と呼べたが人の目の前で形成されていく氷の塊はまるで雹のように降り注ぎながら、明らかに雹とは呼べなかった。

 

「クソ! 撃てぇ!」  「待つじゃん! 子供達が巻き込まれ――――」

――『警備員』が持ち込んだ兵器の一つ、2両のHsMCV-08プレデターオクトパスが無人稼働し、120ミリ戦車砲と12.7ミリ重機関銃がともに火を噴く。

8輪の次世代機動戦闘車両は遠隔操作による無人化可能な装輪装甲車であり、2両以外にも遠方から続々と終結しつつあるが、まずは先鋒として飛び込んできた2両は遠慮無しに連射しながら2人組のいる当りに突撃を敢行した。

そう、万が一、万が一無事だったとしても重量20トン以上の代物がスピードをつけて殴ってくるのである。120ミリ戦車砲弾の威力に耐えられる人間は存在しないし、仮に何かしらの方法で耐えたとしても突撃まで敢行されてはまともには防御不能だ。おまけに120ミリ戦車砲弾より圧倒的に弱いと言えど50口径、12.7ミリ重機関銃の弾幕付き。どこぞのアニメのバリアのような物で守っていたとしてこうも継続的に圧力をかけられてはいずれは破れる。

『魔術師』とやらがどんな存在かわからないが故に、下手な能力者を超えた人型猛獣殺しとして対応すると言うのが『警備員』のちょっと上の考え。

 

「これで無事なら火力を増強して」  「そうじゃないじゃん! 子供達が巻き込まれる!」

「おばさん、まだ生きてるッ!!」

4人組の『風紀委員(ジャッチメント)』がどこから持ち出したのか、ライフルの引き金を引く。何処の支部の連中か、なんでそんな物があるんだとつい叫びたくなった黄泉川だったが、2両の装甲車が自らの120ミリ砲弾に打ち抜かれ爆発炎上する衝撃波にそれどころじゃ無くなった。

4人組の風紀委員の1人が能力を駆使して爆破炎上する車両の電気機器をさらに爆弾に変えて攻撃を続行するが――

 

「――故郷は蠍座にある」

爆轟は、届かない。雹、いや氷の塊が砲弾のように次々と飛んでくる。ライフル弾も届かない。代わりにライフル弾が奇妙な、もはや弾道機動とはとうてい呼べない無茶苦茶な

飛び方で跳ね返ってくる。

 

「あたかも罪を犯せる者が如く」

黒人女性の……北斗七星の女の呪文詠唱。

 

「machinamenta 星々は大地と太陽とともにある」  「『全ての物理的真実のみならず、最も重視すべき聖書の権威にも違反している』だっけ?」

その詠唱の最後に唐突に言葉が追加された。

 

「ティコ・ブラーエの折衷的学説。あんたの詠唱にある『machinamenta』って単語のおかげでたどり着けた」

 

 

 

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『わかちゃん、どうしたのいきなり電話してきて』  

「ひーちゃん! 聞いて良い!? 天文学とか、大好きなひーちゃんなら知っているんじゃ無い!? 第八天だのmachinamentaとか蠍座があれこれだーとか!」

『? ガリレオ・ガリレイがティコ・ブラーエの折衷的学説と戦った話の事?』

 

『正直さ、天文学や数学のガチ論争って今の人だって知らないし、知っててもぶっちゃけどうでもいいじゃん』

「まぁ、それはそう」  『だからさ、実はあの時代の学術論争は実際には三国志だったんだよ。天動説、地動説、そして折衷的学説ことティコの体系』

「……ああ、折衷の法ってやつ?」  『中世日本でよく言われた奴だね。でもそれに似てるけどちょっと違うよ』

 

『よくさ、天動説VS地動説っていう風に語られるけど、実際には天動説、地動説、折衷説の三つ巴。そして、よくよく考えてよ。世の中の庶民にとってこの三つ巴ってそんな興味のわくこと?』

 

『世の中の一般人や普通の偉い人たちはその辺の論争は正直どうでもよくて、それで折衷的学説を支持したの。ティコの宇宙体系って言われてて、ティコ・ブラーエって人が提唱したもの。太陽と地球がお互いそれぞれの周りをまわっているっていうもの。

ガリレオの時代だと学者たちには数学的に無理があるって思われてたけど、一般には地味にこっちが主流派だったんだ。だからガリレオは天動説と何よりも折衷的学説を批判する「偽金鑑定官」って本を書いて徹底的にその辺を支持する人たちをボコってる』

 

『ティコ・ブラーエはデンマークの天文学者で、地味に天文学の歴史に凄い業績がある人なんだけど同時に神学者で、聖書片手に当時としては超科学的な観測を行って、折衷的学説を提示したの。geoheliocentricism、あるいはmachinamenta、地球の周りを月と太陽が回ってて他の惑星は太陽を回っているみたいな感じ』

 

『学者レベルだとそれこそ2000年前からとっくに地球が丸くて、太陽の周りを回っているなんてみんな知ってて当然の話でしか無かった。でも困ったことにね地球は言うほどきれいな球じゃないし、太陽の周りをきれいに回っている訳じゃ無い。楕円軌道。だからね、地動説ってその辺の変数をちゃんと組み込まないとゴミみたいなカレンダーしか作れないの。それよりは天動説の方がまだ誤差の少ないカレンダーが楽に作れちゃう。元々はそういう裏事情をちゃんと把握してた人がいたはず何だけど』

 

『裏事情を知ってた人がいなくなった頃と天体観測技術が進歩したの重なったのが運の尽き。あと神学って奴が天動説を主張してたプトレマイオスの影響を強く受けすぎてたのも良くなかった。天動説を否定することは、プトレマイオスを否定することで、プトレマイオスの影響にある色々な物の信頼性が全部揺らいじゃう。

こうして天動説と地動説の場外乱闘含めた戦争が始まってそこに現れたのが天文学者として金字塔を打ち立てたティコ・ブラーエ。

だから、ガリレオ・ガリレイって宗教裁判で負けたって言われるけど少なくともティコ・ブラーエの宇宙体系を公式から滅ぼすことに成功したって意味では勝ったんだよ。

裁判で教会は折衷的学説が正しくないことを認めた訳だから、ティコ曰く「machinamenta」って言う宇宙体系を滅ぼすことだけは成功したの』

 

「蠍座は? そのmachinamentaに、蠍座はどんな意味があるの?」 

『machinamentaって単語だけなら哲学用語なんだけど……ティコの宇宙論って意味のmachinamentaだと蠍座はすべての「彗星」の出発点だよ。彗星はティコ・ブラーエの業績の一つで、それまで彗星は気象現象だと思われたんだけど、膨大かつ精密な観測結果を基に天文現象だと立証したの。まぁそれに続いてすべての彗星は蠍座、もしくはその周辺から来てる! って断言しちゃったから、ガリレオがそこに論破の突破口を見いだしたんだけど』

 

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「『グラッシ神父の大きな間違いはティコを信奉したことである』」  「ガリレオの言葉を借りた程度でどうにかなると思っているの?」

すべての銃弾を彗星に見立てる。大気中の物理学現象を弾道軌道を描く天文現象へと変換し、さらには出発点を蠍座に定義。

自分を地球として定義し、自分の隣にあるはずの太陽を中心に銃弾や砲弾は必ずスイングバイして、銃口や砲門の方角へと殺到する。

ローマ正教が一度は『真実』に限りなく近いと定義した、折衷的学説、machinamentaは立派な一つの天文的神話。

 

「視差の観測に基づく論拠に基づいて、進路と運動に基づく論拠によって、筒眼鏡で観測した事項に基づいて、星々は大地と太陽とともにある」

殺到する追加の3両のHsMCV-08プレデターオクトパスは120ミリ戦車砲と12.7ミリを撃ち込みながらやはり前回と同じように突撃を行う。

プレデターオクトパスは惑星に見立てられた。固有運動、第二天より第八天、すなわち水星天より恒星天の運動法則に基づき、プレデターオクトパスは突撃前に奇妙な円軌道を描いて横移動して、やってきた彗星、すなわち自らが放った砲弾に打ち抜かれていく。

圧倒だった。北斗七星の入れ墨が顔に入った黒人女性の魔術師はそこにいるだけで、勝手に学園都市自慢の無人兵器が吹き飛んでいく。

考えてみれば、今日1日、拉致専門の暗部組織との戦いが始まって今に至るまで戦いが続いている。夕日が沈み始めている。

時間はもうすぐ夜を迎える。

 

「『即席原典もどき(I.I.テキスト)』っ!! 悪縁は断ち切られるもの」

磐の防御術式が魔術の力を加えられた無茶苦茶な弾道軌道を破綻させる。磐なりに魔術で再現した劣化幻想殺し的な防御術式。

文字通り、縁切りの術式をベースにしていて、魔術と言う悪縁から逃れる逃避の術式。

けれど、所詮は劣化幻想殺しで、あくまでも魔術にしか対応していない。そもそも目的が防御だ。

効力範囲は言うほど大きく無いし、一度に対応出来る物にも限度はある。魔術によって強化されてるだけの物理攻撃なら物理攻撃そのものは消えない。

プレデターオクトパスの1両がぶん回しから解放されるが、回っていた間の遠心力で明後日の方向に飛んでいく。

と、そんな黒人女性上空に何かが落ちてくる。ゼラチン質にも見える何かの塊だ。科学サイドの頂点の切り札がプレデターオクトパスだけですむはずが無い。

自由落下する流体を防御しようとそれもまた彗星として定義。第二天より第八天の固有運動を強制的にして弾道軌道で射出点に跳ね返して――

 

「――――なにッ!?」

ゼラチン質のそれは空中で爆発するように大量に広がっていく。強引な弾道運動に流体状物質が液体の性質を発揮してはじけた。

 

「よくわかんないけど『強アルカリ性衝撃拡散流体』って言うらしいよ。衝撃を加えると液体の性質を見せる固体、つまりは流体。元々吹き付けるときは液体、

拭き取るときには固まっている簡単な洗浄剤として開発されたらしいね。液体も弾道軌道出来そう?」

「塵芥の山よ。引き受けるのは一人だ」

なるほど、黒人女性1人だけなら、有効な兵器だったかも知れない。だが、その場には『王様』とやらもいる。

王様の四色のリボンがその色の並びを変更する。全身に描かれた入れ墨は世界を構成する要素を分解し提示する世界の最小模型。

アルカリ性の流体化学兵器は2人を傷つけること無く、プレデターオクトパスの装甲板をその強いアルカリ性で腐食させていく。

そして、異臭が立ちこめた。

 

「良き雨がふり、幸運が村を覆い尽くし、国を覆い尽くす」

アルカリ性の流体が雨あられのように降り注いだはずにもかかわらず、2人組には一切の被害が無く、逆に強アルカリ性の流体を封じ込めた氷の塊が、礫となって次々と打ち出されてくる。『警備員(アンチスキル)』の防御用の盾は1発目は耐えても2発目でそのアルカリ性成分により、音を立てて異臭をさせ、明らかに腐食が進む。

魔術師2人が一歩前に踏み出す。『風紀委員(ジャッチメント)』の4人組が『小惑星想定戦略防衛レーザー攻撃』をぶちかまし、光線の本流が2人組を飲み込み戦場に新たな一本の道を形成する。その道は何かの破壊の跡。レーザー攻撃によって出来上がった一本道の矛先に――

 

「――いないっ!」

白いブレザーの風紀委員の1人が、自分たちの合体必殺技が破られた事を考えて散会の為に動く。

仮にも小惑星を想定したレーザー攻撃だ。人間に向ければ肉片さえ残らない。だが、何事も例外はある。レベル5第4位に真っ正面からこの4人の能力を組み合わせて実現させた合体必殺技を打ち破られた事があるのだ。レベル5級の脅威対象は死亡をこの目で確認するまで油断してはならない。

 

「そこにいるじゃん!」

黒人女性が1人、いつの間に回ったのか4人組の後ろにいて、1人を捕まえようと腕を伸ばしている。

その腕をつかむのは黄泉川。

 

「離せッ!」

格闘戦が始まった。流れこそ違ったが、実は当初の予定通り。

 

 

 

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『ティコ・ブラーエの魔術は私がなんとかする。せいぜい2~3発ほど不発させる程度だろうけど後は、距離を詰めて格闘戦で出来ませんか?』

「いきなり電話がきて、何事かと思ったらさらによくわからない単語がでてくるじゃん。魔術? ティコ・ブラーエ? なんじゃん?」

 

『第12学区の研究者に聞きたいんですけど、そっちに伝手はありますか!?』

「宗教研究学区から話を聞きたい?? 一体何が目的じゃん?」

 

『配備された無人兵器で打倒できないとき、次は何をしますか?』

「より強力な兵器と搦め手を駆使することになるじゃん」

 

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黄泉川の握られた握り拳が北斗七星の入れ墨の入った顔面に突き刺さる。

魔術師は近代兵器に弱い。魔術師は武術に弱い。魔術師は軍隊に弱い。

本来、魔術師は己の魔術を極めて人生の目的を達成しようとする人間だ。本質はマッドサイエンティストの特殊分野バージョンだ。

でも、だからこそ戦える魔術師というのは少数派になるし、その少数派だって、重火器で武装した集団相手に勝てるのはさらに少なくなる。

『原作』に登場する魔術師達は全員、さらに少ない準備次第でレベル5と戦える奴らばかりだ。

外伝作品などまで見ていくと、魔術師達の大部分が本気の近代軍隊とやり合うと負ける奴らだと言うことがわかってしまう。

例えば『超電磁砲:学芸都市編』で、とある魔術結社は米軍相手にドンパチを繰り返していた。だが、最初は良い勝負してたのに劣勢になっていた。

 

「はなせぇええ!!」  「離さないじゃん!!」

チェーンデスマッチ。手錠の片方が黒人女性につけられ、もう片方が黄泉川につながれる。

これが、攻略法。やってくる物体を惑星に定義、ティコ・ブラーエの宇宙論に基づいて大暴れ。なら人間が接近して武術で制圧してしまえば良い。

 

「なんとも野蛮な。この『王』が――――」  「――何が王様ですか!」

絹旗が窒素装甲によって固められた防御と強化された拳を『王様』を名乗る男に向けて突き立てる。

接近戦。それが、この2人組を攻略する最良の方法として見いだされた攻略法だった。

 

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