櫛田に転生したから綾小路の手駒になる   作:星宮ひまり

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4/28に、前話の最後に少しだけ加筆しています。
初日の最後の締めを書くのを忘れていたので、その部分です。読み直さなくても影響は無いと思います。『昼食の後は、』からが加筆部分です。

今回は、後半部分が綾小路視点となっております。


4.致命的な小さなズレ

 

 

 学校二日目。授業の大半が方針説明なので、クラスは気楽な雰囲気に包まれていた。

 一部の生徒は、先生の話を子守歌に夢の世界へ旅立つほど。そしてそれを注意しない先生の様子からクラスメイトたちは緊張感というものを忘れ、次第に授業中に携帯端末を触ったりお喋りをしたりする生徒が増えていく。四時間目になる頃には、休み時間との境目が曖昧なほど弛緩した空気が広がっていた。

 

 これは……アニメ通りに来月のポイントはゼロかな。

 DクラスのDクラスたる由縁を肌で感じながらも、私は改善のために行動するようなことはしない。

 表立ってすることはできない……と言うべきか。

 

 というか、私もどちらかと言うとマイナス側の生徒なんだよね。決して自分から騒ぐことはないけれど、櫛田桔梗(わたし)のスタンス的に強く注意することも、話しかけられたら無視することもできないから。

 まあ、爆睡する須藤やお喋りに夢中な軽井沢さん、机の上に足を乗せて鏡に映る自分しか見ていない高円寺くんと比べると小さなものだろうけど。

 

 ゴリゴリ削られているであろうクラスポイントのことを思うとため息を吐きたくなるが、昨日、茶柱先生にSシステムについて質問しなかった時点で、私が文句を言うのは違うだろう。

 

 とはいえ、度が過ぎれば注意しないのもおかしい。私の周囲であまりにもうるさくなりそうだったら、やんわりと窘めるようにしよう。

 ――と、そんなことを考えているうちに、チャイムが鳴って昼休みがやってくる。

 

「櫛田さん、お昼食べに行こうよ」

 

 授業が終わって早々に井の頭さんから誘われる。昨日の昼食も一緒に食べた子だ。二つ返事で了承する。すると(ワン)(メイ)(ユイ)――本人からあだ名で呼んでほしいと言われたので「みーちゃん」と呼んでいる――が一緒に行きたそうな目を向けてきたので彼女も誘うと、次々と一緒に昼食を食べに行きたいクラスメイトたちが集まってきた。

 良い滑り出しだ――と、内心にやりとしつつ、「あと二人、誘いたい人がいるから、誘ってきてもいいかな?」と断りを入れてから綾小路くんのところに向かった。

 

「綾小路くん、今日もお昼、一緒にどうかな?」

「行く。行きます。行かせてくださいっ」

 

 昨日にも増して食い気味な綾小路くん。正直ちょっと怖い。

 

「あはは、すごい勢いだね。そんなにお昼が楽しみだったんだ?」

「いや、お昼というか…………、ああ、そうだな。楽しみだった」

「そっか。みんなで食べると楽しいもんね」

 

 言葉通りに受け取っていいものか、ちょっと判断が付かない。昨日、一緒に昼食を取った時、そしてお店を回った時の様子もそうだけれど、普通の男子高校生にしか見えないのだ。でも私は知っている――アニメで見た、彼の本性を。だから、表面上の反応だけで彼を(はか)りはしない。

 

 綾小路くんの本心についてはともかくとして。

 私は視線を隣の席へと移す。

 昨日のリベンジだ。今度こそミスしないよう気をつけないと。

 

「堀北さんも、お昼ご飯、一緒にどうかな?」

「遠慮させてもらうわ」

 

 昨日と同じセリフで断られてしまった。

 

「そっか……じゃあ、また誘うね」

「……、櫛田さん――」

 

 堀北鈴音は私に訝しむような視線を向けてきた。

 その美麗な顔と冷たげな雰囲気に少しだけ臆しそうになるが、私はなんとか動揺を抑え込んで笑顔を維持する。

 

「えっと……なにかな、堀北さん?」

「……、…………、いえ、なんでもないわ」

 

 そう言って、堀北鈴音は席を立って教室を出て行った。

 ……堀北鈴音は、何を言いかけたのだろう?

 私に対して疑問を抱いたような感じだった。もしかして――堀北鈴音は鋭いから、私の本心が気取られた? ……わからない。でも、なにか、致命的なものを見逃しているような――。

 

「――櫛田? 大丈夫か?」

 

 綾小路くんの声で、私は思考の海から引き戻される。

 

「堀北のことは残念だったが、あいつはそういう性質(たち)みたいだからな。仕方ないと思うぞ」

 

 その言葉に、綾小路くんの不器用な優しさみたいなものを感じた。……()()綾小路くんのことだから、これも計算に基づいた行動なのかもしれないけれど。

 

「あはは、慰めてくれるの? ありがと。でも、一回二回断られたくらい平気だよ。今までもそういう人はいたし。そういう人たちとも、何度も何度も話しかけて、少しずつ仲良くなって、友達になることができたから」

「そうか。……櫛田は、強いんだな」

「強い、かな? どうだろう。私はただ、仲良くなるのを諦めたくないだけだから」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()、上手く調整して微笑む。

 ……実際、この程度でへこたれたりはしないし。

 ただ――堀北鈴音の、あの訝しむような視線。アレが何を意味するのか、不安なだけだ。

 

「それにしても、綾小路くんは堀北さんと仲がいいんだ?」

「……は? なんでそうなるんだ?」

「だって、堀北さんのこと、よく知った風に言うから。もしかして、隠れて付き合い始めていたりして」

 

 からかうような、それでいて少し羨むような声音で言ってみると、綾小路くんは真顔で――しかし、どこか焦りを滲ませたような感じで――否定する。

 

「ない。オレと堀北の間に特別な関係はないぞ。ただ席が隣なだけの……そうだな、ただの隣人だ」

「ふぅーん……ほんとかなぁ? 実は堀北さんと授業中に秘密の会話をしちゃってたりしない? ノートの端っこにメッセージを書いて見せ合ったり、手紙のやりとりをしてみたりとか」

「そんな嬉し恥ずかしエピソードは残念ながらないな。というか、堀北にそういうのを期待するのは、ちょっと難しいと思うぞ」

「そうかな? でも、もしそういうことができるような関係になれたら、楽しそうだよねっ」

 

 言うと、綾小路くんは小さく首を捻った。堀北鈴音とそういうことをするのが想像できないのかもしれない。……うん、ぶっちゃけ私もちょっと想像できない。授業中に関係ないことをしていたら、容赦なくシャーペンでもコンパスでも刺してきそうだし。

 

「……どうあれ、オレもまだ堀北と友達じゃない。あの感じだと、なれるとも思えないが」

「どうかな? 綾小路くんと堀北さんって、ちょっと似てるところあるし。二人っきりでいれば、案外すぐに仲良くなっちゃうかも?」

「まず堀北と二人っきりになる状況が想像できないんだが……」

「これからいっぱいあると思うよ」

「ないと思うが……仮にもしそうなったら、気まず過ぎて仲良くなるどころじゃないと思うぞ」

 

 綾小路くんはそう言うが、堀北鈴音との相性ではDクラス――いや、全校生徒の中でも彼が一番いいと思う。……アニメの印象に引き摺られているところが多分にあるけれど、きっと。まあどうあれ、私と堀北鈴音が二人きりになるよりは簡単に仲良くなれるだろう。

 

「……櫛田は、堀北と仲良くなりたいんだよな?」

 

 綾小路くんの問いに、私は迷わず頷いた。

 

「うんっ! 私の目標は、学校中のみんなと友達になることだからね」

「それは……」

「現実的じゃないよね。わかってる。でも、目標は大きく、だよっ」

 

 ()()()()()()()ではあるけれど、ある程度本気で取り組むつもりだ。多くの人間と仲良くなることは、私にとって必要なことだし。

 

「でもまあ……今のところ、あんまり順調とは言えないんだよね。他のクラスの人や上級生と仲良くなりたいって口では言っていても、実際には同じクラスの一人とも友達になれていないんだから」

「櫛田は良くやっていると思うが。というか、まだ学校始まってから二日だぞ。そんなに焦ることないんじゃないか?」

「そう、かな? ……うん、そうだね。ありがとう、慰めてくれて」

 

 内心、綾小路くんがどんなことを考えているのかはわからないけれど――……。

 慰めてくれる綾小路くんに私はふわりと微笑みかけて、礼を言う。

 

「綾小路くんって、すっごく優しいよね。中学の頃はモテモテだったんじゃない?」

「そんなことはないぞ。彼女どころか、友達すらいなかったくらいだし」

「えー? それはちょっと信じられないかも。綾小路くんって格好いいし」

「……、そうか?」

「うん。少なくとも、私はそう思ってる」

 

 少し――。

 ほんの少しだけ自分の中の感情を操作して、頬に熱を持たせる。

 男の情欲を刺激するような表情を作り、相手の顔を覗き込む。

 こんな小手先の技術が綾小路くんに通用するとは思えないけれど――少しでも効果があるのなら、と期待して。

 

 ……あ、駄目だ。ちょっと羞恥心が抑えられそうにない。

 

「なんてねっ。――そろそろ移動しよっか。みんなを待たせちゃってるし」

 

 誤魔化すように言ったせいで、少しだけ早口になってしまった。頬に上った熱もすぐには冷めそうにない。パタパタと手で仰いでおく。井の頭さんたちと合流する前には平常に戻っておかないと、変な誤解を生んでしまう。それはちょっと……いや、かなりまずい。

 

 井の頭さんたちのところへ向かうために(これまたちょっと早足で)歩き出すと――ふと、後ろで何か綾小路くんが呟いた。

 

「……二人きりじゃないのか」

 

 上手く聞き取れなかったので、振り向いて問いかける。

 

「どうしたの、綾小路くん?」

「いや、なんでもない。一緒に食べるメンバーは昨日と同じか?」

「うん。井の頭さんたちだよー」

 

 誤魔化されてしまったが、問い詰めるようなことはしない。もし深く突っ込んで、さっきの話に戻ってしまったら私が困るし。

 

 と、そんな時、教室のスピーカーから音声が流れ出す。

 

『本日、午後五時より、第一体育館にて部活動の説明会を開催いたします――』

 

「部活動か……」

 

 放送を聞いて、綾小路くんがそう呟いた。

 

「綾小路くん、入りたい部活があるの?」

「いや、特にはないな。櫛田は?」

「うーん……私もないかな。運動は嫌いじゃないし、文化系の……美術や茶道だって興味はあるけれど、部活動として三年間取り組みたいかって言われると微妙だし。それに、部活に入ると、どうしても時間が取られちゃうしね」

「あー……確かに、部活に入ると遊ぶ時間が減るよな。いちおう、気が向いた時にだけ部室に行くような半幽霊部員になるのも手だろうけど」

「それはちょっと、真剣に部活に打ち込んでいる人たちに失礼じゃないかな?」

「確かにそうだな。忘れてくれ」

 

 というか、そういう不真面目な態度はクラスポイントに響きそうだから、やめておいたほうがいいだろう。私が部活に入るとしたら『特定の人物との接点を増やすため』だろうけど、今のところそういう人物もいないし。

 

 ……そういえば、アニメでは部活動説明会のシーンはなかった……よね? なら、行かなくてもいいかな。

 

 ――と、そう思っていたのだが、昼食を一緒に取ったメンバーの何人かが「行きたい」と言ったので、それに付き合う形で参加することになった。

 よく考えたら他クラスの人と接点を作るチャンスでもある。提案してくれた子には感謝。

 あと、なぜか綾小路くんも参加を表明した。なんで? 部活に入る気はないって言ってたよね? アニメでも部活に入っている描写はなかったし……まあいいけど。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「なあ堀北。一緒に部活動説明会に行かないか?」

 

 放課後になり、帰宅準備を始める堀北に向かって、オレ――綾小路清隆はそう問いかけた。

 オレに声をかけられると思っていなかったのか、堀北は少しだけ驚いたような目を向けてくる。しかしすぐにいつもの冷たい目に戻った。

 

「行かない。私は部活動に興味ないから」

 

 勇気を出したオレの誘いは、見事にぶった切られてしまった。

 だが、ここで折れるわけにはいかない。そう自分を奮い立たせ、さっさと帰り支度を済ませ去ろうとする堀北へ再び言葉をぶつける。

 

「堀北は部活に入らないのか?」

「……私は部活に興味ないって言ったはずだけれど」

「興味はなくても、部活に入らないとは限らないだろ。最初から入る部活を決めている場合とか」

「はあ……」

 

 露骨にため息を吐かれてしまった。ちょっとへこむ。

 すると、堀北はほとんど睨むような目をオレに向けてきた。

 

「櫛田さんと行ったらどうかしら? それとも、もしかして櫛田さんに頼まれたのかしら。私を連れてくるようにって」

「いや、別に、櫛田に頼まれたなんてことはないが――」

「なら、櫛田さんは無関係と言えるかしら? 断言できるなら、少しだけ付き合ってあげてもいいわよ」

「マジか」

「でも……そうね。例えば、説明会に向かったら会場でばったり櫛田さんに会ってしまい、白々しくも『偶然だなー』なんてほざいたら…………ふふっ、どうしてやろうかしら。――ああそういえば、新学期に備えてコンパスを研いでいたのよね。綾小路くん。どうかしら?」

「……すみません、無関係ではないです」

 

 (こえ)えよ。なんだこいつ、察しがいいなんてレベルじゃないぞ。というか新学期だからってコンパス研ぐか普通?

 

 実際のところ、オレは櫛田から堀北を誘うよう頼まれたわけではない。

 オレが勝手に、少しだけアシストしようかな、と思っただけだ。

 

 櫛田は堀北と仲良くなりたいらしい。でも、櫛田が直接誘っても堀北は首を縦に振らないだろう。それは昨日の連絡先の交換や今日の昼食の誘いを拒否した様子から容易に想像できる。

 だから、オレが堀北を部活動説明会に誘い、偶然を装って合流すれば……と思ったのだが。

 

「浅はかな考えね。誘ってくる相手が櫛田さんではなくあなたになったところで、私が了承する確率は一パーセントも上がらないわよ」

 

 そりゃあ、学校が始まってから二日ですでにDクラスの半数以上と連絡先を交換しているらしいコミュ力お化けの櫛田が無理だったのに、連絡先の入手数が一桁(しかも櫛田が繋いでくれた縁なので、自力ではない)のオレにできるとは思えない。わかってはいたが、それでもちょっとショックだ。

 

 人と仲良くなるのは、かくも難しいことなのか。

 ……堀北の攻略難度が異常に高いだけだな。うん。

 

 さて、このハリネズミのようなツンツン少女からどうやってデレを引き出そうか。……いや、そもそもデレが存在するのか? ツンしかないんじゃないか? あの大天使・櫛田桔梗が誘いかけても無情に退ける氷の女に、甘く温かいハートなんてあるのか?

 

「……なにか失礼なことを考えていそうだけれど、用がないなら帰るわ。さよなら」

「待ってくれ、堀北」

「なに?」

 

 眉を顰めて不機嫌さを隠そうともしない堀北に、オレは少しだけ真剣な表情(真顔)で問いかける。

 

「堀北、おまえが櫛田の誘いを断るのは、なにか理由があるのか?」

 

 まだ学校が始まってから二日だ。その短い期間だけで全てを推し量れるとは思わないが、それでも堀北が人付き合いが得意じゃない――あるいは独りを好む人間だということは察している。

 堀北が交流を拒んでいるのは、なにも櫛田だけの話じゃない。自己紹介を先導した女子に大人気の平田や、色んな女子に積極的に声をかけている池、その他声をかけてくれる女子たちとも、堀北は友好的に接しようとしない。

 

 だが――。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 隣で見ていて、オレはそう感じた。

 

「さあ。少なくとも、あなたには関係の無いことよ」

 

 堀北は吐き捨てるようにそう言うと、教室を出て行ってしまった。

 

「なるほど、な……」

 

 オレの呟きは、教室内の喧噪にすぐさま掻き消される。

 詳しいことはわからなかったが、何かがあるということはわかった。今はそれで充分だ。

 

 

 その後、オレは櫛田たちと合流し、部活動説明会に参加した。

 

 入部したいと思える部活はなかったが、最後の生徒会長の話は印象的だった。話の内容ではなく、話をした生徒会長・堀北(まなぶ)の迫力が凄かった、と言うべきか。

 あと、説明会に来る直前に堀北と話をしたせいか、生徒会長の名字に少し反応してしまった。偶然か、もしかしたら親戚かもしれない。それを出しに堀北に話しかけてみるのはどうかと櫛田に提案することを一瞬だけ考えたが、友達作りの達人である櫛田の会話デッキに口を出すのはオレでは実力も経験も不足していると思ったのでやめておいた。

 

 それにしても――。

 複数人の友達(それも女子有りで、しかも一番仲のいい子は滅茶苦茶可愛い美少女)と一緒に昼食を取ったり遊びに行ったり説明会に参加したりしているオレは、順調に青春を謳歌し始めていると言えるのではないか?

 

 その切っ掛けは、言うまでもなく櫛田だろう。圧倒的感謝である。大天使・櫛田桔梗様のおかげで、オレは充実した学生生活とやらを送れそうだ。

 

 




綾小路と須藤に接点がないのは後々問題になるかもしれません。転生櫛田は気付いていませんが。……とはいえ、全然リカバリー可能な範囲ではありますが。
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