「あの、にこにーさんはこの後時間はあるんですか?」
「えっ?まあ、1時間くらいなら……って、私は忙しいのよ!!」
いや、今のは違うやつだ。あの表情から察するに、誘われてちょっと嬉しいけど、嬉しそうにしたらナメられるからとりあえず突っぱねたという感じか。俺は誘われすらしないが、そのくらいのことはわかる。
そして、こういう部分に抜け目のない小町は、それを悟ったうえでにこやかに話を続けた。
「あんな素敵なスクールアイドルを紹介してくれたお礼をしたいんですよ〜」
「あ、あら、そう?しょうがないわねえ〜」
「…………」
いや、チョロすぎやしませんかねえ……ちょっと心配になっちゃうレベル。
その緩んだ口元に、ついつい微笑ましさを覚えてしまいそうになるが、首筋に手を当て、気を取り直すし、小町に声をかけた。
「小町、あんまりしつこいと「アンタ、気に入ったわ!ちょっとそこで話しましょう!」「喜んで!」……ええぇ……」
なんか意気投合しちゃってるんですけど……しかも、小町の手がしっかり俺の手首を掴んでいるから、どっかで時間潰してくることもできそうもない。
俺は黙って二人についていくことにした。
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「それで、この路上ライブをきっかけに……」
「へえ〜、すごいですね〜。ねっ、お兄ちゃん!」
「……ん?あ、ああ……きっかけの決心は理屈じゃないってやつか」
「そんな名言風な事言ってないわよ!」
「お兄ちゃん……」
二人からジト目で見られて、つい気持ち悪い愛想笑いを返してしまう。ちなみに小町は興味半分聞き流し半分といったところだろうか。意外と興味を持ってるのが意外だった。もしかしてスクールアイドル始めちゃうのか?俺がプロデューサーになっちゃうのか?育成しちゃうのか?
……さすがに我ながらキモい妄想だな、自重せねば。
小町と矢澤さんは再び会話を始めていた。
「じゃあ、にこにーさんもスクールアイドルやってたりするんですか?」
「っ!?え〜……あったりまえでしょ!!?それで、つ、次のA-RISEのライブなんだけど……」
何だ、今の不自然な間は……あと話題を変えるのが早すぎてとにかく不自然しかない。
小町も無論気づいたようで、そのまま触れないように会話を進めていた。
その後も申し訳程度に話を振られながら、二人の会話に耳を傾けていたが、一瞬だけ彼女が見せた表情の曇りがずっと脳裏にちらついていた。
コーヒーに口をつけると、砂糖の量が少ないのか、やけに苦く思えた。