手向けにカトレアを   作:さわたり

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第五話「塩と花びらと」(2)

ガーデン探索は非常に俗人性の高い任務ばかりだ。剣自体もそうだし、あまり大人数向きではない設備や装備も多い。とくに、眼の剣以外を待つ、専用武器の持ち手の人数はかなり絞られることが多いが……。

 

この探索は、専用剣を持つ騎士でごった返していた。なんとなく、リンとインパチェンスは後衛で、他は前衛……という感じにはなっているが。

 

「でェ……? 妙ォオオ~~に計画性に欠けた動きじゃないかねえ?」

 

「そりゃ未知の遺跡なんだからそうに決まってんでしょ~よ」

 

「何か隠してるようにも見えるがねぇ」

 

「あんたには言われたくないなぁ~、胡散臭さはそっちの得意分野でしょ」

 

「ほォォ?」

 

首をひねり背を丸めにらみつけるグリセレと、分かりやすく「めんどくさい」を表明した顔でそっぽを向くフーシェ。見かねてドゥーゲンが間に入ると、二人はあまり強く出れないのか、ため息をついて空気感が変わる。

 

「あなた達っていつもそんな感じなの?」

 

「この人が絡んでくるからで~す」

 

「きィィィイみがァ……! やる気も無ければ怪しィィいからだろうが……!」

 

「そうですね、いつもこんな感じです」

 

ドゥーゲンの一言に不服の視線を送るが、彼は気にしない。にぎやかなのは悪くないのだがと、ユリはため息交じりに微笑み。

 

「この遺跡よね?」

 

「そうだな。二週間前ぐらいに見つかったけど前線拠点のこともあって手つかずだってさー。危険な動物の襲撃が……」

 

フーシェが話しかけで言葉を止めるが、だれもその続きを要求はしない。前衛に居る四人は、みなそれに気づいていたから。

 

草影から飛び出す鋭い影を、地面から生えた宝石たちが受け止める。真っ黒な、水晶が。

 

「ナイスドゥーゲンちゃん!」

 

「一匹だけではなさそうですよ」

 

別の影から飛び出る動物に、ユリもその剣を振るう。……だが、夢の剣はいささか斬れ味に優れない。はじかれることはないが、『ごわっ』という感触が、その一撃を軽減する。

 

「ヒツジ……みたいに見えるけど、毛が硬いわね。資料で見たわ」

 

「なんだっけコイツ。会ったことね~けど」

 

「ウッドシープ! 木くずみたいな質感の毛の!」

 

遠くから声をかけるリンは、録の剣のデータを見ているらしい。インパチェンスの方にも、敵は来ている。プラニスが対応しようと剣へと手を伸ばす。

……が。

 

「待ちたまえ」

 

グリセレがそれを止める。

 

「グリセレさん? 私が……」

 

「いいから下がっていろォ」

 

プラニスに下がるよう顎で促し、逆手に構えるそれは『霜の剣』。ごそごそと上着を脱ぐと、ダウンを持っているようサフランに告げ。

 

「……フン」

 

ただ立ちはだかる彼へと、ウッドシープの突撃。少しだけ身体をずらせば、その身を一瞬かすめ。敵は振り返り二撃目を構え。

……そして、構えたまま動かなくなる。凍り付いたのだ。

 

「毛で剣が通りづらいなら、これでいい」

 

そして、蹴り飛ばす。

ぶっ飛んだウッドシープは木に激突し、その毛はバリバリと音を立てて砕け。……もはやクッション性も失い、敵は沈黙した。

 

「見てる場合かァ? フーシェ・テーナー」

 

「別に見てただけじゃねーよ」

 

背後から迫るウッドシープを前に、口笛一つ。フーシェの手を離れた『飛の剣』が、その身をぶち抜き、どさりと転がす。

同胞のやられっぷりを前にたじろぐ、他の個体たち。ドゥーゲンがその手の『晶の剣』で地面を斬り払えば、大きな水晶が地面を突き上げた。光景の派手さもあり、ウッドシープはみな尻尾を巻いて逃げていく。

 

「……早速これですか」

 

「みんなは内部の探索に行ってて。私は少し周辺を調査するわ」

 

「ユリちゃんだけェ? 大丈夫なわけ?」

 

「一応探索部隊の隊長よ。まあいいわ、数名は貰っていこうかしら」

 

言いつつも、彼女が指示したのは専用剣を持たない面々のみ。何かあった時の連絡用として、リンが視界確保用のドローンを飛ばし、一行は遺跡の中へ。

石の一つに腰を掛けると、ユリは少し考え込む。

 

「ウッドシープ。確か、捕獲部隊が報告した場所は北東部の盆地地域よね。フーシェ君も遭遇してないってことは、やっぱりこのあたりでは珍しいってこと……」

 

「ユリ隊長?」

 

「……少し気になることがね」

 

森を一瞥し、ユリは腰に差した眼の剣を抜いた。

 

 

 

「随分暗いところですね」

 

「嫌かな?」

 

「いーえ? 興味深いですよ。まあ、僕の専門はこういう技術や建築ではありませんけど」

 

あまり変わらない表情で言うサフラン。その手にあるのはウッドシープの毛の一部だ。薬学分野に居る彼女には、どちらかと言えば自然の存在が専門である。

 

「……そっか、プラニスの方は大丈夫?」

 

「うん。ありがとう」

 

細い声と共に、彼女はにっこりと応える。久しぶりの任務で心労はないか、もしかして、『トラウマ』のようなものが浮かんでは来ないか。

リンの心配とは裏腹に、いつものプラニスだ。

 

……『こう』なってからの、いつものプラニスだが。

 

リンは微笑んで、よかったと返す。

 

「後ろの面々どーよ」

 

「大丈夫そうですよ。遺跡自体はどう思いますか? 僕は特にまだ……目立った異常や特徴は感じませんが」

 

「まあ普通に保管庫だろうな~って感じだわ」

 

ローレルの二人も少し気にしつつ、あたりを見て。横で仏頂面のグリセレが目に入り、ドゥーゲンは苦笑い、フーシェはうげえっと嫌な顔。

 

一瞬、空気がひりついて。グリセレの視線が二人へと向く。

 

「目立った異常や特徴はない……か。この状況でもか?」

 

「座ってお仕事されてるお偉いさんにはわかんないかもだけどね~?」

 

「まあ、日常茶飯事ではありますね……」

 

三人、抜刀。迫る機械たちの迎撃が始まった。

そして包囲戦のようである。リンとサフランを守るように、プラニスがその剣を抜く。……が、まあ、おおかたの騎士が予想した通り。

 

「下がってろぉ、プラニス・プレイヤー」

 

「……どうしてですか?」

 

「さぁねぇ、いいから、」

 

「よくないでーす。なんでか分からないと正確な立ち回りが分かりませーん」

 

指の上で小さな剣を回しながらサフランが皮肉じみた表情を浮かべ吐く。ため息をつくと、グリセレはダウンコートを投げ捨て、機械たちを砕き始める。

上裸のその姿にも意味があるようで、素肌に触れた瞬間機械たちが凍り付いていく。……霜の剣、その霜は使用者へも伸びていくのだ。

 

「君が失踪した一週間の詳細が未だ不明だ。事故で行方不明になっていた……嘘かもなァ? 人体実験かもしれないな? もしくは……例えばそうだ、アルテルナ・オブ・メゲオイデが離反して少ししてだったようだからぁぁ……なあ?」

 

「私が、裏切り者かもしれないと言いたいのですか?」

 

「寸分たがわずその通りだ。信頼がおけないィ、そういうことだ」

 

一瞬プラニスの目や髪がぼうっと光り、しかし、すぐに落ち着いて視線が下がる。プラニスは残念そうな表情を分かりやすく浮かべた後、か細いいつも通りの声で続ける。

 

「わかりました。では、お願いします」

 

「……ま、しゃーないか」

 

サフランはその手の『藥の剣』を握り直し、グリセレの霜の剣へと軽く突き立てる。グリセレもそれがそう言う事か知っているようで、特に追及はしない。

 

一振り、放たれた冷気が、機械たちを凍らせる。

 

「範囲ィ……か」

 

「他もありますよ。破壊力上昇とか、耐久性とか」

 

「いや、ちょうどいい」

 

刈っても刈っても湧いて出てくる。リンはプラニスのそばに立ちつつも、少し引いて。

 

「効率的に倒しましょう。量が量です」

 

彼は、録の剣を構えた。

 

___メンバー、

 

___グリセレ・グリサコフ

___フーシェ・テーナー

___ドゥーゲン・モリオン

___リワ・サフラン

 

___作戦開始

 

 

 

 

「おっひょ~、やっぱけっこう強いっスね」

 

双眼鏡とモニターで様子を見つつ、レレルはサンドイッチ片手。遺跡の機械どもと、ウッドシープ……倒されており、まあ混乱は生み出せているが。

 

そんな彼女のもとに、足音。

 

「裏切ったタイプの黒百合じゃあないわね」

 

「急に声かけるの、ビビるんでやめてくださいよ」

 

双眼鏡を降ろし、振り返って肩越しに見た先はユリ。呪の剣を撫でて向かわせたウッドシープを、彼女は簡単に斬り捨てる。

 

「これを考えて眼の剣も持ってるのよ、私は。まあ、もっとも……」

 

続いて迫ったウッドシープの眉間を、夢の剣で突くッ。

 

「毛がジャマならそれなりの戦い方をするだけだけれど」

 

「うげェ~……めんどくさいっスねぇ」

 

呪の剣を撫でつつ、逆手に構え。ユリの攻撃は激しく、横からの雑魚たちで気を逸らしても防戦一方である。ついに押され、放たれた夢の剣の一撃が、頬をかすめる。血をぬぐいつつ放った斬撃も、ユリはかわし。

 

「あんた探索部隊の人でしょォ~? なんかそんな強い必要あります?」

 

「もっと上は居るわよ。絶望する事ね」

 

「ひ~最悪」

 

包囲する機械たちが作った隙に、呪の剣の一撃を放つが……。

 

「悪いけどそれは幻」

 

「うおおおいっでェ!! なるほどね、はいはいそういう剣ですか、なるほどね」

 

体の傷を庇いつつ、レレルは後ずさり。そして。

 

「オッケー、時間は稼げました。かもォ~~ん!!」

 

「何を、」

 

瞬間。

 

火薬を思わせる乾いた破裂音と共に、それは放たれた。

 

「っぐぁ!?」

 

「こっわぁ~~」

 

ばちばちと音を立て、あたりの草も軽く焦げ色。雷をまとうその剣は、(はたたかみ)の剣。崖を転がり落ちるユリを見下ろし、レレルは得意げだ。

対し、一撃の主、ゴールドバーグはつまらなさそうに。

 

「やっぱりお眼鏡にかなう相手ではありませんでした~?」

 

「どうだろうな。崖を背にして落ちる判断を下したのは相手だ。当たりきった感覚もない。防いだのだろう。その気になれば戦いは続いただろうな」

 

「あー……勝ちが目的じゃないから、何か来たら逃げれる位置をとったと」

 

「だが、強くとも腰抜けと戦う気はない」

 

ゴールドバーグは帽子をかぶり、またつまらなさそうに腰を掛けた。

 

 

 

 

「あ~……これはマズいかもしれないわねえ」

 

ケーキを切りながら、ソルツ監察官クワコ・ユリシーズはそんなことを呟く。目をつぶっていること、その手には眼の剣の……言ってみれば親剣があること。

向かいに座っていたソルツの職員の一人、リナリア・リーベは顔をあげて。

 

「クワコ先輩ってば、お休み中にも見てるんです? お疲れなのに……」

 

「いーのよ、何が起きるか分からないし。今まさにコトが起きたし」

 

「何が起きたんですか……?」

 

「プラニス・プレイヤーがいる環境で、黒百合が監察官を襲撃……これはマズいわねえ」

 

「え、グリセレ先輩が! 助けないと!!」

 

「あ、全部倒した」

 

「え? あ? ああ……なら、よかった。…………そっか、騎士団が、謀ったみたいな見方も、できちゃって……」

 

確かにマズいなあと、リナリアは頭をかいて悩む。

 

「戦いは終わったみたいね。資料をもって……あら、こっちに来るようね」

 

「あ、戻って来るんですね」

 

「グリセレ君と会えて、嬉しい?」

 

「えッ!?!? いや、その……まあ、嬉しいです…………」

 

赤くなって俯くリナリアを見て、クスクス。

 

「そういえば、プラニスさんには戦わせないようにしてるんでしたっけ。信用できないとかで……でも、そもそもなんで任務には行かせてるんでしょう……。グリセレ先輩のことだし、考えがあるのは確かですけど」

 

「うーん、まあ彼なりに騎士団には無実であってほしい思いもあるでしょうし、そもそもドゥーゲン君と同じで心配はしてるはず。せめぎあいの結果でしょうねえ」

 

「やっぱり、グリセレ先輩ってやさしい人です」

 

ニコニコと笑って、ケーキを食べ終えたクワコが座り直し、その目に布をかけて。リナリアも片づけつつ、訓練に戻ろうか……と、そんな時。

 

……そうなってから、数秒。

 

「……もっと…………マズいわね」

 

「え?」

 

「クワコ・ユリシーズの特別権限において緊急臨戦態勢開始。伝えて。お偉いさんの避難ね、まずは」

 

「え、一体何が、」

 

「早く!!」

 

「ッはい!!」

 

駆け出すリナリア、それを見送ると、クワコはのそのそと立ちあがり。

 

同時に、揺れる。

 

怪物と機械の重撃によって。

 

ソルツの、拠点が。

 

「あーあ。間に合ってね、グリセレくん」

 

迫る足音たちを前に眼の剣を抜き。彼女を護衛する剣士たちに、一言「行きましょうか」とそう告げ、彼女は歩み出す。

 

 

 

叩き割られた壁から、焦った様相でグリセレたちがなだれ込む。機械や動物たちが破壊を尽くすその様を、レレルは木の上から眺め。

 

「あの人たちがソルツ直帰なのは意外でしたけどォ……まあちょうどいいっスね」

 

「へェ~? 頑張ってるじゃないのよ」

 

「うげ、アルテルナさん」

 

木に腰を掛ける、豊かな髪の男。アルテルナはレレルを見て、今度はキョロキョロ。

 

「あの色男は?」

 

「もう行っちゃいましたよ。なんですか、ちょっかいかけるんです?」

 

「いやァ? ただアタシは頑張ってる仲間を眺めに来ただけ」

 

「……どうせだしソルツと戦っておきます?」

 

「ん~、今回は別にいーわ。アタシにもアタシの作戦があるしぃ」

 

「つれない人ですねえ」

 

「そもそもアタシはソルツを襲撃していいなんて言った覚えはないしね」

 

瞬間、レレルの背中に悪寒が伝う。

 

「アタシのやり方に、あの組織は必要。今回ジャマしないのは、あんたたちは失敗すると踏んでるから。戦力の評価は正確にできるようになった方が良いわよォ?」

 

焦げたウッドシープの毛皮を投げ渡すと、アルテルナは飛び降りて森へと消えていく。

 

「……あーあ、やっぱりアルテルナ派は邪魔になるかあ」

 

レレルは剣を抱きしめつつ、頭を抱える。

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