アーチニンジャ:ネオサイタマ奮闘記   作:コースト

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(前置き:お詫びです。思ったより文量が肥大化してしまい、前回の後書きで予告したキャラクター達を出すところまでに漕ぎ付けられませんでした。なので次回にお預けです。次回こそは。)


ザ・モーメンタリィ・インパルス #5

 時刻は未だ朝。荒涼とした白い曇天に数羽の黒いカラスが嘶き、我が物顔で飛び回っている。視点を上空からひとたび下に落とせば、ゴミの砂漠の地平線と、果てしない幾何学的都市ネオサイタマが望める。

 ネオサイタマ、未知の都市だ。あの場にもニンジャは居るのだろうか。居るなら、非ニンジャ……モータルとどのような関係性を築いているのだろう。表舞台に立たず、気まぐれに影から現れては脅かすヨーカイめいた存在なのか。はたまた案外、相互扶助が成り立つほど親密な関係となっているのか。

 まあ……今、この瞬間もしのぎを削りあっている目の前の敵ニンジャのことを考えると、後者の可能性は望めないだろうが。

 

「クソッ……クソッ、クソッ、ブッダシット!」

 

 私の数メートル先にニンジャがいる。名はメタルプレート。愚かなことに、このアクタ・ニンジャのすぐ近くでモータルに狼藉を働いた、無軌道なサンシタニンジャだ。

 交戦状態となってからは、体のそこかしこから金属を析出させて覆うジツを駆使し、金属製の鋭い爪を生み出したり、咄嗟に即席の鎧を生成させ身を護ったりなどを行った。

 私に言わせれば、なかなか強いジツだ。相性っていうのもあるがな。使い手のワザマエがもっと高ければ、爆発四散に至らせるにはとても骨が折れたことだろう。

 で、今は……汚い言葉を散らしながら、地団駄を踏んでいる。何故かは、まあ、アーチニンジャのこの私が啖呵を切ったからだろうな。このまま戦意喪失してくれれば楽なのだが。

 

「ナメんじゃねぇよ……テメェに何を言われようが知ったこっちゃねぇんだ……」

 

 メタルプレートは声を絞り出した。その目は狂おしげにかっ開いていて、全身は痙攣が止まらない。

 背中を丸まらせ、わなわなと震える両手を見つめ、鈍色のニンジャは呟くように続ける。

 

「アーチだかなんだか知らねえが……そんな奴に、やっと右肩上がりなオレの人生を台無しにされるわけにはいかねえんだよッ……!」

 

 そして、装束の内側にある懐から再び金属スクラップを取り出した。……量が多い。掌で持てる限界ほどの山だ。メンポの機構が動き、人外じみた口が開く。

 また金属を補給をするつもりか……?だがあれほどの量を平らげて、何をするつもりなんだ?

 ……。

 いや、いい。

 前回はジツの全容把握のためにあえて様子見をしたが、概ね戦法が分かっている今、これ以上の余裕を与える理由はない!即刻インターラプトだ!

 

「イヤーッ!」

 

 スリケン2枚投擲!

 

「イヤーッ!」

 

 口一杯に金属を放り込みながら左腕に金属を析出させ籠手を作り、それらを難なく弾くメタルプレート。

 クソッ、スリケンを最低限の動きで躱させてしまった。見積もりが甘かったな、結局食べさせてしまった。ならばこの一瞬の隙に距離を詰め、掴みかかってやる!あのジツが使われるよりも先に決着をつけるべし!

 

「イヤーッ!」

 

 ニンジャ脚力を最大限に使い、肉薄しにかかる!

 

「イヤーッ!」

 

 だが、今しがたスリケンを弾いたばかりのその左腕を前面に置かれ、突進を阻まれた!いや、こんなものは一時しのぎにしかならない。すぐさま掻い潜ってのしかかり、チリアクタ・ジツを――――

 危険。

 

「……イヤーッ!」

「イヤーッ!」

 

 思わず眼が見開いて、時間が鈍化した。それまで前のめりになっていた全身に自ら強烈な負荷をかけ、後ろに海老反りとならせた。突進を阻むように構えられたメタルプレートの左腕から、私の上半身が離れた。その瞬間、それまで私の心臓部があった場所を目掛け、その左腕から円錐型の長く太い針が垂直に生え、伸びていった。

 

「……!」

 

 上半身が更に曲がり、地面とほぼ平行になる。それでも尚も伸び続ける錆びた金属の針が、目と鼻の先を過ぎて行った。

 九死に一生だった。すぐ目の前を死の運命が過った。あと一秒でもニンジャ第六感を拾い遅れれば致命傷であったことだろう。

 

「イヤーッ!」

 

 素早く地面に手を突き、その腕を下から蹴り上げる。

 

「グワーッ!」

 

 直撃し、メタルプレートの左腕が強制的に高く掲げられる。

 一瞬だが、確実に無防備な間が生まれた。今しかない!

 

「イイイ……ヤーッ!」

 

 腕を曲げて力を籠め、解放。斜めに飛び上がり、肩に大腿を乗せ、首に脚を巻き付けた。現代の観点で例えるならば、フランケンシュタイナーの構えとでも言おうか。

 そして、流れるような動作で装束越しにメタルプレートの頭部を掴む!こうなったら頭部から灰にしてやろう。脳味噌が真っ先に機能停止すればあとはただの人形にしかなるまい――――

 再び危険。

 

「クッ……イヤーッ!」

「イヤーッ!」

 

 私は顔を顰めながら首を固めていた自分の脚を解き、全身を自由落下させた。再びニンジャ第六感が死の予兆を告げたのだ。

 密着していたその体が下に落ちた途端、ハリセンボンめいてメタルプレートの頭部正面から無数の細く鋭い棘が生え、急速に広がった。胸元のキモノのみが引っかかり、僅かに裂けた。コンマ秒単位で回避動作が遅れていれば、一瞬のうちに全身をスイスチーズめいて穴だらけにされ、敢無く爆発四散していただろう。またもや危なかった。

 ……それにしても、バストが豊満であっても、今の攻撃は避けきれ……おっと、考えている場合では無かったな。今はこのイクサにのみ焦点を向けよ!

 

「イヤーッ!」

 

 素早く地面にウケミし、仰向けからぐるりと横回転。そのまま転がる円錐形物体めいた軌道で転がり、全身を起こしながらメタルプレートの背後に回り込んだ。

 視界の端、メタルプレートのウニめいて顔面中に析出させた鉄棘が瓦解し、剥がれていくのが見える。長持ちしない性質なのか。

 

「イヤーッ!」

 

 ともかく、私は素早く対象を見据え、手を伸ばしていった。狙うはメタルプレートのその無防備なうなじだ!

 

「イヤーッ!」

 

 だが、メタルプレートの反応も間に合い、既の所で素早く振り返られた。結果的に、私の手が首元に届く前に、私の方が首根っこを深く鷲掴みにされた。呼吸が出来ない。

 鈍色のニンジャは勝ち誇ったかのように、メンポの隙間から煙めいた息を吐いた。

 

「ハーッ……イヤーッ!」

「グッ……!」

 

 装束越しの腕に筋肉と血管が浮き上がり、首元からミシミシと軋む音が鳴り始めた。首を掴んでいる手は片手のみだというのに、私の体さえも持ち上がり、宙ぶらりんとなる。

 この間も当然、呼吸は不可能だ。ニンジャ肺活量のお陰で窒息こそしないが、ひどく苦しい。

 

「オオオオ……」

 

 鮫の波めいた切れ目の入ったメンポが開き、低い声でメタルプレートが唸る。露出している目は白く淡く輝いていて、禍々しい。

 何だ、こやつ。様子がおかしいぞ。

 そもそも、さっきから戦闘能力が強くなっているように感じる。鉄の棘といい、この身体能力もいやに向上しているような。

 ……長引くイクサの影響で、ソウルの力が増している?

 

「グ……イ、イヤーッ!イヤーッ!」

 

 私は必死に抵抗した。具体的には、私を持ち上げている腕を殴る、下半身を揺らし、腹部を蹴りつけるなど。だが、効いているそぶりも見せてくれん。軟弱な肉体の、しかも地に足のついていない攻撃など、そんなものか。

 なら……鬼が出るか蛇が出るか、はたまたブッダが出るか……だ。

 

「イヤーッ!」

 

 私はチリアクタ・ジツを行使しようと、今まさに首を絞め、私を窒息せしめんとしているメタルプレートの腕を掴もうとした。

 だが、

 

「……イヤーッ!」

「グワーッ!」

 

 阻まれた。掴むかどうかの直前に腕から鉄の棘が垂直に2本伸び、それぞれの手を正確に抉り取ったのだ。

 クソッ、痛いな。手の上半分が、そして指が全て消し飛んでしまった。だが掌の底はまだ残っている……。私は負けじと残った下半分でメタルプレートの腕に触れようとする。触れさえすれば!

 

「シツコイ!イヤーッ!」

「グワーッ……!」

 

 ああ、無慈悲だ。再び腕から太く長い棘が析出し、私の残った両手も正確に貫いた。手首から先にあるはずの両手はものの見事に消え去っていて、代わりに紅い血が噴出している。見る影もないとはまさにこの事。

 

「無駄な抵抗はやめろ、アクタ・ニンジャ=サン。アンタは死ぬんだ。散々苦労させやがって」

 

 メタルプレートは嘲るかのように肩を揺らして笑い、続ける。

 

「何がアーチだ、何が真のニンジャだ……結局はただの雑魚だった!どうやらその両手さえ奪ってしまえば、あの厄介なジツは使えないようだな?腕を治された時は驚いたが……それも今や封じられた」

「クソッ……」

「もはや、お前はただの非ニンジャのクズと変わらん。ハイクを詠めよ、この紛い物のメタルプレート=サマによ」

 

 そう言うと、メタルプレートは自らの左手を私の額に翳した。

 ああ……成程。とどめの一撃を与えようというのだな。この邪なるアーチニンジャに引導を渡そうと。生命機能を断ち、爆発四散せしめんと……。

 正直、死にたくはない。私にはまだやりたいことも、会わなければならない人も、知りたいこともごまんとあるのだ。確かに、ニンジャという価値観で鑑みても私は好き勝手やったし、その報いを受けろということなれば……ある程度、仕方ないと、割り切れはするが。

 とはいえ、最後に見る顔がこのメタルプレートとかいうサンシタニンジャなのも嫌だ。せめて私の信頼する人の近くで看取られて死にたい。あとは……タイミングも悪いよな。全力を出して、全霊を懸けて、目一杯イクサを交えてから満足に逝きたかった。体の本調子が出てないこのタイミングで死ぬのは、あまりにも未練がましさしかない。不本意だ。

 

「イヤーッ!」

 

  メタルプレートがシャウトした。周囲の環境音が消し飛び、時間間隔が極限まで引き延ばされた。掲げられた左手中心から鉄が生え、緩慢に隆起していくのが見える。それはゆっくりと、だがごく短時間の間にみるみる成長していき、私の額にまで到達した。

 先端の鋭きが中心の皮膚を裂き、筋繊維を裂き、次は頭蓋骨を破壊せしめんと、伸びていった。

 …………。

 ……よし、もしもの際の遺言は言っておいた。あとは可能性に賭けるだけだな。

 

 私にはひとつ、極地においての脱出手段がある。アッシュスケープ・ジツ。灰から片腕を補い肉体にしたように、肉体を灰に変化させ、同時に体内のカラテを瞬間解放し、擬似的に爆発四散させるジツ。事前の準備など煩雑な手続きを全く通さず、遍く死の運命からの緊急退避を行える、私の秘蔵のワザだ。

 この場面においても無論、使用可能だ。だが極力は避けたい。何故なら、前回、起死回生の一手として使った際は、肉体の復帰に千年もの時間を要したからだ。その間、世界は何もかもが変わっていて、その間、私は何もかもを喪っていた。もっとも、そこから新たに得た物もあるのだがな。

 しかしてこの状況。あと一秒経たぬうちに、ぐんぐん伸びるこの針は私の脳天に風穴を空け、私は死ぬ。ならアッシュスケープ・ジツを使い、一か八かの戦線離脱を行えばいいのではないか?

 その問への答えは、否だ。そうするつもりは毛頭ない。

 何故か?この鉄の針が今もまさに、私の生の営みを無惨にすべく無慈悲に成長し続けているというのに?死んだら終わりという、ミヤモト・マサシの格言を知らないのか?

 ……まあ、聞き給え。私には、数多の戦場で研磨されきったアーチニンジャとしての野生の勘と、観察眼がある。

 例えば、この時すでに、私はこのメタルプレートの弱点を読み切り、よもやよもや的確にその弱点を突くための計算までの悉くを尽くしていたのだとしたら?

 

「……なッ」

 

 メタルプレートが言葉を失った。極度の緊張下の中、さしもの私も安堵の息を漏らさざるを得なかった。

 こやつが勝利の確信と共に放ったであろう致命の棘は、それ以上伸びなかったのだ。

 そう。鋭きが中心の皮膚を裂き、筋繊維を裂き、そこで……成長を止めた。

 

「……ははッ。予想……通りだ」

 

 後頭部に夥しく流れる冷や汗も隠せないまま、不可解な顔をするメタルプレートにニイッと笑ってみせた。額から流れる血が鼻筋を伝う。私は言った。

 

「枯渇し……したな?」

 

 図星か、ニュービー故に自らのジツのこの性質に初めて気付いたか、身じろぐメタルプレート。

 

「イ、イヤーッ!」

 

 戸惑いも隠せぬまま、ならばとばかり、針が中途半端に伸びているその掌を私の額に押し込もうとした。

 

「グワーッ!」

 

 私は衝撃に喘ぎ、やや後方に仰け反った。それなりに痛かった。だが、それぐらいだ。

 針に脳を貫かれた感覚はなかった。押し込まれる直前、棘がボロボロと解れ落ちたのだ。受けたのは変哲ない掌底で、死には断然程遠い。

 

 

「ク……クソッ!」

 

 メタルプレートが呻いている。隙でしかない。突いてやる。

 

「イヤーッ!」

「グワーッ!」

 

 仰け反った首を戻す。戻しざまにカラテシャウト、同時に大きく勢いをつける。一瞬だけ首から上が可動域限界まで前のめりになり、思い切り手首を噛んでやった。

 噛みちぎるような事はしない。そんな勿体の無いことは。

 

「このアマ!その生意気な首をへし折ってやる!」

 

 激昂したメタルプレートがそう言うと、首を鷲掴みにしている右手に力を込め始めた。ミシミシと軋む音が再び鳴り始める。このままでは首が折れてしまうだろう。

 だが、私の顔色は変わらない。むしろ勝ち誇ったような顔をとり、言ってやった。

 

「アハハハッ……!メタルプレート=サン……その右腕、気付か……ないのか?」

「何……アイエエエ!?」

 

 私に指摘され、メタルプレートも遅まきながらも気付いた。自らの右腕が、咬み傷を中心に今まさに灰となり、機能不全になろうとしている最中だということに。

 ざまあない。散々狼藉を働きおってからに。紛うこと無きインガオホーな。

 こやつが気付いた時には、灰は既に腕の関節部まで到達していた。同時に、私を掴んでいたその手は崩れ去り、あえなく窒息責めを解いてしまう。

 

「イヤーッ!」

 

 ようやく拘束から解放されると同時に、私は未だ崩れ続けるメタルプレートの右腕だった灰に、あやつの鉄の棘によって消し飛ばされた両腕の断面を当てた。

 すると、灰が素早く吸収され、私の手を瞬く間に再形成させていった。これで欠損していた両手は元通り。

 右腕を再生するときは、モータル由来の灰だったがゆえ多少時間がかかったが、やはりニンジャの灰は親和性が高く、素早く肉体を補うことが出来るな。便利便利。

 それに比べてあの目の前のニンジャは、徐々に灰化していくその右腕を見つめることしかできていない。アワレなこと……。

 

「イ、イヤーッ!グワーッ!」

「む……」

 

 否。見つめているだけではなかったようだ。蝕む灰が肩の付け根まで到達しようとする直前、彼は左手でその部分をチョップし、右腕を丸ごと切断した。

 やるな。ここは素直に褒めようか。少し放れば灰はすぐさまに全身に伝播するが故、そうなるまでに被害箇所を断つというのは最も合理的な判断だ。

 とはいえ、生半可なメンタルでは四肢を失うことに強い葛藤がどうしてもあり、迷うものだが。土壇場での素早い判断力も備えていると来た。サンシタのくせに。それともカジバ・フォースというやつなのだろうか。

 

「チィーッ……」

 

 舌打ちするメタルプレート。数秒前まで右腕があった断面から少なくない血液が流出している。そして、再び懐をまさぐり始めた。

 

「イヤーッ!」

 

 当然、胴体にスリケンを投げてインターラプトだ。どうせ金属を補給すべくスクラップを摂取したかったのだろう。言うまでもないが、みすみす見逃す理由など当然ない。

 

「イヤーッ!」

 

 向こうも半身を翻し回避。

 

「イヤーッ!」

 

 なら、その隙に突撃。片手を突き出し、胴体を狙う。

 

「……イヤーッ!」

 

 相手はやむを得ずまさぐっていた手を取り出し、私のその手首を横から掴む。そのままアイキドーの要領で足首を刈り、私を後方へ投げ飛ばした。

 正しい判断だな。スクラップは食えずじまいだったが。

 

「イヤーッ!」

 

 すぐさま地面に後転しながら着地し、メタルプレートを見る。憔悴した様子で再び装束の懐に手を突っ込んでいるようだ。

 ……そういえば、そのスクラップはどうやって集めたんだか。

 

「イヤーッ!」

 

 スリケンを投げ、インターラプト。

 

「イヤーッ!」

 

 向こうも半身を翻し回避。

 

「イヤーッ!」

 

 なら、その隙に突撃。片手を突き出し、胴体を狙う。

 

「……イヤーッ!」

 

 相手はやむを得ずまさぐっていた手を取り出し、私のその手首を横から掴む。そのままアイキドーの要領で足首を刈り、私を後方へ投げ飛ばした。

 

「ブルシットが……!」

 

 メタルプレートが毒づく。先程から全く攻勢に出れていない。まさしくジリー・プアー*1というやつだな。金属を一度枯らしただけであの有様か。増長し、私を痛めつけるためだけに使い過ぎた報いだ。

 

「これ以上の抵抗は無駄ぞ、メタルプレート=サン。観念せい。すぐさま楽にしてやるぞ」

 

 私はスリケンを構え、言う。歯ぎしりするメタルプレート。その視線からは徹底抗戦の意思を感じる。まだ諦めていないのか、面倒な。

 

「ハハッ、そんな余裕かましてていいのかよ、アクタ・ニンジャ=サンよォ!?オレにはまだ手があるんだぞ……!」

 

 そう言い、メタルプレートは不敵な表情で前傾姿勢となった。何の構えだろうか。

 

「ほう、それはそれは楽しみだな……」

 

 私も迎撃態勢を取る。決して油断はしない。片腕が欠け、ジツが封じられているとはいえ、油断できない存在であることに違いはない。トドメのタイミングを読み違え、足を掬われたらたまったものではないからな……。

 

「イイイ……」

 

 メタルプレートが全身に力を籠める。……一体どんな奥の手を?

 

「イヤーッ!」

「……」

 

 あ……。

 後方に大きく跳びおったぞ。

 ここにきて、背を向け逃げる気か?むう……どうせなら、キッチリと決着をつけておきたかったが……ああ、いや、違う。よく見れば、着地点にモータルが一人いる。まんじりともせずイクサの行方を見守っていたギャラリーか。

 

「ハーハハハッ!」

「アイエエエエ!?タスケテ!」

 

 跳躍を終えるや否や、メタルプレートはそのモータルの首を片腕できつく締め、持ち上げた。

 人質だ。途端に恐慌し、失禁しつつ全身を捻じらせ必死に抵抗するモータル。だがニンジャの膂力の前には、到底敵うはずもない。

 鈍色のニンジャはそれを尻目にジグザグな切れ込みの入ったメンポを開き、私に向かって叫ぶ。

 

「アクタ・ニンジャ=サン!取引といこうじゃねぇか!」

 

 首を絞める力を強め、あやつは言った。

 

「お前、モータルが大事なんだろ?オレを殺してみろ、オレはこの人質を殺してやる!だが今から両手を上げて投降すれば、このクズの命だけは助け……ア?」

 

 メタルプレートは最後まで言葉を紡がなかった。彼が目を瞑り、次に開けた時、私は既に彼の目の前に居て、満面の殺意と共に腕を引き絞っていたのだからな。

 

「イヤーッ!」

「アイエエエアバーッ!?」

「グワーッ!」

 

 メタルプレートの背中から腕が生えた。血肉によって真紅に覆われた、私の腕だ。その手には心臓が握られている。こやつ自身のな。私はその臓物をチリアクタ・ジツで灰に染め上げ、握り潰した。

 

「カハッ」

 

 喀血するメタルプレート。不可解そうに見開いた目で私を見ている。その少し手前に、胸を貫かれた見知らぬモータルがいる。だがそやつは既に目が濁っており、息がない。ナムアミダブツ。

 

「……身内を気遣った奴から先に死ぬんだ」

 

 小さく呟き、私は腕を引き抜いた。

 

「サヨナラ!」

 

 その目の前で、仰向けに倒れたメタルプレートが私に見下ろされながら爆発四散した。巻き添えで串刺しとなっていた見知らぬモータルも、程なくしてチリアクタ・ジツで灰にされた。私なりに弔っておいたのだ。

 ハァ。思ったより時間はかかったが、イクサは終わった。この私を差し置いて暴れていたメタルプレートは、インガオホーにも苦んで死んだ。全く以てざまぁない。

 

 …………。

 

「あ……」

 

 ふと我に返った私は、周囲を見た。このイクサを見守っていた人々が、こちらをじっと見つめていた。……化物でも見るような目で。

 

「……」

 

 その視線には様々な感情が綯交ぜになっているように思えた。メタルプレートの暴虐から救ってくれたことへの安堵。私がニンジャであることへの根源的恐怖。同郷の仲間を容赦も躊躇もなく犠牲にしたことへの敵愾心と、不信。

 違う、これは誤解だなどと言って、弁明をするつもりはない。全部、事実だ。私がモータルの命を顧みず敵ニンジャの殺害を優先したことも、今までニンジャを隠し、周囲に溶け込んで生活を営んでいたことも。

 

「非ニンジャのうぬらよ、怖がらせたな。だが安心して良い。あの横柄なるニンジャは滅び、そして私もここから消えるつもりなのだからな」

 

 周囲を見渡し、私を震えた目で見る一人一人に視線を合わせながら、私は続けた。

 

「短い間だったが、世話になったな。こんな私に善くしてくれたことは、感謝している。だか……ら……」

 

 だが、言葉は途中で尻すぼみになり、最後までは続かなかった。私にとって見知った、余りにも見知った顔と目が合い、情けないことに、いささか心が揺れてしまったのだ。

 

「これは、どういうことなんだ?アッシュピット=サン」

 

 イシハラが言った。私に向き合って、理解できない、どういうことだ、といった表情で訊いてきた。

 

【続く】

*1
ジリ貧。




◆塵◆ ニンジャ名鑑A03 【メタルプレート】 ◆芥◆
無軌道なヨタモノにニラギ・ニンジャクランのグレーターソウルが憑依し、金属を体内から析出させるジツを持つニンジャに覚醒。だが、憑依者自身が未熟だったためにエテルから金属を生成できず、外部から補給する必要があった。
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