それからしばらく話して、今日はもうお開きにすることになった。
小町が矢澤さんのスクールアイドル解説をうんうんと聞きながら、たまに俺に同意やらリアクションやらを求めてくるという普通の会話とは程遠いものだが、まあこの組み合わせならこんなものだろう。
店を出ると、彼女は俺達をびしっと指さした。
「いい!?ちゃんと今日習った事を復習しておくのよ!」
「は〜い!」
「⋯⋯⋯⋯」
「比企谷っ、返事は!?」
「りょ、了解⋯⋯」
さりげなくスルーしておこうとしたら、しっかりと見破られていた。どうやら今日のステルスヒッキーは不調らしい。
「アンタ、どうせ面倒だからこのままスルーしとこうとか思ってたでしょっ!そうはいかないわよ!」
まさか考えまで読まれていようとは⋯⋯さすがスクールアイドル。関係ないけど。
「今日は色々教えていただきありがとうございました〜♪また連絡しますね」
いつの間に連絡先交換をしていたのだろうか、さすが我が妹。お兄ちゃんとは手際が違いすぎる。
あとは友人同士になった二人を邪魔しないように、小町の背後で背景の一部になっていると、どうやら話は終わってらしく、もう別れの挨拶を交わしていた。
「それじゃあ、にこさん!また秋葉原来た時はよろしくお願いしますね!」
「暇だったらね。にこにーは人気者だから忙しいのよ。でも、時間が空いてたら道案内くらいはしてあげるわ。だからそっちも次会う時はA-RISEの曲すべて口ずさめるようにしておくのよ!」
そんな無理難題を突きつけて、矢澤さんは背を向けた。何故グラサンをかけたかはわからないが。もしかして本当にスーパーアイドル⋯⋯なわけないか。過去にスクールアイドルとやらで活動してはいたようだが。
あの時、ほんの数秒だけ見せた暗い表情が、何故かまだ頭の中にはっきりと残っていた。
「お兄ちゃん、どしたの?もう行くよ。ご飯の支度しなきゃお母さん達帰ってきちゃう」
「おう、今行く」
この時は考えもしていなかった。
まさかこの出会いが人生を思いもしない方向に変える事になろうとは。
ふと空を見上げると、さっきまでちらほら見えていた雲は消え去り、突き抜けるような青い空が広がっていた。
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「ただいまー」
「あっ、お姉様!おかえりなさい!」
「おかえりー!!」
「お姉様!今日のアイドル活動はどうでしたか?」
「ききたーい!」
「えっ?そ、そりゃもう順調よ!今日もファンを二人増やしてきたわ!あはは⋯⋯うん、ウソはついてないわね」
「お姉様?」
「な、何でもないわよ!あはは⋯⋯」