えいりあん・ざ・ろっく!   作:galaxy

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会議

「……ふっ!」

 

 私の放ったシュートは美しい弧を描き、リングまで到達することなく壁際にバウンドする。……失敗だ。

 

 私の名は星野銀河、調査員である。

 最近体育でバスケットボールというスポーツをやっているのだが、これが中々に難しい。というよりも運動自体が難しい。元々の身体と地球人の身体では勝手が違い、感覚を掴むのに苦労しているのだ。

 所詮授業なので上手くなくても特に問題は無い。しかし、一部の連中は試合に負けると私を戦犯扱いしてくるのだ。私にも一端のプライドはある。見返してやりたいと感じるのは当然のことだった。

 

 隙間風に吹かれてコロコロと転がっていくボールを追っていくと、不意にその動きが止まる。

 

「あら? あなたバスケの練習してるの?」

 

 ボールを拾ったのは、赤い髪の少女だった。「はいどうぞ」と手渡されたボールを、私は礼を言いながら両手で受け取る。

 

「私、一年一組の喜多っていうの。あなたは星野君よね?」

「む、何故知っている?」

「あなた学年でも結構な有名人よ? 世間知らずなところがあるけど、何事も一生懸命で可愛いって」

「そうなのか」

 

 初耳だ。私は後藤ひとりで言うところの『陰キャ』と呼ばれる存在だと思っていたのだが。

 

「それで、なんでバスケの練習してるの? 星野君ってバスケ部だったかしら?」

「地球の文化の調査の一環だ。ついでに授業で活躍出来るレベルに上達したい」

「地球の文化……? と、とにかく真面目なのね、あなた」

 

 少し困惑しながらも、喜多と名乗った少女はクスクスと笑みを浮かべる。

 

 さて、そろそろ練習に戻らなければ。昼休みが終わってしまう。

 再び定位置に戻ってシュートの練習をしようとするが、私の横にはしれっと喜多が立っていた。

 

「……何故横にいる」

「私、バスケは結構得意なのよ? 何かアドバイス出来ることがあるかもしれないわ」

「そうか、それは助かる」

 

 経験者なら相応のアドバイスが期待できるだろう。私の返事に、喜多はどこか得意気に胸を張っている。

 

 ボールを胸の高さに構え、真っ直ぐリングを見据える。そして一気に頭の上まで上げ、右手で強く放る。左手はボールの横に添えるだけ。

 

「……届かん」

 

 ボールはリングに掠ることすらなく、虚しく地面に落下した。

 

「力み過ぎよ、星野君」

「む、しかしボールを届かせる為には力が必要ではないのか?」

「力が入りすぎて身体の動きがぎこちなくなってるのよ。もう少しリラックスして、柔らかく投げれば上手くいくと思うの」

「分かった」

 

 アドバイス通りに身体の力を抜き、ボールを軽く放る。成程、確かにそこまで力を入れなくてもボールは飛ぶのだな。またリングには届かなかったが。

 

「あと、ジャンプしながら打つと良いわよ。足の力も伝わって更に飛ばしやすくなるの」

「ふむ。少し手本を見せてもらっていいか?」

「任せて!」

 

 喜多は数回ボールをつくと、流れる様な動きでジャンプしながらシュートを打つ。ボールは綺麗な放物線を描きながらリングに向かっていく。そして、それは見事にネットを通過したのだった。

 

「おお……」

 

 私は思わず拍手をしていた。たった数秒間の出来事だったが、その技量の高さは素人目から見ても分かる。喜多は照れたように頬を搔くと、私にボールを渡してくる。

 脳内でイメージを擦り合わせながらシュートの動きに入る。よりスムーズに放たれたボールは今度はバックボードに当たり、こちらに跳ね返ってきた。拾いに行く手間が無くなったのは成長と言えるだろう。

 

「惜っしい〜! でも、星野君飲み込みが早いのね!」

「やはり実際に横で教わると効率が良いな。後は先程の弾道を鑑みて狙いを定めれば……っ!」

 

 リラックスし、右手が中心となるように半身に構え、足の力をボールに伝える。数分前とはまるで違う、すっかり洗練されたフォームは喜多が思わず「凄い……」と呟く程だった。

 我ながら完璧なシュートはリングに触れることすらなく、ネットを揺らす。

 

「よし、出来たぞ」

「……」

「お前のおかげだ、喜多。……どうした?」

「へ? あ、あぁいや、何でもないわ! おめでとう、星野君!」

 

 先程までとは打って変わって喜多は落ち着かない様子だ。そんな彼女を不思議に思いながらも、私は何本かシュートを放つ。この感覚を身体に覚えさせておかなくてはならない。

 結果、入ったのは五本中三本だった。及第点だろう。

 

「これで試合もバッチリね!」

「いや、まだだ」

「え?」

「喜多、次はドリブルを教えてくれ」

「……あっ、もしかしてこれ全部教えなきゃいけない流れなの?」

 

 私達の特訓は昼休みが終わり、五限に体育館を使うクラスが来るまで続いた。

 

 

 ◇

 

 

「はいっ、ではこれより『結束バンド緊急会議』を開きます!」

「わ〜」

 

 どこが緊急なんだろう……。

 あっ、どうも後藤ひとりです。昨日結束バンドのサポートギターとして呼ばれた私だけど、成り行きで今後も一緒にやることになった。……ようやくだ、ようやく私の夢の第一歩が! 

 

「……発言良いだろうか」

「はい、銀河くんどうぞ!」

「私はその結束バンドとやらのメンバーでは無い。この会議における私の必要性が見えてこないのだが」

 

 星野君の発言を受けた他の二人は、一斉彼を強引に連行してきた私の方を見る。だ、だって私には星野君に色々教えてあげるという使命がですね……。

 

「まぁぼっちちゃんの私情は置いといて。銀河君、よかったらここでバイトしない?」

「バイト? 金銭的には困っていないが」

「そろそろ男手が欲しいってお姉ちゃんも言ってたんだよ〜。ここでバイトしてれば色んなバンドのライブ見れるよ? どう?」

「……地球の職を体験するのも調査の一環か」

「えっ」

「おっ、ということはー?」

「この私で良ければ働かせてもらおう」

「ゔぁっ」

「わーっ! ありがとう銀河君、助かるよ〜。じゃあこれからよろしくねっ!」

 

 私が入る余地もなくトントン拍子で星野君の就職が決まってしまった。そ、そんな……バンドを組んで星野君より高みへ登ったと思ったのに! 

 

「よしっ! 銀河君も迎えられたし、これでぼっちちゃんも一緒にバイト出来るね!」

「そ、そうですね! あはは……へ?」

 

 断崖絶壁の向こう側に佇むアルバイター星野君。そこに虹夏ちゃんが一本の吊り橋を掛けた。

 働きたくない、社会が怖いという感情に抗い、強風に吹かれ揺れる吊り橋を渡るのか。ここでバンドを組めたという喜びを一生かみ締め続けているか。

 

「バンドって売れるまでは凄くお金かかるんだよね。新しく一人で入るのも心細いだろうから銀河君も誘ったんだけど、ここはどうかご協力を!」

 

 私のいる足場が段々と崩れ始める。そして、私はそのまま奈落の底へ……。

 

「後藤ひとり、一人だけ何もしないつもりか?」

「ひうっ」

 

 落ちる私の手を掴み、思い切り引き上げる星野君。

 

「皆が働いている中、お前だけは寛ぎたい。そういうことか?」

「あっ、あっ、あっ……」

 

 吊り橋のロープにしがみつく私を見下ろし、悪意があるのか無いのか分からない表情でグサグサと言葉のナイフを突き立ててくる星野君。

 そうして刺激された罪悪感と疎外感はたちまち膨れ上がり、そして弾け飛んだ。

 

「がんばりましゅ……」

「共に頑張ろう」

「……よ、よーし! 二人ともバイトしてくれるってことで、一先ず会議は終わりー!」

「お疲れ様でしたー」

「続いては、トークで親睦を深めようのコーナー!」

「うおー」

 

 虹夏ちゃんが流れをぶった切り、リョウさんが謎のサイコロを投げる。昔のトーク番組で見たことのあるアレだ。

 

「学校の話ー!」

「伊地知虹夏と山田リョウは中学からクラスが一緒だと言っていたな。ということは今も同じ学校か?」

「そう、下高!」

「二人とも近いから選んだ」

 

 家から近いのか、いいなぁ……。いや、自分で選んだことだから文句は言えないけど。

 

「ぼっちちゃんと銀河君は秀華高だよね。家この辺?」

「あっいや県外で片道二時間ぐらいです」

「遠っ!?」

「自分のこと誰も知らないところに行きたくて……」

「えー……ぎ、銀河君はどの辺に住んでるの?」

 

 そういえば、私も彼からは家のことについて聞いたことがなかった。

 

「……ここから少し離れた、()()の家で二人で暮らしている。両親は海外出張でいない」

「へー、海外! 凄いね!」

 

 海外か、凄いなぁ……。私なんかが行ったら絶対言葉の壁で詰むんだろうなぁ。あっ、でも海外のファンがよくSNSでいっぱい反応くれるし、今の内に慣れておかないと……! 

 

「ぶ、ぶぉんじゅーる?」

「うわぁ、聞くに絶えない発音……」

 

 そしてなんやかんや話している間に解散の時間となった。バイトは来週かららしい。

 

「じゃあまたね! ぼっちちゃん、銀河君!」

「ばいばい」

「あっはい……」

「さようなら」

 

 私と銀河君、二人並んで帰路に着く。

 

「今聞いても、登下校に四時間かけるのは効率が悪いとしか言えないな」

「あ、あはは……ですよね。……星野君は、その、おばあちゃんと暮らしてるって……」

「あぁ」

「どう、ですか?」

「どうとは?」

「いえっ、その……寂しかったりとか」

「……確かに、故郷を想う時もある」

 

 銀河君は、少し歩く速度を落として言った。「だが」と続けたのは、そんな彼が珍しく語気を強くした時だ。

 

「寂しくはない。優しい祖母や、お前達がいる」

 

 そう言って、彼は少し微笑んだ。

 その笑顔があまりに綺麗で、思わずドキリとしてしまう。

 銀河君は私の視線を気にすることなくさっさと先に行ってしまった。私は慌てて彼の横に駆け寄り、再び他愛もない話を始めるのだった。

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