アーチニンジャ:ネオサイタマ奮闘記   作:コースト

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(作者からのおたより:大変お待たせしました。第二部はこのエピソードより開幕します。第一部は舞台がドリームランドで固定されていましたが、第二部は舞台がネオサイタマ全域に移り変わります。描写の幅が一気に広がるでしょう。楽しみですね、私も楽しみです)

(補遺:いつもお気に入り登録や10段階評価や感想などでこの拙作を評価していただいてる読者の皆々様方には、本当に感謝しています。更新間隔が空いてしまい、本当に申し訳ないです。回復するとも言い切れません。ですが、それでも私はまだまだこのアクタ・ニンジャの物語を続けたいと思っています。ゆえにどうか、読者様方も長い目で付き合っていただければと存じます。ヨロシクオネガイシマス)


第二部:理想郷はいずこ
ホワット・フェールアウト・フロム・ハー #1


 その空間は仄暗く、青白い冷たさに満ちている。融けた岩石を型で固めたような壁と床は極めて無機質で生気を感じさせず、ただうら寂しい。

 机の上にひっそりと置かれたライトスタンドは頼りなく光を放ち、鉄製格子の向こうから差し込む月光は、薄ぼんやりとした輝きで空間をかすかに染めるにすぎない。その光はあまりに弱々しく、この場の冷たさを和らげるどころか、かえって孤独感を際立たせていた。

 

 ガチャリ。

 

 鉄製の扉が開き、人影が一つ、この部屋にエントリーした。朱く平たい帽子*1をかぶり、耳を覆えるほどの茶髪と深い紅色の眼を持つ女だ。

 

「ドーモ」

 

 ステディがオジギをする。

 

「「ドーモ」」

 

 その後ろから身長があべこべの二人の部下が現れ、規律正しい所作で同時にオジギをした。

 まあ、言ってしまえば既に知り合っている有象無象の奴らだ。

 片方はマインドシーカー。散らかった紫髪を大きく二つ結わえ、額にゴーグルを付け、透明でツルツルとしたコートを羽織る小柄な女。顔にはそばかすが目立つ。

 もう片方はネオテリック。所々鮮やかな橙色が見える白い髪に大きい丸眼鏡をかけ、紫色の大地に巨大な夕日が目を引く不思議な意匠のシャツを着た、なんともラフな印象の男だ。

 そして念の為言っておくが、いま紹介したこいつらは全員ニンジャだ。

 

「……ドーモ」

 

 オジギを返す。だがその作法は極めて粗雑であり、平安時代より生きる貴きアーチニンジャの沽券に関わることだろう。

 だがこれは致し方ないことなのだ。こやつら渡す物があるとかなんとか言って、私をこの「取調室」とかいう極めて無味乾燥とした空間に押し込んだかと思えば、そこから随分と待たされていたのだからな。

 つまり、今は機嫌が悪い。

 

「で、私をこんな場所に閉じ込めておいて、さぞかし上等な渡し物だったのだろうな?」

「ああ」

 

 対面の椅子に腰かけ、彼女は手に持っていた一枚の書類を机に置いた。

 私はその紙を手に取り、目を通した。上に大きく印刷された「フォールアウト」の見出しが目を引いたからだ。……その下には白黒でぼやけた顔写真。次に罪状の羅列。戦法。使うジツの概要。外見。

 

「報告書だ、読むといい」

「……」

 

 言われた通りに読み進めるうち、私の眉間の皺は深まる一方だった。

 これまでの情報で鑑みるならば、私の名を騙るそのフォールアウトとかいう奴は本当にもう一人の私などではなく、私を模倣している全くの他人という可能性の方がまだ有り得ただろう。

 だが、この書類に書かれてある情報は……。

 

「戦法……攻撃を避けて懐に潜り込み、致命部位を最優先にジツで灰にして反撃も許さず仕留める……。ジツ……触れた物を灰にする……だが実際は極高温で焼却させているメカニズムである故、その性質上、不燃物には行使不可能と思われる……」

 

 無意識のうちに読み込んだ内容が口から出る。

 

「外見……後ろで大きく結んだ灰色の髪、細かい粒子が散った模様の灰色のキモノ、"灰"のエンシェント・カンジが彫られたハチガネ……」

 

 ……詳らかに書かれたそれらの内容は、まさに今の私のそれと一致する。ニンジャ装束を兼ねた灰色のキモノを着ているし、そういうハチガネも装着している。それに……極めつけにはこの顔写真だ。戦闘中に記録されたのだろう、残像が目立つし、暗いし、いやに見辛い写真だが……。

 それでも、否応なしに分かる。この顔は「私」そのものだ。

 そんなまさか。この世界に、自分がもう一人いるなどとても信じ難い。……しかし、この3人といいデッドリーエッジといい、信じない方が難しい程には状況証拠が出揃っているというのも、また現実か。

 

「……」

 

 フォールアウトの情報が書かれた紙を、机にそっと置き直す。

 

「で、こんなものを私に見せて、一体どういうつもりなんだ?」

「……ゴホン」

 

 咳払いをするステディ。

 

「アクタ・ニンジャ=サン。私たちに協力してほしい」

「……協力?」

 

 その言葉に思わず眉をひそめ、私はステディを見た。彼女は初めて姿を現した時から一貫して無表情だ。彼女のその深紅色の目に、私がどう見えているのか分からない。

 

「お前らに拉致されたも同然のこの私に、与しろと?」

「……選択の余地は残している」

 

 机の上で手を合わせるステディ。

 

「貴方が拒否するなら、私たちも潔く諦め、直ぐに解放することを約束しよう」

「……」

「……それとも、考える時間が必要だろうか?」

「その必要は無い。私はお前らに協力する」

 

 ステディは僅かに目を丸くし、固まった。私がそう言った直後にだ。そんなに私からの賛同の返事が思いがけないか。心外だな。

 ただ、私はアーチニンジャだ。それなりの老獪さは持ち合わせているつもりだし、何も考えずに快く首を振ったわけでは無い。

 

「ただ、一つだけ」

 

 私は指一本を立てた。

 

「……何だ?」

 

 様子を見るステディに対し、次に私は片手を差し出した。

 

「私と握手をしろ、ステディ=サン」

「握手か?」

「そうだ。そして、そこの二人」

 

 訝るステディを傍目に、次に視線を奥で待機している男と少女に向けた。

 

「お前らは両手を挙げろ。そして()()()()()()動くな」

「……!」

 

 奥に立つ二人組がやおらとざわついた。片方は目を強ばらせて私を睨みつけ、もう片方は全身をぴんと立てて震え始めた。

 当のステディに特筆したリアクションは無く、差し出された私の手をまんじりともせず見ているだけだが……。

 

「ふざけるな、アクタ・ニンジャ=サン」

 

 背後から、大眼鏡の男がのしのしと距離を詰めてきた。ネオテリックだ。眉をひどく潜め、相変わらず私を威圧している。

 

「オレの耳にその要求は、灰になって死んでくれとしか聞こえなかったな」

「いや?殺すつもりは無いぞ。毛頭な」

 

 私はあっけらかんと言い返した。

 

「お前らは私に仲間になれと勧誘した。正直、渡りに船だ。私としても首を縦に振りたい。利害が一致しているし、イシハラも治療中なのだろう?」

「……」

「だが、やんぬるかな、お前らは接触の仕方を誤った。この私を冤罪で強制的に連行したわけだからな。故に、私にとって、お前ら三人は自分勝手な拉致集団という認識でしかない」

「そ、そんなことないです……!」

「となれば、こう考えられる。お前らは私をいいように扱おうとしているのではないか?こうして誘われているのも、この私を嵌め、陥れるためだったら?」

「ンなわけねえだろ。臆病風に吹かれてんのか?」

「ああ、今の私は臆病な程に慎重だ。後ろ盾も力も無い、選択を誤れば破滅へ一直線のアクタ・ニンジャ=サンだからな」

「今さら自分を弱者扱いしやがって……」

「考えていることが分かった、アクタ・ニンジャ=サン」

 

 赤帽の女は視線を戻し、再び私と目を合わせた。

 

「確かに私らは、まだ貴方に信頼を示していないな。……それを、握手で証明しろということか」

「素晴らしい。さすがリーダーは賢いな」

 

 姿勢を整えるステディ。

 

「分かった。では握手をしよう」

「姐御!?」

「ステディ=サン!?」

 

 わけもなくそう言い放った彼女に、ネオテリックとマインドシーカーが慌てて近寄った。

 ステディは二人を交互に一瞥する。

 

「大丈夫だ、心配はいらない」

「そうは到底思えません!」

 

 微笑を向ける彼女に、特にマインドシーカーが声を荒げて反駁した。

 

「確かに握手で済めば彼女に信頼は証明できましょう……で、でも……ステディ=サンが灰にされたら、ボクは……ボクは!」

「冷静沈着になれ、マインドシーカー=サン」

 

 穏やかに諭すステディ。

 

「私は絶対に灰にならないさ」

「……決断的に言い切れるものなのか?」

 

 今度はネオテリックが訊く番だ。

 

「言い切れるとも。その根拠を理詰めで展開してもいいが、彼女を待たせるわけにはいかないからな」

 

 ネオテリックと目を合わせてそう言うと、彼女は私に向き直り、片手を伸ばした。

 その手は脱力し、程よく開かれている。

 握手の構えだ。

 

「さあネオテリック=サン、マインドシーカー=サン。両手を挙げて離れるんだ」

「……」

 

 そう命令され、ネオテリックは苦虫を嚙み潰したような顔で素直に両手を挙げ、背中の壁まで下がり体を密着させた。

 彼はすぐに従ったが、マインドシーカーはいまだ納得していない様子だった。

 

「……でも、ステディ=サン――!」

「これは命令だ」

 

 今度は振り向きもせず、彼女は言葉を続けた。

 

「離れろ」

「…………」

 

 それでも食い下がろうとしたのか……彼女は口を開きどうにか言葉を絞ろうとした様子だったが、すぐにその抵抗が無意味だと悟ったのか、目を逸らしながら震える両手を挙げ、ネオテリックと反対側の壁に後ろ足で歩いて行った。

 カツッ、カツッ、カツッ。彼女の靴の乾いた音が、この狭い空間に反響する。格子向こうの月光が、ステディの口元のみを斜めに照らす。

 足音が……止んだ。

 

「待たせた、アクタ・ニンジャ=サン。では握手をしよう」

「よし」

 

 私達は、互いに手を近づけあい……。

 そして、握った。二つの手は、空気が入り込む隙間もないほど密着した。

 彼女の手は僅かに汗ばんでいた。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 ……手を握り合ったまま、誰も一言も発さぬまま、十秒が経過した。

 私は眼前の深紅の目を瞬きもせず見つめ続けた。彼女も瞬きもせず見返した。私は彼女の手が離れようとせぬよう強く握りしめたが、彼女の握力が緩む気配は毛程もなかった。

 視界の端に手を挙げる二人の姿が見える。私の指示通りその場で動かずに待機しているが、よく見ると全身は小刻みに震えている。動きたくて堪らないのだろう。まるで見えない縄で束縛されている動物のようだ。私は目の前の女に再び集中した。

 

 ……二十秒が経過した。ステディの額から、一筋の汗がつうと垂れた。

 そういえば、どのぐらい握手すれば私が信頼を認めるか、彼女に言い忘れていたな。いや、言う必要はなかったか。ここを不透明にするからこそ、より彼女の覚悟が計れるというものだ。

 この女は初めて面を見た時から無表情だったし、今も無表情を一貫しているが、彼女の手は汗ばんでいたし、今だって一粒の汗が頬をなぞっている。その無音の呼吸でさえも、握り始めから僅かに間隔が短くなっている。

 これが何を意味しているか、わざわざ明確な言葉で表現せずとも諸君にはわかるな?

 恐らく本当の心の奥底は、この手を離したくて堪らないのかもしれない。自分がいつ灰になるか分からない恐怖から目を逸らしたいのかもしれない。

 だが、それでも力を緩めず、彼女は私の手を握り続けている。一厘も力を緩めることなく。

 まさに、覚悟だ。

 

 そこまで、私の力が欲しいのだな、このステディという女は。

 ……それが分かったなら、もう十分だ。

 

「よし、いいぞ」

 

 三十秒が経過したその丁度、その言葉と共に私は握り締めていた手をパッと離した。

 ステディは……五体満足のままだった。

 

「……フウ……」

 

 赤帽の女はゆっくりと息を吐き、両手をだらんと下げ、全身の力を抜いてリラックスをした。両端で耐えていた彼女の部下は束縛から解放され、すぐに彼女の様子を窺った。

 

「大丈夫か、姐御!?」

「手は平気ですか、ステディ=サン!?」

「……ああ」

 

 ステディはほくそ笑みながら、握っていた右手を二人に見せた。握る前と全く変わらない、変哲なき手だ。

 

「大丈夫だと、言っただろ?」

「……そうだったか」

「あああ、良かったあ……!」

 

 ネオテリックは胸を撫でおろし、マインドシーカーは目に涙を浮かばせながらその手を握った。

 彼女に自分の手を握らせたまま、ステディは私を見た。

 

「私は信頼を証明できていただろうか?」

「……ああ」

 

 その問いに、私は答えた。

 

「だが証明できたのは、信頼だけでない。この私の手を握り続けるほどの覚悟と、確固とした意志を……間近で、まざまざと、見せつけられたよ」

「……フフ」

 

 ステディはくすりと笑った。私も笑みを浮かべ、言い放ってやった。

 

「私はお前らに協力する。ネオテリック=サン、マインドシーカー=サン、そしてステディ=サン。ドーゾ、ヨロシク」

 

 そして、腰を傾かせ、頭を下げた。

 オジギをしたのだ。

 

「……」

 

 彼女らはお互いに目を合わせ……目配せをした後、一斉に立ち上がり、並んだ。

 そして、私に向かって……一糸乱れぬオジギを返した。

 

「「「ヨロシクオネガイシマス」」」

 

 ……はあ。一時はどうなることかとも思ったが、よかった。

 

 私は選択を誤らなかったようだ。

 

◆◆◆

 

 ピッ。甲高い電子音。

 続いて、内部から落下音。ガタン、ゴトン……ボトッ。

 下の口から筆めいた文字で「おしるこ」と書かれてある缶が、転がって現れた。

 

「ウワッ、本当に出てきた……」

 

 やや身じろぎながらもそれを拾い、その缶と自動販売機を交互に見る。ボタンを押したら電子音が鳴るのはいいとして、離れた位置のボタンを押せば後は自動で飲料が現れるとは、凄い技術だな。それにおしるこ一缶買うのに150円か。ビーフスチウより安い。

 

「……」

 

 温かいな。冷えた指先によく効く。

 さあてと、飲むか。折角温かいのだし、金はネオテリックから貰ったやつだったし、一番美味しいうちに腹に入れなければ勿体ない。

 ……パワリオワー!

 

「!?」

 

 缶を開けようとした瞬間に自販機から珍妙な電子音が鳴り、完全に不意を突かれ驚いてしまった。飲料を選ぶボタンがまた点滅を始める。恰も押してくれと言わんばかりに。

 

「……?」

 

 どういうことだ?また選んでもいいのか?もう金額分は頼んだのに。

 当惑しながら銭投入口を見る。

 

「ん?」

 

 ここで、私は気付いた……。Iの字に空いた口の横の、投入金額が表示される電光板。

 なんとそこに、「7777」という数字が表示されていた。

 そう、何故だか私は、この機械に7777円投入したことになっているのだ!

 

「……!?」

 

 7777円!スクラップ収集労働一週間ぶんではないか!

 一歩後ずさり、慄く。原因はよく分からないが、これはつまり、金額の許す限り飲料が提供され放題……ということなのだろう?

 ということは、「おしるこ」を追加注文できる……。

 震える手でボタンに手を伸ばす。再び「おしるこ」の缶が展示されているボタンに。

 

「……」

 

 オシルコは昔からの好物だ。とはいえ、千年前の話だ。全てがひっくり返った現代において、オシルコが廃れている可能性もじゅうぶん考えてはいたが、まさか「バリキ」と同じようなノリで容器に詰められて売られているとは露とも思わず、一回目は嬉々としてそのボタンを押したものだ。

 それが、7777円分飲み放題……「おしるこ」は150円……。

 計算はあまり得意ではないが、多分……50本ぐらいの値段だ。

 50本……50本か!?なんということだ、オシルコの海を作って泳げてしまう量ではないか!

 

「グワーッ!」

 

 私は押し掛けた手を引っ込ませ、苦悶の声を上げた。

 両手で頭を抱え、のけぞり、ニューロン内で叫ぶ。

 

(((ダメだ、そんなに飲んだら……太ってしまう!)))

 

 ……とはいっても、普段の調子ならニンジャ新陳代謝でニンジャが太ることは基本的になく、いくら飲んでも体重が増えることは無いはずなんだ。

 だが、肉体が弱まった余波を受けて、この私の新陳代謝がモータル並みに落ちていたとしたら、どうだ……?

 

「ぐぅッ……」

 

 ダメだ、調子に乗って飲みまくって、体全体が腫れたように膨れ上がり体表面積が数倍になってアーチの威厳が塵芥になってしまう可能性が一厘でもあると考えてしまうと、とてもオシルコ缶50本分なんて飲む気になれない……!

 ……ここは、潔くオシルコを諦め、もうちょっと栄養の少なそうな他の飲み物を選ぶしかないのか。

 だが何を選べばいいんだ……?「ザゼン」「ハッピネス」「飲用あぶら」「火星ソーダ」「悪い金塊」とか、ラベルで何の飲み物なのか分りにくい奴が多すぎる……!

 もう少し直観的なデザインにしてくれよ!何のためのラベルなんだ……!

 ひょっとしたら、全てが飲用用途とは限らないのではないか?この時代のことだし、何があってもおかしくはない……それこそ「悪い金塊」が本当に金の混ざった毒性飲料で、そうと知らず頼んだ無知なる者を淘汰しようとしているなんて可能性も否定できない……!

 自動販売機……何たる強者!

 

「おい、遅ェぞ。いつまで待たせる気だ」

 

 通路の曲がり角から男が現れた。ネオテリック。喉が渇いたと言った私に小銭を渡し、自販機へと案内してくれた張本人だ。だが、様子を見に来てくれたのだな。いつまで経っても来ない私に痺れを切らしたか……。

 

「ネオテリック=サン!これ、これ……ッ!」

 

 息を詰まらせながら、私は自販機と7777円が点滅する電子板を指差した。

 

「オシルコを飲もうとしたら、何らかの、ふ、不具合で、7777円分も投入していることになってしまった……。僥倖と思えば僥倖だが、オシルコは沢山飲むものじゃなし、かといって他の飲み物も多すぎて分かんないし……どうすればいいんだ!?」

「いやこれ、そういうのじゃないから」

 

 ネオテリックがサラッと告げた事実は、私を藪蛇に硬直させた。

 

「ハ?」

 

 そして呆気にとられた私をよそに、この男は自販機のボタンを勝手に押した。ピッ、ゴトゴトッ、ボトン。細長い缶を取り出す。鮮やかな緑色の、「メロンソーダ」と書かれた缶を。

 私は次に自販機を見た。あれほどまでに私を悩ませたボタンの点滅が、嘘のように止んでいた。電光板の表示は消え、しめやかに「0」が点滅している。

 

「お金を入れてくださいドスエ」

 

 ……金が無い奴は帰れとも言わんばかりの、無機質なマイコ音声も流れる。

 視界の端で「メロンソーダ」を開け、中身をゴクゴクと呷るネオテリック。数秒程呷った後、満足げな顔を作って溜息を吐く。

 

「ハー、旨っ」

「……エッ」

 

 私はようやく現実を認識した。そして憔悴しながら「おしるこ」缶のボタンを押す。……無反応。ピッという小気味よい音さえ鳴ってくれやしない。

 

「……?」

 

 あれ?

 7777円は……どこにいった?

 

「自販機のアタリ・システムだよ。たまーにもう一本無料で貰えるやつだ。運がいいな、アンタは」

「……エ?」

「勝手に頼んでわりーな。だがこの金は元々オレのもんだ。だったらラッキーで得た追加の一本はオレが飲むのが自然だろ?」

 

 ネオテリックが私に向かってニヤリと笑う。そして残りの「メロンソーダ」をグイッと一口に飲み干し、そのままゴミ箱に放り込んだ。カランカランと乾いた音が廊下に響く。

 

「お金を入れてくださいドスエ」

 

 放心する私を催促するように、自販機からマイコ音声が再び流れた。

 

【続く】

*1
註:ベレー帽のこと。




◆塵◆ ニンジャ名鑑A04 【デッドリーエッジ】 ◆芥◆
無骨な鎧で全身の身を固め、粗削りな波模様のカタナを奮うニンジャ。鎧でカタナを研ぐことでその刀身は常に鋭い。まともに受ければ致命傷は避けられないだろう。
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