『とある線上の世界大戦』   作:ホエール

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最終章 9.

   9.

 土塊。土が被せられる。生まれたときより、いつか、この瞬間が来ることは覚悟していた。一族がそういう物だからだ。

2メートルはある縦穴だった。2メートルくらいの深さのある掘られた穴だった。頼りない木のはしごが命綱。

穴の底に横たわり、星明かりを見る。

 

即位式。『王族』が玉座に座り王冠をかぶった姿を見せ、新たな王様の誕生を見せる、知らせる儀式。

けれど、それがその姿形に至るまで様々な流れを踏んでいることは多い。

かつて、イギリスの王様は触れるだけで病を癒やすという信じられてきた時代があった。その時代の王様達は幸せだったか?

かつて、とあるアフリカの氏族の王様は王様になるために氏族みんなから呪いと憎悪の言葉を投げかけられ、死ぬことを喜ばれた。

 

生き埋め。生きながらにして、土の中に埋められる。穴の底に横たわりそこに降り注ぐ土塊。

今はまだ息が出来る。土塊が降り注ぐ。まだ星明かりがわずかに見える。土塊が降り注ぐ。脚が埋まる。土塊が降り注ぐ。

胸が重たくて、息がしにくくなる。土塊が降り注ぐ。口の中に土が入ってしまう。おいしい物じゃ無い。喉につまりそうだ。土塊が降り注ぐ。

手が徐々に動きづらくなる。土に挟まれて動くのも大変だ。土塊が降り注ぐ。耳の中に砂が入りかける。それは嫌だな。土塊が降り注ぐ。

目はすでに開けていない。開けても意味が無い。土塊が降り注ぐ。徐々に身体の感覚がなくなり始めた。土塊が降り注ぐ。

息苦しい。それでも動けない。口を開けば大量に入り込んでくる。土塊が降り注ぐ。

とあるアフリカの氏族の即位式は、王様になる人を生き埋めにすることであった。

 

 

 

1年がたった。観光客達がやってきた。即位式の時に使われた場所を見ている。携帯電話のカメラ機能であっちこっち撮影している。

 

「凄いぞ! 水だ!」

水なんていくらでもある。馬鹿にするな。井戸を掘る程度の技術は昔からある。雨を降らせる魔術だってある。そりゃ、精度は悪いが水に困るほどじゃ無い。

 

「あーこりゃ、ダメだ。数百キロ離れた工場の廃液が流れてきている。この水、飲むなよ。危ないぜ」

なんだそれは、恵みの雨は確かに

 

「へー人を生き埋めにして、こわっ」  「ハハハッ」

長老、何をしている。何故秘密の儀式を開示している。

 

「人類学的には興味深いです」  「そうかね。我々の先祖は……」

長老、何を……それは別に俺たちの文化の話じゃ無い。別の氏族の話を……。

 

「これの方が金になるんだ! 今時、雨が降る程度で何が出来る。我々の文化を面白おかしく語ってあげろ! ひょっとしたら外国のTVで放映されるぞ!」

だからといって、我らの秘術を際限なく明かすことは無かろう! 意味が無い! 秘密だから価値があるのだ!!

 

「観光客向けに我らの儀式を体験できるようにすれば、我々の生活はさらに楽になるぞ。いっそ太陽光パネルでも大量に広げてしまうか?」

生活が楽になるのは良い! 反対しない! だが、我らの祖先を切り売りするなっ! 何が観光だ。観光客とやらは我らの先祖の墓に容赦なくゴミを捨てて!!

 

「うん? ネットに全部配信していいかって? 良いぞ。ほぉー最近は自動的に字幕がつくのか。翻訳用のAIの力で我々の言葉も世界のあらゆる言葉に直されると」

違う、それはダメだ。それだけはやってはいけない。古くからの秘密というのは秘密の中身では無く、『秘密』という事実だけが重要で!

 

「おまえ達のせいだ! 子供達が面白半分にマネして、何が古代の秘密の儀式だ。おまえ達の責任だ、損害賠償を払わせてやる!」

 

「この大量のゴミ、なんとかなりませんか? えっ? 観光客が捨てていった物? 関係ありません。ゴミの山が出来ているというのは観光客からクレームが」

 

「この間の話は飽きたと言われた。周辺の氏族達の話を勝手に使ったのがバレて険悪になりつつある。この際、適当な絵本の中身をそれっぽく語って誤魔化して」

 

 

 

学園都市の第12学区は学園都市が科学の頂点として世界に君臨している一つの意味を表している学区と言える。

この学区で研究されている事柄は『宗教』だ。ただし、信仰がどんな心理状態で、どういう脳構造をしてて、どんな薬品を使えば再現できるのかとか

そういう信心深さを色々な意味で単なる研究対象として切り刻む学区。それが第12学区だ。

 

『フレイザーの金枝篇かい? あの非科学的、オカルトの殿堂の話を聞きに来るなんて一体何事だ?』

『警備員』は学園都市で働いている教師達から成り立つ組織だ。そして学園都市の教師は大なり小なり研究者の顔を持つ。

第12学区の警備員もまた第12学区らしい研究対象を持つ人間の一人であった。研究者として大きな実績があるわけでは無いが、まぁ、超がつく専門的な事以外なら何とでもなる。三宅が電話で頼ったのはそういう同僚であった。

 

『神聖王権か。それなら、俺たち日本人はよく似た事例を知っているじゃ無いか。俺たちのやんごとなき人達だよ。特に大嘗祭って奴はあからさまに「人を捨てて、神様に奉仕する機械」になるための儀式って側面がある。古代人が機械を知っていたかは別において自由意志を持つ人間としての扱いを捨てさせ、国家と神様の奴隷になる事を期待された正直非人道的な活動の羅列を儀式と呼んでいるのさ』

 

『ただし、神聖王権が人類史の共通事項かどうかはわからない。何なら真逆っぽい感じの事を主張する学者も数多い。とにかく、フレイザーの金枝篇は結局大昔の学者の文献調査まとめ話でしか無い。そういう意味ではアレは非科学的な話しかしてないいかにもなオカルト話の塊だ。アレをまっとうな学問だと思ったら恥をかくぜ。アレを材料にするんなら話は少し変わるけどな。

んで、今の日本人がやんごとなき人を神様の奴隷として見ているなんて話聞いたこと普通にあるか? 無いだろ? それが神聖王権の弱点』

 

『伊勢神宮ってあるだろ? あれ、元々やんごとない人とその人に選ばれた特別な人間だけが入れて祈れる場所だったんだ。記紀神話じゃなくて、日本列島の神話に数多い、太陽の女神を祀る神殿だった。天照大神なんて来歴が謎の神様とは別の神様を祀る神殿さ。

が、記紀神話の成立と天照大神とか言う旧神を押しつけられてから立場が変貌、あの神社は神聖王権の中核に位置する儀式存在になった。と、同時にあの神社の歴史が神聖王権崩壊のサンプルケースとして凄くわかりやすいんだ』

 

『元々あの神社で祈るには特別面倒な手順が無数にあって、しかも祈れるのはやんごとない人か、その人に選ばれた特別な人だけだ。この辺の儀式、手順は残念ながらものすごく簡略化されて今に至る。伊勢神宮は国の平和と安寧を祈る場所だから個人的な願いはするなってマナーがあったりするが、このマナーは元々は伊勢神宮での手順、儀式が極限にまで簡略化された結果だったりするんだよ。

なんで特別な場所で、特別な人だけがこれまた特別な手順で祈れるって場所がこんな有様になってると思う?』

 

『鎌倉時代だの戦国時代だのそういう時代にやんごとなき人達が伊勢神宮を特別扱いできるお金なんて無い。当然伊勢神宮の人間も困窮しているわけだ。で、各地の偉い人、大名だの何だのに伊勢神宮の人間がやってきてこういうわけよ。「今ならやんごとなき人しか入れない場所に入って祈れるよ」って要するに、簡略化したもので良いから大衆に広まって「なんだたいしたことない」って思わされたら終わり、秘密だから意味があるし苦痛にまみれているから意味がある。その意味を取り払えば、何の意味も無い。下手すればタダの金儲けの種だ。こうやって神聖王権は崩れていく』

 

『神聖王権の弱点は、結局のところ、簡略化と模倣の拡大、そして金だよ』

 

 

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