櫛田に転生したから綾小路の手駒になる   作:星宮ひまり

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 お待たせしました。ようやっと五月です。


8.五月一日、過去のツケを払うとき

 

 

 五月一日の朝、目覚めて真っ先に私はプライベートポイントを確認する。

 携帯端末の画面に映し出された数値は、昨夜確認したものと1ポイントの差もなかった。

 

「うん、まあ……でしょうね」

 

 続けて複数のグループチャットの動きも確認するが、こちらは少しだけ面白い変化があった。

 

 まず、メンバーが全てDクラスのグループに派手な動きは無い。せいぜい「振り込みは何時とか言われてたっけ?」「ポイントの受け取り操作ってどうやんの?」「情弱(おつ)。振り込みは自動と言ってたでござるよ」のような、問題点に(かす)ってはいるが真相には至れていない会話が散発的に起こるだけ。

 

 対し、他クラスの生徒も混じっているグループでは、「ポイント見たら5万くらいしか増えてなかったんだけど! なにこれバグ!? みんなはどうだった?」「履歴見たら振込額9万4000ポイントだった」「私は6万5000。10万貰えるんじゃないの?」などと騒ぎ出していた。

 

 振込額0ポイントで数字に変化が無いDクラスとは違って、A・B・Cクラスは残高が増えてはいるので気づけるのだろう。そして想像していた数値と違い、問題として認識する。

 

 とりあえず……各クラスのクラスポイントはAが940、Bが650、Cが500前後、Dが堂々の0ということはわかった。アニメではどのくらいだったか、0のDクラス以外正確に覚えていないので違いを読み取ることはできないが、だいたい同じなんじゃないだろうか?

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 朝の教室は普段より一段と騒がしく、案の定ポイントの話で持ちきりだった。

 私も登校してすぐにグループの女子で集まり、ポイントについて話し始める。

 

「どうしてポイント、振り込まれていないんでしょうか?」

 

 みーちゃんが携帯端末の画面を眺めながら、眉を八の字にして言う。

 

「く、クラスのみんな、貰えてないみたいだし……学校側のミス、なのかな……?」

 

 大きな胸の前でぎゅっと両手で携帯端末を握りながら、()()()()が不安そうに首を傾げた。

 いつもなら池やら山内やらが遠目に眺めて鼻を伸ばす動作だが、今の状況では変態たちはこちらに意識を割く余裕はなく、粘っこい視線を感じることはない。

 

「私たちのクラスだけじゃなくて、他のクラスでも騒ぎになってるみたいだよ」

「そーなの、桔梗ちゃん?」

 

 私は心ちゃんに頷いてみせ、続ける。

 

「うん。ただ、ポイントが増えてなかった私たちと違って、振込額が10万ポイントじゃなかったことが原因みたいだけど」

「10万じゃない? って、そもそも振り込み自体はあるんだ。贔屓かー?」

 

 ぶーぶーと唇を尖らせる心ちゃん。

 それに対し、みーちゃんは首を(ひね)って、

 

「10万ポイントじゃないって、どういうことなんでしょうか……?」

「システムエラー説を私は推すかなー。もしくは嫌がらせ」

「心ちゃん……エラーはともかく、嫌がらせなんて無意味なことはしないと思うよ」

 

 苦笑いで私は言う。さすがに学校が私情を挟んだりはしないだろう。

 

「でも……そんなおかしなエラーなんて、するのかな? もしエラーだとしたら、その、普通なら、問題が起きてることを知らせるメールが来ると思うんだけど……」

 

 佐倉さんの言うことはもっともだ。これがシステムエラーや人為的なミスであれば、の話だが。

 

「確かに、佐倉ちゃんの言うとおりだねー。問題が発覚し次第、一斉メールで心の籠もらない定型文でも送られてくるもんだよ。詫び石を添えてね」

「詫び、石……? はよくわからないけど、もしかして学校側はまだこの問題が起きていることを知らないのでしょうか……?」

「それはさすがにないと思うよ、みーちゃん。何かしらの問題が起きているなら、朝のホームルームで先生から通達があるんじゃないかな?」

 

 実際、あるのは謝罪ではなく罵倒だろうけど。

 

「まあ桔梗ちゃんの言うとおりか。じゃあ、茶柱先生を質問攻めにしなきゃねー。――よし、綾小路くんに任せよう」

 

 グループチャットにメッセージをささっと打ち込む心ちゃん。

 数秒後、窓際の自分の席に座る綾小路くんが抗議の視線のようなものを送ってきたが、心ちゃんが「任せた」と敬礼するのに続き、私も笑顔でヒラヒラ手を振ると、彼は諦めたように机に顔を突っ伏した。

 

 

 しばらくしてチャイムが鳴り、まだ話し足りない様子でありながらも生徒たちが席に着くと、茶柱先生が教室に入ってくる。

 茶柱先生の手には筒状に丸めた紙があった。しかし、生徒たちが注目したのは先生が持ってきたものよりも、彼女の険しい表情だろう。

 

 茶柱先生の纏うぴりついた雰囲気に気付いているのかいないのか、池が声をかけた。

 

「佐枝ちゃんセンセー、生理でも止まったんですかー?」

 

 マジかこいつ。マジかこいつ……ッ!?

 

 一気に女子からの好感度を低下させた(そもそも下がるほどの好感度を持っていない可能性が高いけど)池の発言に、しかし茶柱先生は反応しない。普通なら教師として(たしな)めるか女性として極寒の視線を浴びせるところを、一瞥すらせず、彼女はホームルームの開始を告げた。

 

「これより朝のホームルームを始める……が、その前に。何か質問はあるか?」

 

 教壇からクラス全体を見回す茶柱先生。

 心ちゃんが綾小路くんに「ほら今だ行けッ」とばかりに視線を送る――が、綾小路くんが手を上げかけたところで、山内が先に質問してしまった。

 

「センセー、ポイントが振り込まれてないんスけど、毎月一日に貰えるんじゃなかったんですかー?」

「いや、今月分はすでに振り込まれている。それは間違いない。このクラスだけ忘れられた、などという可能性も無い」

「え? でもなぁ、振り込まれてねえし……」

 

 クラス全体がざわざわと騒がしくなる。茶柱先生は振り込まれていると言うが、生徒たちが携帯端末で確認しても数値は1ポイントも増えていない。

 困惑する生徒たちの様子を数秒眺めた後、茶柱先生はふっと(わら)った。

 

「――本当に愚かだな、おまえたちは」

 

 瞬間、クラスはしんと静まり返った。

 入学からこれまで一度たりとも厳しい言葉を掛けてくることのなかった茶柱先生から飛び出した暴言に、皆の思考が一時的に停止する。それを冷めた目で眺めながら、茶柱先生は続けた。

 

「遅刻欠席、合わせて九十五回。授業中の私語や携帯を触った回数、三百七十二回。(ひと)(つき)でずいぶんとやらかしたものだ。――この学校では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 茶柱先生の言葉からすぐに察することができた生徒は、今のDクラスにどれほどいるだろうか。

 私も前世の記憶によって事前に知っていなければ、混乱して正しく理解できなかったと思う。

 

「入学式の日に説明したはずだ。この学校は実力で生徒を測る。そして、支給した10万ポイントはおまえたちに対する評価だと。おまえたちは入学当初受けていた評価をこの一ヶ月で大いに下げ、今日、それが振り込まれるポイントの額で示された」

 

 すなわち――Dクラスは評価ゼロの、クズの集まりだと。茶柱先生はそう言い放つ。

 

「ただの高校生に過ぎないおまえたちが、何の制限もなく、毎月10万も使わせて貰えると本気で思っていたのか? あり得ないだろう、常識的に考えて。なぜ疑問を疑問のまま放置しておく?」

 

 入学当初、1ポイント=1円の説明を受け、10万という額を聞いた時には、確かに皆、疑問を抱いただろう。けれど、それは日々の生活の中で次第に忘れられていった。

 新生活で浮かれていた。家に帰っても相談できる家族はいない寮暮らし。頼りになる先輩と交友を持つだけでも多くの新入生にとっては大変なのに、先輩方はSシステムの根幹を秘匿する。学校敷地内には遊ぶ場所が沢山あって、それを制限する校則も(いさ)める者もいない。

 

 現金ではなく電子的なポイント、大人との交流が少ない子供だらけの環境――そんな特殊な状況が、生徒の思考を鈍らせる。

 

 それでも気付くのが実力であると言われればそれまでだし……そもそもDクラスは義務教育時代に叩き込まれたはずの『当たり前』すらこなしていなかったのだから、それ以前の話かもしれないけれど。

 

「さて、そろそろ本題に入ろう」

 

 驚愕と困惑、(ふん)(まん)と後悔に荒れる生徒たちに、茶柱先生は持ってきていた紙を広げてホワイトボードに貼ってみせる。

 そこにはAからDクラスの名前と、その横に数値が記されていた。すなわちクラスポイントの一覧である。

 

「これは()()()()()()()だ。クラス名の横に書かれた数値を『クラスポイント』と呼び、このクラスポイントに百倍した数を、個人のポイント……『プライベートポイント』として毎月一日に支給する。例えばAクラスは940クラスポイントだったから、今月は9万4000プライベートポイント支給されている。そして0に100をかけても0だから、おまえたちに支給されるプライベートポイントは0だったというわけだな」

 

 わざわざDクラスの0を強調して話す茶柱先生だが、その声色からは悪意よりも呆れを感じさせられた。

 

 ちなみに今朝グループチャットで把握した数字は合っていた。唯一曖昧だったCクラスは490クラスポイント。おそらくアニメでの数値と大差ないはず。

 

「なぜ、ここまでクラスポイントに差があるんですか?」

 

 平田くんが手を上げ、硬い声で質問する。Aから順に綺麗にクラスポイントが下がっていることに違和感を持ったのだろう。

 茶柱先生は気付いて当然とさえ思っているのか、特に表情を変えないまま答えを口にする。

 

「この学校では、Aクラスから順に優秀な生徒を振り分けるようになっている。つまりここDクラスは、必然的に落ちこぼればかりが集まる不良品クラスというわけだ」

「不良、品……」

 

 誰かの呟きが教室内に小さく反響する。

 誰もが茶柱先生の言葉にショックを受けていた。特に堀北鈴音や幸村くんなど、自身を優秀と思っている生徒ほどその言葉に強く反応する。何も感じていないのは、唯我独尊スタイルの高円寺くんくらいか。あと綾小路くんも、かな?

 

「しかしまあ、逆に感心したぞ。入学当初に与えられていた1000ポイントを一ヶ月で0にしたのは、歴代のDクラスでもおまえたちが初めてだからな。立派立派。見事に最悪の不良品であることを証明したわけだ」

 

 ぱち、ぱち、ぱちとやる気のない拍手を送る茶柱先生。これほど嬉しくない賛辞は初めてだ。

 

「ああ、そうだ。おまえたちの中にはこの学校の高い進学率、就職率を期待して入学した者も多いだろうが、その恩恵が受けられるのはAクラスのみだ」

「は――? じゃあ望み通りの進学や就職ができる人間は最初から決められてたってことかよ!?」

 

 四月最初の説明で、クラス替えはないと茶柱先生は言っていた。つまり一年Aクラスはそのまま三年Aクラスに上がり、卒業する。恩恵を受けられる生徒が最初から学校に決められていたと思うのも当然だ。

 しかし、茶柱先生はそれを否定する。

 

「いいや、その認識は誤りだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。もしおまえたちが今月941以上のクラスポイントを残していたら、おまえたちはAクラスに昇格し、反対に他のクラスは一つずつランクを落としていた」

 

 それは生徒たちに希望を見せると同時に、絶望的な現実を突き付ける言葉でもあった。

 

 差が大きすぎる。

 一番近いCクラスであっても490。Aクラスはその倍近い数字。

 自由気ままに過ごした四月の負債は、重く私たちにのしかかる。

 

 Aとの間に大きく開いた数字を見て絶望したか、それともまだ不良品の烙印に思考停止しているのか、あるいは今月のお小遣い(プライベートポイント)が0で頭を抱えているのか。黙り込む皆を横目に、私は尋ねておくべき質問をする。

 

「先生、ポイントを増やす機会はあるんですか?」

「あるぞ。直近で言えば次の中間テスト、成績次第では最大100のクラスポイントが加算される」

 

 たった100かよ、とクラスの誰かが呟いたが、それでも何も無いよりはマシだ。

 だが――、と茶柱先生はもう一枚、新しい紙をホワイトボードに貼り付ける。そこにはDクラス全員の名前と数字が並んでいた。

 

「これは先日(おこな)った小テストの結果だ。揃いも揃ってクズのような点数だな。いったいおまえたちは中学で何をやっていたんだか」

 

 何かの役に立つだろう、と密かに写真を撮りながら、点数を把握する。

 

 まず私は88点。一問5点だったので、正解にならず部分点止まりの回答があったということか。おそらく異様に難しかった最後の三問のうちのどれかだろう。

 

 綾小路くんの50点は、たぶんわざとかな? みーちゃんは85点で平田くんと同点、佐倉さんは63点、心ちゃんは30点……うん、頑張れ。

 堀北鈴音は90点。幸村くん、高円寺くんと同率で一位だ。

 

 下のほうを見ると……三バカは山内が26点、池が24点、そして須藤くんがなんと脅威の14点。逆にどの問題なら正解できたんだろう……? と気になるレベルである。

 平均点は、ざっくり計算した限りだと65点前後かな?

 

「この学校では中間、期末テストで一科目でも赤点を取った者は退学となる。もしこれが本番だったら、32点未満の七人は退学になっていたな」

「「「はああああああっ!?」」」

「こひゅっ」

 

 赤点組の絶叫に紛れて、心ちゃんが絶命しかけていた。……頑張って勉強しようね。

 

「新生活で浮かれていた気分は払拭されたようだな。――中間テストまであと三週間、せいぜい退学を回避できるよう頑張るんだな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。できることなら、実力者に相応しい振る舞いをもって試験に挑んでくれ」

 

 茶柱先生が最後にそう締めくくり、五月最初のホームルームは終了した。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「ポイントが入らないってどうすりゃいいんだよーっ! 俺もう1000ポイントも残ってないんだけど!?」

「来週から始まるピックアップガチャが天井まで引けないのは死活問題でござる! 人権とも噂されてるのにっ」

「ポイントよりクラスの問題だ……ふざけるな、どうして俺がDクラスなんだ……!」

 

 茶柱先生が去った後の休み時間を始め、授業合間の休み時間や昼休みは当然の如く荒れた。

 

 ポイントを使い切っていて阿鼻叫喚の生徒、進学や就職の世話をして貰えるのがAクラスだけと知り嘆く生徒、落ちこぼれ・不良品だと蔑まれ拳を握りしめる生徒。反応は様々だが、皆に共通するのは現状に納得がいかないことだろうか。

 

 私はクラスメイト同士で衝突しそうになった際の仲裁や、テストの点数がピンチで絶望する子のケアに奔走していた。

 

 具体的には、全体を落ち着かせようとする平田くんに感情的に突っかかる幸村くんを(なだ)めたり、赤点=退学を知って口から魂が抜ける心ちゃんを抱き締めながら頭を優しく撫でることで意識を現世に引き戻したり、クラスの女子からポイントをたかる軽井沢に8000ポイント(私の分+私と特に仲が良い女子の分を纏めた金額)を貸したり、男子にゲーム機を高く売りつけようとして喧嘩に発展しそうだった山内を(いさ)めたり、といった感じ。

 ……軽井沢には色々言いたいけど、今はやめておこう。

 

 ちなみに昨日の夜のグループチャットで話していたカラオケに行く予定は中止になった。ポイントが入らなかったせいで懐事情が厳しい子もいるし、そもそも暢気に遊んでいる場合じゃないからね。

 

 

 そんな感じで荒れまくった一日だったが、放課後に今後のための話し合いの場を設けることになった。もちろん、すでにDクラスのリーダー的立場に収まっている平田くん主催である。この行動でさらに彼がリーダーであると皆に認識されたことだろう。

 

 とはいえ強制参加ではなく自由参加のため、堀北鈴音を始めとした一部の生徒は不参加を表明し、放課後になるとさっさと教室を出て行ってしまった。

 

 そういえばアニメではなぜかプールで話し合いをしていた気がするんだけど、アレは記憶違いだったかな?

 ……まあ、普通に考えてプールで話し合いとかやらないから違うか。体が冷えちゃうし。

 いやでも授業中ならこうして一部の生徒に逃げられることもないし、案外有効な作戦……なの、かな? うーん……?

 

「櫛田たちは、話し合いに参加するんだな」

 

 思考に耽っていると、綾小路くんが声をかけてきた。

 

「うん。このままポイントが0なのは困るからね」

「みーちゃんは平田くん目当てだけどねー」

「心ちゃん!? ちっ、ちが、私も純粋にポイントのことを思っているだけですっ!」

「つまりお金目当て……?」

「違いますっ――というか言い方!?」

 

 人聞きが悪い心ちゃんとみーちゃんはともかくとして。

 

「佐倉は、参加するのか?」

 

 綾小路くんが視線を向けると、佐倉さんは一瞬だけびくっと肩を跳ねさせた。ただ単に驚いただけだろう。他の男子が相手のときとは違い、綾小路くんに対して恐怖の感情は見受けられない。

 

「は、はい……。その、私も、ポイントがないのは困るので……」

「そうか……」

「綾小路くんはどうするの? たぶん、中間テストのこととかも話すことになると思うけど」

 

 私が中間テストの話題を出した瞬間、心ちゃんが「かひゅっ」とか細い息を漏らした。

 私はふらっと倒れそうになる心ちゃんを慌てて支え、後ろから抱き締める。

 そんな私たちの様子を綾小路くんはぼうっとした目で眺めながら、

 

「……そういえば、井の頭は赤点だったな」

「本番で赤点取っちゃうと退学になっちゃうからね。頑張って勉強しないと」

「やーだーよー、べんきょーも退学もやーだーよー、ききょーちゃーんっ!」

「なんか幼児退行してるが……本当に大丈夫なのか、井の頭は」

 

 珍獣を見る目を心ちゃんに向ける綾小路くん。

 その目にイラッときたのか、心ちゃんは対抗するようにジト目を綾小路くんに向けた。

 

「そういう綾小路くんだって50点って危なくない? 退学したら桔梗ちゃんと会えなくなるんだよ? 大問題だよー?」

「そうだな、それは確かに問題だ」

 

 これ、本心から言っている……のかな? 少なくとも綾小路くんの目に宿る色は真剣に見える、気がする。

 と、そんな時だった。

 

『一年Dクラスの綾小路くん。担任の茶柱先生がお呼びです。職員室まで来てください』

 

 教室のスピーカーから流れる声に、皆の視線が綾小路くんに集まる。

 

「校内放送で呼び出しって……綾小路くん、何かしちゃったの?」

「いや、特に心当たりはないが……悪い、ちょっと行ってくる。話し合いは不参加になるが……」

「話し合いで決まったことは後で教えるから安心して」

「ありがとう、櫛田」

 

 クラス中から集まる視線から逃げるように、綾小路くんは荷物を持って教室を出て行った。

 

「……茶柱先生と逢い引きしてたりしないよねー?」

「なんてことを疑ってるの、心ちゃん……」

「あの胸か。あの胸にやられたんか……? いやでも桔梗ちゃんも負けてないが……? 今、私の背中に当たるものは素晴らしく立派なものですがー?」

 

 何やらぶつぶつと呟く心ちゃんだったが、程なくして話し合いが始まったのでその内容を伺うことはできなかった。

 

 

 平田くんが教壇に立って全体に声をかけることで話し合いは進んでいく。

 議題はもちろんポイントに関わること。

 

 自然と――いや、少し誘導したけど――書記のような役割を担った私が、ホワイトボードに決まったことを書いていく。

 

 現状できることはわかりきっていて、マイナスポイントを無くすために「授業中の私語や居眠り、携帯を弄るのをやめよう」「遅刻やサボりでの欠席を減らそう」「公の場での態度に気をつけよう」といった基本的なことを改めて注意するだけ。

 他クラスなら普通にできていたことだと思うと、Dクラスの周回遅れ具合をひしひしと感じる。

 

 とはいえ、これらのことはこの話し合いに参加していない池や山内、須藤くんなど非常に態度の悪かった生徒にも徹底させなければ意味がない。

 

 それがわかっているからか、あるいは責任を押しつけたいのか、軽井沢を始めとした強気な女子や池たちほどマイナス行動をしていない生徒は、池たちの名前を挙げて「池くんたち授業中マジでうるさかったよねー」「遅刻も須藤が一番多いし」「あいつらがいなけりゃもっとポイント残ってたんじゃねーの?」と積極的に非難していた。平田くんや私に(なだ)められて次第に声は小さくなっていったが。

 

 そして議題は、中間テストへと移っていく。

 

「中間テストに向けて、勉強会を開くのはどうかな。明日の放課後の……そうだね、五時からこの教室で二時間。部活がある人もいるから、途中参加や離脱は自由。先生役は僕の他に、小テストの成績が良かった人にもお願いしたいんだけど……」

「いいんじゃなーい? 平田くんが教えてくれるならなんとかなりそう!」

 

 平田の提案に真っ先に軽井沢が肯定する。彼女に続き、私も声を上げる。

 

「いいと思う。私も先生役に立候補しようかな」

「櫛田ちゃんが教師なら俺も参加するぜっ」

「櫛田ちゃんに教えて貰いたいなー!」

「平田くんも櫛田さんも小テストの点数高かったし、いいと思う!」

 

 予想していたし何なら狙っていたことだけれど、私と平田くんが先生役をすると言った途端に参加希望者が爆発的に増加した。というか、この話し合いに参加した生徒はほとんど全員が勉強会に参加する勢いだ。

 

 ……とはいえ、こちらも問題は話し合いに参加していない須藤くんたちなのだけれど。

 それに、点数の良かった堀北鈴音、幸村くん、高円寺くんが話し合いに不参加であり、先生役を要請しても引き受けて貰えなさそうということも問題か。

 

「不安な人は、勉強会以外の時間でも僕や櫛田さんを頼ってほしい。一番大事なのは、赤点を取らないことだからね」

「私、こんなに早くみんなとお別れなんて嫌。だからみんな、遠慮せず頼ってほしいな」

 

 そんな感じに言っておけば、この話し合いに参加した生徒の士気はなんとかなるだろう。……それっぽいことを言うだけで熱狂する心ちゃんはちょっと怖いけど、それに男子や一部の女子が乗るせい……おかげ(?)でクラス中にやる気が満ちるならイイコトだよ。うん。……うん。

 

 みーちゃんを始め他にも何人か先生役を決め、赤点組に集中的に教えるためのローテーションを軽く相談した後、今日のところは解散となった。

 

 途中で綾小路くんが戻ってくるかも、と思っていたが、彼は最後まで教室に姿を見せなかった。

 茶柱先生の話が長引いているのか、途中参加を躊躇ったのか。

 

 ともあれ、今日話し合った内容をチャットアプリで送ろうと携帯端末を取り出すと、綾小路くんから個人チャットでメッセージが届いていたことに気付く。

 

「ぇ――――」

 

 ――内容を目にした瞬間、私の思考は完全に停止した。

 

 

『入学式の日、おまえはどうして堀北と初対面のフリをしていたんだ?』

 

 




 実は佐倉も早いうちから櫛田グループの一員でした。書いたシーン的に全然出て来ませんでしたが。
 プールの時に佐倉が櫛田たちの話に加わっていなかったのは、あの時点で教室にいなかったからです。だからこそ山内が「俺、佐倉に告られたんだよ。地味女に興味ないからフッたけどな!」などと言って大声で笑うことができたのです(原作でもそう)。そして転生櫛田の山内への好感度が滅茶苦茶低いのはこれが理由だったり。
 プールの賭けの時からすでに綾小路が山内や池と友達になることに消極的になっていたのは「佐倉(櫛田グループ内の友人)に酷いことを言うやつとつるんでいいのか?」という考えがあったのも理由の一つでした。
 なお転生櫛田が佐倉にさん付けなのは「佐倉さんとはゆっくりペースがいいと思う」というのと、「アニメの『櫛田桔梗』って佐倉さんから警戒されてなかった?」といううろ覚えの記憶からの判断です。

 一年一学期の軽井沢は方々から恨みを買っていますが、転生櫛田はそれを利用して軽井沢に苦手意識を持つ人間から支持を集められるので、転生櫛田的には「ちょっと……いやかなりウザいけど、ありがたい」みたいな感じでした。たぶん原作櫛田もそんな感じだったと想像。

 実は次話(茶柱先生に呼び出された綾小路サイドの話)を同時進行で書いていたので、明日にでも投稿すると思います。
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