櫛田に転生したから綾小路の手駒になる 作:星宮ひまり
最初は転生櫛田視点で、途中から綾小路視点になります。
転生櫛田は、一つ大きな問題が解決した(と思い込んでいる)ので、多少精神が回復しています。
翌日、昼休みに入ってすぐに、平田くんがクラスの皆に向かって声をかけた。
「昨日の放課後に話し合ったんだけど、今日から中間テストの前日まで、放課後に二時間くらいこの教室で勉強会を開こうと思うんだ。――みんなも、これからのテストで赤点を取ったら即退学だって話は理解していると思う。それに、成績次第でクラスポイントが増えることもね。部活動がある人や一人で勉強したほうがやりやすい人もいるだろうから、強制はしない。途中参加・途中離脱も自由だ」
平田くんは全員の目を見回しながら、続ける。
「先生役として、小テストの点数が高かった人にお願いしている。メンバーは今のところ、僕、櫛田さん、みーちゃんだ。他にも先生役ができそうな人がいたら僕に声をかけて欲しい。――僕からは以上だ」
平田くんの話が終わってすぐに、軽井沢が「あたし参加しまーす」と手を上げる。続いて彼女のグループの女子、(私のほうをチラチラ見ていたので、たぶん私目当ての)男子、そして赤点の危険がある低点数層が平田くんのもとに
「な、なあ、櫛田ちゃんが先生役するんだよな? 俺も参加しよっかな」
「櫛田ちゃんに優しく教えて貰いてー! 『もうっ、そこは違うでしょ、春樹くん!』って感じでさぁ、ぐへへ……」
「おまっ、山内、おまえ! 櫛田ちゃんは俺が狙ってるって言っただろ! 妄想も禁止!」
「はあー? おまえこそ俺の櫛田ちゃんに汚い手で触れるなよな、池ぇ!」
教室後方で騒ぐ池と山内の話には少々……いや結構、かなり、とっても、滅茶苦茶言いたいことはあるけれど……感情面はひとまず置いておくとして。
アニメと違って、二人は勉強会に参加するらしい。驚きである。
……その動機はちょっとアレだけど。
「なあ須藤、おまえも参加するだろー? お願いすれば櫛田ちゃんに教えて貰えるしさ!」
私を出しにした山内の誘いに、しかし須藤くんは首を横に振った。
「あー……俺はパスだな。部活あっからよ」
「おまっ、女子と部活とどっちが大事なんだよ!」
「部活に参加できなくて腕が
須藤くんのほうはアニメ通り勉強会に参加しないらしい。
アニメと同じ流れなら、堀北鈴音が少数で勉強会を開くのだけれど……そもそも堀北鈴音は動くのかな?
などと心配していると、堀北鈴音と綾小路くんが二人で教室を出て行った。
向かう先は……たぶん、食堂かな?
もしかしてこれは――「食べたわよね? 私の奢りで、お昼を。スペシャル定食。豪華で良かったわね?」ってイベントが発生する……!?
「桔梗ちゃーん、お昼は――」
「食堂に行こう、心ちゃん。みーちゃんと佐倉さんも、いいかな?」
「桔梗ちゃんの提案を断る理由なんてないぜーい」
「私も大丈夫です」
「え? う、うん、私もいいよ」
三人の同意を得られたので、皆で食堂に向かう。
進行方向が同じなので堀北鈴音と綾小路くんの背中が見えるが、歩くスピード的に追いつくことはない。
別に、アニメのワンシーンが見たいがために二人を追いかけているわけではない。三バカのうち池と山内が平田くん主催の勉強会に参加を表明したというアニメと違う状況で、綾小路くんと堀北鈴音がどう動くかを把握しておきたいだけだ。
……まあちょっと気になる気持ちがないと言ったら嘘になるケド。
「あー、そーゆーことねー。むふふ。可愛いぜい、桔梗ちゃん」
「なるほど、そういうことですか……!」
「そ、そういうことなんだねっ」
なぜか心ちゃんたちは顔を見合わせて頷いていた。
「みんな、どうかしたの?」
尋ねると、三人は揃って変な笑みを浮かべて、
「べっつにー? ちゃーんと見張らなきゃねー、って話してただけだよー」
「私と違って桔梗ちゃんは負けないでほしいです!」
「わ、私たちは櫛田さんの味方だからねっ!」
……なんか勘違いされてるっぽい?
◆ ◆ ◆
珍しく――というか初めて――堀北に昼食に誘われ、オレは食堂に来ていた。
……決して「奢ってあげる」と言われてホイホイ釣られたわけではない。堀北がオレに奢るとか、裏があるに決まっているしな。絶対。
それでも誘いに乗ったのは、堀北に少し
安めでそこそこ腹の膨れるメニューを選択して受け取り、
と、食堂内に櫛田の姿を見つけた。井の頭、みーちゃん、佐倉と四人で昼食を取るようだ。
オレと堀北が二人で食堂にいるのが珍しいのか、チラチラこちらに視線が飛んでくる。井の頭は睨むように鋭く、他三人は観察するような視線。だが見るだけで話しかけては来ないようだった。
「こっちが空いているわ、綾小路くん」
「ん――ああ」
堀北に呼ばれ、空いている席に腰を下ろす。
手を合わせた後、オレは黙々と食べ始めた。
話は後でも良い。それに、食事を先に済ませておいたほうが、何かあったときに逃げやすいしな。
「……本当に奢らなくてよかったの?」
「奢られたら、なにをさせられるかわかったものじゃないからな」
「そう……。私、そんな卑怯なことはしないわよ」
本当か……?
思わず疑念を込めた視線を送ると、堀北はギロリと睨み返してきた。怖い。
「さて、早速だけれど話を聞いて貰えるかしら」
「食べ終わってからじゃ駄目か?」
「駄目ね。そうしたらあなた、逃げるでしょう?」
バレていた。鋭いヤツめ。
「結構わかりやすいわよ、あなた。偶にわざとなんじゃないかと思うくらいにね」
「単におまえが他人を威圧して逃げられてばかりの人生で、相手の行動が固定化されているってだけの話じゃないか?」
「は?」
「何でもありません……」
そういうところだぞ、堀北……。
と心の中で呟くが、ここで呆れた視線を浴びせると魔王・堀北の苛烈な報復が待っていることは予想できていたので、オレは目の前の食事に集中することにした。
「とりあえず、耳を傾けて貰えるなら良いわ」
あじフライ美味しいなぁもぐもぐ、とオレが無心で箸を動かしているのも気にせず、堀北は話し出す。
「中間テストに向けて早速平田くんたちは動き出したようだけれど、問題があるわ」
「……Dクラスは問題だらけだろ」
昨日、茶柱先生にガツンと言われた影響か、平田や櫛田が朝に呼びかけた成果か。午前中の授業では皆、私語や居眠りを無くし、態度を改めていた。
とはいえ、それでも完璧ではない。須藤は授業中によく舟を漕いでいるし、池や山内を始めとした赤点組は授業内容について行けていないのか、ノートを取る手が止まっている。一年一学期時点でそれは非常にまずい。
「そうね。でも私が言いたいのはついさっき発生した問題。わかるわよね?」
「なんのことだ?」
「愚鈍のフリをするのはやめてもらえないかしら。でないと、昨日研ぎ直したコンパスの試し刺しを、あなたの体ですることになるわよ」
試し刺しってなんだ、コンパスに必要なのかその工程は? というか、なんでコンパスを研ぎ直しているんだこいつは……?
夜な夜なコンパスの針を研ぐ堀北の姿を想像して戦々恐々としていると、堀北はわざとらしく大きなため息を吐いた。
「あなたもわかっているとおり、須藤くんのことよ」
オレがわかっている前提で話を進める堀北。
こいつの中ではもうオレのことは完全に実力のあるヤツとして認識されてしまっているらしい。面倒なことだ。
「平田くん主催の勉強会に、彼は参加しないみたい。小テストで一番点数が低かった――そう、Dクラスで一番勉強しなければならない彼が、よ」
「須藤は……まあ、バスケにしか興味がないみたいだからな」
「それはただの言い訳でしょう。本当は勉強がしたくないだけ」
バッサリと切り捨てる堀北。とはいえ確かに言い方はキツいが、彼女の言葉は本質を突いている。
「いつまでもそんな幼稚な感情に振り回されていては困るわ。クラスのためにも、須藤くんには成長して貰わなければならない」
「へぇ……」
堀北の強い意志の籠もった瞳を横から見て、オレは思わず声を漏らしてしまった。
「なに?」
「いや……なんというか、意外だと思ったんだ」
「はあ?」
眉を
「おまえはもっと、他人を下に見ていると思っていた。いや、下に見てはいるのか。ただ、劣る人間はとことんまで使えないと突き放す感じじゃなくて、劣っていると判断してもそれだけで簡単に切り捨てたりはしない……。そうだな、上から目線ではあるが、きちんと人と向き合う気がある。――堀北って、思ったよりも優しい人間だったんだな」
とはいえ高圧的で刺々しい態度や人を見下すクセは改善すべきだろうが、それでも当初抱いていた印象よりはずいぶんマシだと思った。
いや――違うな。
思い返せば、
入学式の日。教室に初めて入り、櫛田と別れて自分の席に座ったとき。
名前を聞けば素直に答えてくれたし、読んでいた本のことも話してくれた。視線は偶にしかこちらに向かなかったが、オレが話しかければ決して無視はしなかったし、向こうから話題を振ってくれたこともある。
そう――そうだ。オレが接した最初の堀北は、今よりももっと優しかった。
いや、棘はあったが、それも彼女の魅力だと思える程度であった。外村が偶に口にする『ツンデレ』というやつだろうか? 本人に言ったらツン(物理)が飛んでくるだろうが。
だが――
『えっと……堀北さん、だよね?』
櫛田にそう声をかけられた時、堀北はショックを受けたような顔をしていた。
例えるなら――友人が「一緒に帰ろう」と誘ってくるのを帰りの支度をしながら待っていたら、その友人が「初めまして」と言ってきたときのような。
……いや、例えるもなにも、それが答えなのかもしれない。
今思えば、あの時の堀北は、理解不能な事態に直面して思考停止していたのだろう。
その後の反応が遅かったのも、櫛田の目を見て硬直していたのも、苦しそうな声で連絡先の交換を断ったのも、そのあまりにも大きな衝撃に打ちのめされていたからだろう。
櫛田が声をかける前の堀北が素の彼女であるなら、きっと、この少女は皆が思っているよりも――優しい。
「別に……優しくなんてないわ。自分のための行動だもの」
堀北は、どこか苦々しい顔でそう吐き捨てた。
「私はただ、DクラスをAクラスに上げるために、必要になるであろう武器を鍛えようとしているだけよ。この学校の言う『実力』は学力だけじゃない。須藤くんの身体能力が役に立つときがいつか必ず来るはずだから、ここで退学されては困るの」
「そうだな」
「茶柱先生はDクラスを『落ちこぼれが集まる不良品クラス』と呼んだけれど、不良品は少し手を加えれば良品になる可能性を秘めている。私はそう思うから」
「そうかもな」
「……綾小路くん、あなた
酷い言われようである。
だがまあ、オレが欠陥品であることは、オレが一番わかっている。
堀北が正しくオレの欠点を理解しているかどうかは不明だが――。
「自覚がないようならいっそ刺してでも気付かせるつもりだったけれど、わかっているならいいわ」
「そんな気軽に人を刺そうとするなよ……」
「あなたにしかしないわ」
こんなに嬉しくない「あなただけ特別よ」は初めてだ。
「……少し時間を無駄にしたわね」
そう言うと、堀北はこほんと咳払いして空気を改める。
「さて、協力者の綾小路くんにお願いがあるのだけれど」
「いつの間にオレはおまえの協力者になったんだ?」
「昨日のことももう覚えていないの? 重傷ね。一度頭を強く叩いて直す必要があるかしら」
「いつの時代の家電の直し方だよ……人間の頭はもっと繊細だぞ」
本当に記憶が飛んだらどうしてくれる。
抗議の視線を送ってみるが、堀北はそれに取り合わずに話を続ける。
「須藤くんを勉強会に来るよう説得して欲しいの」
「……そりゃまた難題だな。ってかそれ、オレに頼まなくても誰かがやるんじゃないか?」
それこそ櫛田は動くだろうし、平田ももう一、二回くらいは誘いかけるはずだ。すでにDクラスのリーダー格として動き出している二人は、ポイントのためではなく性格的に須藤を見捨てることはない。
「誰かが動いてくれる、では駄目よ。それに、平田くんでは須藤くんを勉強会に参加させることはできない」
「まあ、そうかもな」
平田には強引さがない。人に強制しない姿勢は美徳でもあるが、こと今回に関しては不利に働く。
「だが、櫛田ならいけるんじゃないか?」
「……あなた、少しくらい櫛田さんの負担を
そう言われてしまうと、オレも黙るしかない。
オレは昨日まで、櫛田は凄まじい精神力を有していると思っていた。包容力……いや、忍耐力か。それが強くなければ、自分を拒絶し続ける人間を遊びに誘い続けることも、男子のセクハラ染みた発言や視線に堪え続けることもできないだろう。
だが――昨夜の櫛田の様子から、オレは考えを改めさせられた。
「まあ、そうだな……。いや待て、オレに頼まなくても堀北が自分でやればいいんじゃないか?」
「あなた、私が須藤くんに話しかけて上手くいくと思っているの?」
そこの自己分析はしっかりできていたらしい。
「けど、オレがやっても成功するとは思えないんだが……」
「できる・できないではなくて、やるのよ」
理不尽すぎるだろこいつ……。
「あなた、須藤くんの友達なのでしょう? もっとやる気を出したらどうなの」
「友達って言ってもな……何回か一緒にバスケしたくらいだし」
……いや待て、それって充分友達なのではないか? むしろ男子の中では一番仲が良いまであるのでは?
同じ櫛田グループの男子である沖谷たちはグループで遊ぶときにしか一緒にいないし、池や山内とも話すには話すが、彼らとは微妙に隔意があるように思う。……あの二人は櫛田狙いであるため、櫛田グループ所属で櫛田に近い位置にいる(と思われている)オレが敵視されているせいかもしれないが。
こうして改めて考えてみると、須藤はオレの一番の男友達だったのかもしれない。
須藤にとっての一番は、池か山内のどちらかだろうが。
……なんか、オレにとって一番でも、向こうにとってはそうでもないことばかりだな。櫛田もそうだし。ちょっと寂しさを感じる。
「わかった。誘ってみる。でも成功する保証はないぞ?」
「大丈夫よ。あなたならできるって信じているもの」
おや、オレってそんなに堀北に信用されていたのか。嬉しいというか意外というか、なんか少し照れるな。
「そもそも成功するまで何度でも誘って貰うつもりだもの。失敗なんてあり得ないわ」
「ああ、そう……」
オレを信じているわけではなく、失敗を許さないだけだった。暴君か何かであらせられる?
「だいたい、あなたならそう難しいことでもないでしょう?」
「いや、難しいだろ。だって須藤だぞ? 勉強よりもバスケ。女子よりもバスケ。気に入らないヤツはグーで黙らせる。対してオレは、平田みたいにイケイケの陽キャでもなければ、櫛田のような誰もが惹かれるような魅力もない。……無理じゃないか?」
女子……特に櫛田や堀北レベルの美少女の色仕掛けなら可能性はあるだろうが、それを頼むとオレの命が危ないので思考の隅に追いやった。
「むしろそれを聞いて、私はあなたの成功を確信したわ」
「なんでだよ」
聞くと、堀北は一つ質問をしてきた。
「綾小路くん、犬の躾で一番大切なことってなにかわかるかしら?」
「犬の躾? ……そうだな、成功したら褒めるとかか? おやつや玩具を与えるとも聞くな」
「確かにそれもそうだけれど、私が言いたいのは技術的なことではないわ。――答えは、こちらが上であると認識させること。それと同じよ、須藤くんのこともね」
「須藤を犬扱いかよ……。そういうところが良くないんだぞ、堀北」
「ワンワンキャンキャンうるさいわよ、
「
ショックを受けるオレに、堀北は「ふふっ」と小さく笑い声を漏らした。
……こうして笑っているところを見ると可愛らしいものだ。一度口を開けば恐怖の大王に変貌してしまうが。
オレの視線を感じ取ったのか、堀北はスッと笑みを消し、視線を振り払うように咳払いをした。頬はやや赤かったが、指摘したらコンパスか手刀で刺されるので黙っておく。
代わりにオレは別のこと――オレが堀北の誘いに乗った本来の目的のために、口を開く。
「堀北。協力するのはいいが、その見返りをくれないか?」
「友達を救うためなのだから、そんなものは必要ないでしょう。むしろあなたから進んで『協力させてください』と頭を下げるべきだわ」
「……、」
昨日の会話もあって少し考えたのだが、もしかして堀北はかなり『友達』というものを重く見ているのではないか?
しかしそれを口にするのは
今は他に、引き出したい言葉がある。
「おまえはオレに協力させるための材料が必要だから、昼食を奢るって言ったんじゃないか?」
「……違うわ。ただの善意よ」
「嘘吐け。おまえの性格は、四月から横で見ていてだいたいわかってる。おまえは何の狙いもなく人に昼食を奢るなんてことはしない。押しつけた恩は倍以上にして回収する
「その言い方だと、もの凄く性格の悪い人間のように聞こえるわね。あなた、死にたいの?」
死にたくはないが、怯むわけにもいかないので言葉を重ねる。
「おまえがオレのことをどれだけ買っているのかは知らないが、せいぜい一ヶ月程度の付き合いだ。無条件に信用できるほど交友を深められたとは言えない。もしかしたらオレは、おまえの頼みを引き受けたフリをして、適当に流すかもしれないぞ? だが、何かしらの見返りがあれば適当な仕事はしないだろう」
「だから報酬を用意しろと?」
「そのほうがおまえも安心できるんじゃないか、って言いたいだけだ」
オレの言葉に、堀北は少し考えるような素振りを見せた。
「……まあ、確かに。あなたは友人がどうなろうと気にしないようだから、それだけで動かすのは不可能だったわね」
「いや、友達がピンチならもちろん助けたいとは思うが――」
「どうかしら。あなたにそういう情動があるなら、昨日の時点で素直に私に協力すると言っていたと思うけれど」
あれは、堀北の強引さと態度のせいもあると思うけどな……。
「それに、綾小路くんが自分で言っていたものね。上手くできたら餌を与えて褒めてやるのは躾の基本だって」
「おい」
「冗談よ」
わりとマジなトーンだった。こいつ、本気でオレを犬扱いしているのか……?
「それで、なにが望み?」
ともあれ、ようやっと堀北からその言葉を引き出せた。
オレは素早く周囲に視線を巡らせてから、やや声量を落として望みを口にする。
「オレの質問に答えて欲しい」
言うと、堀北はじっとこちらの目を覗き込んできた。
それから数秒間、視線を合わせていたが、やがて堀北のほうから目を逸らす。
「……なにを聞きたいのかは知らないけれど、そうね。あなたが須藤くんを勉強会に連れてきて、Dクラスの全員が赤点を取らずに中間テストを乗り越えられたなら、一つだけあなたの問いに答えてあげるわ」
「さらっと難易度上げてきたな……」
「あなたのやることは変わらないわよ。須藤くんを勉強会に連れてくるだけ。あとは私がどうにかするわ」
「どうにかって……もしかしておまえ、須藤に直接勉強を教えるのか?」
まさか、と思って口にすると、果たして堀北は頷いて肯定した。
「ええ。昨日、言ったでしょう? 問題がなければ先生役として参加するって」
「ああ、そういえばそうだったな」
昨日、堀北は最初は「様子見」と言い、それから「問題がなければ参加する」と言っていた。そのときに堀北が危惧していた問題が『須藤たち三バカを始め、赤点組が勉強会に参加しないこと』であったならば、確かにオレが須藤を勉強会に連れてきた時点で解決する。
「とはいえ、実際に誰が誰を教えるかは平田くんたちが決めるでしょうけど」
確かにそうだが、それでも堀北が先生役として参加するだけでも平田たちとしては大助かりだろう。
いや、待て。テストの点数が良いからといって、教えるのが上手いとは限らない。堀北の攻撃的な性格としても、生徒との相性次第では悲惨なことになりはしないか――。
「なにを心配しているのか、だいたい予想は付くけれど、それよりもあなたは須藤くんをどう連れてくるかを考えなさい」
堀北の言うとおりだ。まずは目の前の問題をどうにかしなければ。
いつの間にか話に熱中していて止まっていた食事を再開しながら、オレは思考を回す。
と、不意に堀北がこんなことを言い出した。
「そうね……ヒントになるかわからないけれど」
「ん?」
「これは以前、人から聞いたことなのだけれど……男子の友情は、拳を
「そうなのか?」
「ええ、間違いないわ。校舎裏か河川敷が鉄板だそうよ」
なるほど……。
『友達』について並ならぬ思いを抱えていそうな堀北の言うことだ。参考にさせて貰おう。
山内がプールの授業の時に言っていた「男の友情はエロで深まる」とどちらが有用なのか、試してみるのもいいかもな。
初日の校門前での会話がなくても綾小路と堀北が教室で話していた(二話の転生櫛田の視点では「会話を試みようとしていた」止まりでしたが)のは、原作の堀北とは違う状態だったからです。
ついでに言えば、三話で転生櫛田は『ちょうど帰り支度を終えて去るところだった堀北鈴音』と表現していますが、綾小路からすれば『帰り支度をして声をかけられるのを待っていた堀北』という感じでした。これだから一人称視点は信用ならないぜ。
初日の自己紹介に堀北がいなかった理由は……そのうち堀北視点があったら判明します。たぶん。
勉強会の後編は明日投稿します。