『とある線上の世界大戦』   作:ホエール

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「わかりません。火事場泥棒の数が多すぎますね。全く以てわかりたくありません。これほどに人々が浅ましいとは。いえ、人々とは適切ではありませんな。

異教の魔術師達が特別浅ましいのでしょう。嘆かわしい。異教徒でありながら、魔術師でもあり挙げ句の果てに十戒に定められた盗みを働く。罪人には裁きが必要だとわからないのでしょうか?」

大理石の床に木靴の足音を響かせながら、1人の筋肉質な男性の姿をした魔術師を顔面より地面にたたきつける。

筋肉質の大きな腕は、枯れ枝のような老人の腕に変貌していく。

 

「わかりません。そのようなご老体がこのような浅ましい行為を。嘆かわしい」

「ワシの『術式』をあっという間に破壊しおって、だが、なるほど。ここから見ればわかるぞ。その『術式』は――」

「――わかりません。年の功ですか? そのような言葉でうまいこと誘導しようとしたとか」

すでに大地にたたきつけられているはずの老人が再び顔面よりたたきつけられる。

だが、この段階では命までは奪えない。これはそう言う『術式』だ。だが、重軽傷は確実に与えられる。顔面骨折を発生させたあげくそれを連続させればどうなるか。

 

「その術式は――」

――老人が新たな魔術を使用しようとした瞬間、顔面より大地に倒れる。

 

「2種、2つ!! ほ、んらいの、用途ッ!!」

「まだしゃべれるのですか。わかりません。さっさと意識を手放してしまえば終わるのに」

「おまえの術式は、オーソドックスな、当たり前のォ!」

「わかりません。何故、そんなに頑張るのか。おしまいです」

そして、老人は動かなくなった。

木靴の司祭は老人を放置し新たな戦いへ赴く。『火事場泥棒』の撃退と可能なら学園都市の部隊排除に。

放置していてもそのうち、ローマ側の戦力が捕虜の回収にくるだろう。けれど、それで良かったのだ。

 

蝋管が転がる。老人が使用していたものだ。かつての蓄音機が使用していた蓄音管の一種でロウで作られたそれは、音という情報を保存する媒体である。

 

「おっと、わかります。わかります。これに気がつかなければ大変な事になっていたと」

木靴の司祭が戻ってきた。そして、木靴で蝋管を踏みつけ破壊する。

 

「あなたは老獪な人だ。それだけに残念ですね。異教徒の魔術師という救われないご老体なのですから」

 

 

 

そして、今度こそ去って行った。それから、数分ほどたったであろうか。2人組が現れる。

そう、『警備員(アンチスキル)』の熱血武装国語教師とか言う属性なのか性質なのかよくわからない三宅と、自称一流魔術師の女子高生わか。

 

「だ、大丈夫ですか!?」  「無理だよ。もう息が止まっているー」

三宅の言葉に特に何も反応なく言葉を出す少女。

 

「……それより、念入りにやられている事が気にかかるかー」

そう言って少女は周辺を見て回る。

 

「ご遺体は丁寧に扱いなさい」  「わかっているよ、せんせー」

そして、少女は踏み砕かれた蝋管を見る。そして、気がつく。よく見ると砕かれたせいで、ロウが散らばり靴跡になっていると。

 

「やっぱり、靴にしては変……でも何がどう変なのかわかんないー」  「どれ? ……変わった足跡だな。こんな足の形をしているやついるのか?」

三宅のその言葉は、まさにその靴跡を見た少女の心の声を代弁しているものだった。

 

「そういえば、お前たち『学園都市外の能力開発』の異能は基本的に使いづらそうに見えるが、どうなんだ?」

「どうってー?」

「例えば、拳銃だと狙って引き金を引くだろ。木刀とかでも構えて振り下ろす。単純動作で狙いを定めて効果を発揮する。

だが、あいつの異能はわざわざ狙いたい相手の頭の『高さ』を指定しないと効果がない。少し面倒だなって思ってな。君だって、妙な図形をあちこちに書き込んでいた」

「事前の準備があっての『魔術』だよ。言ったでしょ。神話の『法則』性を利用しているって。そういう意味では立派な技術なの。それにそんなんだった? 私なんか『魔術』を使おうとした瞬間やられたよ。そんな事前動作あったかなー?」

「……つまり自動照準と手動照準か? なら自動化の条件はなんだ? 異能の発動を検知したら自動的に反撃するそういう仕組みか何かか」

「……あーありえなくもないねー。でもその場合、味方の『術式』を妨害しないように設定……『異教の魔術』かー。自動反撃の条件はー」

思案中の彼女。困ったことだが、『学園都市外の能力開発』に関して情報を持っているのは少女だけだ。仮にも教師としてある程度手本にならねばならない人間としては忸怩たる思いがある。

とはいえ、今現在頼りになるのは少女の知識だ。学園都市の無人兵器に詰まっている使用予約が取れるのなら話は別になるだろうが。

……上はこうなることを甘く見ていた気がする。もっと情報を収集し十分な数の無人兵器と人員を投入していればこうはならなかっただろうし、なったとしても早急に次の手を打ち出せたはずだ。

 

(まずいな、この子の言葉をすべて信じるわけじゃないが、もしも『魔術』とやらを滅ぼすことを考える人たちが作ったのが学園都市だったとして……)

その創設者たちの思惑はどこまで共有されているのだろう? もしも上層部でも知る人ぞ知る裏話であったとした場合、実は『魔術』の方こそこちらへの対策、対処法が確立しているのではないだろうか。戦争にしろプロスポーツにせよ、誰だって敵対相手の研究はするものなのだから。

 

「三密加持……『黄金』でも動作や言葉の積み重ねは内面の変革を世界に押し付ける基本。言葉はない。いや、手話は言葉であり動作。積み重ね。……ならなんで『数字』なの? もしかして……ゲマトリア?」

少女は再び靴跡を見る。指先で靴跡の大きさを縦横と簡単にではあるが計測して

 

「やられた。木靴が『霊装』になっているんだ。正確には『術式』の構成要素になっているっ! 数秘術! 3、5、8、 そして3、7、12、22、60っ! 聖書、カバラの数字!」

「はぁ? つまりなんだ?」  

「数秘術、特にカバラの場合、世界は3、7、12で世界のすべてが構成されているって考えるの。そしてこの数字は時に人間にも当てはまる。ちょっと別解釈のカバラ式数秘術だと例えば人の足の接地面とか重心とかそういうものが3、5、8という数字で構成されていることになってる!! 正確には3と5と4と7と8と11と12に集約されるって扱いなの」

「ごめんよくわからない」

「数秘術は1~9までの自然数と11という特別なナンバーで物事の意味を見る。例えば何かで17という数字が出れば、1と7を合計した『8』という数字には数字固有の意味があるとされるのー。例えば8の意味は『野心』とか」

「おいおい、その場合、12は3だろ。なんで独立した12でなんとかかんとかって話が飛び出すんだ?」

「その辺は『黄金』のウェスコットあたりに聞いてよ。嬉々として解説してくれるんじゃないかな。所詮十字教のめんどくさいお話だし」

ウェスコット? と頭にはてなマークを浮かべながら三宅は少女が導き出した結論を考えてみる。

その結果は

 

(やはり、非科学的で意味がよくわからない)

という結論に達するしか他ならない。とはいえ、実際木靴の足跡は不自然極まりないものであるのは確かで、おそらく縦横幅から靴底の模様など色々な要素で

『異能』の制御を行っているのだろう。そう仮定するしか理解が及ばない。

 

「それにしてもよくこんなもので……絶対走りづらいだろうな。そもそも走れるのか?」

三宅がふと口にした言葉に少女がこちらを振り向く。

 

「……『学園都市』のお仲間さんたちに合流するか、どうにかして、アレをよべない?」

「アレ?」

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