『とある線上の世界大戦』   作:ホエール

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「わかります。きっと……悔い改めに来たのですね」

木靴の司祭の前に2人組。すなわち、三宅とわか。

 

「いえ、わかります。それは私の勘違いであると」

そこは薄暗い一室。床には水がぶちまけられ、それとは別に大量の折り鶴と〇×△□と油性ペンか何かで時折書き込まれ、よく見ると壁にもそういうのがある。

2人組は窓枠にたち、カーテンより少しだけ外の光が漏れている。

 

「あんたの『術式』はこのわかちゃんさまが見破った!! 今なら許してやるから許しを請うといいのだー!」

「おい、なんだそれは」

「いいじゃん、降伏しろーなんて言っても聞かないよあの人」

「ほう、なかなか面白いことを言うじゃないですか。わかりません。その余裕の理由が。滑稽で面白い」

そして、木靴の司祭が一歩を踏み出す。だが、すぐさまその一歩を引いて元の場所に戻った。

 

「なるほど。これは東洋の魔術。極東の仏教式ですか」  「げっ、もうばれてる」

「未熟者ならば焦ってこの先に進むでしょう。ですが、それが罠。これは相手に強制的に儀式魔術を行わせる『術式』だ。

あなたは魔術を使うわけでもなく、未熟で愚かな魔術師はあなたを追いかけて自滅する。あなたは大変悪烈な方のようだ。『歩む』という行為が術式のトリガーになのですから」

「ベネディクト修道会の人間ならむしろこの方がなじみ深いでしょう」

「……そこまで見破られていましたか。わかりません。何故それほどの知性がありながら異教の魔術師なんぞになったのか……。残念ですが、私はこの通りおしゃべり。

ベネディクト修道会は寡黙であることが絶対条件です。私は憧れを実現できませんでした。みっともなくベネディクトの要素で身の回り固めているのは未練かもしれません」

その言葉が言い終わった瞬間、2人は顔をぶん殴ぐられたような衝撃に襲われ、気が付けば大地に倒れている。

 

「ど、うなっている!? 今のなんの予備動作も!」  

「『手話』を見破られたあなた方だから明かしますが、ベネディクト修道会は寡黙が絶対条件。口から出るのは神の言葉、聖句であってしかるべき。日常的にはみな口を閉じて生活を行います。ですが、それでは生活が大変な時がある。

ゆえにジェスチャーでコミュニケーションをとりました。それもなるべく寡黙を維持するためにそれこそ服のしわから足音に至るまですべてを小さく使って。ヨーロッパにおける手話の原点はもしかしたらこれかもしれないと学者たちが考えるほどに。とはいえ、私としても2人同時は骨が折れる。どうですか? あなた方の方こそ降伏しませんか?」

「だとしてもっ! あんたはこのわかちゃんさまの術中の中にいるっ!」

「わかりません。術中にいるのはあなた方です」

司祭はこちらに指を指し、大慌てで少女がその指先から逃れようと起き上がり、三宅は拳銃の引き金を引く。

無数の銃声がして、相手は一度近くにあった戸棚の影に隠れる。

 

「わかりますか。あなたの『儀式魔術』を活用した『自滅術式』は見破られました。私の『術式』がいかなる物か見破ったと言うのであれば、あなた自身、もうその異教の魔術を使うことは出来ません。私の『自動照準』はそれを検知し発動直前にあなたはたたきつけられる!」

「『迎撃術式』でしょ」  「何?」

「謎だった。何でかあんたの術式は明らかに威力がおかしかった。意識も命も一撃で奪えるだけの威力があってもおかしく無いのに奪えない。『自動照準』に『手動照準』。ここまで色々と便利なのにそこがおかしかった。そもそも大地にたたきつける効果だけ。単純で確実性の高い攻撃方法なのに威力だけがまるで『人を殺せない』みたいな物だった。てっきりあんたの信条かと思ったけどそうでも無い」

少女はスタンバトンを構える。電気の青白い火花、スパークが弾け、一瞬男子中学生にも見える童顔の少女の顔が青白く見える。

いや、実際青白いのだろう。確実に木靴の司祭の攻撃は彼女にダメージを与えている。

それでも彼女は立ち上がる。ふらふらに体を揺らしながら。それでも立ち上がる。

 

「あんたの術式は『迎撃術式』の改造術式!! この世界の魔術師は空を飛んだら落とされる! 聖書にも書かれている有名な術式のせいで魔女だって空を飛ばない! 飛ぶにしてもこれは、ジャンプしているだけとかそう言う屁理屈で必死に防御しなきゃ、たたき落とされる!! でも、聖書に描かれる空を飛んで落とされた魔術師シモンは落とされても死ななかった! 説によって死なない理由は別々だけど、少なくとも術式による強制的な『落下即死』だけは無い! だからあなたの術式は殺せない!」

「わかりません。それがわかったから何だというのですか。その通り、あなたの言うとおり、私の『術式』で死ぬ事はありません。ですが蓄積されたダメージで殺すことは出来る。そもそも大事な事をあなたは忘れている。あなたは飛んでいない。なのにあなたは私の攻撃を受けた。これをどう説明するのです?」

「……魔術師シモンは十字教に改宗した。でもそれは『神の奇跡』で一儲けしたくてやっただけで振る舞いは悪劣な異教の魔術師だった。だから使徒ペトロと戦いになって空を飛んでいる所を神に祈った使徒ペトロに落とされた。『自動照準』のトリガーは『異教の魔術』。

『手動照準』のトリガーは、指定した相手を魔術師シモンであると勝手に決めつけて兇弾すること! そのために数字で攻撃相手を指定している。あなたは迎撃術式を『数秘術』で改造した。たったそれだけのこと。その木靴がそのための霊装。木靴の形から重量、重心の位置に至るまでその全てに数字的意味を持っているっ!」

彼女がそこまで話して、スタンバトンのスパークを地面に向けた。そう、水に濡れた地面に(、、、、、、、、)ッ!!

 

「なっ!!」

とはいえ、所詮はスタンバトン程度の電気、直撃ならまだしもこのやり方だと一瞬の驚かし役程度しか効果はもたらさない。

でも、それでよかった。

三宅が司祭の顔面を直接ぶん殴った。鍛えられた『警備員(アンチスキル)』の右拳が直接その鼻面をぶん殴った。殴る為に距離を詰める隙が欲しかったのだから。

 

「私は魔術を使わない! これで『自動照準』からは外れる! 『手動照準』は直接あなたを殴れば、狙いが付けられなくて無効! そしてぇぇえええ!」

少女が走る。

 

「その木靴を脱がせれば、私たちの勝ちっ!!」

「わかるか!! ヴァカガキがぁァっ!!」

木靴の手には鋭利な刃のついたメリケンサック。一瞬の判断で三宅が至近距離での拳銃射撃。衝撃までは殺せないのか、表情が歪む。スタンバトンを持つ少女が前に出る。三宅は拳銃射撃を続ける。

 

「そんな豆鉄砲ではどうしようも無いとまだ、わからんのかぁぁああ!」

「いや、それで良いんだ」

すべての弾丸を打ち終わった拳銃片手に三宅は宣言する。

 

「ベネディクトなら、気がつくんじゃないか? でも気づかないと言う事はやっぱり、あんたの言うとおり、あんたはベネディクトになれなかったんだな」

学園都市の拳銃の銃声にもアレは敏感に反応した。だからこれでいいのだ。

 

「何を」

意味がわからず、周囲を見渡して、窓ガラスを破ってそれは強引に入ってきた。

学園都市製無人兵器、『六枚羽』の廉価版、『四枚羽』。銃声のモールス信号によって、すでに敵味方の識別と何をするべきかは把握済みだ。

そして、グレネードにも拳銃弾にも耐えて見せた目の前の敵に対する対処法も。

 

摩擦弾頭(フレイムクラッシュ)が地面を撃ち抜く。それも十数発と打ち出され、ドロドロと大地が溶ける。その熱波と衝撃波、ついでに溶岩のように溶けた大地。

木靴の司祭に出来る事は逃げる事か、それでも立ち向かうか。勝敗は無人兵器の群れが決めた。

 

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