12.
E号実験。それは、『魔導書』の『原典』を見せることで、どんな風に被験者が汚染されていくかを観測する実験だ。
『原典』は魔術の深淵たる異界の知識を被験者に与えるが、それはこの世界のあるべき物では無く、遠慮無く脳を汚染していく。
魔術師であれば、『宗教防壁』を持って汚染に対処するが、そもそも『宗教防壁』がいかなる物か、科学的に説明はされていない。
「ふぅ……とりあえずこれで、全員か?」
2人組の魔術師を撃破、手錠をはめて念のために目隠しをした。
現状、集まることが出来る警備員、風紀委員が集まる。『帝政薬学』の本社ビル並びに製薬工場に踏み込んで以来、戦闘が続き負傷者、脱落者が続出している。また、それとは別に捕虜の数も増えている。人手が足りない。
確保しなければならない証拠品の類いも増えている。保護しなきゃいけない被害者の類いも見つかり始めている。
やっぱり人手が足りない。善意のボランティア(暗部)までかり出されているこの状況下。
「……今、撤収したら、間違いなく証拠隠滅されるし、何なら逃亡する関係者は多いだろうな」
「ウチらは絶対逃げたらいけないじゃん」
結局続行するしか無いのだ。手数が足りないから、本来はこの場にいてはいけない『ボランティア』さえも活用して。
「とにかく手当たり次第に情報端末は押収、人は捕縛、どんな紙切れもそれこそ包み紙レベル以上は全部確保。都合がつく人間をかき集める!!」
かくして、たくさんの人間達が追加で集められた。『警備員』に『風紀委員』、こっそりと後に好普性と分類されることになる『暗部』達も表向きは風紀委員や私服で現場にやってきた警備員のふりして参加するその状況下。すなわち統括理事の誰かしらが手を回すその現場は、であるが故に『帝政薬学』の人々が次々と手錠をつけられて連行されていく。作業服、白衣、スーツ、男女様々な人達が連れて行かれていく。
プロテアーゼも多くが破壊され、トラックに乗せられていくその場に、そういえば、なんで自分はここにいるんだ? と唐突に我に返る1人の少女。
「第3次世界大戦のまっただ中で上条さんは今ロシアにいるから、この後グレムリン編が来るわけで。そうなったら東京自体危ないし……なんでまだここにいるんだろ。自分」
富上磐だ。元々の予定では、アビニョンで友人が見込まれる事件さえ無ければ、九州あたりの地方都市に隠れてやり過ごす予定であった。
四国でも良いが、あそこはあそこで色々と自分の魔術的に面倒だし、北海道も同様。かといって自分の魔術的に本場であるハズの関東地域にはグレムリンの危険性から近寄りたくないとなれば、いっそ本州から離れて九州沖縄あたりでこっそりしておこうとか考えていたのだ。
「なのに、なんでここにいんの……」
アビニョンで学園都市の部隊に捕まったあげく、前科がつきそうになって、今やこんなところで大騒動に参加する羽目に。
(よし、どさくさに紛れて逃げよう。実家に帰って……うう、ダメだ。怒られるぅ……。大人達が庇ってくれなきゃ、さすがにこの有様は……)
勝手にフランスに行って、学園都市の治安部隊に捕まえられると言う訳わからない来歴。いくら寛容でかつ、優等生をやってきたので特に色々と気にしない両親と言ってもこんなの訳がわからなすぎて、絶対何かしら対応する。
すなわち、娘のよくわからないがとにかく違法行為(パスポート無しフランス旅行)をちゃんと叱ると言う対応である。
(くっ、せめて顔と名前を十分隠してからフランスに行けば良かった!!)
判断が遅い。
「あのちょっと良いですか?」 「はい? なんですか?」
唐突に声をかけられた。
「これ、どういう意味かわかりますか?」
渡されたタブレット、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』追跡中の文字が見える。思わず何かとよく見ると『核攻撃対象』の文字まで見えるではないか。
何度見ても『幻想殺し(イマジンブレイカー)』追跡中やら核攻撃の文字が読める。
「なななっ、なんで!?」
これは、あっちゃいけ無い事だ。上条さんが頑張るから、大戦は終わって、上条さんが頑張るから魔神オッティヌスの世界滅亡だって解決する。
上条さんが頑張るから、アレイスター・クロウリーが窓の無いビルから出てきて、コロンゾンの世界滅亡を防ぐ事が出来る。
上条さんが頑張るから、上里という少年が帰ってきて、アンナ・シュプンゲルと言う悪女が救われる。
全部、上条さんが頑張るから。
世界が終わらないのは上条さんが頑張るから。地獄の世界がたとえ地獄であってもちゃんと存在し続けるのは上条さんが頑張るから。
このクソみたいな地獄の世界であっても希望を持てるのは上条さんが最後はなんとかしてくれると信じられるから。だって上条さんが頑張るから。
上条当麻、抹殺を狙って核攻撃。
(とめ、なきゃ……。上条さんが死んだら、どうしようもないから。本当に死んだら、オッティヌスが世界を滅ぼしても止められない。魔神達が隠世から出てきても止められない。あの後どうなったかわからないけど、超絶者達を止められない。私はそこまで強くない!!)
タブレット片手に思わず走り出す。このタブレットによれば、これはあくまでも地下管制室からの情報を表示しているに過ぎない。
核攻撃云々は地下管制室で統括しているようで、そこに行く必要がある。
上条さんがいるから、希望があった。
上条さんがいるから、世界が終わらない確信が出来た。上条さんがいるから、この世界で出来た友達が犠牲にならないと思えた。
上条さんがいるから、いるから、いるから――――この世界に希望があったのに!!
「あっ、ちょっと!」
周囲を顧みること無く、地下を目指す。張り巡らされた地下通路だって、捜査の手は及んでいるが、なにぶん、まだ稼働している
プロテアーゼの破壊や負傷者の搬送に手が取られて、全貌は未だ見えていない。
けれど、そういうあれこれを無視して、タブレットに表示されている地図情報頼りに突撃すれば、未だ全貌が見えていない地下通路も進むことは出来る。
だから、気がついたら、目的地だった。『第3実験室』のプレートのある部屋だった。
部屋の扉を開いて、中に入って、扉の鍵がかけられた。