手向けにカトレアを   作:さわたり

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第七話「ロマンと、居場所。」(2)

崩れた。騎士団南拠点の、研究開発本部西棟の半分が。

 

原因は機械の暴走と、その対応に当たった機械の暴走。

 

いずれも原因は、ソウジであった。

 

「怪我人は18名。うち、致死レベル……つまり再生に2日以上を要するものは5名、だそうです。」

 

対処に当たった解体部隊から、状況報告に駆り出されたのはシザーリィ。コルニカ隊長はというと、遠くで何かを喚いているのをチフキを筆頭とした部下たちに押さえつけられている。

 

「ソルツはこの一件に関して、内部分裂と黒百合による差し金、そしてそれらを誤認させることによるソルツの対応力の低減を狙った可能性について調査を行う」

 

「過去の大量襲撃から、呪の剣の可能性も一応調べておきます」

 

「過程はしっかり監査するからなァ?」

 

グリセレとジーリオが資料を見ながら、淡々と話している。周りのどたどたとした足音を聞きながら、ソウジはイスで『動くな』と言われ座らされている。

横に居るのは、ニトパール。対人戦闘部隊から、わざわざソウジを見張るためにつけられている形だ。

 

「なあ、ニトパール、」

 

「コルニカちゃん、左腕ぶっ飛んでたね~。くっついてよかったよー。生やすのはさ、すっご~く時間かかるし」

 

「……。」

 

「機械の相手は十分だったけど、別の機械のねー、横やりで、がれきにやられてた」

 

「えっと、その、悪」

 

「僕に言わないでよ~? ほらー、行こうか」

 

ニトパールに立たされて、向かう先、団長室。騎士たちからの報告を一度打ちとめ、「リンかトキワに伝えてください」とジーリオはひとこと。先ほどまで会話していたグリセレにもアイコンタクト。

改めてソウジの方を見ると、ニトパールには外に居るよう、告げる。彼女はソウジを団長室に案内しつつ。

 

「……まず、この一件について見解を聞かせてくれますか?」

 

「その、仕方ねーんだって、まず、」

 

「待ってくださいね。分かりました、もう結構です。」

 

それだけ言うと、ジーリオは手袋を外し、近づく。

 

「これは、私が冷静さのあまりあなたを突き放さぬよう、あえて自身を激昂させるための行動です。あなたにはやり返す権利があり、またこの状況は眼の剣の視察範囲内です。一切秘匿されることはありません」

 

「はい?」

 

戸惑う彼をよそに、ジーリオは、ぶん殴った。

 

「な……」

 

「立場、権利、研究、いろいろなものであなたのやり方に首を突っ込んだけど、もうやめるわね。シンプルなやり方で禊をさせていただくわ」

 

二発目も続け、戸惑うソウジをよそに蹴りまで入れる。

 

「あなたをぶちのめさせてもらう」

 

「ちょ、噓だろ!?」

 

がむしゃらに殴り返すソウジを前にしゃがみ込み、腹と足を手に取り、大きく持ち上げる。

 

「力はあるけど、振るい方が雑なのよ。そんなんだから鋭の剣は扱えない。手元にあることしか見えてないから、必要なものがわからない」

 

「うおおおお!?」

 

ソウジ自身の脚力を利用される形での投げは、団長室の机に彼を叩きつける形で叩き込まれる。

 

「いっでェ……!」

 

「コルニカはこの何倍痛かったでしょうね」

 

「ああなるとは思わねえって!!」

 

「じゃああんたに機械を触る権利はないわねッ!! 最悪を想定しなさい!! 正式な認可は責任を明確化するためにあるのよ。剣の所有の時の説明を暗唱できるようになるまで叩き込んであげてもいいんだけどね? 鋭の剣の通常使用の責任は基本的に整備担当者兼所有者のあなたにあるからね」

 

倒れ込むソウジに詰め寄り、若干後ずさる彼。ため息をつくと、ジーリオは手を払い手袋を装着。ズレた片メガネを直し、起き上がれない彼の上に座る。

 

「まあ、そういうことです。やりたい事だけやってられるなら、私はいまからでもイチムを探しに森に消えます」

 

「……イチムって、」

 

「イチム・リリィズ。本来団長になっていたはずの人ですよ。ほら、試験の時に会っていますよ。ナナカマドのような、団長直属組織で一緒だったんです」

 

ジーリオのロケットペンダントに、顎下ぐらいの、ボブカットの青年の写真が写る。6年前はカラー写真の機械の起動が面倒だったこともあり、白黒だ。

 

「……。」

 

「まあ、あなたが来てすぐに……居なくなっていますから、そんな話をしても仕方ありませんけど。とにかく、このことについて責任を負えと言われたら一切駄々をこねないでくださいね。」

 

「はーい……。その、団長。」

 

「なんです?」

 

「俺も、悪いとは思っててさ……」

 

「別にそこは疑ってませんよ。それはそうと研究費用減らされたらゴネるでしょう?」

 

「あー、」

 

「模範解答は『もうゴネません、俺が責任取ります』ですからね。ほら、行っていいですよ。」

 

のそのそ立ちあがり、ソウジは団長室を出る。そこで、鉢合せたのは、コルニカ。常々そうとはいえ、怒っているっぽい顔だ。

隣には、待っていたらしいニトパールが立っている。

 

「あ、えーっと、あ~~~……あッ、オレノセイデス。モウシワケゴザイマセン」

 

「は? バカにしてんの?」

 

「え!? そうじゃなくて!!」

 

「コルニカちゃ~ん。」

 

「……そうね。別にいいわ、ただの……見通しの……甘さであって、故意の悪意では、なかった。」

 

意外にも、コルニカは殴ったりだとか叫んだりする様子はない。

 

「えっと……」

 

「でも……あなたが製造責任者の物は、必要がない限り、触らないことに……する」

 

それだけ残し、彼女は踵を返す。ニトパールは苦笑いしつつも、彼女について行き。

 

ソウジは、何故か背負うことが許されたままの鋭の剣を手に取る。

 

「……やっぱり、俺、これにも触れなくなんのかな…………」

 

「あ、ここに居ましたか」

 

慌ただしい人の動きの中で、ソウジを見つけたサフランが手を振る。

 

「あー、リワ。……はは、やっちった」

 

「元気がありませんね。まあ、確かにだいぶやらかしましたしね~。僕の設備も一個ぶっ壊れたんでまた実験台になってくださいね。それでチャラでもないんで、何度でも実験台になってもらいますよ」

 

「まあ、それは全然いいけどよー……」

 

「団長に何されたんですか? そこまで落ち込むのは珍しいですよ」

 

「いや団長には投げられたんだけどさ、そうじゃなくて。……俺、多分コレ触るのダメって言われるだろうなーって」

 

鋭の剣を片手に、ソウジはうつむく。初めてこの剣と出会った時の興奮を、思い起こす。『ひたすら鋭く強く』という思想で作られたらしきそれは、時折発見される「ガーデナーにもバカがいた」という証左。

 

いや、ロマンを追う『漢』が居たとも、言えるか。自分のような者が居たのかもと、ソウジは心躍る部分があったのだが。

 

「まあ、仕方ねえよな……」

 

「なんていうかホントにあなたっぽくないですねー。変ですよ」

 

「変な俺は嫌かー……?」

 

「……っふ、くくくく……面白いんでいいです。僕は面白くてかわいいひとが好きなので。」

 

「そっか。……サフランはあんま怒られてないよなー」

 

「あなたがアホだからですよ」

 

「言ってくれるじゃん……」

 

いつもならもっとふざけて噛みついてくるのだが。そんなことを考えつつ、サフランはソウジとともに現場へと戻っていく。さすがに、いま清掃や後始末から逃げることを選べるほど、ソウジもイカれてはいない。

 

 

 

 

リンががりがりと頭をかく横で、プラニスは静かに本を読む。そんなふたりを見かけて、マキナは興味深そうにてくてく。

 

「星の剣の調査はまた今度になっちゃったねー。それどころじゃなさすぎるし」

 

「そうだねー……」

 

「うん、大丈夫。」

 

「にしたって、改めて思ったんだけどさー。面倒な書類たちにも責任の所在とか、対応の手順とか、そういうのを明確化して伝えて残すっていう、大事な役割があるんだよね~面倒だけど」

 

「君は君で抜け穴を行きすぎ」

 

「えー? 何のことかな? 私って問題起こしたことあったっけ?」

 

「はいはい」

 

マキナとリンのやり取りを、横目に、考える。トキワとソウジは、ソウジが彼女に師事している関係でよく話しているのを見る。

プラニスも、食堂で見た事がある。

 

『あまり気にしたことはなかったが、リンに聞かれて、少し考えた。ソウジ、貴殿は何故強くなりたい?』

 

『あー……まあ、ほら! コイツにふさわしくなりたいからさ!』

 

鋭の剣を持って、彼はそんなことを言っていた。

 

ぱたんと、本を閉じた、その瞬間。また、警報が響く。

 

「連鎖して暴走とか……?」

 

「かもね。」

 

駆け出すリンたちの予想に反し、通信は『完全に外部からの侵攻』であることを示唆する。だが、穴が開いている建物なのは事実だ。瓦礫の奥に見えたのは、カニのような巨大機械だった。

現場では、すでに解体部隊が待機している。

 

「今来んのかよ!!」

 

「コルニカ隊長は休んでてください。」

 

「……でも、シザーリィ。アイリーンは、あなたを…………狙っているようだった。もし、黒百合が来ていたら、あまり、前線には出せない。……それに、崩れた建物だし、狙撃位置を作りづらい。下がって。」

 

「……分かりました」

 

一瞬複雑な顔をしたシザーリィを見届けると、チフキとテトラへ行けと促す。剛の剣と卸の剣は、いずれも力技でどうにかする剣。ハサミの何をしてくるか分かりづらい攻撃に、対処は遅れる一方である。

 

「チフキ、腹部をがっとやって、スッって入れる?」

 

「了解!!」

 

「テトラはチフキに続いて」

 

「は~い!!」

 

駆け出す二人。腕を庇うコルニカのもとに、リンたちが追いついた。

 

「僕が状況確認をします。指揮は引き続きコルニカ隊長に頼めますか?」

 

コルニカは頷く。リンが録の剣を握るその前で、ソウジは鋭の剣を握る。……だが、動けない。これを触る権利は、きっと剥奪されてしまう。

そんな彼に、やめておいた方が良いよと、プラニスは言う。

 

「……私みたいに、なっちゃう。っは、私みたいに、頭をやられることはないだろうけど」

 

感情がにじまないように抑えている声色が、揺れる。光り始める髪と目を抑え、サングラスをかけ直し、彼女は続ける。

いつも通りの、か細い声で続ける。

 

「君自身の、やりたい事……なんだろうけど。それを押し通して、迷惑をかけて……。怖いんじゃないかな? 立場を……居場所を、なくしてしまうよ」

 

「居場所を……。」

 

親友として、恋人として。

 

プラニスとソウジが思い浮かべる顔は同じだ。

 

「見捨てられるかも、しれない。」

 

そのひとことは、ソウジというより、ソウジの目に写った黄色い光に向かって、言っているようでもあった。

 

(これ)か、リワ(あいつ)か、って……そんな、わけは…………」

 

脳裏によぎるのは、コルニカのひとこと。言葉足らずの彼女の言葉は、いかようにも解釈できる。少なくとも、今のソウジに、コルニカの目は「見放し」に感じられた。

 

「でも、でも……。」

 

「……。」

 

「……そう、ならないように、」

 

「え?」

 

「リンちゃん?」

 

「そうならないように僕が居るんじゃないか!!」

 

割り込んだのは、リン。

 

「僕の仕事は何のためにあるの? 適材適所って何のためにやるの? 居場所とやりたい事の両立のためだよ! 君たちを活かして、君たちに活かされる、それが組織でしょ!? そんなものを天秤にかけさせるのは間違いだよ!!」

 

「……で、でも、俺のやりたいことで、こういうことが起きてんだろ?」

 

「だァ~~かァ~~らそれをどうにかするように僕やジーリオ団長は頑張ってて! 君はそれに応えるために折り合いをつけ続けるんだろ! 優先事項はなに? その剣じゃないの? 団長が言ってた『手元にあることしか見えてない』ってそういうことだよ!!聞こえてたよごめんね!!」

 

「……手元。」

 

手元にあるのは、剣。

 

さっき手元にあったのは、機械。あいつを考えなしに起動したせいで、自分は、剣を手放すかもしれない。

 

「……リン、ちゃん。」

 

「俺、……俺!」

 

そんな三人のもとへ、轟音を立てて機械が迫る。テトラとチフキも背中を張り付けて脚力で押さえているが。

ソウジの、……そしてプラニスのやりたいことを、守る。リンはその『やりたい事』を果たすべく、手を広げ、立ちはだかった。

 

「おっと、ごめん。本当に申し訳ないと思ってるんだよ」

 

そんなリンの肩を踏み台に、跳んだ。ラヴィニア・ローレンス、彼の『(くさび)の剣』が、大きく機械の体に二か所傷をつけた。

 

斬撃というより叩きつけが入れた、ヒビという『楔』。

 

機械を蹴って後退するムーンサルトのさなか、彼は後ろへ控える『彼女』へ。

 

「行けるよ、トキワ隊長」

 

「ああ、分かっている」

 

抜刀、『瞬の剣』。

 

全てがのろくゆったりとした世界で一人トキワは駆け抜け、体にかかる負担を振り払い。ヒビへと、突きの一閃。機械へのダメージも遅れるが、それでも彼女は分かっている。

 

今の一撃で十分と。

 

そして納刀。いつも通りに世界が動けば、機械はべこべこにへこんでいた。

 

「トドメを刺せ」

 

「え?」

 

「ジーリオ団長に、瞬の剣は抜きすぎるなと言われている。トドメはソウジ、お前が刺せ」

 

戸惑うソウジに対し、トキワはまっすぐ視線を向ける。

 

彼は自分の手元……鋭の剣と、機械を交互に見て。

 

「う、うおおおおおお!!!」

 

持ち上げた『鋭の剣』は、折れた一振り。だが、斬れ味向上の機構をレーザーに応用している。生成された光の巨剣を掲げ、駆け出す。

 

「おおおりゃあああああああああああ!!!!!」

 

ソウジは、機械を真っ二つに引き裂いた。

 

「っは、あ……やった、やった!!」

 

「まだまだだな、姿勢が甘い。切断位置の判断も遅い、あと少しでテトラが真っ二つになっていた」

 

「怖いこと言わないでよ~!」

 

「そもそもラヴィニアの入れたヒビがあったから斬れたと言える。特訓はより厳しいものが必要だな」

 

「……特訓、まだやってくれるのか?」

 

「団長がそうするように言った」

 

そう言うと、彼女たちは去っていく。

 

「団長を、撫でてやらねばならない。頑張っている」

 

「パトリシアが居ないからじゃないのか。団長は隊長の9つも上だよ」

 

ラヴィニアの方をちらっと見て、トキワは向きなおり。

 

「だがかわいい」

 

 

 

 

嵐のように事は去っていき、回復したコルニカによる機材の運搬や壁の設営もあって数週間のうちに修理は片付きつつあった。

 

そんなある日。リンとソウジが装備の配属について相談しているところに、コルニカとニトパール、そしてシザーリィ。リンに渡す書類があったようで、それだけ渡すとコルニカは用事があると、踵を返す。

 

「あのさ、コルニカ隊長」

 

「なに?」

 

「俺、あの一件でこう、反省?っつったらあれだけど、いろいろな。だからさ、俺の作った装備」

 

「嫌よ」

 

「えッ。」

 

「嫌。まあ、だから……せめて監督責任をマキナにして。それぐらい、他の人員の目が入っていれば、考える」

 

それだけ残し、去ってしまう。そのまま近くの部屋に消えてしまい、カカルコフ兄妹は残される形。

 

「あー、コルニカちゃんね~、別にさー怒ってるわけじゃないと思うんだー。だから、気にしないで」

 

「おー……」

 

「あと、僕もちょっと、とげとげしちゃったかな~って。ごめんねー」

 

「いや、俺もリワが腕吹っ飛んだら、キレると思うし」

 

「? うんー。えっと、なんで、リワさん?」

 

その場にいる全員が、え?という顔でニトパールを見る。シザーリィ以外。

 

「え? ……え?」

 

「お兄ちゃん、バレてると思いますよ、基本的に、コルニカ隊長以外には。」

 

「え~~~~~!?」

 

「ってか、俺、てっきり、付き合ってるんだと」

 

「僕とコルニカちゃんが~~~~~!?」

 

顔を赤くしつつ、いつもの気の抜けたそれとは違う、恥ずかしげな顔でゆっくりソウジに近づき。

 

「えっと……ヒミツね~。僕が、その、ね?」

 

「おう、わかった……分かった、近ぇって」

 

そう残すと、へにょへにょと去っていくニトパール。シザーリィもそれに続き、リンは優しく笑む。

 

「……信用って無くしたら取り戻すの大変だね」

 

「だなー。コルニカ隊長、いっつもいいデータくれてたのによー。しゃーねーかー……。はァ~」

 

「君も真面目に頑張りなよ?」

 

「おー。……ってか、ああいうふうに言われるあたりさー、立ち回りっつーの?マキナってすげえんだなー。よし! 俺ちょっとマキナに教えてもらってくる!」

 

それだけ言うと、ソウジは善は急げとばかりに走り去る。リンの驚く顔も気にせず去っていき……。彼は呆れ気味に笑った。

 

「マキナはちょっと参考にするにはアレだけど……そうだね、ま、成長かな」

 

今度こそやりたい事ができればいいが。そう思う彼の脳裏には、プラニス。

 

そして、自分。

 

「……僕は、なんで強くなりたいんだっけ」

 

居場所? やりたい事? 敗北の責任は本当に自分? よくわからないまま、彼はポピーの居室へ消えた。

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