アーチニンジャ:ネオサイタマ奮闘記   作:コースト

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(前置き:私は向上心があります。8話分も私の小説を読んでくれる親愛なる読者さんが存在するならば、是が非でも忌憚のないご意見が欲しい。10段階評価でも感想による文章でも構わない。いじょうです)

(補遺:まだ序盤だし、様子見したい!って人もいるだろう。そういった各々方でも、せめてお気に入りの登録をお願いしたい。それが1件増えるだけでも、私の執筆モチベーションが爆上がりするからです。いじょうです)


ハーダー・ベター・ファスター・スクラッパー #5

「ハイ、ミソ・スープよコレ」

 

 私とイシハラの座する席に、妙に訛っているミソ・スープ店主がミソ・スープを置いた。手を合わせるイシハラ。

 

「イタダキマス。ホラ、食べろ」

 

 そして私の肩を叩いて催促した。

 ……そうは言われてもな。今の私のニューロンには、ミソ・スープが置かれたという情報が視覚を通じて曖昧ぼんやりと流れ込んでくるだけだ。目は開いているのかも怪しいだろうし、上半身もずっと泳ぎっぱなし。油断したら転げ落ち、ブザマを晒すことは請け負いだ。

 要は眠いんだ。尋常ではなく。

 ニンジャとしての力が雲散してなければ、こんな下らぬ生理現象なんぞに悩まされないのだがな。肉体の脆弱体質っぷりに自律神経が引っ張られている。「ジツが使えるだけのモータル」とは私自身のモータル嗜虐欲を抑えるための自己暗示だったが、こうしてみると実に言い得て妙だと思わされるよ。ハァ、落ち込む。

 ……どうしてこのような状況と相成ったか?何故私は、今さら睡魔如きに抗わなければならないのか?

 まあ、これについては私なりに見当が付いている。きちんと論拠のある、妥当な推論がな。ハハハ、きっと諸君もこう思っている筈だ。

 

 きっと、私のニンジャ性が再開花しかけてるのだ!

 

 つまり、こうだ。私の身体は、この世に顕現してまだ二日しか経っていない。それまで千年もの間、灰……つまり、ほぼ仮死状態で眠っていたわけだ。それが何の予兆もなく唐突に目覚めて、最初から本調子を如何なく発揮できるものだろうか?

 いや、そんなことはない。

 モータルというのは、病などで長期間寝たきりであったら、それが治癒したとていきなり元気溌剌に動けないだろう?リハビリテーションが必要なんだ。療養を経て、衰えた筋肉を活性化させるためにな。

 これはアーチニンジャであっても変わらない。ましてや私の場合は千年だぞ!千年!さしものニンジャでも千年の空白が出来れば、肉体が衰弱するのも道理!

 当初は混乱しっぱなしだったが……ここにきて整理がついた。これから私のニンジャたらしめる力は少しずつ覚醒の一途を辿る、という訳だ。そのエネルギーを私は上手く咀嚼できず、昨晩は結果的に寝ずの番をする羽目になった。

 今は辛い思いしかしていないが、これからはニンジャ性がどんどん戻ってきて右肩上がりの人生!イブシ・ニンジャとも再会できれば御の字だ!いやぁ、先の未来を考えると楽しみだな!

 

「フッ……フフフッ……」

「まだ夢でも見てるのか?おい、起きろっての!」

 

 寝言のような笑いが無意識に出てしまった。独白ではずっと淀みなく語っているが、実際の私は未だ微睡んでいる。見かねたイシハラが激しく体を揺すってくるくらいには。

 

「ウワーッ……ヤメロー……」

 

 強引に運動させられ、休眠状態の身体が嫌々ながら醒めていく。曖昧模糊な視界の焦点が定まり、目の前のミソ・スープが鮮明な輪郭を取り戻す。周囲の環境音も戻ってきた。嘆く声。説法師くずれの怒号まがいの予言。罵声。喧騒。

 

「ヤ……ヤメロ!無礼者!」

 

 私はイシハラの手を掴み、睨みつけながら押し返してやった。それにしても、こやつの手……私より一回り大きいな。屈強が過ぎる。

 

「じゃあ食べるんだよ。まだ始まったばかりだろ、一日は」

「……疲れてる」

「知ったことか。お前、食べなくても代金はちゃんと払えよ。奢られたくないって言ったのはそっちだからな」

 

 ……そんなことを言われたら、食べなきゃいけなくなるじゃないか。寝起きは食欲もないのに。大体見てみろ、この粗末なミソ・スープを

 赤茶けた汁が欠けたオワンの半分ほどを満たし、申し訳程度のトーフと大量の黒く小さい具材が浮かんでいる。このパッチワーク屋台にはそれしかない。農奴もかくやだ。かつてはトーフもコンブもゴロゴロ入っていたというのに。ナラク・ニンジャ許すまじ。

 それにしても、何だ?この細かい某は。恐らく何かの肉なのだろうが、黒ゴマめいて小さい。

 

「……」

 

 ……口に含んでみても、特に味はしない。まあそれはそうか。石ころのような硬さで、噛むとプチュッと弾ける感覚がする。……うーむ、既存の知識に当て嵌まらん。まさに未知の食材。

 

「店主=サン、これは何だ?」

 

 どうせ知らないし、考えた所で益はない。なら恥を忍んで聞くが一番早いだろう。箸でそれを摘み、店主さんに見せてやった。

 

「それハエね」

 

 店主は事も無げに言い放った。

 

「エッ」

 

 目が丸くなった。

 

「ハエ。調理してるとスゴイ集まってくるのよ。だから捕まえてダシにしてるよ。どうせだし」

「エッ」

「そうだろうと思った」

 

 言葉に詰まる私をよそにイシハラはオワンを手に持ち、汁をゴクゴクと飲み干す。……そういえば、こやつのスープにも黒い粒が大量に浮かんでいたよな……。

 その後、溜息と共にカウンターにどんと置かれたそれは空だった。汁も、トーフも……あと、「謎の黒い粒」も。そしてこっちを向いた。目が合った。

 

「オイ、何で固まってる。食べないのか?」

「エッ……イヤ……」

「苦手なのか?虫」

 

 ……これは、助け舟か。仕方あるまい。癪ではあるが、ここは正直にあやかっておこう……。

 

「いーーーーやッ!?食べるぞ!?」

 

 しまった、アーチニンジャとしてのプライドが。

 

「おお、そうか……無理はするなよ……」

 

 ……いや、これは正しい判断だ。このミソ・スープを見送れば、次に飯を食える機会は何時になる?

 そもそもここらでは、まともな飯にありつくこと自体難しいようなのだ。衛生観念などどこ吹く風。缶詰が1000円とこのミソ・スープの3倍以上の値段(これは300円だ)がする理由もよく分かる。

 だからこのサツバツとした環境にも、今のうちに慣れねばならない。小奇麗な食糧しか食べたくない我侭な人間では、瞬く間に餓死する。特に私の場合、今食べなければ即座に飢え死ぬ。

 だからこそ、私は食べるぞ……何としてでも!

 

「イタダキマスッ……!」

 

 決断的に手を合わせ、私はオワンを手に持った。表面に浮かぶハエの死骸が遊泳する。

 ……知らなければ、これをハエだと思わなかったのに。認知した瞬間、この黒い粒の一挙手一投足すべてに嫌悪感が伴うようになってしまった。だがこんな虫如きにたじろいでいては……沽券に関わる。意を決して飲むしかない……!

 恐る恐る、縁に口をつけ、オワンを傾がせる。ミソ・スープが口の中に流れ込んできた。

 

「……ッ!」

 

 ミソ・スープ自体は、まあ美味しい。私の記憶と些か味が変わっているが……全然食べられる。しかし、私は目を見開いて、反射的に喉を絞め、内側からせりあがったものを押し留めた。舌に細かい粒が触れる感覚がしたのだ。顔面の血の気が下がる。

 本能が危機を察した。それが何なのか、例え知っていても認識してはいけない。あってはならない。害虫を口に含み、ましてや嚥下するなどと。脊髄が命令を下す。その口内に残っていた具材まるごと、汁を一気に飲み込んだ。食道を大量の水分が通過し、喉を塞ぐ。

 

「ウッ、ゲホッ!……ハーッ……ハーッ……」

「おい、やっぱ無理してるんじゃ……」

「黙れッ!私はここで倒れるわけにはいかないんだ!」

「大袈裟だな……」

 

 二口目。まだスープは大量に残っているが、ハ……謎めいた黒い粒の殆どは表面を漂っていたが故に、一口目で相当量を処理できた。峠は越えている。スパートをかけるぞ……!

 オワンを傾かせる!汁を口に含む!一息に飲み込む!

 

「ハァーッ、ハァーッ……!」

「モシ、大丈夫か?」

 

 呼吸が荒くなってきた。店主が不安そうな顔で見ている。だが……心配は要らぬ。あと一口で完食だからな!

 オワンを傾かせる!汁を口に含む!一息に飲み込む!

 ……空になったっ!やった、飲み切ったぞ!ウレシイ!

 

「ゴチソウサマッ!」

 

 パンッ!乾いた、だが爽やかなクラップ音と共に私は手を合わせ、オジギをした。一世一代のイクサを制したかのような達成感。これで対象がハエ入りミソ・スープでなければな。

 

「よく……分からんが、まあ、元気になったな?」

「ああ!」

 

 私は立ち上がる。そして彼の大きい手を手に取り、至近距離で呼びかけた。

 

「スクラップ、集めるぞ!」

「おぉ……おう」

「オタッシャデー、またご贔屓に!」

 

 店主にオジギをし、私はノレンを捲って屋台の外に出た。

 地面はゴミだらけ、人の身なりも乞食めいていて相変わらず醜い場所だが、空が晴れているのもあり、気分はいつもより晴れやかだ。

 この感覚……味わったのは久しぶりだ。殆ど全てが自分の思い通りになる世界で、何か目標を掲げること自体なかった。況や、それに打ち克つをや。

 ……なるほど。私が蹂躙してきたモータルも、普段こうやって――

 

「アーッ!アーーーッ!世界の終わり!マッポーカリプス・イズ・ナイ!ナムアミダブツ!」

 

 耳障りな金切り声が、取り留めのない妄想を打ち破った。私は僅かに身を跳ね、反射的に声のする方向を向いた。矮躯で瘦せ細った男が、何事か顔を歪ませ手当たり次第に喚き散らしていた。

 ……本当に煩いな。折角いい気分だったのに。

 

「……何だ、あやつは。イシハラ」

「エェ?ただの辻説法師だろ、デタラメばっかの。真に受ける人はたまに見かけるがな」

 

 ああ、もしや、ミソ・スープとイクサを構えている間にずっとのべつ幕無しに叫んでいた、説法師くずれか?……ははあ。首から缶を紐でぶら下げていて、その中には紙幣や素子が詰まっている。つまり、そういうビジネスだ。

 あんなボンズですらない奴の説法にも一定の需要があるのか。ウーム、価値観の乖離を感じる。ここが……極端な場所だからかもしれないが。

 

「邪悪なる意志の復活を感じる!ヒトを凌駕する力と共に欲望のまま暴れ回り、日本の政を数百年もの昔より裏から操ってきたとされる怪物の意志をーッ!」

 

 説法師くずれは狂乱したかのように叫び続ける。

 

「アーッ!アアアーッ!ニンジャ!そう、ニンジャ!この世はニンジャだらけだ!ここもじきにヘル・オン・アースと化すぞ!ナムアミダブツ!ナムアミダブツ!」

 

 …………。

 

「ニンジャ?何を言ってるんだか。早く行こうぜ。タイム・イズ・マネーだ」

「あ?ああ、ああ……」

 

 イシハラに突然腕を掴まれ、先導された。

 少しバランスを崩しかけながらも私はイシハラに何とかついていったが、それでもあの説法師くずれから目が離せなかった。

 

 一瞬、説法師くずれと目が合った。説法師くずれは目を見開き、すぐさまこちらを睨みつけた。ような気がした。反射で目を離してしまったので、正確には分からない。私の奴に対する疑念が産んだ幻覚かもしれない。いや、そうだ。きっとそうだ。……そうであってくれよ。

 

 ……不穏な予感がするのも、絶対に私の心配症が産んだキユウ・アングザイエティだ。

 そうだよな?

 

【ハーダー・ベター・ファスター・スクラッパー】 完




(補遺2:前置きでああは言いましたが、いつも読んでくれたり、感想をくれたりしている読者さんには常に多大なる感謝をPSY能力でニューロン内に送っています。受け取れているでしょうか?ならよかったです。いじょうです)
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