『とある線上の世界大戦』   作:ホエール

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最終章 16.

   16.

 仲間割れといえばいいのだろうか。大騒ぎしてくれたおかげで、隙が出来ていた。

故にこっそりと抜け出せた女魔術師と研究者風の男はヨタヨタと歩きながら、手錠を投げ捨てる。手錠はそれぞれのやり方で破壊されていた。

 

「くそっ、拠点に戻り態勢を整えて……」  「人を集める。今度はもっと大規模な儀式魔術で!」

そんな2人の足元がふらつく。ダメージによって体がそんなに疲れ果てたのかと一瞬困惑と勝手な理解をする2人であったが、すぐにそうではないと気づく。

地震か? と思ったのもつかの間、巨大な土砂が自らの足元より彼らを壁に押し付ける。

 

「が、ゴーレム!?」  「この術式は――ゴーレム・エリスっ! シェリー・クロムウェル!!」

心当たりがある女魔術師は叫ぶ。何故だと。お前もエリスの悲劇を繰り返したくはないだろうと。なら、科学サイドと魔術サイドの均衡が崩れすぎた

今の状況は危うい。協定によってひかれた境界線を死守しなければ多くの犠牲者が出るだろうと叫ぶ。

けれど、ゴーレム・エリスは容赦なく、2人組を押しつぶしていく。

 

「やめろ、やっ、こんなことをして、なんの意味がある! むしろ、お前はこっち側だろ! 世界を分断しろ! 両断しろ! 魔術サイドと科学サイドが

距離を置かないと世界ってやつは、悲惨な事に」

「エリスの友達だったんだろ。おまえは、だったら、なんで、戦争を起こすために学園都市に攻め込んできた奴が今更、何をして」

「「――――」」

 

最後は、静寂に包まれた。後に残るのは肉片と砕けた骨のかけらが2人分。

かくして、かつて学園都市とイギリスの一勢力が秘密裏に行った交流や秘密実験を直接知る人間たちがまた減った。

 

 

 

イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』のブードゥーの魔術師イザベラは、今回の件で撃破されたすべての魔術師の身柄を要求し学園都市上層部は一応話をつけていたようで、引き渡されることになった。

ただ、それとは別に学園都市でゾンビ騒動を引き起こした少女の身柄も要求しており、こっちは事件被害者という属性がついたためか、警備員は難色を示している。

 

「で、あんたはどうする?」  「えっ?」

「学園都市は魔術師に優しい土地じゃない。そして、イギリス清教もあんたレベルの魔術を扱える人間に対して傍観という選択肢はない」

富上 磐(とがみ・わか)に対して、イザベラは選択肢を突きつける。

 

「一生監視リストに名前を並べるか、こっちに使われる側の人間になるか、どっちか選べってね」

そういいながら、『原典』を封印した箱を持ち上げるイザベラ。

 

「ちょっとーそっちは私のご先祖様の『原典』! 私のもので!」  

「はー? ヤバイ原典の時点で回収の対象ですー。せめてちゃんと管理してくれない? あなたが起こした騒動の中心だよね」

「待ちなさい。その子は表向き日本国の善良な国民であり学生です。他国が彼女の身柄を正当な法手続きなく拘束するのは見過ごせません」

「せんせー!」

三宅が磐という少女の身柄をかばって

 

「なので、まず日本国外務省、および法務省と学園都市統括理事会とのご相談のうえで連れて行ってください」  「せんせーっ!?」

至極まっとうな正論なのだが、何故か裏切られた気分になる少女であった。

そして、同じ枠内で少女の持ち物であった『身禄一切経』という魔導書の原典を封じた箱も少女の共に戻ってくる。

 

「『ハザール・アフサーナ』か学園都市はこんなものどうやって手に入れたんでしょうねぇ?」

わざとらしく揺さぶりをかけてくるが、まったく情報がない三宅はただ、知らないとしか返せない。

ただ、磐は何となくだが、わかった気がした。おそらくこれを持ち込んだのは――ゾンビ騒動の大陸の魔術師だ。

イザベラもそれを想像したうえで聞いてきている。

 

(ハザール・アフサーナ、一般的に知られている名前は、千夜一夜物語、アラビアンナイト)

もともとは古代ペルシャの昔話寄せ集めだったといわれている。それが中東文化圏全域に広がる過程で様々なエピソードや要素が追加され、近代にそれをフランス人が面白可笑しく意訳して世界に出版したのが一般的によく知られているアラビアンナイトだ。

ただ、そもそも古代ペルシャの昔話、『むかしむかしあるところに』のむかし、あるところとは何処だろうか。答えは中国だ。

 

(あの女の子一体いつどこから学園都市に入ってきたのか。そして、学園都市はあの女の子の侵入に今の今まで本当に気づかなかったのか。うーん。考えれば考えるほどドツボにはまるやつだなぁ~)

そんな風に納得している磐だが、あくまでも『警備員(アンチスキル)』の一員でしかない三宅にとって、ましてや『常識の違う世界の住民(魔術サイド)』の

揺さぶり兼忠告はなかなか伝わらない。

 

「あー頑張って」

最後にはイザベラの方が磐を見て一言、そのままその場を立ち去り始めた。

 

(えっ? これ、もしかして全部伝えるの私!?)

魔術サイドと科学サイドの『協定』は2つの陣営を綺麗に分けて世界平和を維持することとした。けれど綺麗に分けることはお互いお互いの基礎知識が分断されることをも意味する。それが良いことか悪いことかは場合による。今回は果たして良い場合に入るか?

 

「よくわからんが、何かを伝えようとしていたのはわかる。……で、お前はその辺わかっているんじゃないか?」

「えーと……たぶん今の私は監視者リスト入りだからー下手に伝えると協定違反でイギリスから狙われるっ!? でもこれ伝えなきゃやばい話題で……えっ、えっ、えええええ――っ!?」

 

ロシアでこっそりと動き回っていた帝政薬学の指揮下に入っていた学園都市のロシア核兵器を盗んでぶつける部隊が鎮圧されたという連絡が入るのはその数分後の事であった。

『ベツレヘムの星』の存在で起きる混乱もあったが、少なくとも学園都市の『警備員(アンチスキル)』は通常から独立した指揮系統にいて勝手に核兵器を使おうとする連中を静止できた。

 

「……上条さん、よかった」

冨上磐(とがみ・わか)にとって、ロシアで核兵器が使われることもそして、その犠牲に上条さんの名前が挙がることは恐怖だ。

原作から離れすぎている。世界をどうにかしてくれる『主人公(ヒーロー)』がいなくなる。憧れのキャラクターが消える。

 

「で、何を怖がっているかはわからないが、もしも本当に追い詰められているなら、それを口に出してみろ。それだけでも何かが変わるかもしれないぞ。助けてほしかったらそれを言葉にしないと誰にも伝わらないんだ」

「……この世界は……この後、大変なことになる。第3次世界大戦が今まで隠れていた色々な奴らを焚きつけてしまったの。この後『グレムリン』という組織が生まれて世界を騒がせる。文字通りの意味で、世界滅亡の危機を引き起こす。それを何とか出来るのは、私が知る限り1人だけ。

私ではどうすることもできない。だったら、可能な限り私の知る未来通りにすべてを進めるしかない。そうすれば1人が何とかしてくれる。でも……怖いの失敗したら、もしもダメだったら、私がいるせいで逆効果になってしまったら……。私の知る未来に私が活動する情報はない」

似たような事は以前も聞いた。でも、本当の意味で目の前の少女の本音を聞いたのは初めてだと、三宅は考える。

 

「なぁ、それって、本当に1人でしなきゃいけないことなのか?」  「そ、それは無理! グレムリンがもたらす世界破滅の危機は最終的に上条当麻にしか解決できない!」

よくわからないが、上条当麻という人間が大事だというのなら

 

「その上条当麻含めてみんなで協力しちゃいけないのか?」

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