11.
1人の女が地下通路を歩いていた。そして事前に教えられた部屋を見つける。『第3実験室』
「やっと来ましたか。待ちましたよ」 「科学サイドの趣味は相変わらずね。どうしてこんなにも見分けがつかない無機質な立方体にしたがるのか」
「建築デザインの話で? まぁそれに凝る人もいますが、基本は機能性を優先した結果ですよ。この国の場合は耐震性なんかもありますが」
その男はいかにも若手研究者と言った感じの男だった。印象に残らない顔に白衣と耳にかけたボールペン。
一度は白井黒子に倒されたハズの男だった。
「見ての通りです。『帝政薬学』はアビニョンの捕虜を自らの実験に使う事が出来る程度には戦場に介入が可能な企業体。逆に言えば彼らの
権限を……学園都市で『帝政薬学』がどうなっているかまだわかっていない最前線の部隊を指揮する権限で連中を好きに動かすことが出来ます」
「……それで、やれるんだな」 「ええ、今の状況の原因……『
「万が一失敗したら?」 「仮に失敗したとしても、我々のセカンドプランが世界に教えるだけです。世界に、科学と魔術の『協定』を破る意味を」
研究者風の男。そして局部だけかろうじて見えにくくなっているだけのバニースーツの女。
科学サイドと魔術サイド、それぞれの『協定破りの処刑人』。
「第3次世界大戦とか言うこの馬鹿みたいな戦争は世界の均衡を突き崩しています。この原因は結局好き放題動き回った『
「困ったことにローマは十字教最大勢力だ。粛正しようにも簡単には不可能」
「我々科学サイドにとっても、『
利害の一致。それがこの2人の強力理由。
「「あの2人を一掃できるのならそれはチャンス。出来なくてもこの戦争そのものを突き崩せれば最良」」
『帝政薬学』の指示に従って動く学園都市の部隊がある。それが、ロシアの核兵器を奪って、フィアンマや上条当麻にぶちかます。仮に、そう、仮にその状況下で生き残ったとしても、あるいは失敗したとしても同時進行で進めるセカンドプランで第3次世界大戦の構図を変える。
「で、セカンドプランには生け贄が必要だけど、その確保は?」 「一応アレを予定している」
そう言って研究者風の男が指さす方向には、アクリルのような透明素材で作られた120センチメートル四方の箱。
箱には次のラベルが張ってある『被験体:中国大陸系:アジア人女性:No.D720』。
「ココの連中がE号実験と呼んでいた奴の為にすぐに使えるように準備されていたらしい。見ての通り、外見は幼い女の子ですから、E号実験とやらの『生配信』『生放送』は非常に有効でしょう。世界に魔術と科学の接触がどれほど危険で恐ろしい物かを知らしめるのに」
「……『魔導書』による精神汚染を全世界に見せる。広く知らしめる。セカンドプラン」
「困ったことに『魔導書』とやらの性質の鑑みるに、配信、放送は広く『魔導書』の精神汚染を広げてしまうでしょう。しかし、それでもこの娘に比べればマシでしょうし、むしろ魔術と科学の組み合わせの危険性を全世界中の人々が知ることになる」
そこで、2人の会話は一度途切れてしまった。『被験体:中国大陸系:アジア人女性:No.D720』のラベルの貼ってある箱の中の少女の姿を見る。
小学生女児を思わせるその女の子はぼろぼろの青い服をまとっており、意識は無い事を彼女の状況をモニターしているタブレットが表示している。
「こいつ一匹で世界が驚く放送になるかしら?」 「まぁ、すでに姿がぼろきれですからね。着替えさせますか? 一応乙女に配慮して私は出て行きますが」
「……いや、意識の無い人間に服を着させるのはものすごい重労働だよ。そんなことはしたくない。念のために生きの良い奴を追加でもう一匹用意すればいい」
「ほう? では……」 「いや、実験体とやらで見繕うにはやめよう。ついさっきまで動き回ってたのがわかりやすいだろ。動き回ってた映像とセットにすればね」
2人の目線は天井――を超えた地上――へと。すなわち、今、上で魔術師と戦っているであろう連中へ。
「で、あれば、大人は避けましょう。子供がわかりやすい」 「わかりやすく大きな異能を使っている奴らも避けよう。『魔導書』の毒に犯されてる様子が嘘くさくなる」
そして、2人は地上の様子を移したモニターを一瞥して、指を指す。
「「こいつらだな」」
そこには、エステル=ローゼンタールと富上磐、そして郭の3人の姿があった。わかりやすく大きな異能が無く、子供であるから。