くしゃくしゃとした灰青の髪をいじるその姿は、黒いリボンの目立つ制服。
「あんたのボスは……他の、なんだっけ? プラニスとかを助けに行っちゃったわけだ」
「……だったらなんですか」
「侮るつもりはないケド……ま、あんたひとりなやらやれるかなあってさ」
短剣であたりを切りつければ、石がコウモリの形に変わりドゥーゲンへと迫っていく。地面から生えた水晶が軽く傷つき、さらに間を縫って彼自身へと突進する。
「っぐ……」
「魚の剣だっけ? オレのこれと似てるさ、こういう眷属を生み出すような武器持ってるやつがいるんだろ? そっちには」
「……。」
「オレの武器あんまり使いやすくないって言うかさーあ? 材料が必要だからめんどくせえと思ってたのよ」
へらへらとしたまま、テルトはドゥーゲンの生み出した黒水晶を斬りつける。すると、コウモリに変化しバサバサと飛び去って……穴が開いてしまう。
「ガーデンの技術で出来たもんは相応の防衛っつーの? そういうのがあるから壊せないんだけどさぁ。こういうのだったらヨユーなんだわ」
「っな……」
「悪いね、あんたの剣に相性最悪みたいだよ、オレ」
水晶に空いた穴から手が伸び、避けようとしたドゥーゲンの腕を軽く裂く。予想通り、骨と肉がコウモリの形になって飛び立ち、手が軽くえぐれる。
「っぐ……!!」
「オレが追い付かないぐらい飽和させればいいわけだけど……それができないあたり水晶には制限があんのか?」
地面から飛び出る水晶をかわし、時折コウモリに変えて対処しながら、テルトはのんきに考察する。……ドゥーゲンの身体から生え始めた水晶も、見逃さない。
「……へえ?」
「っ!」
「そう言うことか!」
そして一気に迫る。負担をかけた結果が出るのはドゥーゲンの体自身というわけだ。コウモリが手に止まって、ゆっくり皮膚に戻っていく様を一瞥しつつ、ドゥーゲンは構える。
「治るんだと思っただろ? そうだね治ります。でも血は出て行くし、そもそもカトレアの再生より遅い! そういうけがを作れる武器なんだよ!」
見れば、水晶や壁もゆっくり戻って行っている。テルトの攻撃を晶の剣でいなしながら、彼はゆっくり後ずさる。
「さァ~て、ばらばらにしてやれば拘束も簡単だしなァ!」
「っはァ!!」
「んなもん効くかよ」
網戸をぶん投げて抵抗するも、全てコウモリに変わるだけ。最後は鍔迫り合いになり、ドゥーゲンが追い込まれる。
「っぐ、」
「ちょっと考えりゃ分かるだろうが!!」
自らの指を切り、身体をコウモリとして散らせばドゥーゲンの蹴りによる抵抗も虚しい。血ぐらいカトレアの回復でどうにでもなるようだ。
「んで再生速度もある程度は弄れるんだよなァ〜!!」
「マズい……」
「ああそうだよなあ!? マズいよなあ!?」
煽るようにベロを出し、ドゥーゲンを睨み嘲笑うテルト。その顔が、疑惑に歪む。
「あァ?」
「……悪いね。マズいは嘘だ」
「っが、」
テルトの体を貫いたのは、金属のフレームだった。
「痛みに鈍くなってる……もしくは慣れている。だから気づくのが遅れる。それは確実」
「何をッ」
「網戸を斬らせたのは……最初からこのためだよ」
コウモリがバサバサと集まり、歪んだ網を形成する。テルトを押さえ込み、拘束するように。
命取りは、物体の再生速度を早めたこと。
「焦るふりをすれば、僕を煽ると思ったけど。……予想通りでしたね」
「てめェ〜……ッ!!」
晶の剣を抜き、ドゥーゲンがゆっくり迫る。再生のあまり追いついていない体でも。……だが止まる。地面の揺れを悟り後ずされば、それが正解だったようだ。
壁をぶち破って、機械に乗ったレレルとゴールドバーグが現れる。
「油断する癖どーにかしましょうよ」
「うるせえよごちゃごちゃ。……姉だからってオレにナマ言っていいわけじゃ、」
「敗者の戯言を聞いている暇はない。乗るか潔く死ぬかしろ」
「ちっ、わァーったよ」
ゴールドバーグに引っ張り上げられつつ、テルトは振り返る。
「オレがここまでやられた理由は、油断だ。まあバカ姉に言われりゃ腹が立つが、自分でも悪癖だとは分かってる……次はねえ、次は誰だろうとたとえ専用剣もねえ奴でも関係なくぶっ殺す! いい勉強になったぜ、ドゥーゲン・モリオン」
「待てっ!!」
生えた水晶を砕いて、機械は去っていく。レレルのウインクを残して。
「ほんじゃまた」
「っ、」
追うには回復が不十分だ。……それに、置き土産の動物や機械はまだ居る。ドゥーゲンは駆け出した。
「あ、そうだ。そういえばレレルちゃんに謝んなきゃだわ」
森の中、ソルツ拠点の大騒ぎに振り返って、アルテルナはひとりごと。
「アタシが手を出すつもりはないって言ったけど……」
誰に見せるでもないのに、些かわざとらしく彼は続ける。
「息がかかった子がちょっかいを出すかもって……っふ、言っといた方がよかったわね」
フーシェをぶち抜いたのは、不意打ちの一撃だった。
地面を突き上げた巨大な剣……いや、床そのものが剣になる、『生えた』という様相が正確か。ともかく、雑魚との戦いに水どころではないものを刺された形である。
リン、プラニス、サフランが焦りまじりにあたりを見渡し、白い布をかぶった人影を見つける。
虚ろな目、その顔にリンは見覚えがあった。
「……アイ、リーン?」
「あー……リンくんだ」
黒が差し込まれた金髪、そしてかつて好んでいた赤いそれとは違う、黒いリボン。失踪者リストに空席ができて、反逆者リストが、一つ埋まった。
「アイリねェ、強くなったんだよ。……あの子はいる? いるよね? 機械居るんだし」
「何の話かな?」
前に立ったのは、プラニス。その手の武器を……『星の剣』を構えて、アイリーンの前に立つ。
「アイリは人事官のリン君に話してるんだけど。……シィちゃんのことだよ、ほらァ、シザーリィ・プラトーニク・カカルコフ……わかるでしょ?」
どこかぼんやりとしていた眼が、『睨みつける』という形で怒りを孕み感情をにじみ出す。
「っぐ……ぅ」
「フーシェ隊長! ダメです、起きちゃ……その怪我の再生は時間かかるでしょうし」
「……そうは言ってもな、やんなきゃなんないっしょ」
メンバーを見て、腹に空いた大穴を庇いながらもフーシェは剣をぶん投げる。壁から生えた剣によって簡単に弾き飛ばされるが、想定内。彼の口笛に応え、アイリーンの頬を割く。
「……ちっ。うっとおしいんだけど!! 質問には答えないしさァ!!!」
「居ないよ、シザーリィはね。それに君は彼女と仲が良かったの? そんな印象は……」
「うるさい!!!!!!!!!」
己の手の『合の剣』を床に突き立て、生えてくる剣をカタパルトにして飛び出す、急接近。剣と何かを合体させるその力は、気体や液体の不定形なものは剣主体に合体することが多い。
風を取り込んだ一撃はあたりをカマイタチでめちゃくちゃに引き裂く。
「ただでさえ痛いのにさァ~!!」
「手伝います、フーシェ隊長」
剣を背負いつつ距離を取るプラニス、その手に剣を戻し構えなおすフーシェ。サフランが薬を用意しているのを片目に、リンは録の剣を構える。
___メンバー、
___フーシェ・テーナー
___プラニス・プレイヤー
___リワ・サフラン
___作戦開始
「プラニスはまずばらまいてればいい!牽制をかねて!」
「うん、了解」
星の剣が光ると、糸のこぎりのような光の刃が現れる。……その一部をちぎり、短剣のようにぶん投げる。補充は効くようで、十数個が一瞬にしてばらまかれる。腕と足に突き刺さり、アイリーンはうっとおしそうに一瞥。
まあ、まずは手負いを潰すつもりらしい。狙いはフーシェ。
「フーシェさんはそっちの判断で、気を引いてください。あまり動かないでほしいけど……。リワ、プラニスにエネルギー拡散効果の薬品を!フーシェさんのは任せる!」
「あいよー」
「了解で~す」
フーシェの飛の剣は、プラニスの突き立てた短剣にぶちあたり閃光と衝撃を放つ。腕への一撃で姿勢を崩しつつも、アイリーンは窓に剣を突っ込み、ガラスの剣を発生。割れたガラスが騎士たちに降り注ぐ。
「っぐ、」
「残念、だね」
だがプラニスはサングラスをしている。大した隙にはならず、短剣を4本ほどブチ当てられ。そしてサフランの薬品で速度を上げた飛の剣が短剣を炸裂させる。
ダメージは減ったが、光の量が増えた。サフランの藥の剣が与えた効果だ。
「このッ!」
投げられた光の短剣を合の剣に巻き取り反撃を企むが、飛の剣がそれを許さない。手元で炸裂し、剣が転がり落ちる。
「何、この剣……」
「ッ!! アイ君に近づくな!! っはァ、はあ!!」
短剣も飛の剣もいとわず、血まみれで駆け出すアイリーン。大事そうにその剣を拾い上げると、リンたちを睨みつけ。
「バカに……して、バカに、しやがって……!!」
「はい? ねえ、どうしたの一体?」
「許さない!!」
構え、リン……一番最初に視界に映った相手に斬りかかろうと、構える、アイリーン。だが、間に挟まった機械によってそれは阻まれる。
続いて、大きな足音。レレルたちだ。
「あんたが居るとは思わなかったっスねえ」
「邪魔しないでッ!!」
「悪いけどさせてもらいますよ、あんたはちょっとこの場においては面倒な駒過ぎるんで」
「アルテルナの差し金だなァ?」
「……次はシィちゃんを連れてきて」
床から生えた剣に飲み込まれ、アイリーンは姿を消す。
「……。」
「まあまあ、そんな険し~ィ顔しないでくださいよ。我々はお暇するんで!」
去っていく、巨大機械。それを追ってかドゥーゲンも駆け寄って来る。……だが、フーシェの怪我含め消耗が大きい。追撃戦は断念となった。
「すみません、グリセレ先輩」
「……16回。」
「え?」
「君が、謝った回数だ……。謝らなくていい、君の責任じゃあないィ……」
「でも、その……」
包帯まみれの己を滑稽に思いながら、再生が終わった右手で、リナリアのむくリンゴを食べる。グリセレはベッドの上で、ため息をついた。
「クワコから聞いたァ……。ソルツは、黒百合と騎士団のつながりを本格的に疑うつもりだ。私も、そのスタンスでなくてはならない」
「……。あの人たちは、きっと大丈夫です。だれが見たって、結果はきっと潔白だから、大丈夫です」
「ずいィぶん……肩を持つな」
「えっ? いや……まあ、仲のいい人もいますし」
「モリオンとかか?」
「え、ああ……まあ」
「そうか」
言えるわけがない。グリセレの魅力や、アプローチの相談や、その他いろいろ……ともかく、ドゥーゲンと仲がいいのは「グリセレの善良さを知っているから」だ。つまるところ、根っこはグリセレへの恋情だから。
「あはは……」
「……実際のところ、騎士団の捜査は滞るだろうな。かえって黒百合の捜査を遅れさせ……対処が不十分に終わってしまう可能性もある」
「だったら、上層部に……」
「だァがアルテルナ・オブ・メゲオイデや……あぁあと、そうだなあ、アイリーン・メルトレンドが、寝返っているのも事実。内通者が仮にいたら、それをどうにかしやすい立場にあるのはソルツだ」
「そう、ですね」
「甘さを捨てろとは言わないがァ……疑うことも、忘れるな」
言いながらも、グリセレの面持ちには重さが残る。リナリアも、それを感じてか、口をつぐむ。
「次、こんなことが無いように……しないと」
「設備は増やすようだが、追いつくかはわからないな」
依然、空気は重い。