アーチニンジャ:ネオサイタマ奮闘記   作:コースト

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ハーダー・ベター・ファスター・スクラッパー #4

 より懸命に、より良く、より早く、よりスクラップに。

 

 地面にできた浅い穴に潜り、チリアクタ・ジツで灰を作り出しながら金属スクラップを掘り当て、その辺で拾った木製の箱に投げ入れる。再び潜り、金属を掘り当て、投げ入れる。

 

 より懸命に、より良く、より早く、よりスクラップに。

 

 あの後、イシハラと共にまだ金属残留可能性の希望がある場所まで向かった。思いのほか遠くまで行かねば、金になる類のスクラップは既に枯渇しているようで、40分ぐらい歩いた。これから移動時間は益々増える一方だろうな。なんと非持続可能な労働だろうか。

 移動が終わった頃には薄黒い雲が天上を覆っていた。ずっと雨を予感させる不気味な雲だが、なかなか降ってはこない。降らなければ作業を中断する必要もないので、よりスクラップを集められるのはいいことではあるが……。

 

「アー……」

 

 呻き声と共に穴から這い上がり、掘り当てたスクラップを木箱に仕舞う。一時間を超える作業により、積み重なった疲労を背負いながら。木箱には築かれた鉄くずの山。その近くには、掘られたのではなく沈下して形成されたように見える縦穴と、灰の池。まあ、分かるだろう。

 次に向こうのイシハラを見る。彼は無心で鶴橋を振り下ろし、地面にあるスクラップを砕いている。ある程度繰り返せば、次はシャベルを取り出し、細かい破片となったそれらを掬い上げ、同様の作業によって(うずたか)く積まれた瓦礫の山に積み上げる。そして金属らしきものが見えていないか穴を軽く精査し、移動。そして別の地点で同様の作業を繰り返す。

 なんと効率の悪いルーチンだろう。要は彼も、私とやっていることは殆ど同じなのだ。ただ私が無駄な瓦礫を省く過程をチリアクタ・ジツでショートカットし、少ない労力で金属を探し当てているだけでな。常識でものを考えれば、ニンジャの私よりモータルの彼の方が先に音を上げるはずだ。

 

「……」

 

 気が付けば、膝を抱えながら座り込み、首に巻いたスカーフに顔の下半分を埋めながら、うつらうつらとしていた。

 正直に言おう。もう本当に疲れた。今日は帰って寝たい。というかあの曇天が続いてからというもの、気分が重くて仕方がない。そういえば天候が悪いと体の調子も悪くなる体質だった。

 あやつは本当に何なんだ?いくらあの筋骨隆々とした大柄な体格であっても、一時間その作業をペースを落とさずキープできるのはおかしいってものだろう。無尽蔵のスタミナもいいところだ。

 より懸命に、より良く、より早く、よりスクラップに。

 気怠さがもたげてくるたび、このオリジナル・チャントを唱え気休め程度に身を奮い立たせていたが、もうそんな誤魔化しも効かない。気を抜くと地面に身を投げ出して寝てしまいそうになる。

 そんな睡魔に抗うためには気力で耐えなければならないが、そこで気力を使っているが故にスカベンジングに割く分がなくなっている。

 嗚呼……ニンジャ身体能力のない自分の貧相な体が忌々しい……。

 

「おい、起きろ」

「ウワッ!?」

 

 不意に足でつつかれた。イシハラがこっちに来たのだ。思わず身を跳ね上げ、謎の敬礼を行いながら立ち上がる。

 

「はい怠らず作業していましたッ!」

 

 あと……謎めいた言い訳も発しながら。

 いや、こやつ、本当に仕事に対してストイックでな?私が手を休めようとする度、態々こちらに来て咎めてきたのだよ。だから反射的にこの言葉が出てしまった。

 

「していないだろ、どうみても……」

 

 ……ついに呆れられたぞ。

 む、今回はスクラップが詰まった木箱を持っているな。……これはまさか。

 

「もう帰るのか?」

「ああ。これ以上やると、回収屋が撤退しちまう」

「まことか、それは!」

 

 ようやっとだ!羽をきっちり伸ばして休むことが出来る!

 

「そうだぞ。それ持て」

 

 そういうと、イシハラは集落の方向へと向かった。私も慌てて重い箱を背負い、でこぼことした地面を難儀しながら歩き始める。……あの男、歩みが早い。眠たい身体に鞭を打ち、小走りで追いつく。ニンジャの身体能力が恋しい。本当に。

 

 終始こやつに主導権を握られていた。この、イシハラとかいう奴……確かに第一印象は労働作業に励む模範的作業員といった感じだが、まさかあんなに肉体労働に熱心な男だったとは。きっと平時から貰えるトークン量が多いのだろう。故にあの集落において、高級店だった缶詰屋にも通えるのだ。

 今思えば、こやつの掘っ立て小屋だって他の小屋と比べたら一回り大きい気がする。

 どうしてこんなスラムに身を窶しているのだか。ここまでのべつ幕なしに動ける奴など、自由にやっていた平安時代で徴収した奴隷労働者の中でも見なかったぞ?ましてや、あんな高い建物が乱杭歯めいて乱立するネオサイタマとやらにおいては、引く手あまたの人材じゃないのか?

 ふむ。まあいい。後で考えよう。疲れてるし。

 

◆◆◆

 

 あの後は、営業時間が残り僅かで撤収間際だった回収業者になんとかスクラップを交換してもらい(前回と比べて量は多かったのに、私の取り分は2000円だった。昼時とは別の人だったため、やはりあやつが個人的に色を付けていた可能性が濃厚だ)、帰路についた。

 私の粗末な小屋は特に大事なものを何も置いていない故、あのまま放置……ないし、この小屋が使えなくなった時の避難所として利用することにする。

 

 気が付けば時刻はウシミツ・アワー……よりは早いが、遠くが見通せない程に周囲が闇でスシ詰めとなっている。私が最初に目覚めた時もこのぐらいの空の色だった。

 瓦礫の漠は地平線まで続いており、居住者の存在を示す携帯照明の灯りが彼方まで点々と瞬いている。その更に遠くには、闇を切り裂くような扇状の光柱と、柱状節理めいて無秩序に立ち並ぶビル群(例の灰色立方体のことだ。イシハラとの会話で学んだ)。

 イシハラの小屋は、最初に見た時は分からなかったが、やはり他の小屋よりもかなり広い。私の小屋が一人でも膝を曲げねば寝れなかったのに対し、こっちは工夫をすれば二人で全身を伸ばせられる。

 どうやら家は妥協したくなかったらしく、丸一日かけて組み立てたようだ。……気合が入っている。永住するつもりかのような言いっぷりだ。

 小屋の扉を開け、まず家主であるイシハラが家にエントリーした。

 

「ハァ、まさかこんなトコにホームメイトを入れるなんてな」

 

 続いて私もエントリーする。

 

「何だ、嬉しいだろ?この私と寝床を共にするのだ。誇れるぞ」

「ああ、こんな高慢ちきな女と寝れるなんて誇らしい」

 

 ハハハ。遅かれ早かれこいつはいずれ私のニンジャ性に屈服させるつもりだから、今は怒らないぞ。そうやって調子に乗っていられるのも今のうちだからな。精々ふんぞり返っているといい。

 男は部屋の奥にあるゴザに寝転がった。私の分のスペースは汚れたカーペットを畳んでフートン状にした、ユニークな寝心地のベッドだ。

 こやつは家に帰ったら直ぐに眠る習慣を持っているようで、私とのフリートークひとつもなく横になってしまった。ムードの無い男だ。

 だが……私は寝れん。

 

「なんか食料の類は無いのか?のう、イシハラ=サン。体を動かして腹が減ったわ」

「アァ?」

 

 本当にひもじい。ニンジャ忍耐力にも限度というものがある。何でもいいから口に含みたい。スクラップを交換したころには食料屋が全て閉店しており、今の今まで何も食べられてないのだよ。それでも平気なのはニンジャの力の副産物だ。すごいよな。

 イシハラが僅かに身を起こし、こちらを見る。何かアテがあるのだろうか?

 

「面倒臭え。明日朝になってからでいいだろ」

 

 ……それだけ言って再び寝てしまった。

 

「殺生なッ!」

 

 なんと無慈悲な奴だ!死活問題なんだぞ!?私はイシハラに近づき、縋るように体を揺すった。この家にはDIYの収納家具がいくつか見受けられる。そん中の抽斗に一つくらいあるだろう!?非常食の何かしらが!

 

「頼む後生だ!なんか口に入れさせてくれ!それとも貴様を食べようか!?」

「冗談じゃねえ!あー、クソッ!揺らすな!締め出すぞこの野郎!」

「少しでも腹を膨れさせてくれたら我儘は言わないってのに!」

「それを今から出してやるから揺らすなッつってんだ!」

 

 ……あ、出してくれるのか。

 

「なーんだ!信じてたよイシハラ=サン!」

 

 ここぞとばかりに満面の笑みをイシハラに見せつける。

 

「嘘つけ!オラッ!」

「グワーッ!?」

 

 ……そしたら、腹を蹴って押し退けられた。なんだこやつ!このアクタ・ニンジャの腹を蹴りおって!本来ならばムラハチ残虐刑に等しい蛮行!

 

「ゲホッ……ゲホッ!この外道!か弱き女に乱暴するなど最低だよイシハラ=サン!」

「それ以上そのうざったい口を開くな、バカ!これやるからもう喋るんじゃねぇ!」

 

 イシハラは乱暴にそう言い放つと、近くにあったボロのタンスから何かを取り出し、私に投げつけた。手をかざして受け取る。……ふむ。ガラスの……水がめ?小さいけども……。

 ふむ、紙も巻かれている。「バリキドリンク」と書かれているな。あと仙人めいた老人の絵。ここらへんの技術はよく分からないが、缶詰でも見たからもうさほど驚かん。

 現代は容器に直接情報を書くことで、いちいちアキンド*1が説明をしなくてもプロダクトの中身が分かるのか。便利な世の中だな、全く。

 

「ハハハ。気が利くではないかァ、イシハラ=サン?」

「いつまでもその我侭が通ると思ってんじゃねえぞ、調子こき女」

 

 蓋が付いている。金属製の蓋だ。開けよう。引っ張る。

 …………。

 開かない。

 

「……開け方知らねぇのか?」

「いーや?断じてそんなことは……グヌヌ……」

 

 無意識に力んだ声が出る。嘘だろ?この弱体化したアクタ・ニンジャの膂力では蓋を開けることも叶わないのか?流石にそれは……。

 

「回して開けンだよ、それ」

「……」

 

 カシュッ。私を難儀させたこの蓋は、空気の抜けるような音と共に容易く開いた。これはぐうぜん、わたしがこのふたをかいてんさせてあけることにきづいたからだ。

 ……いや、実際はこの男が私に講釈を垂れたからだけども。回転させて開けるだと?気づけるわけないだろう!

 

「知らなかったのか?」

「……」

「ンなわけないよな?常識だもんな?」

 

 あ、マズい。ナメられ始めてきた。このままではこやつにうざったく接して腐れ縁を作る私の雪辱めいた作戦が台無しになってしまう。エート……だからってニンジャだと容易くバラす訳にもいかないし……どうしようか……。

 

「……腕試しをしていたんだ!その……蓋を回転させずに無理やり開けられれば、これからの日銭稼ぎに相応しい筋力を携えているということだからな!失敗に終わったがな!」

「ああ、ハイハイ、そういうことにしておくわ」

 

 嗚呼、終わった。

 

「いいから、飲めよ。腹減ってんだろ?飲み物とはいえ、多少の栄養はあるぞ」

 

 ……まあ、それはそうだ。そういえば腹が減ったからイシハラが渡してくれた飲料だったな。飲むか。口をつけ、この小型化された水筒を傾ける。

 

「……ッ!?」

 

 内容された液体が口腔内に流れ込み、舌に触れた途端、私は僅かに目を見開いた。い……痛い!舌が!感じたことのない不気味な感覚だ!

 口に含んだ瞬間、痛覚が刺激される物と言えば……毒物!または純粋に食べ物ではない故、脳が警告を発しているか、だいたいこのどちらかだ!

 まさか……こやつに嵌められた!?私の管理が面倒だからと自然な流れで毒殺を実行に移したか、それともただ単に変な物を飲ませて、愚弄し遊んでいるということか!?

 おのれ、許すまじイシハラ・ナガタ!仮に毒だとしてもニンジャ免疫力で即座にデトックス出来るわ!ここは私の方が力関係が上だということを分からせ、ヒエラルキーを認識させ……ん?

 

「……」

 

 ……辛みが引いた。そして、これまた味わったことはないが、とにかく爽やかで甘い味が口の中に広がった。まるで木の蜜を煮詰め、強烈な香辛料を加えたような風味だ。……分かりにくい表現だが、美味い。空きっ腹には特に。

 このシュワシュワとした感覚も最初は面食らったが、よく味わってみれば嗜好用途の管轄内であり、敢えて施されたデザインのようだ。確かに……飲み込んだ後、これが爽快感を増強させてくれる。胃が多少張って苦しくなるが。

 

「……イシハラァ!美味いなコレ!」

 

 おお、感じるぞ。四肢の末端まで余すことなくエネルギーが充填されていく。こんな量のドリンクごときで。よっぽど限界が近かったのだな。気が昂った余り、自分でも思ったより大声が出た。

 

「おおそうかそうか。もっと飲ませてもいいが、まあ一本だけだな。貴重なブツだし」

 

 その後も、イシハラは私がこの瓶を飲み干すのを肘を突いて横になりながら観察していた。にやけ顔が意味深だが。

 なんだ、私に上等な飲料を渡したくらいで。親切な自分に酔っているのか?私を一笑に付しているのか?まさか子供じみた存在に見ているのか?それともまた無知を弄ばれたか?

 フム……まあ、ここは大目に見てやろうか。美味なる食料を恵んでもらったし、これでなおニンジャ優位性を誇示するのは無粋な行動だ。

 ……少なくとも、力が完全に戻らない限りはな。

 

「じゃあ、俺ァもう本当に寝るから。起こすなよ。日が昇ったらすぐにスクラップ掘りにいくからな。どんなに眠くても無理やり連れて行くぞ」

「まことか。ちょっとの猶予も許さぬスタンスか?」

「そうだ。そこは楽しない主義なんだ。こんな所ではそうなんないと出世できねえ」

 

 出世?野心もあるのか?こいつの労働に対するスタンスがいまいち掴めないぞ。

 

「……つくづく思うが、お前は本当に労働力を擬人化したような奴だよな。エンプロイーとしては理想的な人材のはずだ。どうしてこんな所にいるんだ?」

 

「…………」

「……?」

 

 藪蛇に訪れた、僅かな静寂。イシハラの表情筋は一厘たりとも動かなかった。

 

「アッシュピット=サン。オレは、もう寝るから」

「……分かった」

 

 ……この晩は、それ以上の会話はなかった。少し訊こうとしただけなのに、こやつは一気に不愛想になった。……気持ちが乗った勢いで、無意識のうちにシツレイな発言をしてしまっていたのだろうか。会話の常識も千年前と大きく変わっているのか?だとするとウカツに口を開けないな。

 ハァ、もっと話していたかったが、しょうがない。私もさっさと寝ることにしよう。カーペットに包まり寝袋のようにして、目を閉じる。

 お世辞にも寝心地のいいベッドとは言えないが、自分で作った小屋のよぼよぼの褥と比べれば、全然マシな方だ。アレはもう、ニンジャ免疫力がなければ即座に変調を来しかねない不衛生さだったからな。

 明日もまた起きて、スクラップをあくせく集め、カネに錬金し、食糧を貪る生活か。ずっと続けるわけにはいかないな。この男の過去に何があったか知らないが、自分は絶対ネオサイタマ(あの都市)に行ってやるんだ。その際、コイツも連れて行ってやる。イブシ・ニンジャに再開できればいいが……天文学的確率だろうな。

 私はこれからの目標を改めて確信し、意識をシャットアウトした。

 

 

 …………。

 

 

「…………」

 

 

 …………。

 

 

 寝れんぞ。全然寝れん。今になって五臓六腑四肢末端に至るまで活力が止めどなく湧き出てくる。何でだ?あんなにエネルギー不足で、活力も尽きるまで秒読み段階ってぐらいだったのに。あの僅かな量の「バリキドリンク」から栄養を吸収したところでここまでなるものなのか?

 目が血走りそうな程にギンギンに開いている。瞼を閉じたいところだが、際限のない生命力が否応なしに拒否をする。仕方がないのでイシハラにもう一度絡んでみようとも思ったが、少し前の不穏な雰囲気からではどうにも話しかけづらい。

 

 結局、そのまま私はエネルギーをふいにしながら布団に包まり、数時間にも及ぶ睡眠時間を目を開けたまま無駄にしていった。

 

【続く】

*1
商人。

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