アーチニンジャ:ネオサイタマ奮闘記   作:コースト

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(前置き:また間が開いてしまいました。ドーモスミマセン。初の本格的戦闘回です)


ザ・モーメンタリィ・インパルス #4

 次の朝、私は目を覚まし、くるまったカーペットを剥きながらムクリと起き上がった。……いつもとは違う、漠然とした胸騒ぎとともに。

 

「……なんだ?」

 

 顔をしかめ、独り言ちる。周囲を見渡す。変わりない鉄板がツギハギのDIY家だ。それを作ったイシハラもまだ寝ている……猛獣のようないびきと共に。

 ハァ。それにしても、相変わらず腹立つほど呑気なやつだな。本当に身の危険が近くに迫るまで起きないつもりなのか?それとも、この程度のざわめきでは起きるに値しないと?無防備にだらしなく口を開けやがって。何か詰めてやろうか。

 ……まあ、本当に気付いていないだけ……という可能性もあるか。とりあえず、ここら一帯は相変わっていないということは、感覚で分かった。ニンジャ第六感でな。となると、胸騒ぎの要因からはある程度の隔たりがあるか。

 

「……」

 

 寝起きの身体に鞭を打ってコンセントレーションし、知覚を研ぎ澄ますと、胸騒ぎがより深くなる方角があることが分かった。

 

「フム」

 

 その方向を見る。そして何があったかを思い出そうとする。……集落だな。この周辺で最も人が主な拠としているランドマークだ。そこで私のシックスセンスが反応する事件と言えば……。

 

「……!」

 

 ……その瞬間、この胸騒ぎがより一層、油を過剰に注がれた燈火のように強くなった。

 周囲の空気が固まった。体全体がにわかに冷える。何が起こったか、大方の予想がついてしまった。

 私の想定よりいくらか唐突なことだったとはいえ、それでもいつかは訪れると考えてはいたのだが……いざ直面してみると、なかなか平静を保てないものだ。

 勘の良い諸君なら、態々私が言わずとも察せているだろう。そう、恐らく……これは、ここいらの一帯では、私にしか対処できないことなのだ。あの男もいるが、態々出向くとも思えない……。

 

 脱いでいたキモノを身に纏い、素早く支度を整え、家の錆びた鉄板製の戸に手を掛けた。力を込め、開けようとした。しかし、その手は、自らの意思に反し石像のように動かなかった。迷いが、手を止めた。

 

「…………」

 

 時間はあまり残されていないと分かりつつも、戸を開く前に、僅かに逡巡せざるを得なかった。長期間じっくりと練って考えて決めようとしていた命題の答えを、一晩のうちに、あまりにも不意に、あまりにも短兵急に定めなければならなくなった。ブッダは悪戯者だ。これも罪滅ぼしの一環なのか。

 祈るようにイシハラを見る。起きていてくれれば、せめて見送って貰えるのだが。

 

「グガーッ」

 

 ああ、ナムサン。こやつは愚鈍にもいまだ熟睡中だ。無責任に喉を鳴らしている場合か……。

 せめて、せめて背中を押すなり、いつものように茶化すなりしてくれよ。こんな別れになるはずじゃなかったのに。遅かれ早かれこうなるとは分かっていたけど、もっと、イシハラとは色々と話したいことがあった。後腐れなく居なくなれるように、前もって言っておきたいこととかもたくさんあったのに……。

 一応、知らなかったということにして、再び寝るという選択肢もある。そうすれば、物別れを先延ばしにすることは出来る。だけど……それは、絶対後悔する。そんなことをすれば、あの集落、ひいてはイシハラにとって幸せにはならない。

 そしてそれは、私にとっての幸せでもない……。

 …………。

 

 しわが残りそうなほどに、顔が強張った。だが、ニューロンから迷いを振り払い続け、ようやく私は戸を開けた。

 

「ッ……」

 

 陽光が顔に当たり、思わず腕を陰にする。なんて眩いのだろう。私の先程までの葛藤なぞ斟酌する素振りもなく、無責任に、あるいは超然と、遠慮なく光をぶつけてくる。

 だが、家から一歩出ると、途端に戻り道が閉じられたような気がして、むしろ決心がつくようにもなった。

 

「……よし」

 

 手を握り締め、開き、地面にあった適当な木スクラップを拾い、力を込める。

 すると、握った部分から広がるように木くずは形を保ったまま鼠色の粉塊と化し、息を吹きかけると、跡形もなく崩れ散ってしまった。

 チリアクタ・ジツ、問題はなし。

 ならば、もう懸念は無い。私は背後へ見返る。開いた扉からイシハラの太い足が見えている。

 

「サヨナラだ、イシハラ=サン」

 

 寝ながら腹を掻くイシハラに向かって私はそう告げ、ゆっくりと扉を閉めた。

 僅かにでも見えなくなるその瞬間まで、惜しむように顔を見続けながら。

 

◆◆◆

 

 パタリ。戸がしめやかに閉まる音だ。これで屋内と外は完全に分断された。灰色の空。灰色立方体建造物が乱雑に立ち並ぶ遠景。私の目指すべきメガロポリス、ネオサイタマ。それは巨大な壁に描かれた大規模アートのように現実味がない。

 と、今は耽っている場合ではなかったな。家の外に出ると第六感に頼らずとも景色が見える。集落が見える。そちらを向き目を凝らす。ニンジャ視力を。解像度が極限まで高まり、数百メートル先に立ち尽くしているモータルの顔すらも鮮明に捉えていく。

 

「……」

 

 直後、そのモータルの顔が恐怖に歪み、失禁した。視線の先は私から見て斜め上の手前を向いている。見る。ああ、人の形をした生物がいるな。全身に光沢のある装束を羽織っていて、金属製のメンポにはサメの歯めいてギザギザの切れ目がついている。

 

「ああ……」

 

 無意識のうちにため息が漏れた。何てことだ、やはり、あやつはニンジャだ。片方に歯型に抉れた金属塊を、もう片方の手で痩せこけた集落の民の首を掴んで持ち上げている。彼らの足元には、既に胴体に風穴を開け事切れている死体……が複数。恐らく既に毒牙にかかっていた奴らだ。あのニンジャが殺したんだ。

 概ね想定していた通りの凄惨な現場だ。何かの間違いであってくれという一厘の望みに賭けたかったが、それすらもブッダは許しちゃくれない。

 もうそれ以上見る必要は無かった。私は姿勢を屈ませ、ゆっくりと全身にカラテを滾らせる。

 

「アイエエエエエ……!」

 

 虚ろを劈く悲鳴が響いた。無念の死がすぐ近いモータルの、アワレな絶望の断末魔だった。

 

「フンッ……!」

 

 それが合図代わりとなった。脚に徐に充填させていた力を瞬間的に解放し、疾風となる。

 狙うはただ一点。周囲の景色が奥から手前へと目まぐるしく流れていく中、私の両眼はその中心を見据え続けていた。その、たった今、モータルをまた一人殺したばかりのニンジャに。

 大きくなる、大きくなる。目を凝らさねば見えなかった距離から、徐々に、徐々に。その装束、メンポ、視線、そして驚愕の表情、縮こまる瞳!

 

「イヤーッ!」

 

 間合いに入る!宙に跳び、空中で横に素早く一回転!回し蹴りを相手のガードをも破る勢いで狙っていく!トビゲリ・アンブッシュ!

 

「イヤーッ!」

 

 ベコン!重く鈍い音が鳴った。金属を蹴ったように感じた。私の想像した感触ではない。少なくとも、決定打に至らなかったのはわかる。しかし、悠長に状況を見てもいられない。回し蹴りの反動を最大限利用して身を翻し、敵ニンジャとタタミ5枚分離れた位置へと三点着地する。

 

「……」

 

 敵ニンジャのその様子に、私は眉を顰めた。回し蹴りをガードしたのは、頭上に掲げられた左腕か。その上膊は無骨な金属に覆われている。所々錆び、ゴツゴツとしている。

 不可解だな。つい先ほど凝視した時は、あの手には金属が握られていただけで、あんな篭手など見えなかったが。

 

「……アッブネー。アブねぇなぁ、オイ……」

 

 敵ニンジャが呟くように言った。その声は震えている。

 なんだ、こやつ。まるで、私というニンジャが襲いかかってきたのが想定外……みたいなリアクションをするじゃないか。

 

「マジで……ニンジャかよ?ニンジャ、ナンデ……?」

 

 見る見るうちに声だけでなく足も震え始め、驚嘆を禁じ得ない表情で私に指をさした。 

 本当に想定外な時のリアクションじゃないか。ニンジャのフリをしたフリークアウトでは無いよな?ありえないな。いずれにせよ、そんなモータルみたいな反応をするなど、ニンジャの風上にも置けんぞ。

 

「ア……アッシュピット=サン?」「イシハラ=サンはどうしたんだ……?」「ナンデ、ここに?」「殺されるぞ……!逃げた方が!」「ニンジャなんだよォ……!」

 

 近くでへたりこんでいたモータルが私に声をかけてきた。気遣っているんだな。だが余計なお世話だ。一瞥もくれてやらん。

 これからイクサが始まる。私が今までの戦場で経た教訓は、身内を気遣った奴から先に死ぬ、だ。

 

「ドーモ……」

 

 両手を恭しく合わせ、オジギをする。腰を深深と曲げた後、首のみを曲げて相手を見据えた。ニンジャ威圧感とともに。

 

「アクタ・ニンジャです」

 

 どろり。

 私がカイデン・ネームを名乗って過たず、この集落中の空気が煮凝りのように固まったのを感じた。敵ニンジャが無言のうちに悶え、表情が歪む。さっきまで私を気遣っていたモータルでさえ、私を畏怖の目で見た。中には口から泡を吹き、気絶する者もいた。

 

「……ドーモ……。メタルプレートです」

 

 敵のニンジャ、メタルプレートはアイサツを返し、名乗った。

 しかしこの脅えよう、私がアーチニンジャというのも有るだろうが、そもそもニンジャに対する免疫が付いていない。ニンジャと相成ってからさほど場数を踏んでいないニュービーの可能性が高いな。こんな奴にイクサに臨まねばならぬとは、屈辱的だ。死んでしまった奴らもアワレだな。

 

「ヘヘッ、女……女じゃねえか。何を怯えてやがる、オレ……」

 

 メタルプレートは震えながら言った。全身が激しい緊張で振動している。

 

「無理もない、コワッパ」

 

 私はゆっくりと歩み、近づく。

 

「うぬは今、誇り高きアーチ存在と相対しているのだ。怯懦に震えるのも道理よの」

「アーチって……何だよ。意味が分かんねーよォ……。でもよ、ニンジャなんだろ?」

「さあな。ただの十把一絡げに過ぎぬモータルかもしれんぞ」

 

 そう言いながら、私はスリケンを指に挟み、構える。灰のスリケンをな。

 

「ニンジャならよォ、ナンデ、ナンデ……」

 

 メタルプレートは頭を抱える。そして私にこう言った。

 

「非ニンジャのクズなんぞに、与してんだよ?」

 

 ……。

 歩みを止める。

 

「オレさァ、つい昨日までただの人間だったよ。だけどさァ、昨晩、心臓の当たりから引き裂けるような激痛がしてさァ、アタマから別の声が聞こえてきてさァ、……そしたらニンジャになってたんだ」

「……」

「スゲェよなァ、ニンジャ。何もかもがうまくいくんだ。圧倒的な身体能力!そんで超能力!そしてオレが睨むだけで腰の抜ける非ニンジャ共!まるでさァ、今までどん底人生だったオレに神が天恵をくれたみたいじゃんか!」

 

 話していくうちに気が高揚していったのか、メタルプレートは半ば狂乱じみて捲し立てる。

 

「ニンジャってよォ、選ばれし存在なんだよ!選ばれたから、オレは何をしても許されるんだ!そうじゃなかったら、オレ如きに力なんて神が寄越すわけねえんだよ!だからこうして非ニンジャのクズどもを殺してフラストレーションを発散させた!悪いかよ!?」

「……」

「なァ、アンタも分かるだろ?ニンジャなんだもんな?選ばれたんだから、アンタにも好き勝手できる権利が……」

「憑依ニンジャごときが、聞いて呆れるな」

「ハ?」

 

 メタルプレートが顎を開き、口をぽかんと開ける。私は侮蔑を孕んだ目を細めた。

 

「全くもって下らぬ。突然降って湧いた力に増長し、自分が選ばれし存在だと盲信する滑稽さときたら」

「舐めやがって!テメェだって同じ存在の癖に!」

「同じ?同じだと?」

 

 私は聞き返す。その意図が汲めなかったのか、メタルプレートは言葉を詰まらせた。

 勢いで負けている。ダメ押しだ。一歩踏み出し、私は言い放った。目の前のニンジャというより、遠巻き周囲に眺めるモータルに。ともすれば、自分自身に。

 

「同じでなどあるものか。紛い物の分際で、シツレイが過ぎるぞ」

「紛い物だって?」

「うぬに意味は分からなくとも、そのニンジャソウルは理解している筈だ。私に畏怖しているだろう」

「してねェよ!」

「今ならまだ引き返せるぞ。尻尾を巻きブザマに逃げ帰るか、私に酷く殺されるか、選べ」

「舐めんじゃねぇ!殺してやる!イヤーッ!」

 

 そう言い終わると、メタルプレートが突進を仕掛けてきた。

 何とも浅ましい思考。ニュービーであれば舌戦で降伏に持ち込める可能性も考えなくはなかったが、既にニンジャの凶暴性にニューロンを支配されているのか。

 その動きは一見しただけでは無骨なチャージに見紛うが、よく見れば後ろに突き出された右腕が不自然だ。

 こちらも右手を翳し、迎え撃つ。

 

「喰らえッ!」

 

 予想通り、右ストレートが飛んできた。言うまでもない事だが、カラテの場数は私の方が踏んでいる。その構え、動き、筋肉の弛緩具合まで……全部読める。だから、いちばん負担のかからぬ掌底で、真っ向から受け止めてやる。そしてチリアクタ・ジツを使い、引導を渡し――

 

「グワーッ!?」

 

 ……おっと。

 右腕が……衝撃で、砕けたな。

 予想していない訳ではなかった。とはいえ、今までのイクサにより染み付いた癖で、私の肉体は通常より脆いことを忘れていた。

 つまり、その鋼質化した腕を止めるには、今の躰では少々分不相応だったようだ。ウカツだな。

 

「イヤーッ!」

 

 容赦なき追撃の左パンチも飛んでくる。同じ轍は踏まん。

 

「イヤーッ!」

 

 左腕で捌く。ついでにチリアクタ・ジツを発動させたかったが、その腕もでこぼことした金属に覆われており、いくら行使しようと阻まれてしまう。なんという事だ。相性最悪だ。

 とはいえ、カウンターを入れ込む隙は生まれた。一先ず膝蹴りを叩き込んで素早く飛び上がり、その胸板を蹴って距離を取ることにしよう。

 

「グワーッ!」

 

 成功。斜めに踏み台にした反動で回転ジャンプ、牽制のスリケンを投げつつタタミ5枚分離れる。一方メタルプレートも、地面に打ち倒される寸前に咄嗟に後転し、隙なく起き上がったようだ。

 

「くっ……」

 

 見るも無惨となった右腕を押さえる。参ったな、だがあやつのジツは読めた。皮膚から金属を析出させて覆うとか、そんな所だろう。どうも、持続力はないようだが。

 とはいえ万一の読み違いであれば厄介だ。一旦様子を見るべきか。

 

「ハーハハハ!片腕を壊してやった!やっぱイキリサンシタか!大した事ねえなあ!」

 

 メタルプレートが挑発する。しながら、懐から何かを取りだした。

 ……金属スクラップだ。そして角張った波の切れ込みの入ったメンポをぱかりと開き、金属を放り込んでバリボリと音を立てながら咀嚼、飲み込んだ。

 

「なるほど」

 

 あれが後に析出される金属の源か。食べることで体内に溜め込み、皮膚から滲み出させて使うんだ。恐らくな。

 これで相手のジツは分かった。だが片腕が機能不全のままでは如何ともしがたい。なら次は、アレを回収せねばならない。あやつの足元に複数転がっている、アレを……。

 

「来ないのか?なら、こっちから仕掛けるぜ!イヤーッ!」

 

 私を手負いにしたことで戦況の利を得たメタルプレートが、勢いに乗って再び猛進する。右腕が負傷した状態で真っ向から立ち向かうのは愚策だ。回避に専念する。

 

「イヤーッ!」

 

 冷静に攻撃を連続側転で前方に躱す。位置が入れ替わる。

 

「あっテメェ!」

 

 メタルプレートが振り向き、側転を繰り返して離れる私にクナイ・ダートを投擲した。だが、軌道が無茶苦茶だ。当たるわけがない。緊急時のエイムの練度が足りていないな。

 

「うッ」

 

 とはいえ、私も人のことは言えん。片腕のみでの側転はやはり無理があり、バランスを崩し転がってしまった。素早く起き上がりはしたが……さっきから格好がつかないな。

 だが、まあいい。私もただデタラメに回避したわけではない。足元にモータルの死体が転がっている。今はこれが目当てだったんだ。

 

「イヤッ!」

 

 はらわたの空いているその亡骸を左腕で掴み、エーテルを流し込んだ。直後、遺体が徐々に灰と化していく。

 

「何を……している!」

 

 メタルプレートが訝しみ、右手から金属を析出させて覆い、篭手を作った。いや、それだけではない。指先から更に金属が成長し、猛獣が如き凶暴な爪が生み出された。骨まで断ちかねん切れ味だ。

 あきらかにこれを隻腕で受けるは愚の骨頂。だから死体を灰にわざわざ変化させた。

 かつて、()()を実現するのにはかなりの練度を要したが……ジツの力は衰退していない今、恐らく、何の滞りもなくできるはずだ。

 

「フンッ!」

 

 私は、その人の形をした灰溜りに、自らの潰れた右腕を埋めた!

 

「イヤーッ!」

 

 一方、メタルプレートも素早く身を屈んで力を溜め、即解放!疾風と見紛うほどの瞬発力でこちらにクロウ攻撃を仕掛けんとする!何らかの対応をしなければ、致命傷をあえなく貰うだろう。

 ……だが、よし、もう十分だ。()()()()

 

「イヤーッ!」

 

 無意識のうちに細めた目をカッと見開き、沈めたその腕を引き抜く!

 一瞬、灰が粘性流体めいて伸び、腕の表面にこびり付いた。それらも削げ落ちると、そこには……元通りとなった私の右腕があった。

 皮膚が斑に灰色のままの、右腕がな。

 

「何!?」

 

 奴は距離を縮ませながらも動揺している。そうであろう、そうであろうな。失った四肢を補うニンジャなど、滅多に居ないがゆえに。

 

「イヤーッ!」

 

 そして間髪入れず、再生したばかりの右腕を弓を絞るように振りかぶり、握っていたものを地面に打ちつけた!

 BOMF!粉塵の塊が炸裂し、周囲の視界を瞬く間に塞いだ。そう、灰の煙玉だ!

 

「チィーッ!」

 

 メタルプレートが勢い余り、煙幕の中にその身を投じてしまう。結果、視界が一寸先すらも塞がり、突撃を断念せざるを得なくなった。してやったりだ。

 煙を払い終わっても、私の姿を捉えられることはない。私は彼の死角にいた。視界が封じられた間に、すかさず致命打を叩き込む。これこそフーリンカザン。

 

「イヤーッ!」

「グワーッ!」

 

 メタルプレートのうなじに背後に回った私の掌打がクリーンヒットした。大きくたたらを踏み、否応なしに前のめりな体制となる。

 

「イヤーッ!」

「グワーッ!」

 

 休む暇も与えさせない。続け様に脊椎に肘打ちを当てる。

 

「イヤーッ!」

「グワーッ!」

 

 そして、全力のボディチェック。メタルプレートは数メートル先までキリモミ回転。打たれ弱いニンジャならばここで爆発四散し、決着がつくものだが……。

 

「クソッ……ザッケンナヨ……」

 

 後頭部から血を流しながらも、メタルプレートはなお立ち上がった。

 こやつ、まだ耐えていやがるな。それなりに手負いとなった筈だが、足が笑ってもなお衰えぬ戦意が垣間見える。

 ……それに、ボディチェックを仕掛けた際、人体ではない、金属に体当たりをした感触がした。まただ。咄嗟に金属を背中一様に析出させ、即席のバックプレートでも作ったのだろう。つくづく厄介なジツだ。

 やはり、十全な力の出ないこの状態の躰で、単純なカラテでトドメを指すのは厳しいか。楽して勝てる相手では無い。

 となれば、致命の一撃足り得る攻撃ははやはりアレのみ……。イブシの支援がなければやりにくいのだが……仕方あるまい。

 

「聞いてねえぞ……腕が治るなんて。不公平だろ!」

 

 メタルプレートが喚いている。仔犬が吠えているみたいだ。

 

「おや?うぬはその金属で生傷を塞ぐなど、出来ぬのか?」

 

 私は不敵に言い返してやった。

 

「クッ……アバズレが調子に乗りやがって……」

「のう、アワレなニンジャよ。うぬは、己が何故、紛い物と言われたか分かるか?」

「アァ……?」

 

 私は問い掛ける。意図を呑み込めなかったか、メタルプレートは片眉を上げて聞き返すだけだった。

 

「うぬは天の気まぐれで力を手に入れた、と言っていたな。突如として、一瞬でニンジャになった訳だ」

「……」

「だが、私は違うのだよ」

 

 先程の態度からは一変、私は威圧的に眉をひそめた。

 

「ウッ」

 

 たじろぐメタルプレート。装束の隙間から冷や汗をかいているのが分かる。

 

「私はただの生身の人間から、長い時間を費やしてドージョーにて研鑽を積み重ね、己を死地に追いやり、幾重も幾重も自らを淬ぎ、ニンジャと成った」

 

 私は呟くようにつづけた。

 

「本当に、気の遠くなるような艱難辛苦の連続でしかなかった。……だから、だからこそ」

 

 そして、次の言葉で、私は声を張り上げた。

 

「一朝一夕で手に入れた強大な力に溺れ、己を世界の王だと錯覚している人間を見ると、反吐が出る!身の程を弁えろ!」

 

 メタルプレートがさらに一歩後ずさる。自らの髪が、キモノが、スカーフが、ひとりでに浮かび上がって漂い始めた。私は怒りに身を任せ、更に言い放つ。

 

「故に真のニンジャたるこのアクタ・ニンジャが、うぬが如き惰弱なニンジャの面汚しを、塵も残さず粛清してしんぜようッ!」

 

【続く】




(後書き:次回は、数か月前から温めていたとあるキャラクター達をようやく出演させることが出来そうです。楽しみですね、私もです)
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