一応連載にしていますが、続き書くとしてもたぶん更新が亀です。
「俺、
高校入学初日、逆立ったオレンジ髪の少年の自己紹介を聞いた瞬間、私の頭を処理しきれない情報の波が襲った。
「(え?魂生ギンガ?じゃあここはGARAXYの…GARAXYって何…?なぜ私は彼を知ってる?世界が危ない!そうか、この世界は )」
「じゃあ次は…血裂さん。…血裂さん、大丈夫?なんだか顔色が悪いけど…」
「はぃ…血…ちざきっ、す、スイでゥゔぇァっ…」
意識が朦朧とした状態でなんとか自己紹介をしようとした私は、魂の一部が漏れ出たような声とともに大量の鼻血を吹き出して椅子ごとブッ倒れた。
その後しばらく入院し、前世の記憶 といってもカードゲーム関連と前世における一般常識ぐらいだが を思い出したのが2週間前のことである。
大人気カードゲーム『ソウルマスターズ』シリーズの3シリーズ目となるアニメ作品『ソウルマスターズ
カードゲームの強さが絶対というネジの外れた世界観が有名なソウルマスターズシリーズだが、GARAXYは歴代シリーズでも屈指のブッ飛んだストーリー展開とスケールの大きさによって根強い人気を誇っている。
特に3代目主人公である『
『3年で世界を7回救った男』『全自動厄災引き寄せ機』『ド根性ギャラクシー理論』『アルティメット中学生』など強烈なパワーワードが作品内外で数多く生み出されたのも人気の理由の1つだろう。
だがそんな、1年で2回以上滅びかけるような世界に転生したと知った私の心は穏やかではいられなかった。当然である。
しかも『ソウルマスターズGARAXY』は魂生ギンガの中学生時代3年間を描いた物語だが、現在彼は私と同じクラスの高校生。
あのツンツンオレンジ頭の魂生ギンガが同姓同名のそっくりさんでない限り、私がのんきに中学高生活を送っている間に7回世界が滅亡しかけていたということになる。
思い返せば昼間に突然空が赤くなったこととか3回ぐらいあったわ。
彼が人知れず世界を救うものだから今まで気付かなかった…
本編終了後とはいえ、『全自動厄災引き寄せ機』の異名を持つ彼のことだ。高校生活でも強大なボスたちが世界を滅亡させようとやってくるに違いない。
基本的にボスを倒せば元通りになる世界観とはいえ、戦いに巻き込まれれば本当に命を落としてしまう可能性もゼロではないだろう。
そんな迫り来る厄災たちを相手に…私は戦うことを選んだ。
死への恐怖は意外なほどに薄い。
それよりも、私のソウルバトラーとしての魂が強者との熱い戦いを求めているのだ。
前世の記憶など知らずとも、私はこのソウルマスターズが全ての世界で自らの実力を磨き続けてきた。
訳あって表舞台には出ていないが、私なら世界を滅ぼすような敵とだって正面から闘えるという自負がある。
迫り来る厄災…そしてそれらを退けてきた魂生ギンガ。
越えるべき壁が高いほど、ソウルバトラーの血が燃えるというものだ。
「待っていなさい…厄災、そして魂生ギンガ。このソウルランキングNo.7『
「ランキング7位!?そんな強いのかお前!」
「へ?」
学校の屋上で血のように赤いツインテールをなびかせ、ゴスロリ風に改造した制服を着てバッチリキメていた私に声をかけてきたのは、オレンジ色のツンツン頭の少年…たった今私が打倒を宣言した魂生ギンガだった。
「あの…すみません、今の聞いて…?」
「ああ、聞いたぞ!ソウルランキングで7位なんだろ?同じクラスにそんな強いやつがいるとは思わなかったぜ!」
ソウルランキングとは、日本全国で開かれているソウルマスターズ公式大会の順位によって付与されたポイントを集計した全国ランキングだ。
ギンガは中学の3年間常に世界の危機と戦っていて大会どころではなかったためランキングには載っていない。
改めて世界の危機起こりすぎな作品である。
「あっ、(ソウルランキングのとこしか聞こえてないっぽい…)良かった…」
さっきまで血祭りとか言ってたのはどうしたとか聞かないでほしい。
私は致命的なまでにコミュ力が無いのだ。
ソウルマスターズ中は自分の世界に入れるのだが、それ以外の場面では『あっ』とか『すみません』しか話せる言葉が無い。
学校だって母に言われなければ通信制の学校に行っていたはずなのに…
未だ友達0人である。
「血裂スイ…だよな?入学早々に休んでたからソウルマスターズのこと聞きそびれちまってたぜ」
あっ、あの事故紹介で名前覚えててくれてたんだ。うれしい。
「俺は魂生ギンガ!銀河ナンバーワンにアツいソウルバトラーだ!ここで会ったのもソウルの巡り合わせ…手合わせ願うぜ、ソウルランキング7位!」
「(生『銀河ナンバーワン』…!本当にアニメの戦いを乗り越えてきた後なんだ…)*1…ソウルドライバー、展開」
内心のオタクソウルの興奮を全く表に出さずにソウルドライバー*2を腕に展開し、デッキをセットする。
「「ソウルオン!」」
想像よりもかなり早まったが、目標としていた魂生ギンガとのバトル…私が本当にこの世界に通用するか試させてもらおう。
「先行は貰う、私のターン!」
「雰囲気が変わった…そういうタイプか!」
ことソウルマスターズの対戦においては、私のコミュニケーション難は解消される。
ソウルマスターズは魂と魂のぶつかり合い…見た目や言語など余計なモノ全てを取り除いた究極のコミュニケーション。
ここでなら私は自分の全てを解放することができる。
「私は『
真紅の髪の幼い少女が赤い霧と共に現れ、ポーズをキメる。
ソウルドライバーを介したファイトではこのようにモンスターの立体映像を映し出し、現実世界にモンスターを呼び出しているかのような迫力のあるファイト行える。*3
「さらに効果発動!ライフを捧げることで『ブラッドトークン』を2体生成する」
「自傷系のデッキか、こりゃ厄介そうだぜ」
「ふふ…本当に分析が早い」
この世界のカードの種類は無限に等しく、同じデッキを使うソウルバトラーは2人としていないと考えてもいいだろう。
当然カードプールの把握などできるはずもなく、相手のデッキの戦略はほとんどの場合初見である。
そんな中でも、豊富な経験値を活かして初動のワンアクションでデッキの系統を見抜き、予想される戦略への対策をすぐさま構築するギンガは、流石世界を7度救った主人公といったところか。
私はそんな彼ら主要人物のデッキを知っているという数少ない転生者アドバンテージがあるものの、知っているのはあくまでアニメ時代のデッキだ。
どこまで参考にするべきかは注意が必要である。
ともかく、これで彼に十分な力量があることは把握できた。
お手並み拝見といこうか…主人公!
「早速見せてあげる。私の…切り札」
「……ッ!!」
「『血』の属性を持つモンスター1体以上を喰らい…現れなさい!『
見習い魔女とトークンが下方に出現した血の池に沈み、水面が波打つ。
『シャルルォアアァァァア!!!』
そして、血塗れの大蛇が悲鳴のような咆哮を上げ、フィールドへと降り立った。
「それがお前のエースモンスターか…!いきなり出してくるとはな」
「ゴルゴンダのコール時の効果発動。生贄の数だけ私のライフを回復し、攻撃力をアップさせる…『ブラッディサクリファイス』!」
最低限の消費で生贄3体を使ってゴルゴンダを展開できた。
手札のマジックと合わせれば、この子を突破するのは至難の業だろう。
「私はこれでターンエンド。…突破してみなさい、魂生ギンガ!」
「言われなくてもそのつもりだぜ!俺のターン、ドロー!…にしても不思議だな」
「…何が?」
ターン開始と共に語り始めるギンガ。
私はこの唐突な会話フェイズアニメっぽいな…と内心で少し心踊っていた。
「最近は俺も大会に出たり、観戦したりしてたんだ。でも大会でゴルゴンダやスイの姿を見たことは一度も無かった。ランキング7位ならかなりの数大会に出てると思うんだけど…」
「ああ、そういうことね。私、オフの大会には出てないの。オンライン開催の大会ポイントだけで全国7位」
ギンガは情報に疎いため知らなかったのだろうが、ソウルマスターズはオンラインでの公式大会も数多く開催されており、私はそのようなオンラインの大会にのみ参加している。
「オンライン大会…そういうのもあるのか!…でも勿体ないな、スイならオフの大会にも参加すればもっと上の順位も狙えるんじゃないか?」
「生憎だけど、私は人混みは苦手なの。…知らない人に話しかけられるとどうすればいいか分からないし」
ファイト中は自分を開放できるとはいえ、大規模な大会ともなると自分がファイトをしていない時間も多い。
以前一度だけ参加したことがあるが…ファイト時間外に話しかけられて会場から逃走して以来、それっきりである。
「じゃあさ、今度俺と一緒に行ってみないか?俺もまだ大会に慣れるほど参加してないし、2人で行けば助け合えるだろ?」
「なるほど、名案ね。今度2人で………えっ、コンドフタリデ!?それって…えっ、デっ!?」
「あぁ、ナイスアイデアだろ?」
「…か、考えといてあげる」
「よっしゃ!決まりだな」
さ、さすが主人公だ…!焦りすぎて思わずツンデレヒロインみたいなセリフを吐いてしまった。
思えば『ソウルマスターズGARAXY』の作品としてのヒロインは姉の『魂生ソラ』だったし、やたらとロリババアが多かったのでギンガと同年代の少女との絡みはあまり見たことがなかった。
まさかこんなイケメンムーブができる子だとは思わないじゃないか。
ただ、この先襲来するであろう厄災に備えて対面での強者との戦いの経験値を積むことは必須だ。
ギンガが一緒に来てくれるというのなら、修行の入りにはちょうどいいかもしれない。
「わ、わかったから、さっさとターンを進めなさい!」
「おっと、そうだったな!俺は『銀河剣士アルタイル』をコール!さらに、アルタイルがフィールドに存在することで『銀河剣士デネブ』をコールすることができる!」
『ハアッ!』『フンッ!』
『銀河剣士アルタイル』と『デネブ』…アニメのギンガのファイトのうち3割近くは初手アルタイル&デネブから始まると言っても過言ではないだろう。
彼らは高水準なステータスを持ち、さらに2体揃っていれば特殊能力も発動可能という優秀なモンスターたちだ。
「(やっぱり来た…!アルタイルとデネブ!)」
『バトルだ!アルタイルで攻撃、そして効果発動!銀河剣士がフィールドに2体揃っている場合、デネブをこのターン行動不可にすることで相手モンスター1体を破壊する!『連携剣技ベガスラッシュ』!」
『シュラァァァア……』
アニメでお馴染みだった剣士たちの必殺技によって真っ二つになり、崩れ落ちるゴルゴンダ。
だが、私のエースモンスターがこんな特殊能力ひとつで終わると思ったら大間違いである。
「破壊されたゴルゴンダの効果発動!」
「何ッ!?」
「眷属1体を墓地から消滅させることで、ゴルゴンダは蘇る!『サクリファイスターン』!」
眷属の血を消費し、墓地より舞い戻るゴルゴンダ。
アニメにおいてベガスラッシュのモンスター完全撃破率はたったの4%…この流れもまたお約束である。
「さあ、もっと魅せてちょうだい、魂生ギンガ。これで終わりじゃないでしょう?」
「ああ!お望み通り見せてやるぜ!俺はマジック『ビッグバン・ザ・ギャラクシー』を発動!銀河剣士2体を生贄に現れろ!『銀河超龍ジ・アース』!!」
銀河剣士たちが光となって交わり、凄まじい轟音を立てて爆発する。
それによって発生した眩い光の中から姿を表したのは、巨大な二足で地を踏み締めて咆哮する蒼い龍。
ギンガと共に成長し、最終的には神をも打倒した『GARAXY』の看板モンスター『ジ・アース』だ。
『グルルオァァァァァアアア!!!』
『シュルルァァァァァアアア!!!』
血の大蛇と、星の龍。
それぞれのエースモンスターは睨み合うように対峙し、天を貫くような咆哮をあげた。
戦いはまだ、始まったばかりだ。
あの後、私たちのファイトは夕暮れまで続き、結果はギンガの勝利に終わった。
ライフを所謂『鉄壁ライン』*4まで追い詰めたのだが…それが良くなかったのかもしれない。
返のターンにジ・アースの連続攻撃コンボでゴルゴンダのストックを削り切られ、私のライフごと押し切られてしまった。
「……対戦、ありがとうございました」
「ああ!またやろうぜ!」
ファイト終了後に握手を交わすギンガの笑顔は、これまでに出会ったことのないほどの眩しい笑顔だった。
3年間、ずっと世界の命運を賭けたファイトに身を投じてきたギンガにとって、何ひとつ失うものがなく全力をぶつけることができるファイトはかけがえのないものになっているのだろう。
「(きっと…勝っても負けてもおんなじような笑顔をしてたんだろうな)」
この笑顔を曇らせるようなファイトは…もう2度と彼にはさせたくないと、そう思えるほどに、眩しかったのだ。
私はファイトで全力をぶつけた相手になら、ほんの少しだけ自分を出すことができる。
この人はきっと、自分を受け止めてくれる存在だと理解できるから。
「あ、あの…ギンガ!」
「おお!なんだ?」
「一緒に…強くなりましょう!あ、あなたが言ってくれたように…お互いピンチのときに助け合えるように!」
自分の過去が知られているなんて知る由もない彼にとって、私の言っていることはよく分からないかもしれない。
ただ、これから迫り来るであろう災厄との戦いで彼を1人にしたくないと、そう思ったのだ。
「だから…その…今週末の大会、よろしく!」
「あっ、おい!連絡先交換しないとよろしくもなにも…行っちゃったか」
久しぶりの全力のファイトでハイになっていたのが切れたのだろう。
なんだか気恥ずかしくなってきた私はダッシュで屋上から走り去り、ソウルバトラー特有の身体能力を発揮して猛スピードで帰宅した。
何はともあれ、未来での戦いに備えるべき理由が1つ増えのだ。
「来るなら来なさい、災厄共…!私たちが1人残らず片付けてやるわ!」
彼女は知らない。知る由もない。
世界の破滅を目論む悪の存在はすでに魂生ギンガによって全て消し去られ、当分は生まれないであろうということを。
魂生ギンガ…彼と共に歩む3年間が、世界の危機など何ひとつ関係ない平和そのものであることを。
この物語は世界を7度救った英雄の過去を知る少女が、決して来ることのない悪との決戦に備えて奔走する、平和な青春の物語である。
『ソウルマスターズoverGARAXY』
アニメ『ソウルマスターズGARAXY』10周年を記念して制作された、ギンガの高校生活を描いた続編アニメ。
隠キャツンデレチョロインの血裂スイと共に全国大会出場に向けて光のソウルバトルをするギンガの姿は、今度は一体どんな世界滅亡の危機がやってくるんだと身構えていたGARAXYファンたちを平和のズンドコに叩き落とした。
GARAXYのような重い展開を望む声も少なくなかったものの、GARAXY時代は見ることのできなかったギンガの心からの笑顔に脳を焼かれ、ライトサイドに浮上したファンは多い。