櫛田に転生したから綾小路の手駒になる   作:星宮ひまり

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遅くなってしまい申し訳ありません。
転生櫛田の立場から色々考えているうちにどんどん時間が経っていました。
決してDFに挑むのに夢中だったわけではありません。ええ、決してね。それはそれとしてウィンガルドが出ないのはどうして?

※4/28 最後の数行を加筆。
『昼食の後は、』からが加筆部分です。


人の記憶も印象も、色々と偏るものです。
そして後の印象が強烈なほど、初期のイメージは塗り潰されていくものです。
とはいえ、一つのイメージに引き摺られ続けることも、ままあることですが。


3.べりー・いんぽーたんと・くらすめいと

 

 

 前世の記憶を掘り起こそうとするとき、必ずと言っていいほど蘇ってくる言葉(セリフ)がある。

 

『三学期、DクラスはCクラスに上がる。だがおそらく、もう一度Dクラスに戻る。なぜなら――オレが櫛田桔梗を退学させるからだ』

 

『よう実』アニメ二期の最終話、綾小路くんがCクラスのリーダー・龍園の前で行った宣言だ。

 呪いのように。あるいは警告するように思い出す度に、私は考える。

 

 ――アニメで『櫛田桔梗』が綾小路くんから目を付けられたのは、どうしてだろう。

 

『櫛田桔梗』が裏切り者だから? 確かにそれもあるだろう。クラス対抗のこの学校において、上位を目指すためにはクラスの癌は早期に摘出しておくべきだ。

 でも、もう一つの理由のほうが問題だったと、私は思う。

 

 

 それは――『櫛田桔梗』が堀北鈴音を退学させようと行動していたこと。

 

 

 アニメの綾小路くんにとっての堀北鈴音は、隣の席の女子で、スペシャル定食一つで協力を強制する強引なやつで、龍園の目から逃れるための隠れ蓑で、将来Dクラスのリーダーになると目する人間で、――つまりは有力な駒の一つ。

 一部散々な評価もあるけれど……それでも彼は()()()()()()()()()()()、のだと思う。

 

 もし『櫛田桔梗』が堀北鈴音以外のクラスメイト……例えば池や山内を退学させようとしていたなら、問題なかったはずだ。綾小路くんは『櫛田桔梗』を残し、池や山内――すなわち「『櫛田桔梗』よりも能力の低い人間」を切り捨てる判断を下しただろう。

 

 でも、『櫛田桔梗』は堀北鈴音の退学に拘った。

 綾小路くんは堀北鈴音に期待しているから、堀北鈴音を退学させられると困る。『櫛田桔梗』に邪魔され続けるのも面倒。

 結果、綾小路くんは堀北鈴音と『櫛田桔梗』を天秤にかけ――『()()()()()()()()()()()()()()()

 

 堀北鈴音よりも『櫛田桔梗』のほうが有用だと判断されれば、切り捨てられるのは堀北鈴音になるだろう。でも、堀北鈴音は優秀だ。コミュニケーション能力……というか、他者を見下す態度に問題はあるが、それでも秘めている才能はホンモノ。そんな彼女と競うのは難易度が高い。というか、戦う時点でリスクが大きすぎる。

 

 それを踏まえて、()は堀北鈴音とどう接するべきか。

 

 そもそもの話、『櫛田桔梗』と違って、堀北鈴音を退学させようとしなければいいのではないか?

 その場合、考えるべきは『中学最後の大花火(あの事件)』についてだろう。

 

 堀北鈴音が私のこと――そして『クラス崩壊(あの事件)』のことを覚えていないのなら問題ない。

 アニメの描写から考えるに、最初の頃の堀北鈴音は『櫛田桔梗』が同じ中学の出身だということにすらまったく気付いていなかったはずだ。けれど、『櫛田桔梗』が積極的に関わってきて、さらには退学にしようと色々仕掛けてきたせいで思い出してしまった。

 

 言い換えれば――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()私の秘密(あの事件)()()()()()()()()()()()()()ということ。

 つまりは、藪を突かなければいい。

 クラスメイトである以上、不干渉でいることは難しいけれど、接触を最小限に抑えれば危険はないはず――。

 

 

 ――なんて、()()()()()()()()

 

 

 干渉を控えれば思い出さない? 本当に? 絶対って言い切れる?

 無理だ。そんな保証はどこにもない。

 

 なんてことない記憶だって、ふとした拍子に思い出されるものだ。

 すれ違ったとき。顔を合わせたとき。私の名前が呼ばれたとき。あるいはもっと関係性の薄い事柄に遭遇したときだったとしても、記憶を刺激してしまうかもしれない。

 

 他人に興味のない孤高の堀北鈴音とて、中学最後の大事件について、多少なりとも耳にしているだろう。それが櫛田桔梗(わたし)によって引き起こされたことであるとも知ったはず。

 今は忘れていたとして、来月、再来月……いいや、明日にだって思い出さない保証はない。

 

 過剰な警戒?

 それこそ(やぶ)(へび)

 他者からそう言われたとしても、今、この立場にいる私は、()()()()()()()()()()

 

 沢山の友達を作ろうとしている人間が、過去に多くの人間を傷つけ、関係性を破壊したと知られれば、警戒されるだけじゃ済まない。関わりたくないと思われて当然だ。

 それはまずい。

 私の――……、いや、『綾小路清隆(きよぽん)に取り入ろう大作戦☆』のためにも、そんな展開は許されない。

 

 なら、どうするか?

 

 記憶を刺激しないように接するのは当然。そして、()()()()()退()()()()()()()()()()()

 

 その上で、もし仮に思い出したとしても『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』。

 あるいは――『堀北鈴音が「まさかあの櫛田さんがそんなことするはずないわね」と考えるほど()()()()()()()()()()』ことで対処する。

 

 ……後者の難易度はルナティックだが。堀北鈴音の性格的に。いや、友人関係でなくとも、有力なクラスメイトとして信頼されればOKか。だとしても大変なことに変わりはないけれど。

 

 というわけで、私は皆と信頼関係を築きつつ、堀北鈴音と仲良くなろうと思う。

 できるかと問われれば難しいだろうけど、やらないわけにもいかない。そもそも自己紹介の時に「みんなと仲良くなりたいですっ!」って言ったのに最初から一人だけハブるとかまずいでしょ。櫛田桔梗(わたし)人物像(キャラ)的に。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 入学式を終え、一通り敷地内の説明を受けたところで、初日は昼前に解散となった。

 クラスメイトの大半は寮に向かうようだが、交流に積極的な人間は、グループを作って昼食や遊びに行こうと話している。私も仲良くなった人たちとお店を見て回る予定だ。

 

 ――と、その前に。

 私は、鞄を持ち上げた格好で教室内を(気のせいだろうけど、どこか期待した目で)見回していた綾小路くんに近寄り、携帯端末を掲げながら声をかける。

 

「綾小路くんっ! 連絡先、交換してくれないかな?」

「する。させてくださいっ」

 

 食い気味だった。え、どういう感情?

 まさか普通の男子高校生の如く「女の子の連絡先ゲットだぜやったー!」なんて、()()綾小路くんが思うわけないし……。

 

 と、内心の混乱を気取られないようにしつつ、綾小路くんと連絡先を交換する。

 そして私は流れるように隣の席に目を移し、

 

「えっと……堀北さん、だよね? 連絡先、交換してくれないかな?」

 

 声をかけると、ちょうど帰り支度を終えて去るところだった堀北鈴音は、一瞬だけ不自然に硬直した。

 それからこちらに振り返り、じっと顔を見つめてくる。

 

「……、」

 

 ――え、なに? なにかおかしいこと、しちゃった?

 

 自己紹介に参加しなかった堀北鈴音の名前を知っているのがおかしかったとか? いや、それは大丈夫。最初、どこが誰の席かを示すために、名前の書かれた紙(ネームプレート)が置いてあった。それを見たって言えばいい。

 

 ……だとしても、軽率だったかも。まずいなぁ。記憶を刺激しないように下手な行動は控えようと決めたばかりなのに、早速警戒されちゃった。――いや、まだ名前のことで警戒されていると決まったわけじゃないけど。

 

「……遠慮させてもらうわ」

 

 数秒の沈黙の後、堀北鈴音はそう言って顔を背けた。そしてこちらが何かを言う前に教室を出て行ってしまう。

 

「あはは、残念。断られちゃった」

 

 困った顔で綾小路くんに向き直る。と、彼はじっと私を見つめていた。

 

「どうしたの?」

「いや……櫛田は、堀北と知り合いなのか?」

「え?」

「名前……っていうか、名字か。堀北は自己紹介に参加しなかったが、櫛田は知ってたみたいだし」

「それは、ほら、ネームプレート置いてあったでしょ? それを見たから」

「櫛田が来たときには、堀北はもうネームプレートを外していたはずだが」

 

 ネームプレートが必要なのは、自分の席を把握する最初だけだ。いつまでも貼り付けていても邪魔になるだけ。帰る前に堀北鈴音はそれを片付けていた。

 ややこしいことしてくれるなぁ、とは思うけれど、今、人を責めたって意味はない。

 

「今じゃなくて、最初だよ。バスを降りて、教室に来た時。茶柱先生が来るまでの間にね」

「ん? でも櫛田、こっちには来なかったよな?」

「あ、もしかして寂しかった? ごめんね。近くの席の子と話が弾んじゃって。――って、話が逸れちゃったね」

 

 てへっ、と小さく舌を出す。人によってはイラッとくるであろう動作だけれど、私の見た目なら――相手を選べば――プラスだ。

 

「私、自己紹介の時にも言ったけど、みんなと仲良くなりたいの。仲良くなるためにはまず名前を覚えなきゃって思って、最初にみんなのネームプレートを確認してたんだよね」

「え……本当に全員と仲良くなるつもりなのか」

「うんっ。駄目かな?」

「いや、駄目ってわけじゃないが……難しいことだと思うぞ」

「そうだね。それでも、私はみんなと仲良くなりたい! って思うから」

 

 にっこり笑ってみせると、綾小路くんはすっと目を逸らした。……これはどういう感情なの?

 

「これで、綾小路くんの疑問には答えられたかな?」

「ああ。……もしかして全員の名前、覚えてるのか?」

「うんっ。私、人の顔と名前を覚えるのは得意だから」

 

 コツを掴めば簡単だ。ついでに、そいつの嫌だと思ったところをセットで覚えると忘れにくくなる。まだほとんどの人と話していない現段階だと、外見的なものに偏っちゃうけどね。

 

「そうか……凄いな」

「あはは、ありがと。――っと、そうだ。私、今から仲良くなった子たちとお昼食べに行くんだけど、綾小路くんも一緒に行かない?」

 

 せっかくだからと誘ってみると、綾小路くんは両目をぱちくり(しばたた)かせた。

 

「それは……オレが行ってもいいやつなのか?」

「もちろん! 大歓迎だよっ。あ、何人か男子もいるから気まずくはならないと思うよ」

「そうか。なら、参加させてくれ」

 

 心なしか弾んだような声音の綾小路くんを連れて、お昼を一緒に食べる約束をした皆と合流する。

 私が「行きのバスで仲良くなったんだ。綾小路くんって、とっても優しいんだよっ」と紹介すると、皆はすんなり綾小路くんを受け入れてくれた。

 

 ……そういえば、アニメだとこの後、綾小路くんと堀北鈴音はコンビニに行くんだったっけ?

 まあ、別に重要なイベントじゃない……と思うし、うん。大丈夫、大丈夫。……大丈夫だよね?

 

「ところで綾小路くん、自己紹介の時に何を言いかけていたの?」

「……忘れてくれ」

 

 皆でお昼ご飯を食べているときに、ふと思って聞いてみると、綾小路くんは遠くを見る目をした。

 皆で面白がって追求した結果、「綾小路くんは詩人」ということに落ち着いた。もしくは中二病。

 

 

 昼食の後は、そのままのメンバー――私が声をかけた六人+綾小路くん――で学校敷地内のお店を見て回った。綾小路くんの目がどこかキラキラしていたのが印象的だった。まるで初めて夢の国に来た少年のようなその様子に、綾小路くんがちょっとだけ可愛く見えた。……内心、彼がどんなことを考えていたのかは私にはわからないけれど。

 その後、初日なので部屋の整理など色々あるだろうということで、十七時前に解散となった。

 

 寮の自室に入ってから「あれ、そういえばコンビニで須藤が何かやらかすんじゃなかったっけ?」と気付いたが、「……まあどうせDクラスにとっては誤差だろうから、いっか」と諦めることにした。ゼロより下にはならないはずだし。

 

 夜には連絡先を交換した子たちとメッセージを送り合って、明日の準備をして、肌や髪の手入れをして。そして最後に綾小路くんと(ふた)(こと)()(こと)メッセージのやりとりをして、私の高育での初日は終わった。

 

 




どれだけ警戒して、様々に思考を巡らせても、ガバはある。人間だもの。

残念ながら転生櫛田の記憶からは堀北学のことが抜け落ちている模様。二期最終話に出てこなかったからね、仕方ないね。まあ覚えていても結論は変わりませんが。
その割にスペシャル定食云々を覚えているのは、堀北鈴音の「食べたわよね? 私の奢りで」の印象が強かったからでしょう。

ちなみに龍園が「龍園」呼びなのは、転生櫛田が下の名前を覚えていないからです。池や山内とは別。
なお、高円寺がくん付けなのは、綾小路とのファーストコンタクトに繋がったため。「バスの出来事のおかげで綾小路くんと早めに話すことができた、ありがとう」ということ。



綾小路への警戒度:120 好感度:50
分岐/クラスの皆と遊びに行かず、綾小路と二人でコンビニへ。
「櫛田……これ、凄いサイズだよな。Gカップって」
「は? ……え、は?」
「あっ」
「……、…………、あは、あはは。綾小路くん、それはギガカップって言うんだよ?」
「……そうみたいだな」

「(え、綾小路清隆なりのジョーク……ってわけじゃ、さすがにないよね。意図的に嫌われようとしているとか? それとも私の何かを試してる? まさか()()()()なんてことは――いや、でも、()()綾小路清隆なら服の上から見ただけでも……つまりこれは、『オレはおまえのなにもかもを見抜けるぞ』という警告――ッッッ!? ………………、いや私Gもないけど)」
「(やばい、オレの高校生活終わったかもしれない)」
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