手向けにカトレアを   作:さわたり

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第八話「だから戦う」(2)

訓練の成果を試すことになったのは、一週間後の事だった。

 

光線により左半身が蒸発したリンを庇い、混乱する戦場。遺跡の探索でハズレくじを引いてしまったのはフーシェとドゥーゲンである。

ドゥーゲンに護衛されつつ、再生し始めようやく血が通い出した喉で、リンは告げる。

 

「レレル……だ。…………機械の、軍団、が……」

 

「なぜ、それを……」

 

リンの指さす先に、小型の偵察機。彼が装備しているものだ。状況を理解したドゥーゲンの説明が早いか……草をかき分け『それ』が現れるのが早いか。

巨大な、ザリガニのような機械は、主人を頭の上に戴き。

 

「おはよーございま~す」

 

レレルが来たということは、ゴールドバーグも動いているという事か。その状況のまずさを察してか否か、ソルツの隊員たちもぞろぞろと構える。

動き出した機械たちに指示を飛ばしながら、ザリガニ型を操縦し、ハサミを突き立てる。……操縦と言っても、はたから見ると呪の剣を撫でているようにしか見えないが。

 

「っ!」

 

晶の剣の生み出す黒水晶を簡単にコナゴナにしながら、ハサミの連撃は続く。ドゥーゲンはいたちごっこと判断してか、まずは他の人型機械の対処に向かう。

だがザリガニの向かう先は前線拠点。止める役を誰かが買わねばならない。買って出たのはフーシェであり、ボロボロのリンの提言で、邪魔の入りづらい位置取りを選びながら飛の剣をぶつける。

 

「すっとろいなぁぁ?」

 

「そ~~いう監察官殿はどーなんすかねー」

 

「今から見せてやるさ」

 

「はいはい、期待してるぜー……っと」

 

ハサミの突きは地面にぶち当たり、土煙。衝撃に吹き飛びつつ滑るように着地するフーシェの横に、悠々とグリセレが歩み寄る。一瞬お互いを一瞥すると、構え。

 

「……構えを変えたかぁ?」

 

「口うるさい監察官殿に優しい俺が合わせてあげるためにねー。そっちこそいつも以上に構えが低いけどどうした~?」

 

「ちゃらんぽらんな貴様にこォの私自らが合わせてやると言っているのだよぉ」

 

ふたたび一瞥し、にやり。

 

「「遅れるなよ」」

 

駆け出したふたり。……訓練で、お互いの共闘を想定していた、ふたり。

 

時間もなく相互にただのイメージトレーニングだったが……お互いへのイメージは概ね正解のようだった。ふたりの陣を崩さず、リンの助言に合わせ位置取りも調整する。

 

「おらァ!!」

 

「甘いっスよ!!」

 

おもいっきりぶん投げた飛の剣をはじき返し、迫るザリガニ。だがフーシェは焦らず、投げた姿勢そのままにかがんだポーズ。背中を合わせるように、彼の背中の上を滑り転がったグリセレが迫る。

 

「ンなッ」

 

「見えてなかったかァ?」

 

スライディングの姿勢と共に切りつけた霜の剣が、ザリガニの動きを鈍らせる。霜を払う隙にを狙って、飛の剣は関節にブチ当たる。

 

「んのォ~~!!」

 

「うぉお!!」

 

放った光線を回避するフーシェを一瞥しつつ、グリセレは駆け出す。焦るリンとフーシェをよそに、彼は平然と光線を受けながら歩きだす。

 

「熱は……状態変化に優先的に使われる………知ってるかァ?」

 

「光線が霜に追いついてないってことっスか。ええい!!」

 

物理攻撃に出た時には遅く、発射口を霜の剣が砕いていた。

 

「だあああ!!!」

 

やけくそじみた攻撃を二人同時にバックステップで回避、そのまま、フーシェが剣をぶん投げ反撃に出る。

 

「11時方向、中型来ます!」

 

「行けっか監察官殿ォ!」

 

「とぉおぉぜんだァ!」

 

しばらくザリガニを翻弄したあと、巨大なタイヤのような中型機械を貫通し機能停止。明後日に飛んでいこうとする剣は、放物線を描いて戻ろうとするよりも先にグリセレがキャッチ。その背後に迫る機械を、黒水晶がブチ折っていく。

飛の剣は、ザリガニのうえ、レレルに向かってぶん投げられる。

 

「っぶねえっスねえ!」

 

逆手に持った呪の剣ではじき返すが、その軌道はリンが読んでいた。キャッチして、気づく。

 

「飛の剣と……霜の剣が合体してる?」

 

柄同士をくっつけ両方に刃をつける、コネクタが増設されているのは霜の剣の方だ。

 

「勝手なことしてくれちゃうねー全く」

 

言いながらも、投げ渡された飛の剣・霜の剣の合体武器を振るい、ザリガニをどんどんと凍らせていく。跳んで離れようとするそいつを逃がすわけもなく、滑らせるように投げればその先はグリセレ。

彼の蹴りが軌道を変え、飛の剣はザリガニの脚をぶち抜いた。

 

「うげェ!!」

 

「墜ちたァ!」

 

姿勢を崩すザリガニも、どうにかしようと脚に伸びる霜を払う。が、それを黒水晶が阻む。気づけばあたりの機械軍団ももはやまばらだ。

いつの間にか加わったリナリアも、的確に刈っていく。

 

「フーシェ・テーナー!」

 

「わァ~ッてる!」

 

離れようとするレレルの脚を焦の剣がとらえ、姿勢を崩し。その一瞬、グリセレの腕を踏み台に駆け上がったフーシェがレレルへと刃を向ける。

飛の剣の移動力、投擲能力、そして重力。全ての乗った一撃は、レレルの喉をぶち抜き彼女を凍らせた。

 

「捕獲ゥ!」

 

「っしゃ!!」

 

「……よし、」

 

「ところでグリセレさァ~~ん? この新機能は何なわけ?」

 

「感謝しろォ? お前でも使いやすいように合わせてやってるんだぁ」

 

「答えになってなくない?? なんなのホントにさ」

 

「霜の剣を飛ばせれ良いと思っただけだ、今回だけだからなァ?」

 

「俺だってヤだよ」

 

またぎゃーぎゃー騒ぎ出す二人に、「大人なんですから」とドゥーゲンが割り込む。再生も落ち着いたリンは、別の戦況を確認するため歩き始めた。

気にするグリセレたちだが、彼らはまだ残党と戦う必要がある。

ドゥーゲンはその様子を眺めると、再生しつつあるリンを抱えた。……向かう先は一番近くの拠点だ。

 

 

 

 

「なァゴールドバーグさんよ、俺まで連れてくる必要はあんの?」

 

「お前を拘束されている身体とつなげて動かす必要があるだろう」

 

「そうは言ってもよォ、体をぶった斬って壊してくれりゃ、多分あたまから再生するぜ?」

 

「その場で戦力になれ。私の戦いに入る横やりを減らせ」

 

なるほどねと呟いたテルトは、頭部のみでゴールドバーグに抱えられた形。機械に告げられたレレル敗北を聞きつけ、向かう先ははっきりしている。

 

……の、だが。それを阻む影があった。

 

「どこに行くのかしら~?」

 

「……貴様の知ることではない」

 

「あっはは! いちおーアタシ幹部なのよォ? まいいや、あんたたちがボスのこと大好きなのは分かった」

 

「何が言いたい」

 

「彼は覇道を歩むべき王よ。騎士団だの、ソルツだのに構うのは今じゃない」

 

アルテルナの視線を受け、ゴールドバーグはテルトの頭を機械に任せてどかす。手を伸ばすのは当然、(はたたかみ)の剣。

 

「血の気の多い子ねえ」

 

同時にアルテルナも焔の剣に触れ、その髪がぶわりと燃えるように光を放つ。

 

「いいわ、相手してあげる。」

 

「……。」

 

錆付いた銅剣のはずだが、まとう火炎のせいかその剣の威圧はすさまじい。静かな時が流れる。戦況を始めるのはどちらか、にらみ合いのなか、しびれを切らすのはゴールドバーグだ。

 

「っはァ!!」

 

「あら上手!!」

 

閃光のような……いや、事実閃光に変わったゴールドバーグの斬りつけが、入る。雷に焦げ付いた身を庇うアルテルナ。所詮この程度と振り返るゴールドバーグが、燃える。

 

「っぐ、が……!!」

 

「いでで……あーサイアクだわ。汗でメイクぐちゃぐちゃ。戦う時にしてくんなって?うっせーわね」

 

「貴様、防いだか……!」

 

「ガチで入ってたらこんなもんじゃないわよ……お互いね。」

 

ゴールドバーグの顔から胸にかけてが焼け爛れている。大きく胸に傷を作ったアルテルナといい勝負である。余裕そうなアルテルナも、その顔はやせ我慢のそれ。

 

「……勝負がカードゲームなら、アタシの勝ちね。余裕のなさにじませていいのかしら?」

 

「油断をするならそれで結構だ」

 

立ち上がった二人が、にらみ合い剣を構え。……突如、アルテルナがその身を逸らす。

訝しむ間もなく、ゴールドバーグも気づいた一瞬、空を閃光が裂いた。アルテルナが蒸発しかねなかった、位置を。

 

「っぶな~い。レレルちゃんの子はこんな高性能じゃないし……なるほどね、アイリちゃんのことで焦ってんのかしら」

 

それだけ残し草むらに消えていくアルテルナ。ゴールドバーグも二発目を気にして、身を潜めた。

 

「……たしか、シザーリィとか言ったか。……ニトパール・プラトーニク・カカルコフの妹。解体部隊の所属と聞いていたが」

 

「アイリーンの奴がシザーリィの事を気にしてたからな。濃い交流があった感じはしねえが、お互い気にするモンがあんだろうよ」

 

「テルト。……フン、くだらん」

 

 

 

 

揺れる車両の中、顔をのぞかせたのはアドーネ・アドニスであった。顔をあげて迎えるプラニスは、弱く微笑む。

 

「なんか、久しぶりかも、隊長」

 

「隊長はプラニスくんもだろ? ま、俺ちゃんの放つカリスマオーラを見上げちゃう気持ちもわかるけどね」

 

また言ってら、という視線のオヴィを前に、プラニスがか細く笑う。横のサフランが楽しげなのも含め、なんだか思い出す。アドーネ、プラニス、サフランの三人でやっていたころ。

 

「……隊長は、新しい仲間たちとも楽しそうだね」

 

「もちろん。……まァ、俺ちゃんなら誰と一緒でも……みんなをキラキラに輝かせちゃうからさ」

 

「うん、アドーネ隊長はいつもそうだよ」

 

己のサングラスを外し、穏やかに眺めながらプラニスは応える。

 

「まあ、君はインパチェンスの隊長としての立場があるからね」

 

「……そうだね。」

 

「でも~~、俺ちゃんとまた一緒にやりたいならそれもノットやぶさか……! 支援部隊の手ならヘレニウムも借りたいしね」

 

それだけ言うと、ヘレニウム隊たちのものが降下していく。耐衝撃の装備と共に移動車両から飛び降りる……現状、最も迅速であり効率の良い移動方法である。

残されたインパチェンスのふたりが顔を見合わせる。

 

「アドーネ隊長たちと、やりたいと思いますか」

 

「うん、楽しそうだから」

 

答えて、そしてすこし沈黙して。プラニスはうつむいた後改めて言葉を吐き直す。

 

「居場所に、なるから」

 

「…………インパチェンスは居場所になりませんか」

 

「ううん、居場所だよ。無くしてしまうかもしれない居場所。……そもそも、アドーネ隊長たちの作る居場所だって、失くしてしまうかもしれないものだし、ね。節操もなく、足場を増やしたいのかもしれない。心地の良かった足場だし。」

 

つらつらと語り始める、プラニス。自分の心のことに向き合うようになったのは、ドゥーゲンと話したり、リンと話したり……そんなことがきっかけか。

 

「なくなることはありませんよ。少なくとも、僕は居ます」

 

「うん、そうであってほしい。そうなんだろうなと思う。誰も、私を見放すことはないんだろうって、思う。リンちゃんだって、そうなるように、頑張ってる……そういう役職の人だからでもあるのかな。いや……そんなことはないか」

 

プラニスは、薄い微笑みを崩すことなく続ける。

 

「なくすって言うと違う、かな……居場所が変わるのが、怖いんだよ」

 

「……変わる」

 

「私に付きまとう変化は、ろくでもないことばかりだったから」

 

プラニスは、うつむいた。

 

「君と出会えたり、アドーネ隊長と出会えたり、そんな素晴らしいことから、どんどんと転げ落ちていく。その気になれば、いつでも白い眼を向けられるように、引き金を引けてしまう。居場所を失わないかもしれないけれど、なにかもっといろいろなものを最悪に変えてしまう意味の分からない賭けに、その場の気持ち次第で飛び込める」

 

「……まあ、それを言えば僕もいきなりジーリオ団長に変な薬でも打てば一発アウトでしょうケド」

 

「あは……たしかに。でも、君はやらない。私は、やっちゃうかもしれない」

 

プラニスの髪がぶわりと光って、そして静かになる。自分から目を背けるようにうつむき、その時、そろそろ目的地が近いことに気づく。席を立ち、降下準備、開始。

 

「まあ結局、暴れても、変になっても、インパチェンス解散なんてことはなくて、サフランと一緒に作戦には出れるんだろうけどね。ジーリオ隊長に薬を打つのとは、全然違うし」

 

「あは。……気持ちの問題、ということですか」

 

「うん、おそらく」

 

「……降りますよ」

 

「わかった。」

 

勢いよく叩きつけられる、ふたり。ミンチになって再生に3日……となりそうなものだが、二人を包む風船のような装備がそれを阻む。使い捨て……と言っても、素材自体は再利用するが……ともかくしぼんだそいつをしまいつつ、目的地まで歩き始める。

 

「これ、いつになっても慣れないや」

 

「ですねえ……。あー、なんでしたっけ」

 

「えっと……変化が怖い、って話かな。」

 

「ああ、そうでしたね。今日にいたるまで……あまりいい変化がなかったと」

 

「そう言い切るのも、いろいろな人に失礼だけどね。」

 

苦笑いじみて、か細い声でプラニスは笑った。

 

「……僕は、好きですよ。変化。面白いので」

 

「そっか……まあ、意外でもないね」

 

「そうですか? まあ、ソウジ君が好きなのも、あの人はコロコロ顔とか声色が変わって面白いのもあります」

 

「ふふ、確かに」

 

「プラニスも変わりたいからこの話をしてるんでしょ?」

 

不意を突かれた、ひとこと。眼をみひらいて少し足が止まり、気にしたサフランに追いつくようにまた足を速める。

 

「……そうだね、多分、そう。だって、現状維持したら、私はいつ迷惑をかけるか分からない、おぼれかけの水面のままだから」

 

「やっぱり」

 

「リンや隊長は……私のコレを……感情がおかしくなって、暴れてしまうことを、受け入れてみるように言うんじゃないかなって、思う。確かにアレは楽しくて、『やりたいこと』を額面通りに取るならそうした方が良いのかも、しれないけど」

 

「……」

 

「怖いな。やっぱり」

 

「まあ、なんて言うんですか……一歩ずつで良いんですよ」

 

「どんな一歩がいいかな?」

 

「……うーん、友達を増やす、とか? そしたら向き合い方も変わるでしょ」

 

目的地、到着。前線拠点近くの仮説のテントの用途は、迎撃。機械たちの対処に追われて閑散としており、回復中のリンが指示出しをしているのが見える。

向かっていく前に、一度立ち止まる、ふたり。サフランは勝手にプラニスのポケットに手を突っ込んだ。

 

「アウターかけっぱなしだったので……あった。ほら、昨日?あたりにナナカマドと話したでしょ。そこで、なんか「手紙送ってね」とかって、宛先を……ほら、書いてある」

 

「ああ……パティ。」

 

「ナナカマドで何度か会ってるけど、ちょっと避けてませんか?」

 

「お見舞いにも何度かね。いい子なんだよ。だから、怖い。……そうだね、今度は、私から声をかけてみる」

 

「その意気です。じゃあ、行きましょうか」

 

遠くで手を振るリンに応えつつ、サフランはたらたらと駆け出した。

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