“狐”時代の彩羽ちゃんの日常でこんなことあったかもという妄想
尚彩羽ちゃんのキャラとか守れているかは微妙
半分ギャグ?のつもり
pixivにも投稿しています。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21954096
――“狐”。
裏社会でそう呼ばれる怪物がいる。
名前の通り、狐の面で顔を隠した化け物だ。
恐らく女、しかも若い子供。
正体は不明ながら戦うのが大好きらしくかなり暴れ回っている。
一体何なんだこいつは。
狐を知っている者は誰もがそう思っていた。あらゆるところから頻尺を買っているのに、むしろ返り討ちにしているのでますます敵意を向けられるという負の無限ループ。
だけどもやっぱり狐本人は楽しそうだ。
仮面の奥で笑ってもいるみたいで。
……やっぱり何なんだろう、こいつ。
敵が揃って訝しがる、その狐の正体は果たして――
◆◇◆◇
――なーんて。
色々噂があるだろうけど、しがない孤児院「ひまわりの種」で暮らすうら若き乙女、夜桐彩羽十八歳がその“狐”であるのは皆様ご存知の通りなのだった。
そしてこの彩羽、実は刃骸家前当主の隠し子とか父親そっくりとかとんでもない秘密がある訳だが、今のところまだそんなこと本人は知らないので、ひとまず置いておくことにしよう。
それよりも、この頃の彩羽は孤児院で暮らしているのだった。
――そう。
こう見えて、彩羽は最年長なのである。
当然、年下の子供達と遊ぶことも多い。
その子供達の間で現在流行っている、ある番組があった。
それは――
『仮面戦隊! カメンジャーマン!!』
リビングの隅、テレビの中で戦隊がポーズを取る。
レッド、グリーン、ブルー、ピンク、イエロー。この五人が仮面をつけて世を忍び、悪を倒す。今時珍しいくらいコテッコテの勧善懲悪ヒーローものだ。しかしそれ故に安心感のある展開が持ち味である。
ちゃんと悪人は倒されてめでたしめでたし。
時にはお涙頂戴の感動話もあり、複雑な人間ドラマがカタルシスを何倍にもさせる。
熱い。熱過ぎるのだ。
子供達は夢中で、彩羽も気付けばハマっていた。
正直な話、アクションシーンを見ても実際の戦場を知ってる身からすれば動きは遅く、感想は「弱そう」でしかないのだが、そんなことは関係ないのだ!
頑張れカメンジャーマン! やっつけろカメンジャーマン!
『とう!!』
彩羽達の応援に合わせ、テレビの中のカメンジャーマン達が一斉に跳ぶ。
くるくるっと一回転して、渾身の蹴りを怪人目掛けて放った!
『カメンジャーマァァァァン、キックゥゥゥゥゥゥウ!!』
ズガン、ボガジャン、ドカーン!!
必殺技が決まった!
彩羽達は大盛り上がりだ。
「やったー!!」
「カメンジャーマン!!」
「かっこいいい!」
『ハーッハッハッハ! 我らレッド、グリーン、ブルー、ピンク、イエロー!! カメンジャーマン! ワーハッハッハッハ!!』
お決まりのポーズと共に、背後が大爆発。
今日もこうして悪は倒されたのだ……。
と……じんと感動のあまり、彩羽が拳をぷるぷる震わせたその時だった。
「もう、遅いんだから今日はお終いよ」
孤児院の召子先生がリモコンを構えていた。
確かに窓の外を見ると夕暮れが近い。それでも子供達はえー!? と嫌そうな顔をする。
「後もう少し! もう少しだけ!」
「うんうん!」
「彩羽姉……」
年の近い年長組が呆れた目で見てくるが、彩羽も子供達と一緒になって「もっと」と更に声を上げる。するとそれが効いたのか、
「もう、しょうがないなあ。あと一話だけね」
「わーい!」
先生のお許しが出たので皆で万歳のポーズ。
カメンジャーマンは撮り溜めしてあるため、次の回で最新話だ。
そうしてその内容はというと。
――『貴様、何やつ!!』
――『我が名はパープル! パープルフォックス!』
――『パープル!? パープルフォックス……だとぉ!?』
――『尺があるからって二回繰り返さなくて良い! それよりもお前達が悪の親玉だな!? 成敗してくれる!』
――『しゅわっち! パープルゥゥゥゥゥゥゥゥ……パアアアアアンチ!!』
――『グボファ!? なんだそのキラキラエフェクトのついた無駄な動きは!? ガク……』
――『ワーハッハッハッハ!! 我らレッド、グリーン、ブルー、ピンク、イエロー、“パープル”!! カメンジャーマン! ウワーハッハッハッハ!!』
チュドーン!!
いつもの決めポーズの中には、見慣れないメンバーが一人追加されていた。
この話で出てきた新メンバーにして新キャラクター。
パープルことパープルフォックス。
彼女はその圧倒的な戦いぶりで悪のマフィアをたった一人で壊滅させてみせたのだ。
カッコいい。
しかも何の偶然か、コスチュームが“狐”の格好にも似ていて。
――キラキラと目を輝かせる彩羽の脳裏に、ある思いつきが浮かぶのは必然と言えた。
◆◇◆◇
「ってことで、貴方達の本拠地を教えてくれると嬉しいな〜て」
「「「何がどうしてそうなった!」」」
月も浮かぶ深い時、男達の異口同音のツッコミが闇夜に響いた。
それに、あははは〜と笑うのは狐のお面に袖や裾の長い服装の夜桐彩羽。今日も今日とて、狐の姿で裏側の世界にちょっかいをかけ中である。
その目的とは言うまでもなく、勿論、血湧き肉躍る死闘をするため。
とは言え最近マンネリ化しているのも事実だった。
しかし彩羽は今、素晴らしいアイディア……もとい、欲望が生まれていたのだ!
それはオラ、マフィアをぶっ潰すぐらい大暴れしてえ! というものである。
要はパープルフォックスの真似をしたかったのだが、いかんせん彩羽は人助けをしたいと思うほどお人好しではなかったし、基本的に猪突猛進だった。
慎重に調査? 何それ?
とりあえず突入!! ってな具合でてくてく無用心に歩いていき、ビルの路地裏、暴力団の縄張り近くに踏み込んで、十人の男達に囲まれたのが一分前。
目的を話すと、皆一様に混乱していた。
というか舐められてると思われたらしい。
「お前、そんな理由で言える訳ねえだろ!」
「おうおう、そもそもお前ここが何処だか知ってて来てるんだよな!? ああん!?」
古典的なチンピラ口調で、男達が叫ぶ。彩羽はにっこりと答えた。
「ええ、ええ。そうですよ! ――それが何か?」
「こいつ……」
ピキピキ、と全員のこめかみに筋が走った。
どうやら煽ったおかげで随分とやる気になってくれたらしい。見ればそれぞれの武器を向け始めた。得物は様々。あるいは刀剣、あるいは銃、なかには斧やトンファーなんて変わりものまで。ますます素敵だと彩羽は思った。
「……♡」
狐の面の下、彼女は悦びに顔を歪める。
ああ、これだ。これこそが彩羽が求めてやまぬもの。全身の細胞がゾクゾクと高揚している。
――楽しくて仕方がない。
「――フフ」
彩羽もまた、昂りと共に“武器”を出した。
構える必要はない。ただ目の前の空間を凝視するだけ。それだけで虚空から黒い渦が逆巻くように生まれ、そこから刃が出現する。誰がどう見ても、異様、奇妙、不可解な、宙に浮かぶ大きな大きな刀を。
――刃ノ眼、剣刃。
この時の彩羽は知らないが、そう呼ばれる刃骸家と要家だけが持つ特別な力の一種類である。
それを伴い、彩羽はゆらりと幽鬼のように一歩を踏み出す。
男達はその今までに見たこともない刃に困惑したものの、流石に命のやり取りを日常的にしているだけあって、すぐに切り替え、まずは様子見とばかり、下っ端の一人が飛び出した。
「死ね!! 狐!!」
すると彩羽の左手が翻るように動いた。
連動する剣刃が空を滑り、下っ端が彩羽へ向けて降り降ろした刀を容易く受け止める。
動揺する彼をよそに、更に奥へ引かれる彩羽の左手。
そして鳩尾へ、雷のような拳の一撃。
哀れ下っ端は腹の中の空気を吐きながら吹っ飛んだ。そこへ斧を持った大男とドスを片手に突っ込む小男が挟撃を仕掛けるが、それも彩羽はひらりひらりと蝶のように躱し、時におちょくるように剣刃を操って斧とドスをいなすと、僅かな隙を逃さず一気に二人一緒にその刃で殴りつける。
峰打ちである。
だが剣刃は前にも言った通り、なかなかにデカい。そんなもので殴られて無事であるはずも無く、大男と小男はあっさりと意識を失って倒れた。
これで三人ダウン。残るは七人。
(よしよし、二分もかからなかったな)
と、記録更新! などと喜ぶ彩羽は完全にゲーム感覚であった。
実際、どうやって倒そうかなあとワクワクしているのだから、雑魚キャラのようにしか考えていない。
「くそがあ!」
そのどう見たって遊んでる彩羽へ男達も容赦はしなかった。
刺突や打撃、絶え間ない練撃が続く――剣刃で弾く。
向けられる銃が彩羽目掛けて発砲――当たらない。
そもそも彩羽はその銃口の位置で弾の軌道を見切れるのだから。彼らが撃つ前には既に姿が消えていて、銃声が響いたと共に、ドスンと四人目の被害者へ上から跳び膝蹴りを喰らわせた。大きくジャンプして銃弾から逃れていたのだった。
「今度はこっちから!」
打って変わって、着地した彩羽がピンポン玉みたいに突っ込む。
自然と下がる彼らへ反撃の機会を与えない。
まず怯えた中年へ剣刃で横殴りをプレゼント。銃を再び構えようとした若い奴にはアッパーカット、背後から襲う二人には振り向きざまに刃による斬撃を喰らわせ、最後の十人目のハゲには発勁を打ち込んだ。
これにて全員倒れ伏す。お掃除完了!!
「いやあー、良い汗かいた〜」
ウォーミングアップになって良かった〜と思う彩羽なのだった。
その周りにはボロ雑巾のように転がり、痙攣する暴力団員達。
彼らには彩羽もとい狐が、悪魔のように見えて仕方がなかった。
(じ、次元が違い過ぎる……これが“狐”)
数分前の自分達を殴りつけてやりたかった。なんて無茶な真似をしたのだろうと。こんな化け物に叶うはずがない。
「――ッ!?」
そして、“狐”がユウラリとこちらを向き――面の奥で特徴的な目が逆さ三日月を描いて。
何処か不気味で圧のある視線に当てられ、男達はガタガタと震え出した……。
◆◇◆◇
――数十分後。
男達が勝手(?)に白状し、彩羽は無事、お目当ての場所に到達することが出来ていた。
「ここがマフィアの本拠地か〜」
なんて呑気に言う彩羽であるが、ここいらではそこそこ大きなビルである――無論、男達が小物であることからして、実は割りかし小規模な組織であるが。それでも大暴れすれば他の賞金組やヤクザに噂が広まるだろう。
(そうすればもっと歯応えのある人が来てくれるかもしれないし)
何処までもバトル脳の彩羽であった。
少し遠くが騒がしい気もするが……ともかく潜入開始だ。裏口からこそこそーと周り、入り口にいた見張り二人をさっさとボコボコにしてノックアウト。易々と建物の中へ入っていく。
薄暗く長い廊下が続いた。酷く人気がない。
「んー、おかしいなあ」
彩羽は首を傾げながら進んでいく。
やはり、用事があって出払っているのかもしれない。それでも面白いものがないか探してみたくなって、丁度横にあった部屋の中を散策してみる。
そこは机や椅子が並べられた会議室や休憩場のような場所だった。
隅あったロッカーを開けてみると銃火器や薬莢が何個も収められている。すご〜いとかなんとかはしゃぎながら、更に彩羽は隣の棚にあったものも物色した。
変な資料を見つけた。
――『怪人実験成功!』
――『身体強化ドーピング! 貴方もあの子もこれ一発で立派な傭兵!』
――『戦いに悩んでいる君へ! ご注文は×××-×××!』
――『〇〇博士の実験で素敵な筋肉を手に入れよう』
よく分からないというか、すごく胡散臭い内容だった。
しかも端にある博士の写真が典型的な白髪ボンバーヘアーで、グルグル眼鏡、サンタのようなモジャモジャ髭なものだから、アニメや特撮でよく出る悪役科学者のようだった。
「……なんだろこれ」
思わず訝しみに、そう呟く彩羽である。
――ビー! ビー!
その時であった!!
突如として鳴り響く警報。びっくりし、彩羽がキョロキョロと辺りを見渡すと、次に機械音声が放送された。
『侵入者発見!! 侵入者発見!!』
『直ちに排除いたします!!』
「へわ!?」
がゴン!
瞬間、壁の一部が四角くく切り取られたかと思うと上にスライドし、その穴から三つの影がブーンと飛んで現れた!
ドローンだ!
「あれ……え、ちょ、わ、わあああああああああ!!」
体当たりを繰り出してきたので慌てて彩羽は逃げる。そもそも狭い部屋で戦うのは不利だ。飛び込むように入り口を抜け、全速力で廊下を駆ける。それを追撃するドローンの群れ!
パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ――!!
「そんなのありー!?」
なんとドローンには機関銃が搭載されていたのであった。
銃弾の幕がさっきまでいた空間を満たす。足の速い彩羽でなければとっくに蜂の巣になっていただろう。これには流石の彩羽も冷や汗を浮かべ、とにかく逃げて逃げて逃げまくることにする。
――追いかけっこの開始だ。
鬼さんドローンは子の彩羽をタッチ――もとい捕まえようと相変わらず機関銃をぶっ放なしまくる!
負けじと彩羽も角に隠れたり直角に曲がったりしたが、それでもドローンに反撃する隙はなく、やはり建物内なことがネックである。
(外――いや、別の階に出て振り抜けば)
奇襲を仕掛けるにしろ、逃走するにしろ、今は一息付ける時間が欲しい。彼女は素早く辺りを見渡した。すると丁度エレベーターがあった。ドローンも迫ってきている。もう選択肢はない!
「ええい、ままよ!」
そのままエレベーターに飛び乗った。
碌に操作盤を見ずにボタンを叩きつけるように押した。
チン! ……チン、チン、チン! ガコギリギリ、チン!
(ん?)
今、何か変な音がしたような。
そう首を傾げる前にドアが閉まる。まさにドローンが銃撃をしようとしたタイミングだったので間一髪といってもいいだろう。
「……」
(だけどさっきからこれ……すごい地下に向かってない?)
まさか変なボタンでも触ったのだろうか。ちょっと顔を青くさせる。
しかし今更どうにも出来ないのだった。彩羽の不安を他所に、ゆっくりと鉄の箱は下がっていく……。
そうして――
◆◇◆◇
ところで。
怪人実験成功の資料、機関銃を搭載したドローン、地下へ降りていくエレベーター。
彩羽が入ったマフィアの本拠地は明らかに変であったが、実のところその正体とは何だったのだろうか。
正解は至ってシンプルである。ドーピング薬を憲兵や傭兵に無理やり売り付ける悪徳な詐欺集団。
……特にドーピング薬を開発したマフィアのビジネスパートナーたる博士はとんでもない碌でなしだ。
そもそもの話、彼はマッドサイエンティストだった。
頑丈さがあり、常に力を求めているから、裏社会で活躍する憲兵、傭兵はまさに実験体としては打ってつけ。そんな兵士達相手に、博士はマフィアを金の力で味方につけてドーピング薬を売り込こんだ。
商売は成功した。
副作用に苦しむ者もいたし、効果が出ないことに不満を持った者もいたが――ますますドーピング薬は飛ぶように売れ続け、やがて博士はすべての商売をマフィアに丸投げするようになり、その潤沢な資金を元手に、地下に篭って倫理的な一線を超えた違法な研究にまで手を伸ばするようになる。
そしてよりによって、この博士、妙に信奉者がいるのだ。
彼らは皆博士の悪行に加担している。上の建物に人がいなくなっても気にしない。
もしものため、壁に仕込んだ大量のドローン兵器があるし、地下に来るには正しい手順や力加減でエレベーターのボタンを押さなければいけないのだから。
邪魔する者は誰もいないと思い込んでいた。
――この時までは。
「……え、何これ?」
やがて辿り着いた地下にて。
現れた彩羽がポカンとしたように呟いていた。
そこにいた博士と、その信奉者の兵士達も驚愕に顔を染める。
(一体どうやってここまで……!?)
――そうなのである。
非常にシュールなことに……何がどうなっているのか訳が分からず、この場にいる全員が絶句していたのだ!
でも、彩羽がこの地下に来たのはまったくの偶然である。なんとボタンを弄った時、地下へ行くためのボタンの押し順、力加減の方法が、天文学的なまでに一致したのだ。
まさに奇跡としか言いようがない確率で彩羽は招かねざる客なった訳だ。
が、当然受け入れられることはないのだった。
博士はブルブルと全身の体ごとボンバーヘアーを怒りに震えさせながら、
「し、神聖な実験の邪魔をしおってからに! な、何のつもりじゃあ!」
と思わずと言った風に叫んだ。
一方で彩羽の方も、「いやこっちの台詞なんだけど……」と返す。
それから、数分間、沈黙。
妙に気まずい間が訪れ――ふと、彩羽が動かした目にある存在が留まる。
自分から頼んだ改造の影響でアニメに出てくる怪人のような見た目をしている兵士達の側には、一人の子供がいた。
まだ小さな男の子だ。その後ろには奇怪なカプセルが一つ。
縄で身体を縛られて、口に布を巻かれているようで、彩羽と視線が合うなり、くぐもった声を上げた。
「むーっ!!」
まるで助けてと言っているみたいだ。
彩羽はそれにしばし目を見開き……次に鋭くさせる。
彩羽は戦闘狂だが外道ではない。静かに、低く、そして厳しい声音で尋ねた。
「アンタ達、その子をどうするつもりだったの?」
「決まっておるじゃろ! こいつをカプセルに入れて、人造戦闘人形を作るんじゃよ! ただの子供が美しき殺戮兵器に生まれ変わるんじゃ、最高じゃろ!?」
「……!? そのためにわざわざ攫ってきたっていうの!?」
「んー、むー、むー!」
彩羽達の会話を聞いて、よくない想像を膨らませた男の子は、更に怯えたらしくジタバタと身を捩らせた。
しかし縄が解ける気配はない。
そうして博士の顔が狂気に染まるのを見て、彩羽は許せない気持ちになった。何としてでも、この子を助けなければいけない。
剣刃を出して構える。その空中に出現した刃にやはり怪人達は狼狽えたが、博士は「構わん、やれ」と指示を出した。
「どこのどいつか知らんが、とっつ構えて実験体にするんじゃ!! ただじゃ済まさんぞぉ!」
「わ、分かりました!! 野郎共、やるぞー!」
「「「WEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE――!!!!」」」
息も揃った変な掛け声を出し、一斉に怪人達が彩羽へと飛び掛かった!
それを――
「邪魔!!」
「「「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――!!!!」」」
彩羽は剣刃の一振りで全部吹き飛ばした!
怪人達はあちらこちらにもんどり打って床に散らばる。博士はもんげーと口をパクパクさせた。
あり得ない。こんなことあり得て言い訳がない。堪らず焦ったように「最終兵器カモン!!」と懐を探り、ボタンを押した。
『ポチッとな!』
するともの凄い衝撃音と共に壁を突き破り、ブルードーザーみたいに筋肉ダルマの大男が出てくる!
「お呼びですかヒャッハービルドアープ!」
「!? 何だコイツー!?」
「ワシの最高秘密怪人ビルドアープじゃあ! やっておしまいビルドアープ!」
「ヒャッハービルドアーップゥッ!」
フンスと鼻息を荒くし、筋肉ダルマは彩羽目掛けて肉薄。
腕を振り上げ――正拳突きの動き!
彩羽は柔術の構えから――拳を避けて胴体に手を添えた!!
「せいやあああああ!!」
「ぐ!? ふううううう!!」
転瞬、一瞬で弾き飛ばされる巨体。相手の力を利用して投げたのである。
その大男へ向けて、彩羽は一秒より短い速度で突っ込む。
まるでスーパーヒーローのように!
「狐ええええええええ、ボンバーパアアアアアンチ!!」
「いやそれどっちかって言うとキックぶぼぉ!?」
大男は彩羽の回し蹴りを喰らって頭から倒れた!
ちなみに異常にタフネスであるので命に別状はない。ただ頽れて、ぐおおおおと、震えているが。
「で、出口って何処?」
そして容赦なく聞く彩羽。博士は一瞬躊躇した顔をしたが、剣刃の切先が彼の方を向けば、ヒィイと悲鳴を上げ、よろよろと隣を指差した。非常用の通路が先にあるのだろう。
「そっか」
これで確認することは確認出来たので、早速彩羽は周りの奴らなんて放っておいて、びっくりしている男の子を背負い、スタスタスターと逃げていく。すぐに非常用の入り口を見つけてひたすら上へ。
でもその時だった。
「舐めるな娘っ子――!!」
遠くから負け惜しみのような博士の大声がした――後ろから鳴り響く警報。
『侵入者逃走! 侵入者逃走!』
『ガガ――排除!!』
(――まさか!!)
嫌な予感がして振り返る。
何処からともなくやってきたのは、またあのドローン兵器群。博士が向かわせたのだ。
男の子は突然の危機に「むむぅ!?」と身を強張らせるけれど、でも、彩羽は笑っていた。笑って、力強く応えた。
「大丈夫だよ! このくらい任せて!」
「!!」
「いっくよー!!」
バウン!!
彩羽は楽しげに笑い声を漏らし、全速力で駆け出した!!
目にも止まらぬ速さで! 誰にも追いつけない速さで!
最早、ドローンなんて雑魚は追いつけない!
すべてを置き去りに。
どんどん、どんどん、闇夜に浮かぶ煌めきが見えてくる。
地上に灯った電気の灯りだ。まるで空に輝く星屑みたいだ。
そして――彩羽は無事、地上に戻り、道の真ん中へ飛び出した。
丁度元いた建物とは離れた位置だった。
どうやら出口はそれなりに距離があったらしい。
「大丈夫?」
彩羽は男の子を下ろし、布を取って、怪我がないかを確かめた。
そうして男の子はホッとしたように、頷いた。
「うん!」
その目はキラキラキラ、と輝いていた。すっかり彩羽を憧れの眼差しで見ている。
「姉ちゃんスゲー!! 何者!?」
「んーそうだね〜」
とは言え、本名を名乗る訳にはいかない。
ここはせっかくということで。彩羽はカメンジャーマンのポーズを取り。
「ワーハッハッハッハ!! 我はパープル! パープルフォックスなり! なーんちゃって!」
とか冗談で言っていると――
ドカーン!!
直後、背後から爆発音!!
「んえ?」
彩羽はバッと後ろを見やる。
何でかマフィアの建物が爆発していた。……何で?
「んえー……?」
不思議で仕方なくて、彩羽は唖然としているしかなかった。
それでも子供は無邪気なもので、ただただ「すごーい! 本物だ〜」と男の子ははしゃぎっぱなしなのだった。
◆◇◆◇
「爆発し終わりましたよ、紫玄様」
「よくやったな、これで余計な資料もあらかた処分出来たな。牧朝」
「はい! 事前に中にいたマフィアの連中を、偽の情報で外に誘き寄せていて正解でしたよ……ところで、少々地下で騒ぎがあったようですが?」
「そうなのか? まあターゲットが何かしたんだろう。だが奴も爆発音を聞きつけたら流石に地下に閉じこもってはいないはずだ」
「後は薬物を押収するだけですね。薬物は刃骸家の役に立つ筈です」
「――行くぞ」
「ええ」
◆◇◆◇
で――この話の後日談。
ひっそりと、あっけなく。博士とマフィアが処断されたことは闇に葬られ、狐こと彩羽は何も知ることなくいつもの日常に戻る。
でも、ちょっとした困り事が出来ていて。
それが何かっていうと。
――『俺見たんです! 本物パープルフォックス! すっごかったんです! 本当なんです!』
――『えーこのように、警察に保護された少年は証言されており、SNSではちょっとした騒ぎになっているようです』
なんとあの男の子がテレビに出て、パープルフォックスのフリした彩羽のことを広めまくっているのであった。
おかげで学校でもその話題が持ちきりで……彩羽としては、恥ずかしいやら、照れ臭いやら。
まあけれど。
『ありがとうヒーロー!』
そうやってお礼を言われたら、
(正義の味方も悪くはなかったな)
と思う彩羽なのであった。