手向けにカトレアを   作:さわたり

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第六話「狂い出す歯車」(1)

はっきり言ってしまうと、非常に楽しかった。

 

プラニス・プレイヤーは時折思い出す。あれは……なんだったっけ。リンちゃんのお見舞いとか、アドーネ隊長の手土産とか、そういうのが嬉しかったっけ。

感謝を伝えたんだっけ。

 

「どうしたの……?」

 

リンが驚いて、すこし後ずさる。

 

「俺ちゃんの光にあてられて……あれ?聞いてるかな?」

 

アドーネが不思議そうに、首を傾げる。

 

視界が眩しくなっていき、サフランはいぶかしげな顔をして立ち上がる。窓に映る自分が、何かずっと口を動かしていて、一息ついた後一層大きく口を広げてて。

 

脳が興奮で埋まったその瞬間。

 

プラニスは己のベッドから跳び起きた。

 

「……」

 

夢だ。さっきまで光っていたらしい髪が、ゆっくりと落ち着いた色に変わっていき、鏡越しの自分の姿が闇に薄れていく。

少し、汗をかいている。思い出したくない一件を振り払うように、彼女は布団へ体を挟みなおす。

 

 

 

 

手向けにカトレアを

 

 

ソルツ編 第六話

「狂い出す歯車」

 

 

 

大量の機械がなだれ込み、動物たちが暴れる。クワコの気づきもあってソルツに来ていた面々の避難は済んだが、しかし戦闘員で対応しきるにはいささか慣れない相手ばかりだ。

 

焦るグリセレが突撃し、通りがかりに機械を凍らせていく。

 

「なあ監察官殿!」

 

「邪魔だぁ!!」

 

フーシェの助けを振り払い、グリセレは駆け抜ける。ドゥーゲンの助けにもいらないとばかりに睨み返し。

 

「あいつ……」

 

「まあ、焦るのも、仕方ないですし……」

 

走って少し息が上がりつつも、ローレルふたりは駆け抜ける。その中でも飛の剣は空中を舞い、あたりを切りつける晶の剣が結晶を敵たちへとブチ当てる。

追いついた先、グリセレ・グリサコフは巨大なイノシシの突進をかわしていた。

 

「体温が高い……私向きの相手ではない、か…………」

 

「なあ、俺たちも」

 

「どけ……!」

 

「はぁ?」

 

「私がやる! おォ前たちの手は必要ない!」

 

強情にフーシェを振り払うと、グリセレは飛び掛かり。普段のカウンタースタイルとは違う、焦りの見える攻撃だ。

……まあ、焦ること自体は当然だ。今襲撃されているのは、ソルツだから。だとしても、何だってドゥーゲンの助けすらも振り払おうとするのか。二人のそんな疑問に、答える声。

 

「あなたたちを疑わざるを得ないからよ。きっと、今は顔を見てられないんだわ」

 

「クワコ監察官? 大丈夫なのですか? あまり前線向きでは……」

 

「大丈夫。前線に来ても、前衛ではないし」

 

そう言ったかと思えば、クワコの後ろにずらりとソルツの戦闘員が並び。彼女の「行って」の指示で配置につく。

 

「ユウちゃんは25、レイナは3。ディマくんは12から6に移動して。ペルルッカは4でグリセレ君を援護。開始。」

 

眼の剣で見通し、全リソースでもって空間把握と指揮を行う……それがクワコ・ユリシーズの戦いである。グリセレもそれには追従する。信頼と言った所か。

 

「じゃあ分かった、クワコさんに任せるかあ。俺たちは、」

 

「西側に行っててくれる? そっちが大変そうなの。落ち着いたら東でリンくんたちの手助けもね」

 

「りょーかい!」

 

駆け出すローレルのふたりとすれ違うように、リナリアも合流。クワコの指示を受けつつ、彼女も自身の剣を抜いた。

焦の剣、白銀の双剣を構え、駆けだす。

 

「そうね~、リクちゃんとレイナの助けに入ったあと、グリセレくんの後ろを防衛、そのあとはイノシシに」

 

「はい!」

 

まず、仲間に向かう攻撃を防ぎ、敵の機械を連続で斬りつけ、斬りつけ。動きが止まったのを横目に、壁を蹴ってイノシシことラージボアのもとへ。スライディングで腹の下を抜けつつ斬りつけ続け、潜り抜けた先でぴたり。

 

「剣は……黒くなってるな?」

 

「まだ最大じゃないですけど、いけます!」

 

「跳べ!」

 

グリセレが、己の背中を差し出す。

 

「え? いや、でも……」

 

「おいおいおいおいィ、躊躇ってる場合じゃないだろぉお……!」

 

「わっ……かりました! 行きます!」

 

駆け出し、素肌の背中を踏んでジャンプ! 焦の剣、その本質は『焦り』。連続攻撃を絶やさぬほど、その威力は上がり刀身も黒く変わっていく。

ラージボアの背中へ、空中を舞いながら、ハチャメチャに切りつけ。グリセレの冷気も聞いて動きが鈍ったところに、着地してさらに連撃。

 

ラージボアが、沈む。

 

「よし! あっでもまだまだ来る……」

 

「そうね、しばらくは各々の判断で機械に対、……いや。そうね、グリセレくん、6時方向今来てる。対応お願い」

 

「真後ろかァ……!?」

 

構えた、その瞬間に。銃撃のような破裂音。

 

じりじりと音を立てるのは、まさに(はたたかみ)の剣である。

 

「誰だァ……? 黒百合なのは確かみたいだがぁ」

 

「…… ゴールドバーグ・パーガトリー。私の一撃をまず防いだ、それに敬意を払って名乗っておこう」

 

グリセレの反撃をひらりとかわし、また迫って一撃。ギリギリで剣を滑らせていなすが、グリセレの頬に黒く焦げた傷がひとつ。

 

「炎か? いや……雷か」

 

「貴様の剣は氷か」

 

「……下がっていろォ」

 

「雑魚はこっちでどうにかしておくわね」

 

クワコとその部下、そしてリナリアが距離を取り。中央ホールの広間で、二人はにらみ合う。

 

「西っぽい気取った格好だが、動きは『居合』に似ているなぁあ?」

 

「貴様は独自だが……柔術のような動きにも見える。なるほど、レレルが名を推薦するのもわからんでもない」

 

にらみ合いは、一瞬で終わる。

 

駆け出すゴールドバーグの身体が閃光へ変わり、あたりを撫でるように回ってグリセレへと突き刺さる。

 

「っぐゥ……!!」

 

「防いだか」

 

一瞬立ち止まるも、勿論終わらない。グリセレは剣でいなしつつも、ゴールドバーグの連続攻撃に押されていく。

 

「フン、だが大したこと……は……」

 

違和感は、一瞬。

 

電撃に体を変える力にごまかされていたが、表面温度は十分に下がっていたようだ。斬撃のために体を戻したゴールドバーグが、ゆっくり霜に覆われる。

振り払おうと身じろぐその隙が十分。グリセレの渾身の拳が叩き込まれる。

 

「なるほど……そういう武器か」

 

「っはァ!!」

 

「すこし侮った点については、反省することにしよう」

 

グリセレの二撃目は、ゴールドバーグの持つ帽子が受け止める。凍り付いて、硬くなった帽子が。ぐいっと、その腕を上げれば、一瞬だけゴールドバーグの動きが帽子の影に隠れ。

対応が遅れたグリセレの前に、銃口が向く。

 

「なっ」

 

銃弾が潰したのは、右目。再生を待ち、グリセレは距離を取る。……片目をつむっていてもそれなりの風格があるのは、やはり手練れか。

 

「貴様らは銃を侮っている。一撃に時間がかかる割に再生しやすいだとかの問題点はあるが……だが戦いという物は『一瞬』を生み出せれば十分だ」

 

「……っ」

 

「……久しぶりにまともに戦える相手だからな、いささか饒舌になってしまった。無駄話は嫌いなんだがな」

 

次の一撃は、グリセレの胸を大きく引き裂いた。

 

「っが、ぶぁ!!」

 

「勝負あったな」

 

「っぐ……っはァ。あ……どうだろうな……。私の武器はぁ……相手の触れた場所に霜をつけていく。……ゴテゴテとした指輪と、長い袖……運が悪かったなぁあ……!!」

 

まさかと思う頃には、ゴールドバーグの手から剣がぽろりとこぼれ出る。

 

「壊死させただと……気づかないうちに……!」

 

「一度でも剣を離せば気づいたかもなあ……。戦いという物は『一瞬』を生み出せれば十分か、同意するよォ……!」

 

胸から血を溢れさせながらも、無理やり放った一撃がゴールドバーグの喉を掻っ切る。

 

「っぐ、う……」

 

「フゥ~っ、」

 

再生待ち、ラウンド2は先に動けた方が制するその瞬間も、横やりで潰える。壁が崩れ、声がかかった。

 

「助けに来たっスよ~!」

 

「不要だ」

 

「別にこの人に勝てても今はどうだっていいんですよ。またいい戦いをセットしてあげるんで!」

 

「……フン。だが悪くないぞ、グリセレ・グリサコフ」

 

あわただしい機械は二人を乗せたままグリセレに迫り。ずどん……と、丁寧に押しつぶす。ゴールドバーグは戦いを邪魔されていささか不機嫌そうだが何も言う事はなく、機械はずかずかと建物の中に消えていく。

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