アーチニンジャ:ネオサイタマ奮闘記 作:コースト
「どうした?そんな暗い顔をして」
私は率直に訊いてみた。
「……いや、何でもない。上層部はヤツの危険性を理解していない……そう思っただけだ」
ただ眉間を潰しながら、ステディはそう答えるだけだった。その顔は……今までの表現力の乏しさからは一変して、憎悪と憤りを含蓄しているような……そんな、印象を受けた。
……フォールアウトに、強い感情を抱いているのか?
それも……敵愾心を。
「……」
なんとなく、心が細い針で刺されるような感覚を覚えた。
「デスネー。いくら人員に余裕が無いとはいえ、もっと人手がある方が動きやすいのに」
ステディの妙な態度を知ってか知らずか、両腕を投げ出し、脱力して椅子に座るマインドシーカー。
「前線が三人しかいなかったから、慎重に動かざるを得なかったんですよ。分かります?一人失うだけで大損害です。それにボク達で得られる情報にも限界はありますし。でも、これでフットワークが軽くなりますね。やっと」
「だな。なあ、姐御。そろそろ本題に取り掛かろうぜ」
吸い終わった煙草を灰皿に押し付けつつ、ネオテリックが気だるげにそう言った。
「そうしよう。他に質問はあるか、アクタ・ニンジャ=サン?」
「今の所は」
……彼女がなぜフォールアウトの危険性を提起したのかとか、全くないわけではないが、今しか知れない情報でもあるまい。
とにかく説明をまとめると、集中対策部とはステディが中心となってフォールアウトを討伐するために作られた小規模の部署で、今の今までそいつを捕捉し続けている……という感じか。
「では、情報共有と参ろうか。我ら集中対策課が手に入れているデータと、この新たなる人員、アクタ・ニンジャ=サンとイシハラ・ナガタ=サンが手に入れているデータとの擦り合わせを行う。これにより、新たなる手がかりを発見するというのが狙いだ。……っと」
話の途中で、ステディがイシハラの方を向いた。
「イシハラ=サン。ここまであなたを巻き込んでおいて今更なことだが、これから交わされる対話は、人間であるあなたの精神を蝕む可能性がある。大丈夫だろうか?」
「親切なあねさんだ。大丈夫、ニューロンに耐性はついてるはずさ。その代わり、俺に提供できる情報は……多分ないがな」
穏やかに返事するイシハラ。
……私のことを親切じゃないって言っている風に聞こえるのは、流石に被害妄想が過ぎるか。
「ウム、ならいい。今回の議題の目玉は、クロサメについてだ。フォールアウトについてや彼女のジツについてもおさらいしておくべきだが、全員報告書を通して情報共有が済んでいるものとして割愛させていただこう」
とステディが言い終わると、椅子から立ち、壁に癒着している白いボードに近づいた。そして下の台から黒いペンを取ったかと思うと、その白い板に文字を書き始めた。白い背景に黒い手書き文字が綴られる。
……「クロサメ」。
「クロサメ。これは本日午後3時に襲撃してきた、デッドリーエッジというニンジャが辞世のハイクとして吐いたキーワードである」
ステディがボードに書かれた「クロサメ」という字を指し示した。
「これは……結論から言うと、フォールアウトが設けた組織の名とみられる。部下は全員ニンジャであり、正確な人数は不明だが、小規模と推測される。活動の動機は不明、内容や目的も不明」
「……みられる、不明、推測。分からないことだらけなンじゃないか」
説明の途中でネオテリックが割り込んだ。やや気まずそうに唸るステディ。
「これは、仕方がないのだ」
相も変わらず黒い薄板を叩きながら、フォーアイズがネオテリックに向いて反応した。
「クロサメの其れ彼*1の組織形態が特殊ゆえ、成果が芳しくならなかったのだ。要するに、後進している」
「後進?」
「其れ彼は、連絡手段にIRCを一切使わなかった。故に通信ログを全く辿ることが出来ず、テンサイ級の我の技術を以てしても情報収集に失敗してしまったのだよ」
「でもあンた、エネミーの狙いを見破ったとかなンとか、言ってたじゃねぇか」
「ああ。汝らの周囲にコトダマ空間を仲介して遠隔ダイブしたら、デッドリーエッジから一直線に伸びるようなひずみを見つけてな。耳を近づけると、彼に命令する女性の声が聞こえたのだ」
……コトダマ空間。に、遠隔で、ダイブ。なんだそりゃ。
幾度となく思っていることだが、未来のテクノロジーはどうなっているんだ。
「ひずみってなんです?通信電波ではなく?」
「……電波ではあるのだがね。見たことのない種類のソレだった。それにIRCのようにログを追うことも出来ず、すぐに霧消する。リアルタイムで追っていないと聞き取ることもできない。つまり其れ彼は、正体の分からない通信手段を使っているのだ」
「長ぇ。オレのような短絡的な人間にもわかるように、一言でまとめてくれ」
「未知の技術でお手上げ、ということだ」
そう言い終わると、彼は芝居がかって両手を上げ、降参のジェスチャーをとった。
「辛うじて分かることと言えば、遠隔での意思疎通が必要な集団形態であることと、上下関係が存在し、上位の立場に女性がいることぐらいだ。それがフォールアウトなんだろうけどね」
「フォーアイズ=サンを以てしてもお手上げ、って……二進も三進もいきませんねえ」
マインドシーカーは考え込んだ。そして、何かを思いついたようにふっと顔を上げる。
「そういえば、ボク達を襲ってきたあのデッドリーエッジ=サン、いろいろと意味深なことを言ってませんでした?器だの、つがいだの……」
「……ああ」
そういえば言っていたな。
(((アクタ・ニンジャ=サン……貴方様のつがいがお待ちだ)))
あの襲撃者の言葉がニューロン内で反響する。
(((つがいの役目は、主に
つがい……主に、器……。
その組織のリーダーがフォールアウトだとすれば、これらのセリフにも辻褄が合ってしまうな。
「……ウーン」
こめかみを押さえ、首を傾げながら、私は呟くように言った。
「私とフォールアウトはつがいの関係で……私が器……?」
「なるほど」
フォーアイズが首だけを向いて私を見た。
「ウカツながら我も失念していた。確かに、デッドリーエッジ=サンはいいヒントを我らに遺してくれていた。つがい、器。なるほど、フォールアウト=サンの正体が推測できそうだ。こう仮定してみるのはどうだろう」
「仮定……仮定か?」
私は困惑しながらフォーアイズの目……目?を見返した。
彼は言った。
「もともと、フォールアウトという個は存在しなかった。彼女はアクタ・ニンジャの一部だった。それが、何らかの拍子で分裂し、離れ、一つの個として独立したのだ」
「……は?」
彼の仮説は荒唐無稽じみていた。
「分裂?」
「イグザクトリー。分裂」
バカな。私が分裂しただなんて、そんな戯言、信じられるか!……そう言い返したいところではあった。
だが、確かに……つがいと器という言葉に脈絡を持たせるには、分裂させたという仮説は確かに理に適っていた。
「私とフォールアウトがもともとは同一だったからヤツは自分をつがいと呼び、私を器と呼んでいるということか?」
「その通りだ。まあ、眉唾程度に聞いてくれて構わないよ。自分でも信憑性が低い自覚はあるからね」
「いや、聞くさ……」
フォーアイズ……こやつは、とても聡明な男なのだろう。私には訳の分からない機械を延々と弄っているからというわけではなく、矮躯のくせして一挙手一投足の節々から説得力が滲み出ている。私にはそう感じる。貫禄と形容すべきか。
彼の語る仮説は、頭ごなしに否定すべきではないかもしれない。
「アクタ・ニンジャ=サンがなぜ器と呼ばれたか。それは、彼女にとって貴方が帰るための場所だからなのだろう。こう考えると、デッドリーエッジの態度も腑に落ちる。主と同等の存在であるアクタ・ニンジャ=サンを恭しい二人称で呼び、無力化はしても、爆発四散は避けたがっていた」
「……」
「フォールアウトの目的は、何らかの方法で分裂した貴方と、再び何らかの方法で一つになること。クロサメを立ち上げたのも、その本懐を遂げるため。……っていうのは、どうかな」
「質問」
フォーアイズが語り終えて間髪も入れず、ステディが手を挙げた。
「ドーゾ」
「大変興味深い推論だった。確かに、これまでの状況から鑑みても、その仮説に目立った矛盾点はない。しかし、重要な証明を放棄してるのではないだろうか」
「ウム、続けてほしい」
「分裂したと言うのなら、なぜフォールアウトとアクタ・ニンジャ=サンの行動にここまでの差が生まれたのだ?」
……。
行動の差、か。
「我々がアクタ・ニンジャ=サンと最初に出会ったとき、彼女はドリームランド埋立地にて、イシハラ=サンと二人で平穏と暮らしていたそうじゃないか。そうだな、イシハラ=サン?」
「イェップ」
迷いなく頷くイシハラ。
「まあ、コイツと一緒になるまでにゃ紆余曲折ってもんがあったんだが……別に悪いヤツじゃなかった。あそこに住んでた他の奴らにも親身に接してたしな」
「やめろ、こそばゆい……」
むず痒い感覚が肌の裏を這い始め、思わず口を挟まざるを得なくなった。
褒められ慣れてないんだ、私は。
「フォールアウトがその時、何処に居たかは定かでないが……奴とアクタ・ニンジャ=サンが同一だと提唱するならば、そいつが今現在、人に害をなす存在と化しているのは違和感を感じる」
「そうだな。今のアクタ・ニンジャ=サンのように、人間と関わってたりしてた方が自然だ」
ネオテリックが机に足を乗せ、気だるげに頷く。
「……」
……私だって、最初から人と積極的に関わろうとしてた訳ではなく、単にイシハラに返り討ちにされたから結果的にそうなっちゃっただけだと思うのだがな……。
きっかけを通して実際に丸くなれるかどうかも含めての、違和感なのだろうか。
「アクタ・ニンジャ=サン、何か考えはないだろうか?」
「考え?」
ステディが私を見て、唐突に話を振ってきた。備えていなかった。一寸先も見えないほどにずっと思案していたので、不意を突かれたようにオウム返しで反応してしまった。
「分裂とは即ち、自分の一部が切り離されたということなのだろう。最近、自分から失われたものなどについて、心当たりは?」
「……」
自分から失われたもの。……そんなのあるのか?この通り私は通常の思考も出来るし、会話もできるし、人格が破綻しているつもりもないが……。
……あっ!あるじゃないか!決定的なアレが!訊かれたらすぐ思いつけよ、アクタ・ニンジャ!
「お前ら、私を捕えようとしたとき、変だと思わなかったか」
目の前のテーブルに両腕を置き、僅かに身を乗り出す。
「変?」
マインドシーカーがきょとんと聞き返したのも束の間。すぐに、彼女もまた同様に思い至った。
「あ……ドリームランドにいた時、ネオテリック=サンが、妙に弱かったみたいなこと言ってましたね」
「妙に弱かったとは言ってねえよ……。だがまあ、蒸し返すようで悪いが、あのインジェクト・スリケンはダメ元で撃ち込ンだものだったんだよ。あっさり刺さっちゃって内心驚いてたもんだぜ」
「気付くものに気付けない、避けれない……つまり……分かりました、カラテですね!」
指をピンと立て、得意げな顔を作るマインドシーカー。
カラテ。
「なるほど、繋がりました!アクタ・ニンジャ=サンはもともと普通のニンジャでしたが、何らかの原因でカラテを司る一側面が分離して、それがフォールアウトという存在を作る核となったのです!」
ふむ、言い得て妙だ。
この時代に現れてから、私が失ったもの。それは、肉体の力……いわば、カラテだ。
「カラテか」
何本目かわからない吸殻を灰皿に押し付けるネオテリック。
「……何言ってんだか。ニンジャは世界の見え方が違うのかね」
その話を聞いたイシハラがそう独りごちる。
「なあアッシュ、もしお前にカラテがあったらどうなるんだ?」
「分からんのか。身体能力が強くなるんだぞ。お前なんかイチコロだ。あの時のように私を止めるなんて出来やしないだろうな」
「なるほど、そりゃ勘弁願いたい。今の方が御しやすくて好みだしな」
思わず脛を強く蹴ってしまった。無言で蹲るイシハラ。このファッキンクソノンデリ野郎め。平安時代だったら即座に灰になかかしてたところだ。そうでなくとも、その包帯の理由を忘れたとは言わせないからな。
「アレ?」
それまで納得していた様子のマインドシーカーの表情が、すぐさま疑問の浮かんだそれへと戻った。
「本当にアクタ・ニンジャ=サンのカラテがフォールアウト=サンなら、何でチリアクタ・ジツがそのまま使えるのでしょう?」
「ウム。我も気になっていた部分だ」
フォーアイズが同調する。
「そもそも、ステディが提唱した疑問の答えにもなっているか怪しいだろう。カラテをプリミティブな野蛮さと解釈するなら、人を無差別に襲い、灰化させるという行動原理にも説明がつくだろうが、それが組織を展開し、配下を従えてアクタ・ニンジャ=サンを標的に襲撃したという事実と結びつくだろうか?」
「だから……オマエ、説明が長いって。まとめてくれよ」
「ただカラテだけがフォールアウトを構築しているとは思えない、ということだ」
「なるほど。お前がそう思うなら、確かにそうなんだろうよ。だが、カラテの権化が知性を持たず、組織を作ることもないなンてどうやって証明できンだ?帰るべき場所に帰ろうとするのが自然だし、そのために組織を作らないとも限らないだろ」
「悪魔の証明とは、参ったな。我の苦手分野なりて」
「……何だか頭がこんがらがってきました」
にわかに発熱の様相を呈してきた男二人の論戦をよそに、マインドシーカーが目を回しながら頭を抑え始めた。確かに、私もいい加減疲労を感じ始めている頃だ。このオリエンテーションも随分長引いている。
……丁度、ステディも同じことを思っていたようだ。袖を捲り、腕に巻いた時計を見ると、立ち上がってスタンドマイクに向かって言った。
「二人とも、よいだろうか。すでにオリエンテーションに割かれた予定時間を優に超えているため、本日の会議はこれにて終了としようと思っている。静かにしてくれると助かるな」
「「ハイ」」
主語の対象と化したネオテリックとフォーアイズは、その命令を聞いた瞬間、よく通る返事をし、姿勢を直してステディの方を向いた。
すごい忠実だな。
「では終わる前に、分からないことを改めて整理して書いておこう。これは次回の議題として持ち越される」
そう言うと、ステディは再びペンを取り出し、白い板に大きく目立つ文字を書いた。「次回の議題」「フォールアウトの正体の考察(仮説:アクタ・ニンジャのカラテが切り離され、一つの個として独立したもの)」「不明瞭な連絡手段の調査」。
「おおむねこんなものでいいだろう。各々疲れているはずだ。今のうちにしっかり英気を養うといい。今日の業務は終わりだが、フォーアイズの連絡次第ではまたすぐに集まる可能性もあることを留意しておくように。では、オツカレサマデシタ。解散」
「「「オツカレサマデシタ」」」
パンッ!ステディが掌を胸の前で叩いた。すると、それまで背筋をピンと立てながらステディの話に耳を傾けていた二人が一斉に全身を力を抜き、立ち上がった。
オリエンテーションが、終わった。
「ハーーー……疲れた。ホントに。今日は濃い一日でしたねえ」
「そうだな」
「このあと呼び出し食らわないといいですね」
「そうだな」
腕を伸ばしてリラックスしているマインドシーカーの背後を、奇抜な柄のシャツが通り過ぎる。
「この後なにか予定あるんですか?ネオテリック=サン」
と、マインドシーカー。首を巡らせ、痩せ顔の男を見上げる。
「ないけど、もう帰って寝る」
ネオテリックは短くなった煙草を吹かしながら、ぶっきらぼうに答えた。マインドシーカーは僅かに固まった後、信じられないといった顔でネオテリックのシャツの裾を掴んだ。
「エッ!?今日もゲームセンター無しです!?壮絶Xは!?」
「無し。疲れてるし」
「ソンナー!」
言っていることは分からないが、どうやら、ネオテリックの言葉に強いショックを受けたらしい。彼女は好物を床にぶちまけてしまったような顔で頭を抱え、そのまま落ち込んでしまった。
「オラッ、分かったら離せ。……じゃあ、お先にシツレイします。オタッシャデ」
「あああ、オタッシャデェ……」
「……オタッシャデー」
そんなのお構いなしと言わんばかりに二人に別れのアイサツを済ませると、ネオテリックはそのまま会議室の扉を通っていなくなってしまった。マインドシーカーはテーブルに顔面を密着させ、えんえん泣いて涙の湖を作り始めた。
……そんなに?
「アクタ・ニンジャ=サン、イシハラ=サン」
私たちのすぐ横から呼びかける声があった。集中対策課リーダーのステディが、見知らぬ金属片を持って立っていた。
「先ほど認可された。客間の鍵だ。そこを当分の寝床にするといい」
「客間?」
私が顔をしかめていると、イシハラがすぐに立ち上がり、その「鍵」を奥ゆかしい所作で受け取った。
「ドーモ、感謝する。ご苦労さまです、ステディ=サン」
「ああ。次の指令まで、しっかり休んでいてくれ。特に、あなたはまだ怪我が完治していないようだからな」
「俺の事は心配しなくて大丈夫ですよ。あねさんこそ、どうやら普段から心労の絶えない立ち位置にいるようだ。アッシュのために、是が非でも
「フッ……ほぼ初対面のあなたにそこまで言われるとはね。分かった。この後も業務が残っているが、今日は早めに終わらせて休むとしようか」
その後も二人は軽い談笑を交わし、別れのアイサツを済ませた。終始、イシハラは礼儀正しかった。
「アッシュ、行くぞ」
「私に指図するな」
休めるなら休むべきだ。そう言いながら私も立ち上がり、先導するイシハラの背後を追おうとした。
……追おうとした。
出来なかった。
ガシッ!
「ッ!?」
出入り口の扉を開けたイシハラに追随しようとしたとき、突然、私の右手首が何者かに背後から掴まれ、引っ張られる感覚を覚えた。強い力だ。振りほどこうと思えば振りほどけるが、ひとまずこの手の正体を突き止めるのが先決であった。
後ろを向く。
「……!」
「アクタ・ニンジャ=サ~ン?ずーっとその格好でいるつもりですかァ~?確か、着替え無かったですよね〜?」
目をぎらつかせ、口角を上に尖らせた病的な様子のマインドシーカーの深い瞳が、私の眼孔を見据えていた。
「よかったら、このボクが貴方に似合う服を見繕ってあげますよ~?」
「な、なんだ藪から棒に……」
きっとネオテリックと遊びそびれ、鬱憤が溜まっていたのだろう。内気でなよなよしい普段の態度から打って変わり、今の彼女は、狂おしいほどの押しの強さと威圧感を兼ね備えていた。……私が、思わず一歩後ずさってしまうほどの。
何だか、嫌な予感がする。私のニンジャ第六感はそう告げた。
「離せ!私はこの後予定が……」
「予定~?なんかあるんですかァ~?」
「よ、予定……」
咄嗟に口実を作ろうとしたが、呆気なくすぐに言葉が詰まってしまった。ここは協力者が必要だ。助けを求める視線と共に、私はイシハラにアイコンタクトを送る。
(イシハラ?イシハラなら分かってくれるだろ!?何か援護射撃してくれ……!謀反したらただじゃ置かないからな!)
「……」
大男が私のSOSに気付いた。首を傾げ、軽く頷きながら考える。……そしてマインドシーカーに、こう言った。
笑顔で。
「予定はないぜ。俺の事はいいから、二人で遊んできな」
「なッ……!?」
謀反を。
「あーヨカッタ!それじゃあアクタ・ニンジャ=サン。一緒にブティック行きましょうね~。お金はボクが工面するってことでいいですからね~」
「や、ヤメロ……グワーッ!?」
彼女から逃れようと手を振りほどこうとした瞬間、手首の握力が強まった。思わず苦悶の声を上げてしまう。握りつぶさない程度に加減されているが、遠慮のない力を込めているので、痛いし、振りほどけない。そういえば無意識に下に見ていたが、力関係だとカラテがしっかり残っているこやつの方が上だった。
何てことだ。これは、もう、逃げられそうにもない。ブッダよ、寝ているのか!?
「それじゃ、ステディ=サン、イシハラ=サン、オタッシャデー!行ってきます!」
「ああ、オタッシャデー」
「オ、オタッシャデー」
「イシハラーッ、貴様覚えてろよ!」
「わかった、覚えとくわ」
快く手を振るイシハラと、困惑気味に手を振るステディに見送られながら、私はマインドシーカーに引きずられ、夜のネオサイタマへと躍り出た。
助けてくれ。
切実に。
【続く】
◆塵◆ ニンジャ名鑑A05 【マインドシーカー】 ◆芥◆
大きく二つ結わえた紫髪が特徴のニンジャ。内気な性格だが、調子に乗りやすい。フドウカナシバリ・ジツ使いなものの、修練が足りないため、特注の眼鏡を装着しながら相手の目を見なければ効果は発揮できない。